皇女の決意
「――撤退!?」
『相手の技術が見えたため、ここは退いてもらうということだ。次に生かすためにも、分かってくれるかな?』
「――ッ!」
空中でアルティメスと刃を交えるヒュペリオン。それに乗るレギルは、皇宮から出された撤退命令に恭しくも従う。もっとも、撤退など彼にとっては不服ではあるが。
そもそも、苦汁をなめられ続けたアルティメスにまだ一太刀も入れられていないにもかかわらず、ここで引き下がるなど、貴族としてのプライドが許さないのである。
しかし、戦闘が開始されてから何時間過ぎたのか、その近くにいる誰もが測ることが出来ず、ただ目の前の敵を倒そうと必死に戦っていたのだが、膠着状態に入ってからは特に打開策すら見当たらない。強引に行こうとしても、返り討ちにされるのがオチだ。
それに加えて、身体に一体どれだけの負荷がかかっているのかも分からない。その証拠に、いつの間にか息が上がっている。
「潮時か……! 撤退だ!」
「「「!……イエッサー!」」」
ヴァルダの呼びかけに、タイタンナイツのメンバーは表情を歪ませながらも承諾し、機体を下がらせる。続けていた戦闘から一旦離脱するというそのアクションに、ルーヴェ達は頭に疑問を浮かばせる。
「! 逃がすか!」
「待て!」
「!」
リンドが引き下がる獲物を狩ろうとライフルを構えて照準を合わせるが、それをルーヴェが引き留め、紅茜達も同様に、動きを止めた。ただ一人、不満を抱えるものを除いてだが。
「何でだよ!?」
「深追いは禁物ってこと?」
「それもある。それに、奴らが来たのはこちらの戦力を把握することが目的だろう。まあ、こちらも奴らのカラクリも分かったしな……」
タイタンナイツが引き下がった理由について、アレンは独自に分析する。そして、彼らが乗るシュナイダーに隠されているものの正体も掴んでいた。
「ああ。連中も、俺らと同じってことだ。いや、少し違うか……」
「違う?」
「それに関してはラヴェリアから聞いた方がよさそうだ。下がるぞ」
「ああ」
今回の戦闘で浮き出た謎を知ったルーヴェを筆頭に、紅茜達もヤタガラスへと帰還していくのだった。
ヤタガラスに帰還したルーヴェ達はシュナイダーから降り、聖寮の避難から戻ってきたラヴェリアがいる研究室にて彼女の説明を受けていた。
「おそらく、あなた達が相手していたタイタンナイツのメンバーは、抗体を手にしていると考えていいでしょうね」
「「「「「!」」」」」
「それに彼らのシュナイダーにも、私が開発したシュナイダーに使われている人騎共鳴システム……いえ、同等のシステムが使われていることも分かったわ。あなた達の見解通りよ」
「やはりか……」
机の前でキーボードを打ち込むラヴェリアの解析が当たったことにルーヴェ達は怪訝そうな顔をする。これまでの用にはいかないことに、激しく息を吐いた。
さらに解析を続けていたラヴェリアだったが、ふと手を止める。
「だけどね……このままでは彼ら、死ぬかもしれないよ?」
「何!?」
「そもそも、人騎共鳴システムはあなた達、そしてゼクトロンドライヴが揃ってこそ、能力は発揮される。だけど、彼らのシュナイダーに使われているエンジンは、それとは全く異なるギャリアエンジン。まあ、強化された型だけど、性質は違うと言っていいわ。ただ……」
自分達が使用するシステムとガルヴァス帝国が使用するシステムとの違いを説明するラヴェリア。だが、彼女の表情は険しいままだ。
「?」
「つまり〝足りない〟のよ。能力を十分に引き出すものが搭載されていないと。性能をフルに引き出せるあなた達なら、必ず勝てる……はず」
根拠のない彼女の発言に、ルーヴェ達はガクッとヒザを折ってしまう。どこか決め手がない印象なのだろう。
「!……はず、って……!」
「しょうがないでしょ。相手は、皇帝騎士として選ばれた、名誉の高い存在よ。たとえリスクがあれど、実力は本物。そんな簡単にはいかないでしょうが」
「……なら、奴らにある〝足りないもの〟って?」
「それは……これよ」
「?」
ルーヴェからの質問にラヴェリアは、トントンと指で頭を、脳ミソがある位置を叩く。その様を見ていたルーヴェ達は首を傾げるのだった。
一方、ガルヴァス皇宮に帰還したタイタンナイツ一同は、ソファーが置かれた一画の部屋に留まっていた。
「クソッ、今度は負けねえぞ……!」
「……しかし、まさかあちらも同様のシステムを使用していたとは……」
「…………」
「?」
アレスタンが拳を固めて憤慨する中、ヴァルダはなぜか口を噤ませていた。それを見ていたクラネットは彼に話しかける。
「どうしたのですか?」
「……いや、何でもない」
「?」
(あのようなシステムを開発できる人物は……まさかアイツなのか? だとしたら、目的はやはり……)
先の戦闘から敵が使用していたシュナイダーに、自分達と同様のものが搭載されていることを知ったヴァルダは、それを作り出すことのできる人物を思い浮かべていた。その人物がテロリストと通じていることを知ると、彼はその目的に何か心当たりがあった。
「…………?」
その様子をじっと見つめるエリス。その表情にはどこか寂し気な感じが含まれていた。
さらには、そのヴァルダが何かに気づいた様子であることを、彼女はいち早く感じ取っており、彼にとって不吉なものであることも察していた。
そんな険しい表情をするエリスの近くに、レギルが近寄る。
「今回は残念だったな。まあ、次は奴らを潰す絶好の機会だと思えばいい。そう気に病むな」
「別に気に病んではないし、落ち込んでいるわけじゃない。ただ、アイツらは強い。そう思っていただけ」
「まあな……」
エリスの口から出たレイヴンイエーガーズの評価に、レギルは静かに肩を下ろす。彼も対峙していたアルティメスの実力を垣間見たようだ。
「こりゃあ、ヴィハックより手ごわいと思った方がよさそうだ。久しぶりに歯ごたえのある相手になりそうだ……!」
ハハハ、と歯を見せるように笑うレギル。いかにも戦闘狂のような高笑いにエリスは、汚いものを見るような目で視線を傾けるのだった。
「…………」
周囲が広がる自身の部屋にてルヴィアーナは窓から街中を見つめる。
普段と同じ光景であるはずなのに、人がいないだけでこんなにも違った雰囲気があることに彼女は悲しんでいた。
「ノーティス。どうしてこうも、人は争うのでしょうか?」
「私でも、答えられるなら答えられると思います。しかし、簡単にそれを否定し、自分が納得のいく言葉で片付けられるとして見られると……」
「――でしょうね。まるで他人事のように簡単なもので済ましてしまう人だっているでしょう。ですけど、自分ではない誰かを思う心だって持っていいはずなのに、それすら否定してしまうのは、少し人としてどうなのかと思います」
「姫様……」
人類は時代の流れに乗っかるように、それを否定する者が争いを持ちかけてきた。
例えば人類が生み出した科学によって、時代が築く一方で、それを壊す技術も確立されていくのが常である。それを表すかのように生み出されるたびに大きな争いを呼び、人もたくさん死んでいった。
今でもヴィハックの襲撃とデッドレイウイルスの脅威で、窮地に追い込まれているというのに、また人類同士による争いが生まれたのは、必然だったのかと彼女は嫌でも思い浮かばせていた。
ましてや、この国が軍事政権を主張する者達も、その成れの果てかもしれない。そう思っただけでも、ルヴィアーナは心を痛めていたのである。
「?」
外に見える街中を見て、黄昏ていたルヴィアーナは背中の位置にある机へと近づき、その引手がある収納棚を開けると、なぜか振動しているピンクのスマホを手に取る。
「…………!」
スマホの画面を見て、眉をひそめた彼女は指で操作し、画面を動かした後、また収納棚に仕舞った。
「ルヴィア―ナ様?」
「ノーティス……私にもやらなければならないことができました。ワガママかもしれませんが、許してくださいね?」
「……構いません。あなた様の赴くままに」
「……ありがとう」




