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漆黒の狩人《イエーガー》アルティメス  作者: 北畑 一矢
第1章
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ヘカトンケイル

この作品に出てくる、耳にしたことや、聞いたことのある単語を調べていると、面白いことが分かりますよ。

 複数もの階層が連なる皇宮の内部を移動する一台のエレベーター。

 階層を一つずつ移動し、とある階層に停止すると閉ざしていた扉がこれに乗る者をその先へ招くように開かれた。

 そのエレベーターから、通知を受けて執務室を後にしていたルヴィスが現れ、彼は目の前に広がる一直線の通路を進んでいく。また、その後ろから、これに乗る前から合流していたケヴィルも現れ、先を急ごうとする主の後をついていくのだった。


 エレベーターから降りた二人はその階層にひっそりと佇む扉の前まで歩み、扉が自動で開かれると足を止めることなく奥へと入る。すると二人の目の前に、大型のモニターが前面に敷かれ、暗闇が支配する空間が広がっていた。

【中央管理区画ブロック】――レディアントを防衛するために、皇宮の内部に設立された都市防衛拠点。

 正面にある台画面のモニターが皇宮の敷地外――避難警報で人がガラガラとなっているレディアントの今の様子がしっかりと映し出されており、一目で確認できる。

 さらに大画面の前に並び立つよう設置された多数のコンソールには、その前にオペレーターが座り、パネルの上に表示された空間ディスプレイを通して、街中やさらにその先を監視していた。

 実は都市全体に監視カメラが設置されており、そのカメラに映し出された映像がこの区画ブロックに表示される空間ディスプレイへと即座に届けられ、それを見ていたオペレーターに一早く危険を察知できるようにしているのである。

 また、大画面のモニターの片隅に皇宮内と思われる小さな映像がいくつも映し出されており、皇宮の中と外を含めて、この区画を中心に、盤石な監視体制が整われていた。

 その盤石な監視が行われているこの空間に踏み入れたルヴィスは、十数名ものオペレーター達よりもさらに上に位置する場所まで足を動かした。

「状況はどうなっている!?」

「「「!」」」

 皇族の登場に、オペレーター達は一斉にルヴィスの方へと顔を向け、目を見開く。だが、すぐにディスプレイへと視線を戻すとその中の一人が彼の言葉に応えるように口を動かし始めた。

「まだ〝ヘカトンケイル〟には到達しておりません! 〝閉鎖区〟の現在の地形を照らし合わせてですが……距離は五千、その数、四十です!」

「シュナイダーの準備は!?」

「整備班からは既に完了しているとのことです! あと先程、《機操者アドヴェンダー》も集結していると連絡がありました!」

「すぐに出撃させろ!」

「イエッサー!」

 オペレーターからの返答を聞き入れ、脅威が迫る現状を再確認したルヴィスは、今出撃を待ち望んでいるガルディーニ達に出撃するよう、そのオペレーターに指示を送ると、今度は他のオペレーターにも周辺の状況を聞き出した。

「市民の避難は?」

「既に市民全員、シェルターへの収容を確認。都市全域において、人の姿は見当たりませんいつでも行けます!」

 オペレーターの言葉通り、巨大モニターに映る街中に人影はなく、寂しい空気だけが流れており、そこにあるのは、街灯に映し出された夜の街並みだけだ。

 オペレーターからの応答にルヴィスは頷くと、意を決するがごとく眉を吊り上げた。

「シュナイダー部隊、全機出撃せよ!」

『『『『『イエッサー!』』』』』

 ルヴィスの呼びかけに、出撃を待ち望んでいた巨人――《ギガンテス》は、その主たる機繰者を得て、自身を囲んでいるハンガーから動き出した。

 ギガンテスの足が地面から離れ、一歩踏み入れると重々しい音が地面から鳴り響く。またその足で踏み入れるたびにズン、ズンと重量感を表す音が強く響いた。

 それに乗じて、隣にいる別のギガンテスも次々と動き出す。そのギガンテスの足元から大きな音が連続して鳴り響く中、その近くにいた整備班らは一斉に敬礼を行い、心の中から武運を祈った。

 動き出したギガンテスは格納庫の側面に保管されている武器をその手に持ち、背中や腰部など、次々と武装を装備させていく。

 そのまま格納庫の壁面にある巨大な扉に向かい、その前に立ち並ぶと扉が左右に開き出し、その奥に見える演習場を捉えた、外の光景が露わになる。

 既に空が暗くなっているも、数十体のギガンテスは臆せず次々と扉を超えていき、演習場のグラウンドに足を踏み入れた。

 そして、ガルディーニ達は操縦席に備わっている操縦桿を動かし、それに連動したギガンテスの脚部に備わっているスラスターを噴射させ、自国に迫る脅威が待つ〝戦場〟へと赴くのだった。



 夕刻まで賑わっていたレディアントは今や、冷たい風が小さく吹く夜の街と化していた。

 黒く染まった空に月が浮かび上がるも、光は届かず、街中も街灯すらついていない。加えて数時間前に発令された避難警報で誰一人も外に出ておらず、まるでお通夜のような雰囲気に飲み込まれており、街は空の色と同化していた。

 その街中で、冷たい風を受けつけない巨人達が巨体に似合わぬ速い速度で道路の上を移動し、街中を颯爽と駆け抜ける。巨人達が通った後には、どこからか吹いた風によって砂埃が巻き上げられていた。

 その巨人とはもちろん、ガルディーニ達が乗るギガンテスであり、そのギガンテスは現在、皇宮より後方の地区へと移動を進めていたのだ。

「やれやれ、明日の予定・・・・・がおじゃんだな……」

「……気持ちは分かりますが、今は目の前のことに集中しましょう」

「分かっている。これまで通りに、・・・・・・・・奴らを叩くだけだ・・・・・・・・

 移動を進めるガルディーニとメリアの何気ない会話なのだが、少し違和感のあるものが二人の口から出た印象がチラホラあった。すなわち、彼らが行く先に、国を脅かす存在がいるということだ。

「!」

 そのまま移動を続けるガルディーニ達だったが、遠くに離れた位置にとあるものを発見し、正面のモニターを拡大してみると、大きな金網みたいなものが映っているのを確認する。ガルディーニはすぐさま、皇宮に通信を繋いだ。

『こちら、ガルディーニ。そろそろ〝ゲート〟に到着する頃合いですので、解放をお願いします』

「了解した。すぐに解放させるから、今少し待て」

『ハッ』

 十数のディルオスで構成されたガルヴァス軍がこの先を塞ぐように金網でできた柵の門前に来ると、その柵の近くにいた二人の軍人が柵のロックを解除し、柵を解放させる。

 柵が解放されるとガルディーニ達は通じた道の上を進み出すが、先程と同様に絶壁(・・)がこの先を塞ぎ、その近くに再び足を止めた。

 街中にある高層ビルよりもさらに高く、天まで届きそうな勢いで地面から伸びる絶壁――〝ヘカトンケイル〟は、そこにあるだけでも一種の境界線のごとくあらゆるものを阻み続けていた。

 加えて、領土を真っ二つ・・・・にするがごとく壁が左右に広がっていることも含めて、まるでそこが国境と言わんばかりに隔てていたのである。

「…………」

 この先を進めないと慌てる所だが、なぜかガルディーニ達はそれに焦ることなく、静かに部隊が集結するのを待っていた。すべてのギガンテスがこの場に集結すると、ガルディーニは皇宮に通信を繋いだ。

「全部隊、〝ヘカトンケイル〟に辿り着いた。そちらでも確認できるか?」

「はい。周辺に異常なし。このまま〝ゲート〟を解放します」

 ガルディーニからの通信に、皇宮から状況を確認していたオペレーター達が手元のコンソールを入力し始めると、数十のギガンテスを悠然と阻み続けるヘカトンケイルに異変が起きた。

 ――ゴゴゴッ!!

 突如として壁面の一部が動き出し、二枚の扉・・・・が徐々にガルディーニ達いる方向とは逆の位置にある外側へと開かれていった。

 ヘカトンケイルの内側と外側を、唯一繋ぐことのできる〝ゲート〟が開かれ、絶壁で見ることのできなかった光景が露わになる。

「!」

 その露わになった光景を目にしたガルディーニ達は思わず表情を強張らせ、目を見開く。

 彼らは何度も・・・その光景を目にしてきたのだが、未だに慣れていないのがよく分かる。この先を見据える大地が、かつての自国の領土・・・・・であったならば、なおさらだ。

 先程まで彼らの前に立ち塞いでいた絶壁が、その光景を一般人に目に触れさせない役目・・を担っていることにも取れ、この絶壁がいくつかの役割を果たしていることは明白であった。

「敵の勢力が三千まで縮めてきました! 今すぐ発進してください!」

「分かっている! これより我が隊は【閉鎖区】に突入し、侵攻してくる敵を迎撃する。……行くぞ!」

「ハッ!」

 オペレーターの通信に、改めて状況を把握したガルディーニ達は、意を決して前に進み出す。もうじき迫る脅威を迎え撃つため、閉鎖区と呼ばれる帝国の、かつての領土へと突入していくのだった。



 ガルディーニ率いるガルヴァス軍が閉鎖区へ足を踏み入れる一方で、その様子をモニターに捉え、それを上空(・・)から傍観していた者がいた。

「……やはり奴ら(・・)が動き出したか。毎度毎度、ご苦労なことだな」

 先程までレディアントのある場所で巨人と共にいたルーヴェは今、ギガンテスのものと似た形状の操縦席の中で、モニターを通じて閉鎖区へと赴くガルヴァス軍を傍観し続けていたのである。

 実は数時間前にタイタンウォールから〝悪意〟に似た気配を察知した彼は、その気配の正体を探るために一足早く閉鎖区に来ていたのだ。本来ならその正体を掴もうと奥へ進もうとしていたのだが、ガルヴァス軍がそこにやって来たことを上空から確認していると、ルーヴェはその気配の正体に確信を持った。

(……あまり関わりたくないが、少し乗っからせてもらうか)

 先程、ラヴェリアから忠告を受けていたルーヴェだが、閉鎖区の中を移動し続けるギガンテスの行方が気になってしまい、彼女の忠告を破って彼らが行く方向へと進んでいった。

 その彼の行動はのちに、ガルヴァス帝国に楔をもたらすこととなるのだった。


 ただ、気になることが一つだけあった。

 遮るものが何もない、黒く染まった上空に、ルーヴェの姿がなかったのである・・・・・・・・。帝都を離れる前までは巨人と共にいたはずなのに、その巨人ともどもその姿が確認されることはなかった。

 というより、ガルヴァス帝国の監視網に引っ掛かるはずなのだが、その監視網にすら引っ掛からない。それどころか、何も見えず、音も聞こえなかったのである。ただ何もない夜の空が風景として映るのだった。

 だが、彼の行く先は、ガルディーニ達と少なからず一致していた。

 なぜなら、その彼らが待ち受ける脅威とは、この世に存在してはいけない、ある意味〝人ならざる者〟――すなわち、夕刻前にルーヴェ達が感じ取った〝異形の存在〟であった。



 荒れた大地に廃れた空気、そしてドミノのように崩れている廃墟。

 どこを見ても、それらが目に付く閉鎖区に足を踏み入れたガルディーニ達の目の前には、先程までのものと本当に同じ世界なのかと疑いたくなるような光景が広がっていた。

 何かしらの出来事から時間が経って朽ちていた建物や半壊したビルなど、レディアントのとはえらい違いであり、まるで出されたゴミがそのまま放置されたかのような、痛々しい光景が広がり続けている。

 しかし、ヘカトンケイルに隔たれていたとはいえ、同じ大地の上に建てられていたのは確かである。なぜなら、廃墟だけが広がるこの大地も、かつては帝国の領土だった(・・・)からだ。つまり、ここが都市といってもおかしくはないだろう。

 もっとも、今はそんな面影すら残っておらず、原形を何とか留めている程度で、まるで当時のまま、時間だけが過ぎ、この大地ごと時代に取り残されていったのである。今残っているのはかつての繁栄、いわば帝国の古き過去の末路が具現化したようなものだった。

「いつ見ても慣れないものだ。何度も通ってきたはずだというのに……」

 廃墟が所々に続く光景を目にして、メリアは軽くため息をつくように呟く。何度もこの場を潜り抜けたものだというのに、今でも都市が朽ちている姿は嫌でも目を逸らしたくなるだろう。

 元々、帝国の領土であったここも、あの絶壁が無ければ、本来の、道路の先にある美しい街並みが見られるはずだった。もっとも、この寂れた光景が広がり続けるのは、誰であっても精神的に辛いだけである。文字通り、フタをするようなものだ。

 この領土の、かつての名は、【ロードス】。だが、今やその名前は過去のものであり、名前のないその大地は無法地帯――通称〝閉鎖区〟へと変化していったのだ。

 こうなってしまった原因は当然、世界各地で勃発したギャリア大戦にあった。



 ギャリア大戦が起きた最大の発端、それは地下資源――【ギャリア鉱石】の利権の奪い合いにあった。

 そのギャリア鉱石と呼ばれる鉱石には、【ギャリアニウム】と呼ばれる特殊なエネルギーが含まれており、一欠片だけでも普段の生活などに使用されている電気や化石燃料など、他とは比べられない程の出力を持ち、その鉱石の一欠片でも町中の電気を賄える程の強いエネルギーを秘めているという。

 人々の生活には欠かせず、長年枯渇が懸念していた複数のエネルギー問題を一気に解決させた、特殊な鉱石である。

 もちろん、シュナイダーを稼働させるための燃料にも使われており、それもあってか高水準の軍事兵器として完成させることができたわけである。

 そのエネルギーが生まれた理由は今もわからないが、何でも地中内に眠っていたエネルギーが長年の時を経て結晶体として変化したものと言われ、他の鉱石とは明らかに異なる物質であると判明した。

 その鉱石が世界中で発掘され、次第にはそれを生かす技術を確立させた、まさに人類の大いなる発展を促したのだ。

 しかし、その発展は必ず光を放つと同時に、影が生まれていき、やがて争いが生まれ、その果てがギャリア大戦を引き起こしたのである。

 さらに追い打ちをかけるように、予想外とも言える二つ・・の〝脅威〟によって帝国を含め、各国は今も苦しみ続けた。それがこの現状である。

 一つは見えない恐怖(・・・・・・)に。

 そして、もう一つは――

 この世のものとは思えない異物(・・)によって。

 今や、その脅威を間近で受けたこのロードスは、十年の間で変貌し、そして、争いを最も受ける、惨劇の地となっていた――。


機体説明

ギガンテス

ガルヴァス帝国が開発、実践投入された機体。

汎用さを目的としているため、シュナイダーを操るアドヴェンダーにとって、扱いやすい。

名称の由来は、ギリシャ神話の巨人、「ギガース(ギガンテス)」。



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