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30億だけ持たされた私の異世界生活。  作者: 夢寺ゆう
第1章 異世界転移
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10.この銀行大丈夫?


 今私とカイは大量の服や靴、鞄などを持って、私がこの街に来て初めて訪れた建物の前まで来ていた。


 昨日宿屋の主であるロンドンさんの話を少し聞いて決めた。


 この世界では基本的に男性が肉体労働、女性が事務系の仕事に着いているという。


 ロンドンさんが昔やっていたという冒険者も9割は男性なんだそうだ。

 しかし冒険者というのは常に命を賭ける仕事。年々数も減ってきているらしい。当然だ、冒険者は基本モンスターを狩ることで生計を立てている。

 ということはモンスターだって必死だ。

 殺るか殺られるかの世界。

 それなら安全な街中で宿屋を開いていた方が安全である。


 と、話が逸れたが、今重要なのは事務系の仕事には女性が多いというところだ。


 そう言われてみれば最初に行ったところも女性ばかりだった。


「と、いうわけで、やって参りました。銀行です」


「誰に言ってんだ?」


 フードを被っているカイが上目遣いで私のナレーションに律儀にツッコむ。

 えらいえらいと頭を撫でてやりたいが生憎両手が塞がっている。


「さて行こっか」


 私達は銀行の中へと足を進めた。





 中に入りまずは辺りを見渡す。


 なんともタイミングが良いことに、客は1人もいない。これはまさにラッキーだ。


 私は目的の人物を見つけ、迷わず一番奥のカウンターへと向かう。


「おはようございます、お姉さん」


 私が話し掛けたのは一昨日ここに来たときに私の10万Gを下ろしてくれたお姉さんだ。

 

「おはようございます。あ、お客様10万Gの……」


 やはり覚えていてくれた。

 たとえ銀行でも家や店などを建てない限り10万Gなんて大金を下ろしに来る人はほとんどいない。況してやこんな若くてか弱い少女なら尚更だ。


「もしかして、もう使いきったのですか?」


 私達が手に持っている荷物を見てもう10万Gを使いきったのかと訊ねてくるお姉さん。


「いえいえまさか。まだ10分の1程度しか使ってませんよ」


 それでも100万円相当なのだがそこは気にしないでおこう。


「それでは今日はどういったご用件でしょうか?」


「いやそれがですね、一昨日色々買い込んだは良いものの明日この街を出なければならなくなりまして」


「はい」


「それで流石にこれ全部は旅に持っていけないのでどうしようかなと思ってたんですよ」


「なるほど」


「一度も着ていないので捨てるのももったいないし、かといって買ってすぐにまた売りに行くのもアレだなぁ、って……そこでここの銀行は皆さん女性だったことを思い出しまして」


「は、はあ」


「私この街に特に親しい女性とか居ませんし、しかし1回も着られずに捨てられるのも服達も可哀想なので、それならここの人達皆にお贈りしようかなと」


 長々と言い訳染みたことを言ってみたが、要は捨てるの勿体ないからこの人達にあげちゃおうということである。


 他に客が居ないため、自分の受け持つ場所に居ながらもしっかりとこちら話に耳を傾けていた他の従業員達が少しざわめく。


 多少なりとも一昨日の10万Gでこの銀行内では有名になっていたようで、そんな私が買い込んだ物が何なのか気になるのだろう。


 目の前のお姉さんがあーえっとぉ……と何か言い淀んでいると、奥から眼鏡を掛け、ピシッとスーツを着こなした如何にも仕事が出来そうな女性が出てきた。


「話は聴こえておりました。申し訳ありませんが我々は仕事中ですので、お客様から贈り物といった品をいただくのは規定違反となってしまいますので」


 ハッキリとした拒否の声。

 これは堅物そうな人が出てきたな。

 恐らくこの銀行の偉い人なのだろう。


 しかし、私もはいそうですかと簡単には引き下がらない。


 この量を捌くにはある程度人数が居るところでないとキツいので、そうなるとここしか思い付かない。


 街中では逆に人が多すぎてタダで配るとなると喧嘩などが起きかねないのだ。それくらい、今持っている品々は中々の高級品ばかりなのだ。


 私はすぐさま目の前の堅物お姉さんを観察する。

 

 この街に来てから街の道行く人を色々と観察した。そんな中でいくつか気付いたことの1つなのだが、この世界の人々でも結婚している者はどうやら指輪をしているらしい。


 もしかするとしない人もいるかもしれないが、子供と歩いている奥様方は私が確認した分では全員が指輪をしていた。


 そこで私はお姉さんの左手薬指を確認する。


「…………そうですか、このバッグとか結構有名なブランドらしいんですが」


「あ、それ『ホライズム』のバッグ!」


 従業員の1人が私の持っているバッグを指差す。

 へぇ、これホライズムって読むんだ。相変わらず文字は読めない。


「このワンピースとか着て街を歩いたらすぐに男とか寄ってきそうなのになぁ」


「あ、可愛い」


 さっきまで私の対応をしてくれていたお姉さんがボソリと呟く。そしてすぐに堅物のお姉さんに睨まれる。


「すみません。そろそろお帰りに……」


「あ、これとか凄い大人っぽい組合せ。こんなのお姉さんみたいな綺麗で大人な女性の方が着たら一発で求婚されそう」


 ピクリと堅物のお姉さんの動きが止まる。

 やはりこのワードがキーだったか。

 私はこのチャンスに畳み掛ける。


「それにこのバッグを持って、あとこのヒールも履いて……あー、普段はピシッとしたスーツ姿で仕事をしている人が、オフの日にこんな大人らしさを残しつつカッコ可愛い格好をしてたら、そのギャップに男共もメロメロなんだろうなぁ。でも決まりなら仕方ないですよね。わかりました、少し勿体無いですけど捨てることにします」


 …………。


「こ、コホン……わ、我々は誇りを持ってこの仕事をしています。なのでお客様からの贈り物を頂いてはいけないという規則を破るわけにはいきません」


 む、意外と手強……


「し、しかし! 仕事以外で、友人として物を頂くというのは、別に規定とは関係ないと思われます。貴女、このお客様とはお友達なのですか?」


 堅物のお姉さんの横で座っているお姉さんがいきなり問われてびっくりしている。


「そ、そうです! 彼女と私は親友同士です!」


 テッテレー♪

 ハルに親友ができた!

 

「で、では奥の更衣室に頂いた物を保管しておきなさい」


「わ、わかりました!」


 そして私から服などを嬉しそうに受け取った従業員数人がそれを持って奥へと消えていった。



「私が言うのも何だけど、この人達こんなにチョロくて大丈夫かな?」


「いやホントお前が言うなよ」





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