1.異世界に転生? 転移?
父が死んだ──。
日本でも有名な超大企業の社長だった私の父は、莫大な財産を遺してあの世へと旅立っていった。
母は私が赤子の頃に病で亡くなっていた。
私に兄弟姉妹はいない。
父が遺した財産は全て、私の元へと入ってきた。
まだ17歳。そんな大金にいきなり転がり込んで来られても、どうしろというのだ。
お金なんていらない。
私にはお金よりもずっと欲しいものがあった。
私は、もっともっと親の愛情が欲しかった。
親との時間が欲しかった。
お金がいくらあっても、両親のいないこの世界に──
何の魅力も感じられなかった。
× × ×
「危ない!!」
どこからかしたその声が私の耳に届いた時には、私の身体には激痛が走っていた。
横断歩道を渡っていた私に信号無視をした車が突っ込んできたのだ。
一瞬、ほんの一瞬だけ車内の運転手の顔を見た。
……一瞬で十分だった。
あの顔は今まで何度も見てきた顔だ。
恐らく確信犯。それも、私を狙った犯行。
どうせ私の財産目当てなのだろう。
私を轢き逃げしてそのまま私の家にでも入り込むつもりなのだろうか。
あの顔は、私が大企業の社長の一人娘だと知っている人間のものだった。
あーあ。死ぬのか。
ま、いいけどね。この世にはもう未練も何も無いし。
でも苦しみながら死ぬのは嫌だな。
現時点で全身が死ぬほど痛いし、息できなくて苦しいし、どうせ殺すなら何故即死級の一撃を与えてくれなかったのか。
私を殺したという事実よりもその殺し方に文句をつけながら、私の意識は深い暗闇へと落ちていった。
× × ×
気が付くと私は、見たことのない大きな噴水の前で立っていた。
おかしい。
私は車に轢かれたはず。
あの時の痛みも苦しさも覚えている。
出来れば二度と味わいたくない体験だったが。
自分の姿を確認してみる。
身体に傷どころか、服に汚れ1つ付いていない。
下は制服のスカート、上は制服ではなく少し大きめのパーカーという車に轢かれた時と同じ格好をしているがどこか破れていたりもしない。
ポンポンと軽く自分の身体のいたるところを叩いて確認していると、スカートのポケットに何かが入っていた。
ポケットから出してみると、それは1冊の通帳と1枚のカード。
カードは色も絵柄も私が使っているキャッシュカードと似ている。
しかし、そこに書かれた文字だけが日本のものではなかった。
日本語でもアルファベットでもない記号の様なその文字は私には理解しえない、解読できない文字だった。
とりあえずカードの方はひとまず置いておくとして、次は通帳の方に目を向ける。
通帳もカードと同様私がいつも使っている預金通帳と同じ色合い、同じ絵柄だ。
しかし、私が使っていた通帳より幾分か綺麗な状態だ。
恐らく新品なのだろう。
それと、表紙に書かれているはずの銀行名が空白になっており、私の名前が書かれているはずの場所には先程のカードに似た文字が書かれていた。
文字は読めない。
だが、書かれている場所的にもこれは私の名前を指しているのではないだろうか?
文字数的にも私の名前を平仮名読みにしたときと一致する。
問題は大量だ。
意味がわからない情報が一気に流れ込んでくる。
ここはどこなのか。
何故死んだはずの私が生きているのか。
何故キャッシュカードと通帳だけが私のスカートのポケットに入っているのか。
何故カードや通帳の文字がまるで文字化けのような文字になっているのか。
大量の疑問が滝のように降り注いでくる。
私はそっと通帳の1ページ目をめくる。
何故、この通帳には父の遺産がそのまま入っているのか……
私はもう一度通帳に目を落とす。
何度数えても、そこには間違いなく父が死んでから一度も手をつけたことのない父の遺産――
『3,000,000,000』
という数字が刻まれていた。
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