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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第4章 彼女の師
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21.マジパネェ


「くっそ、なんだこいつら!」


 いきなり現れたモンスターの群れ。

 ドラゴンの匂いに釣られたか? だが、今になって現れたということはその線は少ないか? など様々な憶測が飛び交うが、今はそんな状況ではない。このモンスター達の動きには見覚えがあった。


「そのモンスターに近付いちゃ駄目です! 警備団は急いでここから離れて! ウィーネさんは遠距離からモンスターを始末、ダンストンさんは警備団の護衛をお願いします!」


 いつ自爆するか分からない。

 だが、まず間違いなく彼らはあの自爆操作の魔道具に操られている。種族違いのモンスター達が集まってハル達に攻撃しているというのもあるのだが、彼らの意思のなさそうな動きはあの時の記憶と一致する。


「あーもう! シュナはどこ行ったの!」


「とにかく、このモンスターを追い払うことに集中しましょう!」


「それじゃ駄目です! 確実に仕留めてください! じゃないと……っ!! 離れて!」


 ウィーネの近くにいたゴブリンの胸が突然光り出す。やはりと予想が確信に変わったハルは急いで右手首の魔道具を起動させる。ウィーネとゴブリンの間に、ロイドが使っているのを見て真似た防御魔法を展開させようと矢を構える。


 しかし、その魔法は発動させずに済んだ。

 突如そのゴブリンの首が切り飛ばされたのだ。


「大丈夫か!?」


「遅い!!」


 文句は言っているが実際ナイスタイミングだった。

 シュナが今首を飛びしたゴブリンは、自爆寸前だった。ゴブリンの魔力がどれ程のものかは眼帯を外していないため分からないが、もしミラーが作った魔力増幅魔道具がついていればどんなモンスターでも十分脅威となりうる爆発を起こすことができるだろう。


「すまない。だが、まさかこれほどの数とは……」


 シュナがぞろぞろと集まってくるモンスターの群れを見回して、冷や汗を流す。

 今みたいに1体だけが自爆するなら対応はできるかもしれないが、この数が同時に自爆を始めたら流石に追い付けない。

 

「とにかく、こいつらが自爆をする前に1体でも多く仕留めなければならない」


「分かってる。でもシュナは近付かないと倒せないんだから無理しないでよ?」


「あ、あの、何故仕留める必要があるのですか? この数を相手するのは相当手が掛かると思うんですけど」


「こいつらは普通のモンスターじゃありません。とある魔道具が胸に埋め込まれていて、操られている上にいつでも自爆ができます。操られているので追い払うこともできません」


「……な! そんな魔道具が……つまり、殺してしまえばその爆発も起こらないって感じてすか?」


「そういうことです。さっきみたいに胸が光り始めたら爆発の合図だと思ってください。光ってからでも今みたいに殺してしまえば爆発は起きません」


 とはいえ、話はそう簡単なものではない。

 この数を相手にするだけでも一苦労だというのに、常に全体に気を配り、光り始めた者を優先的に始末する必要がある。ウィーネの魔力にもハルの矢も無限ではないのだ。


「ウィーネさん、このモンスターを一掃できるような魔法はないんですか!?」


「あるにはありますけど……私の大技は全部炎系なんで、山火事になっちゃいますよ!」


 以前山で大火事を起こしかけたハルからすればそれは避けたいところだ。またカイやシルシに説教されたくない。


「ではやはり、1体ずつやるしかないのか!?」


 シュナが今もゴブリンや狼型のモンスターの首を刎ねながら、苛立ち気に叫ぶ。このままではジリ貧だ。何かしら策を練らねば次々と自爆しようとするモンスター達の始末が間に合わなくなってしまう。


「シュナ、右前!」


「……っ! ハッ!」


 ハルも出し惜しみはしてられないと左目の眼帯を外し、胸に埋め込まれた魔道具が光り始める前に体内の魔力がおかしな増幅を始めるのを魔眼で見極めてシュナに指示を送っている。


 この魔眼は自分の意思とは関係なく発動し続ける上に消費魔力も高いため、気を抜くとたとえロイドの魔力であろうと底を尽きかけない。早いとこモンスターを掃討したいところだが、現時点では1体ずつ始末するという方法しか思いつかない。

 ハルは背中に手を伸ばす。矢も残り僅かしか残っていない。だがハル達が山を下って逃げれば、何者かに操られているこのモンスター達は必ずそのままハル達を追ってくるだろう。こんな危険な爆発物を街に近付けるわけにはいかない。考えられるとしたらこのモンスター達を操っている者を見つけるのが一番なのだが。


「シュナ、近くにこいつらを操ってる奴はいないの!?」


「この腐ったドラゴンのせいで私の鼻は機能が停止している!」


 そうだったと唇を噛み締める。ハルも戦いながら辺りを見回してみてはいるのだが、なにせモンスターが多すぎて分かりそうにない。特にゴブリンやオークなんかは人に近い姿をしているので区別がつかないのだ。


「……っ、矢が切れた……!」


 次の矢を装填しようと手を背中に伸ばすが、その手は矢を掴むことなく空を切る。


 転がっているモンスターの死体から矢を回収しなければと前方に目を向けるが、刀を休むことなく振り回すシュナを見て自分の運動神経であんな戦場の真ん中に飛び込めるのかと不安がよぎる。

 クロスボウが使えない状態の自分に、棍棒やら錆びた剣を扱うゴブリン達と渡り合えるかと聞かれると、全力で首を横に振るしかない。一応魔力を吸収するナイフは持ってはいるが、あの棍棒ですぐに吹っ飛ばされる未来が見える。最悪間違えてシュナの間合いに入ってしまい、シュナに切られて死ぬまである。


 もう自爆しようとしているモンスターを見極める役に徹しようかとも思ったが、シュナの背中をハルとウィーネで守りながら何とか戦っていたというのに、いきなり1人抜けるのは辛過ぎる。


 やはり矢を回収しなければならないかと、覚悟を決めたその時。

 向こうも想像以上にハル達が粘るので普通に倒すのは諦めたのか、一番恐れていた策に出始めた。


「……!? まずい! シュナ、急いで離れて!!」


「……!」


 ハルの指示に一瞬動きを止めるが、その隙を突いてくるモンスターは1体もいない。

 ハル達の周りにいるモンスター達が1匹残らず全員動きを止めた。そして、目を覆いたくなるほどの光を一斉に放ち始めたのだ。


「シュナもウィーネさんも私の後ろに!」

 

 この数のモンスターが一斉に爆発すればこの辺り一帯は間違いなく吹き飛ぶ。

 戦っていた時間を考えれば恐らく警備団の人達は、非難を終えているはずだ。今は自分達のことを最優先に考えるべきである。


 右手首の魔道具が今度こそ光を放つ。

 1週間前に教会で使った後はほとんど魔石に魔力は残っていなかった。そのため3回ほど魔力切れを起こしながらも魔石に魔力を貯めておいた。ここは別に魔力を制御する必要はない。魔石に入っている分しか使えないのだから、全部使うつもりで防御魔法を展開すればいい。


 だがここで、最大のミスに気付いてしまった。

 ハルの右手首に装着してある魔道具は、ハル用に作られた魔道具。その効果は、埋め込まれた魔石の中にある魔力を使い、武器に魔法を付与するというもの。そう、武器に(・・・)魔法を付与する魔道具だ。


(あ……もう矢がないんだった……)


 その付与するための武器がなければ、いくら魔石に魔力が貯めてあろうとも魔法を発動することができない。

 もう爆発まで数秒とない。他に方法はないとハルはシュナの刀を奪い、地面に突き刺す。やったことはないが、この刀でもできるはずだ。現にこの魔道具を初めて見たときは剣に魔法を付与して危うく手を火傷しかけた。魔法を付与した後は毎回その矢は使い物にならなくなるので、もしかしたらこの刀も使い物にならなくなってしまうかもしれないが、その場合は仕方ない。後でもっと良い刀を買ってやろう。


 ハルが地面に刺した刀に防御魔法を付与しようとすると、後方からビリビリと強烈な魔力の波動が左目に強く感じられた。

 とっさに魔法をキャンセルし、シュナとウィーネの頭を地面に叩きつける勢いで無理矢理押さえると、その上をカマイタチのような三日月型の一閃がもの凄いスピードで通り過ぎていく。その一閃のカマイタチは今にも爆発寸前の光の中に突き進んでいき、モンスター達を横薙ぎに真っ二つにした。


 魔力の流れが止まってしまったモンスター達の胸に埋め込まれた魔道具は次第にその光を収束させていき、最終的にはそのまま消えてしまった。

 残されたのは上半身と下半身が切り離されたモンスター達の死骸のみ。

 あの数のモンスターをたった一撃で葬ってしまった斬撃を撃った当の本人は、その歳に不釣り合いな仰々しい剣を鞘に納め、孫に見せる優しい顔を作った。


「大丈夫でしたかな?」




「「「ダンストンさん(おじいちゃん)、マジパネェっす!!」」」





 初めから彼に任せていればあんなに苦労することはなかったのかと思いながら、これからは年齢で勝手に判断するのはやめようと心に誓ったハルだった。


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