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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
105/186

25.同じ


「ぐふふ……やっと2人っきりになれたね」


 シュガレットの研究所は外の重々しい雰囲気とは裏腹に、中は科学科学した機械で溢れかえっていた。


「いや、な、何してるんですか……」


「別にここには私達2人しかいないんだ。いいではないか」


「だ、だからと言って……な、なんで…………何で脱いでるんですか!」


 研究所に入った途端、シュガレットは着ていた服を脱ぎ始め、全裸になってしまった。研究所内にある見たことのない機械達をもっと見たいのだが、目の前の全裸が気になりすぎて全然集中できない。


「私はここで研究をするときは、基本全裸に白衣だからね」


「変態じゃないですか……」


 魔道具研究者には変人が多いと聞いたことがある。それは突飛な発想が出来ない普通の人間には魔道具なんて作れないという誉め言葉でもあるのだが、そのトップと言っても過言ではないこの人がここまで変人だと、もしかしたら自分も周りからは同類だと思われているのではと気が気でない。


「さて、早速だけど……君には色々と訊きたいことがあるんだ」


「は、はあ……」


 ここからは格好は変態じみているが、内容はあくまでも真剣な内容の話になった。生まれや育ち、魔道具に興味を持った時のことや、研究者になろうと思ったきっかけ、今までに作ってきた魔道具のことも訊かれた。


 同じ業種とはいえ、いや、同じ業種だからこそ、言いにくいこともあったが、そこは互いに打ち明け合おうと言ったシュガレットが先に自分の発明した魔道具のことを事細かく話したおかげでヒーラも多少は話しやすくなった。


 魔道具研究者の中には、自分の発明品の作業工程などを一切公開しないという者も多くいる。いわゆる企業秘密というやつだ。むしろ研究者としてはそれが当たり前でヒーラ自身も本当に信頼している者にしかそういった話はしない。だが、シュガレットは違った。彼女は何でもかんでもペラペラと話してしまう。「この魔道具はここの部分がこうなっていて――」と事細かに説明してしまうのだ。そんな彼女を見て、ヒーラは何故か心が苦しくなる。


 実際は言われていないし、彼女だってそんなことは微塵も思っていないだろう。彼女からすればそれはただの親切心でしかないのだ。それでも、自分が時間を掛けて編み出し、生み出した魔道具のことを、こうも簡単に説明されるとどうしても心の底でこう言われている気がしてならないのだ。


 ―――どうせ教えたところで、君には実現できないだろう。


 と。


 シュガレットの説明を聞きながら、ギリッと気付かれないように唇を噛み締める。

 実際これだけ聞いても、今の自分ではこれらの魔道具を1人で作れる自信はない。

 ヒーラとシュガレットの間には見上げるのも一苦労な、そんな絶対的な壁がある。だからこそ……そこを越えた先には今までに見たことのない景色が広がっているはずなのだ。


 無意識のうちに噛み締められた唇がゆっくりと笑みに変わる。

 シュガレットはそんなヒーラの様子に気付き、こちらもまた不敵な笑みを浮かべる。


「いやー、色々話したね。ま、でもここまでは前座。本題はここからだヒーラちゃん」


 シュガレットの表情が今日一と言っていいほど、真剣なものになっていた。





        ×  ×  ×





 ところ変わって王城の廊下。

 こちらはシュガレットに締め出された者達がハル達のもとへと戻るところだ。


「ヒーラを1人で残して本当に良かったのかしら……」


 最近ヒーラとは1番仲良く一緒に過ごしている時間も長いルルが、心配そうに来た道を振り返る。


「……ま、大丈夫だと思うよ。彼女は確かに変人だけど、その才は誰もが認める。今頃魔道具談義に花を咲かせてるんじゃないかな」


「わたくしはあの女に食べられている方に一票ですわ」


「「「…………」」」


 カリナの何気ない一言に重々しい空気に陥る。ライン王子の冷や汗が止まらない。


「そんなことより、この方達がここにいるということは、ロイド達も帰ってきているということですわよね?」


「ああ、ハルちゃん達と一緒に今は父上と一緒にいるよ」


「げ……あの女狐も一緒ですか……」


 誤解が解けた後も、まだハルに対して苦手意識があるカリナ。以前ハル達が王城に泊まっていた頃は何度からかわれたことか。


 長い廊下を歩きようやく玉座の間の前まで来ると、同時に玉座の間の扉が開き、中からハル達が出てきた。


「あれ? 誰かと思えばカリナっちじゃん」


「…………そのカリナっちというのは誰のことですの?」


「もちろんカリナっちのことだよー」


 勝手にあだ名を付けられて眉間にシワを寄せるカリナに近付き、ちょうどいい位置にある頭に抱きつくようにして顎を乗せるハル。一応カリナはライン王子の従妹であり、つまりは国王陛下の姪にあたる。普通は獣人専属大使とかいう名ばかりの役職を貰っただけの一般人が軽々しく呼んでいい相手ではないのだ。だが当然ハルはそんなことお構いなしに、ズンズンと内側へと入り込んでくる。


「おお……相変わらずちょうどいい高さ……」


「ちょっと! 人の頭を顎でグリグリするのはやめなさい!」


 鬱陶しそうにハルを払い除けるカリナ。未だかつて自分にこれほど無礼な者はいただろうか。


「ハルちゃん達は話はもう終わったの?」


「はい。結局ビスト帝国に関しては、思い出したら報告してもらうという形になりました。ユニーのご飯もあるので、私達はそろそろ帰ろうと思ってるんですけど……そういえばヒーラさんは?」


「あ、いや……実はね……」


「あの美人の方でしたら変人の研究所に連れ去られていきましたわよ」


「……は?」


「いやーごめん。2人っきりで話がしたいって言われたから僕たちは先に帰ってきちゃった」


「それ……大丈夫なんですか?」


 ハルはまだ声しか聞いていないが、面倒臭そうな人オーラは扉越しにヒシヒシと感じていた。


「ま、まぁ大丈夫だと思うよ。とりあえず帰るにしても、ヒーラさんを待ってからになるだろうし、少しここで休んでいきなよ。良かったら晩御飯もご馳走するし」


「いえ、流石にそこまでは遠慮しておきます。それより、ロイドに少し話があるんだけど……」


 ハルが後ろに控えていたロイドの方に振り向く。


「……? 僕?」


「ちょ、ちょっと待ちなさい。貴女がロイドにどんな話をするんですか……?」


「だいじょぶだいじょぶ。カリナっちが思ってるような話じゃないよ。あとライン王子にも聞いておいてもらいたいんですけど」


 少し真剣な表情のハルにライン王子もロイドも小さく頷いてから、ハルについてくるよう促した。


「ちょっと真面目な話っぽいし、僕の部屋でいいかな?」


「大丈夫です。ちょっと行ってくるから皆はヒーラさんが戻ってくるのを待ってて」


 カイ達に待っているように言ってから、ハルはロイド達の後ろをついていくように、カイ達に背を向けた。





        ×  ×  ×





「魔力が制御できた……?」


 ロイド達に聞いてもらいたい話とは、もちろんあの時の一件。

 今まで、そして今現在もまるで制御することのできないハルの体内にあるロイドの魔力が、あの時の一回に限り制御することができた。この原因を知りたくて今のハルの状況を1番把握しているであろうこの2人に相談を持ちかけた。

 

「ありえない……とまでは言わないけど俄には信じられない」


「そうだね。正直僕とロイドは、一生かけてもハルちゃんがその魔力を制御できるようになるとは思ってないんだ」


「一生、ですか?」


「別にこれに関してはハルちゃんが悪い訳じゃなくて、単純にそれくらい君達の魔力の量や質が違いすぎてるってことなんだ」


 だからこそ、誰の魔力だろうが関係なく魔法を発動させてしまうその魔道具は凄いんだけどねとハルの右手首を見ながら付け足すライン王子。

 つまり、ハルの体にロイドの魔力は荷が重すぎるということだ。だが、あの時は確かに魔力を制御し、自分の理想通りの魔法を放つことができていた。とはいえ、あの時は不思議な感覚に陥り、無意識と言われれば無意識であったため、どうやってやったのかハッキリと思い出すことができないのだ。


「そこだよ」


「そこだね」


「え、どこ?」


 そこと言われて後ろを振り返るハル。こんなときでもボケることを忘れない。それが常にツッコミとボケを両方こなす、異世界の二刀流――咲場 春だ。


「その意識はあったのに無意識だったという不思議な現象に、謎が隠されていると思うんだ」


「確かにあの時はヒーラさんからマヒユ教の話を聞いて、マヒユ教の教えは絶対に間違っているって思ったら段々と怒りも湧いてきて……そこら辺から記憶もところどころ曖昧で……魔法を撃った時も不思議な感覚で、それこそ手を動かす時みたくそれが当たり前にできて……」


 ハルの支離滅裂な説明にも、2人は真剣な表情で聞きながら可能性を考える。

 その場面をハル以外にも目撃している以上、魔力制御ができたということは本当なのだろう。ならその原因を探りたいのは山々なのだが、それ以降どれだけやってもできないため、実験のしようがないのだ。下手にやって魔力切れを起こし、倒れられても面倒だ。


「とりあえずは様子見かな。その左目も定期的に発動させてるんだよね?」


「ああ、はい。ヒーラさんのおかげで常に片目を瞑っておくという苦行からは逃れられたんで、だいぶ楽になりましたし」


 ヒーラの発明を自慢気に話すハル。そんなハルの眼帯が気になったのか、ロイドがじっと眼帯を見つめながら疑問を口にする。


「その眼帯をしながらでも、右手首の魔道具は使えるの?」


「うん。魔法が強制遮断されるのはあくまでもこの眼帯が覆ってる場所だけだから」


「……ね? やばいでしょ……?」


「ああ……是非とも実戦で使えるようにしてもらいたいもんだ……」


「…………?」


 2人がごにょごにょとハルには聞こえない声で話しているのを見て首を傾げる。

 何はともあれ、2人に聞いても原因が分からないのであればもうお手上げである。ライン王子の言う通り、しばらくは様子見するしかないか、と現状を噛み締めるようにゆっくりと瞬きをする。











 そしてまた、同じ景色が広がる――。




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