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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
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24.国家専属魔道具研究者


「ハル、アタシもヒーラについて行ってもいいかしら?」


 ライン王子とヒーラが玉座の間を出ていく前に、ルルが突然そんなことを言い出した。そういえばルルは家でも最近ヒーラの研究所に入り浸っていた。ヒーラも別に迷惑そうにはしていなかったし、家もすぐ隣なのであまり気にしていなかったが、絶対に面倒臭そうなところに向かおうとしているヒーラに付いて行きたいだなんて、相当ヒーラのことが気に入っているらしい。


「あ、お姉ちゃんが行くならわたしも……」


 妹のリリィも姉に続いて立ち上がる。

 まあ、この2人とカイにいたっては今回のことについて話せることは一切ないので、ここに残る必要もないのだが。


 ハルがチラリと国王の方を見る。

 すると国王もその視線に気づき一度頷く。


「うむ、構わん。ライン、2人も連れて行ってやってくれ」


「はーい」


 間の抜けた返事と共に、ライン王子がルルとリリィに向けておいでおいでと手招く。


「先に言っておくけど、これから会うのは超変人だから。覚悟しておいた方がいいよ」


 ……本当に大丈夫だろうか。


 部屋を出ていく3人を心の中で心配をしながらも、ハルはハルで目の前の国王に向き直る。


「それで、他には何を話せばよろしいでしょう?」


「とりあえず、事件の話はいったん保留にしよう。ビスト帝国という名前をしっかりと調べてからにする。それよりも、学校の方はいつ頃再開するつもりだ?」


「ああ、それなら――」


 国王との話は学校の話題へと移っていき、再開の見込みや、どのような授業内容をしているかなど、事細かに報告した。





        ×  ×  ×





 ところ変わって王城の敷地内に作られた別館。多種多様な植物に囲まれたその別館は、王城の敷地内だというのにまるで別世界な物々しい雰囲気を放っていた。

 別館そのものも植物の蔓に巻き付かれており、魔女の館と言われても納得いってしまうようなそんなできだ。


 そんな別館の入り口までやってきた4人は、ライン王子を先頭に木製の扉に手を掛ける。

 すると、その中から聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。


『や、やめなさい! わたくしは城に向かうつもりでしたのに!』


『ぐへへ……いいじゃんいいじゃん。強気なツンデレロリ。色々試させてよー』


『何ひとつよくありませんわ! あ、やめて! 服を脱がさないで!』


 ………………………………………………。


 そっと扉の持ち手から手を放すライン王子。

 後ろの3人も何とも微妙な表情をしている。


「……取り込み中みたいだし、また後から来ようか……」


「……そうね」


 ライン王子の言葉に疲れたようにルルが返事をし、それに釣られるように残りの2人も首を縦に振る。


「ところがどっこい! そうは問屋が卸さないんだな!」


 4人が回れ右をして別館から離れようとした瞬間後ろで大きな音を立てながら扉が開き、まるで手入れをしていないボサボサの緑髪を適当に纏めた白衣の女性がババンと効果音を発しながら登場した。


「……シュガレット、君は一応女性なんだからもう少し慎みをもって――」


「やあやあ、私の研究所へようこそお嬢さん方! 待っていたよ! 待ちきれなくてカリナちゃんにイタズラしちゃうレベルで待ってた!」


「わたくしはいい迷惑ですわ! ただ城内を歩いていただけですのに、いきなり小脇に抱えられて……こんなの誘拐ですわ!」


 乱れたドレスを正しながらご立腹な様子のカリナ=アインツベルク。ライン王子の従兄妹でよくこの城には遊びに来ている。


「それでそれで? 誰がヒーラちゃんなのかな? 君? それとも君? いやここは大穴狙いで君がヒーラちゃんと見た!」


 そう言ってリリィを抱きしめたシュガレットは、そのままリリィを抱き上げてその場でくるくる回り始めた。


「ち、ちがいますぅ~。わたしはリリィで、ヒーラさんは…………ううぅ……目が回る……」


 本当のヒーラを指さそうとするリリィだが、あっという間に目が回ってしまい、グデッとなってしまう。


「あ、あの! 僕がヒーラです! その子はリリィちゃんといって、僕とは別人です!」


「ん? なんだー! 君がヒーラちゃんか! いやー、凄い美人さんだね! 君には一度会ってみたかったんだ!」


「えっと、とりあえずリリィちゃんを離してあげてくれませんか?」


「ああ、ごめんごめん。目が回っちゃったかな? 君はこの子のお姉ちゃんかな? この子を任せてもいい?」


「え、ええ。構わないけど……」


 呆気に取られていたルルに目を回したリリィを任せ、シュガレットは改めてヒーラに向き直る。



「コホン……では改めて、私の名前はシュガレット。国のお金で研究をしている、国家専属の魔道具研究者だよ」



「いや、言い方」


 普段ボケ専門のライン王子だが、彼女の前ではツッコミ役に徹しなければならないほどの強者らしい。


「あら、魔道具研究者ってことはヒーラと同じじゃない。ねえ、ヒーラ?」


 ルルがヒーラの様子を窺うが、当のヒーラはポカンと口を開けたまま呆然としている。


「ど、どうしたのヒーラ?」


「無理もないよ」


 いきなり固まってしまったヒーラに困惑するルルだが、そのヒーラの状態をライン王子が説明してくれる。


「魔道具の研究者っていえば探せばいくらでもいるし、君たちが暮らしているアランカは冒険者の街と言われながら魔道具研究にも力を入れているいわば魔法科学の街でもある。だから魔道具研究者を見るのも珍しくはないだろう。でもね、国家専属の魔道具研究者っていうのはこの国にはたった1人しかいないんだ。つまり彼女は、この国で唯一国に認められた魔道具研究者なんだよ」


「」


 ラインの言葉に絶句する。最近ヒーラの研究所に入り浸っているルルだからこそ分かる。魔道具研究が如何に大変だということを。一から材料を集め、何週間も時には何か月もかけてようやく1つの魔道具を完成させる。しかも出来上がってからも実験に実験を重ね、改良に改良を重ねて、ようやく納得のいく魔道具となるのだ。

 ヒーラ自身も言っていたことだが、魔道具研究者とは人にはあまり認めてもらいにくい職業なのだ。周りの人々は完成した魔道具にしか興味がない。どれだけ努力して、寝る間も惜しんでようやく完成させた魔道具でも、それを使う側が納得いかなければその研究者は駄目研究者の烙印を押されてしまう。第三者からしてみれば、途中経過など関係ないのだ。


 しかし、このふざけた人は国という超巨大な商売相手に認められ、専属で魔道具を作ってくれと頼まれているという。材料費も道具代も研究所も実験所も全て与えられるほど、国から認められた魔道具研究者ということだ。つまり、全ての魔道具研究者が目指すべき人物だといっても過言ではない。ヒーラが固まるのも無理ないだろう。


「でも、何でそんな凄い人がヒーラに会いたいだなんて……」


「王子様から話を聞いて興味が湧いてねー。なんだっけ? 確か武器に魔法を付与する魔道具、だっけ? 中々に面白い発想とそれを実現させる腕前だと思ってね。一度会ってお話してみたかったんだ」


「ぼ、僕なんかでよろしければ是非!!」


 いきなり回復したヒーラがバッとシュガレットの手を取り、瞳を輝かせる。

 そんなヒーラを見てにやぁと何故か厭らしい笑みを浮かべるシュガレットだが、それも一瞬のこと。すぐに良い笑顔に戻り、ヒーラの手を引っ張っていく。


「それじゃあ、私の研究所でお茶でも飲みながらゆっくり話そうか。もちろん2人っきりでね」


「待った。何で2人きりなんだい?」


「そりゃあだって、君たちが魔道具研究の細かい話を聞いても分からないしつまらないだろう? それに私の研究所は男子禁制だ」


「いや、初めて聞いたんだけど。ていうか、僕何回も入ってるよね?」


「たった今から男子禁制になったんだ。どうしてもというのならそこの2人はまだ良いだろう。でも王子様は駄目。ゼッタイ」


「それは聞き受けられないな。僕は彼女達を君から守るようにと言われている」


「人聞きが悪いなあ。別に何もしやしないよ。別に入ってきてもいいけど、もし入ってきたらライン王子は女性の部屋に無理矢理侵入する変態王子って城内に言いふらすから」


「なっ……」


 普段から問題行動の多いシュガレットの言葉を信じる者は少ないだろう。だが、一応女性であるシュガレットが瞳に涙を溜めながらそんなことを言いふらしたら、冗談だと思いながらもどこか心の底で変態王子の烙印が押されてしまうのではないだろうか。そうなったらライン王子は明日から城内の人間に、変態王子を見る目で見られてしまうのではないだろうか。


 そんな最悪の状況を想像し、冷や汗を流すライン王子。


 苦渋の決断。不名誉な烙印を押されながらもヒーラをシュガレットの魔の手から守るか、それとも自分の立場を守ることを、明日からの平和な日常を守ることを優先するか……


「……………………ごめん、ヒーラちゃん。僕は、無力だ……」


 その場に膝から崩れ落ちるライン王子を一瞥し、不敵な笑みを浮かべたシュガレットはヒーラと2人っきりで研究所へと消えていった。






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