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漆黒の狩人《イエーガー》アルティメス  作者: 北畑 一矢
第1章
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ヴィハック

 ギガンテスに乗り込み、移動を続けるガルディーニ達。

 本来、閉鎖区は人が住めるような環境ではないのだが、操縦席が外部からの空気を遮断しているため、影響が出ることは少ない。そもそもヘカトンケイルが閉鎖区を隔てているのもそれが理由であり、人体に害をなすものを漏れ出させないようにしているのだ。

 それだけ危険なものであり、あえてその場を行くガルディーニ達は、その害をなす〝あるもの〟の駆除の役割を担っているのだ。その〝あるもの〟こそが、帝国を陥れようとする〝脅威〟でもあり、世界中の国々でも問題視されているものでもあった。

「……気を付けろ。どの方向からも襲い掛かることも忘れるな。何度も言うが、適時、各部隊への報告も怠るなよ」

『『『イエッサー』』』

 ガルディーニの呼び掛けと共に、ギガンテスは何が出るのかも分からない、廃墟が立ち並ぶ魔の街道を突き進んでいく。

 かつては建物だったその一部が横たわったり、その破片が地面に転がって道を塞いだり、はたまた完全に倒壊されず、隣の建物に支えられて道が狭まるなど、閉鎖区の地形は迷路に近いものとなっていた。故に隠れる場所は多いが、外部からの指示がない限り、地形を把握するには時間がかかるだろう。

 もっとも、ガルディーニ達をはじめ、この場にいる軍人達は過去にも・・・・この閉鎖区に突入したことがあるため、経験としては少なくない方だ。しかし、蜘蛛の巣のように細い道のりの中を進んでいくことには変わりなく、突入するたびに地形図が変化していくことは何より、不安であった。

 頼りになるとすれば、自分の目と操縦席に搭載されたレーダーと、熱量を感知する熱量探知サーモグラフィーと言ったところか。

 それらで周囲を警戒しつつ閉鎖区を移動するガルディーニ達や、管理ブロックから状況を確認しているルヴィス達が緊張を高める中、周囲を広く捉えるレーダーに一つの反応が観測された。

「! 何か反応があった。周囲を固めろ!」

 その中でレーダーに何やら反応があったことを知ったガルディーニは、その後ろにいる機繰者達に停止をかける。すると、互いの背中を見せるように視線を四方に振り分け、機体の両手に抱えるマシンガンをそれぞれの前方に向けていく。

 音すらしないその場所を見渡し、警戒を強めていくガルディーニ。

 人一人すら見当たらないこの場所にお化けのような実体のない存在が現れてもおかしくもない。だが、彼らはその実感を無視しているわけではない。

 なぜなら、その山奥を含めたその大地には、人間を問答無用に食らう(・・・)魔物が住み着いているのだからだ。

 その魔物は特に人間を食らうと言われているそうで、それに対抗できる手段こそがシュナイダーなのだ。これらを鑑みても、生身の人間では手に負えないことは重々理解できる。

『こちら、ベータ。周辺に異常なし』

『こちら、ガンマ。同じく異常なし』、

『デルタも異常なし。アルファお願いします』

「こちらも同様だ。だが、気を抜くな。ここは、奴ら(・・)領域(テリトリー)であることもな……」

『『『イエッサー』』』

 敢えて分散させていた各部隊からの通信を取り合いながらガルディーニは周囲を警戒する。他の場所にいるシュナイダー部隊も同様に警戒を強めているに違いないと頭の中で思いながら自分に課せられた任務を続ける。

 かつては祖国の領土であったとしても、今は違う。姿、形が残ってはいるが、懐かしいと情に訴えられることは彼らにはなかった。彼らがそこにいる場所はもう、〝戦場〟となっているのだから。

 ガルディーニ達が数棟もの廃墟の周辺を警戒し続けた矢先、突如として警告音が操縦席に強く鳴り響いた。

「! 反応があった! 各機、周囲を警戒しろ。 近くにいるぞ!!」

 ガルディーニの呼びかけに周辺に留まっていたすべてのギガンテスはすぐに厳戒態勢に入り、機繰者達は神経を尖らせた。もはやさっきまでの空気はこれまでの始まりだったのだと、誰もが察し、しばらく静寂が一様に進む中、状況は突然動き出した。

 ――ドドドドッ!

 太鼓の連打のごとき騒音が大地に鳴り響く。それが段々と聞こえてきて、廃墟をまたぐ道路が見える方向からやってくる強い反応をレーダーで捉えたガルディーニはギガンテスの胸部に携えていたマシンガンを構える。するとその周辺にいた複数のギガンテスも同様にマシンガンを構え始めた。

 自身との距離を詰めていく何かが襲い掛かってくる危機感を感じていた機繰者の身体を震わせる緊張が徐々に高まっていき、そこから目を離さないまま身動きもしなかった。

 そして、外を映し出すモニターに奥から来る何かの姿を捉え、機繰者はそれを拡大させるとその正体に驚愕する。

 その正体とは黒い体色をした怪物――文字通り、この世界・・・・に存在するはずのない〝異形の存在(・・・・・)〟が、この地に足を踏み入れて来た巨人達に牙を剥いた。

「ギッシャアァーーーー!!」

 大地を疾走しながら口から発する奇怪な雄叫びが影すら塗りつぶす夜の広い空に高らかに木霊(こだま)する。その雄叫びに恐れを抱いた機繰者は「ヒィッ!?」と恐怖のままに、握っていた操縦桿のボタンを押して、マシンガンを発砲させる。

 それを近くで見かけた別のギガンテスが許可もなく乱射する機体を静止しようとするが、銃口から発射される数十発の弾丸は真っすぐ突っ切ってくる魔物に当たることなく、弾丸の礫を抜けた後、その場をジャンプし、発砲を行ったギガンテスに上から覆い被さった。

『うわっ!?』

 そのギガンテスに乗っていた機繰者はいきなり視界が暗くなり、何が起きたのか理解が追い付かなかった。ただ分かるのは〝怪物〟が現れ、恐怖のあまり許可なく発砲してしまったということだけである。

 だが、魔物が取り付いていることが分かるとすぐに引き剥がそうと抵抗を試みる。取り付く力が強いのかすぐには剥がせず、ブンブンと機体が右へ左へと振り回すが、一向に離れようとしない。

 魔物の口から透明な液体が流れる。それがギガンテスの頭部に落ちるとシュウゥウー!と気体が空気中に拡散され、装甲が溶けるように液体へと変化していく。

『! マズイッ!』

 それを間近で見た機繰者は危機感を露わにし、すぐさま魔物に取り付く同胞を助けようと近寄っていく。

 同じく危機を感じた機繰者は自身が操るギガンテスの右手に持つマシンガンを動かし、そのまま銃口を怪物の横っ腹に突き立てると視界が閉ざされた状態のまま乱射した。

「ギャアァアアーー!!」

 銃弾をゼロ距離で撃ち込まれた怪物は、悲鳴にも似た咆哮を天に向かって放ちつつ飛び退き、ようやくギガンテスから離れると地面に四つの足で突き立てた。撃ち込まれた腹には動物特有の赤い液体ではなく、より赤黒い禍々しい液体が流れていた。

 そこに同じ部隊のギガンテスが二機現れ、両側に移動して合流すると仲間の状態を確認する。もちろん、頭部の一部が溶けかけていただけであり、稼働には特に問題もない。

『大丈夫か!? やられてはいないな!?』

『もちろんです! まだいけます!』

『クッ、この化け物め……!』

 右端にいたギガンテスはマシンガンを正面にいた魔物に構えると、そのまま魔物は警戒を強めた。

彼らの目の前に現れた魔物。それは自分達の領域(テリトリー)を侵す者に恐怖を与えるために現れた番人、いや番犬と言ってもいいだろう。

 だが、番犬というにはあまりにも気味が悪く誰が見ても嫌悪感だけが湧き出てくる。まさしく化け物という外観だ。

 この化け物こそ人類の天敵であり、彼らが対峙するもう一つの脅威――――

 〝|特定危険捕食生物(VIOLENCE HAZARD CREATURE)〟――――通称〝ヴィハック〟。

 ギャリア大戦の後に現れた、最悪の怪物であった。


 その存在が確認されることになったのは【ギャリア大戦】にてガルヴァス軍が自身の国家と並ぶ大国、すなわちアジア連邦とEU連合との衝突した時のことだった。

 圧倒的な戦力差を埋めるため、二国は一時的に同盟を結び、侵攻してくるガルヴァス軍との激戦が続く中、あの出来事が起きたのである。

 両軍の衝突が長引いたある日、突如として一つの隕石が降ってきた。

 あまりにも巨大なサイズを持った隕石は戦いの舞台となっていたアジア連邦の領土に落下し、その破壊力は周辺に留まっていた両軍を巻き込みつつ、地表にあるものすべてを吹き飛ばしていった。

 その衝撃が消えた頃には、大きく広がる大地を抉った巨大なクレーターが出来上がり、そこから誰一人として戻る者どころか、骨すら残っていなかった。

 しばらくして戦線を維持できなくなった両軍はお互いの領土に戻ろうとしたその時、大きく穴が空けられた大地から、少なくともこの世に存在することのない化け物――後に呼称されるヴィハックが現れたのである。

 ヴィハックは敵味方関係なく両軍に襲い掛かり、やがて、世界全体へと足を進ませていった。当然、そこから逃げまどう人々はあの化け物に喰われていき、軍は何度も抵抗を試みたものの、返り討ちに遭い、さらに損害も増えていった。

 特に帝国はロードスを中心に攻められた。なぜそこに向かっているのか理解する余裕もなく、ただ化け物を撃退することしかなかったのである。

 かなりの損害を被り、今も被害が増える中、皇帝は状況を打破するべく、新たに開発した質量兵器を戦地であるロードスに投入し、化け物の殲滅を図った。

 帝国はその兵器による余波とヴィハックの侵攻を抑えるべく巨大な壁、〝ヘカトンケイル〟を建造させ、ロードスを都市ごと隔離して準備が整ったところに新型ミサイルを投下、強烈な爆発によって、化け物を絶滅させた。

 その狙いは成功したかに見えたが、その代償としてガルヴァス人はロードスに足を踏み入れることはなく、巨大な壁はその後の危険性を考慮して、残されることとなった。

 それがのちに【ロードスの悲劇】と呼ばれるようになった要因である。

 だが、実際は絶滅させたわけではなく、各地で確認されることも多々あったため、今度こそ絶滅させるには多くの年月を必要としたが、皮肉にも人類を一つにすることになったのも言うまでもない。やがて平和を築けることに希望を抱いたのである。

 ところが、それから数日後から全く別の問題が人類に襲い掛かり、更なる恐怖に陥れた。そう――本当の〝悲劇〟が始まったのである。

 その〝悲劇〟は化け物が襲来した時よりも早く浸透し、その上、ヴィハックと名付けられた化け物との戦いを含めて、一時的に総人口が四分の一まで減らされていった。

 それでも人類は苦しみながらも抵抗を続け、絶滅まで十年を先延ばしにしていたのだが、この〝戦争〟はいつ終わるのか気が遠くなるほど、人類を疲弊させていた――。



 一体のヴィハックと対峙している三機のギガンテスはそれぞれ戦闘態勢に入る。

 両側の機体はマシンガンを両手で持ち、ヴィハックの強酸で頭部の一部が変形していた中央の機体は右手に持っていたマシンガンを左手に持ち替え、右背面に収められた斧〝バトルアックス〟を取り出し、その先端にある刃先をヴィハックに向ける。

 別の地区にいる別動隊もこれと同じ(・・)個体のヴィハックと対峙しているかもしれない。

 だが、それに向かっている暇はない。今ここでこの化け物を排除しなければ、いずれ国を脅かすことになるからだ。

 臨戦態勢となっていた双方は、視線を交わしたまま睨み合いを続ける。そして、痺れを切らしたのはこの地に住み着く化け物だった。

「ギィアァア!!」

「邪魔をするな、ってか……。邪魔なのはお前達だ、化け物!」

 ガルディーニは、目の前の化け物が自分達の安らぎを奪ったからか雄叫びに怒りが含まれているのが画面越しでも分かっていた。

 だが、この地は元々自分達ガルヴァス人の故郷だ。その地に勝手に足を踏み入れる愚か者にそのことを理解させるため、ガルディーニは右の操縦桿を前に押し出す。

「ハァアアーー!!」

 同時に、両側にいたギガンテスもタイミングを合わせるようにマシンガンを構えだす。

 人類が生み出した巨大なる騎士と、この世界に存在する・・・・・・・・・ことのない・・・・・怪物との戦いが始まった。


 一方、ガルディーニ達とは異なる場所で、自身が引き連れるシュナイダー部隊と共に監視を行っていたメリアも数体のヴィハックとの相手をさせられていた。そのヴィハック一体がこちらを逃さないようにじっと見つめてくる。

「クソッ……!」

(殿下からガルディーニ卿と共に現場の指揮を任されているとはいえ、失態を見せるわけにもいかん……! 一体なら数機で倒せるものの、こうも数が多いとなると……)

 目の前に映る魔物に対してメリアは心の中で愚痴を零す。

 ヴィハック一体だけでもかなりの強さを持っており、数の差がなければ勝つことが難しいのだ。しかもその数が最初から彼女たちを上回っており、どうにか倒したとしても別の個体が襲い掛かることから不利な状況が延々と続く。

「ギィアアーー!」

 そんな中、一体のヴィハックがその場をジャンプし、口を大きく開き、長い舌を伸ばしつつ上から襲い掛かろうとする。目の前にあるご馳走を我慢することなく頂こうとしているのがマンマンである。

「させるか!」

 メリアはギガンテスの背中に搭載された武装の一つであるバズーカを取り出し、砲塔をヴィハックに向け、引き鉄を引く。発射の反動で硝煙が噴き出る中、砲塔から発射された弾頭はそのままヴィハックの頭部に直撃し、爆発が起きる。

 大気中に拡散する白煙から頭部がなくなったヴィハックの体が重力に引き寄せられるように落ちてきて、そのまま地面に衝突した。頭部を失ったヴィハックは死骸となり、ピクリとも動かなくなった。

「これで一体は減らせた……!」

『メリア卿!』

「!」

 メリアの近くにいた二機のギガンテスが背中を見せ、彼女の方に近づいてくる。メリアも身を構え、三人で背中合わせにして周囲を見渡せるように円陣を作った。彼女達の正面には少なくとも五体は確認できる ヴィハックの姿が周囲に点在する廃墟の奥から這い出てきた。

 他の機繰者もそれぞれ背中を合わせるように固まっており、メリア達は既に魔物による狩り場に引き摺り込まれていたのだと自覚するのだった。

「クッ……!」


まさに、狩るか、狩られるか、と言った雰囲気です。

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