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漆黒の狩人《イエーガー》アルティメス  作者: 北畑 一矢
第2章
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同行

 レイヴンイエーガーズと名乗る組織が宣告した、あの宣戦布告から半日が経ったガルヴァス皇宮は、いつも通りの静かとは程遠い一日が訪れる。

皇宮の一画に位置する謁見の間は、いつでも一触即発の険悪としたムードがこれでもかと立ち込めていた。

「どうすればいいのですか、陛下!? これでは我々の立場が危ういものに……!」

「我が敷地にも平民達が押し寄せており、どうにもなりません!」

「というより、誰がこんなことを漏らしたの!? いったい誰がーー」

 ガルヴァス帝国に属する貴族達が目の先にいるヴェルラ皇帝に向けて、嘆きにも似た叫びを口にする。その叫びは悲鳴とも取れ、今まさに追い詰められている感じがにじみ出ている。

 実際、彼らがそれぞれ保有する土地の周辺に、その近くに住んでいると思われる平民達が一斉に蜂起している。その彼らの表情には怒りが膨れ上がっており、敷地を跨がせない柵で抑えつけているが、今にも破裂しそうな雰囲気が続いていた。

 その雰囲気と似た空気がこの空間にも表面化しており、あらゆる負の感情が自制することすらせず、貴族達の身体からこれでもかと外に放出する。その留まることのない感情は、この空間内では抑えきれないのが目に見えた。

 その脇に並ぶヴェルラを除いた皇族達は彼らの父と貴族達との会話を目にして、微妙な表情を取り続ける。その心も曇ったままだ。

「まさか、最悪な形でアレを暴露されるとはな……」

「では本当なのですか、お義兄様方!? 軍が行ったことって……」

「……十年前、ギャリア大戦が激化していた頃、陛下は均衡した状況を有利にするために新型爆弾を投下することを決定した。そして、それを投下しようとした時に、アレが迫っていたんだ」

「アレ? ……まさか……」

「そうだ。当時、巨大な隕石がその均衡した戦場に降ってきて、戦況は一時混乱に陥ったんだ。その隕石を調べようとしたのだが、隕石に張り付いていたヴィハックがこの地球に足を入れたってことさ」

「ちょっと待ってください。それってつまり……!」

「そうだ。ヴィハックはこの世の生物ではなく地球の外、宇宙のどこかからやって来たということだ。まさしく侵略者だ」

「…………!」

 ヴェルジュの応答にルヴィアーナは絶句する。これまで閉鎖区に蠢いていた化け物が本当にこの地球に存在しない生物だったことに言葉が見つからなかった。

「ですが、新型爆弾のせいで、ウイルスが広まったというのはーー」

「残念だがそれに関しては、まだ調査が進んでいなくてね……。もう少し時間がかかるそうだ」

「そんな……」

「しかし、ギャリアニウムがウイルスを広ませたというなら、奴らはどうやって知ったんでしょうか?」

「……分からん。それこそ、ここにいる何者かがその情報を漏らしたという見方ができなくはないが……」

 先の宣戦布告を受けてどうしても疑問が残るルヴィスに、ヴェルジュはできる限りの可能性を引き出す。そもそも、そういった事例や研究があったことすら知らなかった二人にとっては、少し悩みどころが大きく、事実なのかも怪しい所である。

 もしもそれが事実だというなら、この国そのものが滅びることも考慮しなければならない事態へと変化するだろう。

「元々、ギャリアニウムの研究を行っていたのは確か、お母様……でしたよね?」

「確かにそうだけど、何だい? 藪から棒に……」

「お母様の後、次に研究をなさったのは誰です?」

「……そういえば、十年前にウイルスに対抗するワクチンを製造した科学者がいたな。何でも、その後輩だったと……」

「……お名前は?」

「ラヴェリア・ベルティーネ、だっけか、そいつ……」

「!……そうですか」

 母の後輩が研究を引き継いで、ワクチンを造った人物の名前を知るルヴィア―ナ。しかし、彼女にはどこか聞き覚えがあり、まさか……と頭の中で引っ掛かっていた。

「分かった。ほとぼりが冷めるまで今は大人しくしておけ」

「し、しかし……!」

「二度も言わせるな。大人しくしろ!」

「「「「「!!」」」」」

 ヴェルラ皇帝の一言に、全ての貴族達は一斉に押し黙る。何とか言い募ろうとしても、その圧力は増す一方で、逆に押し込まれる結果となってしまった。追い込まれている状況であるにもかかわらず、皇帝の姿は何一つ姿勢を変えることはなかった。

「奴らが申していたことについては、今は問う必要はない。――それよりも、今はルビアンがどうなっているのか、何も知らないのか!?」

「! い、いえ、何でも向こうにいる者達がここと似た状況に陥っているかと連絡がありまして……」

「それに加え、あれからテロリストの動きが入ってこず、何一つ状況すら分からないままでーー」

「黙れ! そんなノロケは聞きたくないわ!」

「「も、申し訳ありません……!」」

 あまりにも滑稽な話だと耳にしたヴェルラは先程発言をした二人を糾弾する。その糾弾に二人は萎縮する。

「他には?」

 意見を求めるヴェルラの言葉に、貴族達は一歩引いた姿勢のまま、誰も口に出さなくなっていった。先程の檄が飛ぶのを恐れてか、一歩も前に出ることもなく、ただ皇帝の前にひれ伏すといった印象しか残らなかった。そこに一人の士官がヴェルラに近づく。

「陛下」

「?」

 士官が王座に腰を掛けるヴェルラの耳元に、何かを囁き始めた。その囁きを耳にしたヴェルラはその内容に目を大きくした。すると、ヴェルラはルヴィス達に視線を向けた。

「ラドルス、ヴェルジュ! すぐに軍を引き連れて、ルビアンへ行け!」

「!? 何があったのですか、父上!」

「ふざけた声明を出したテロリストが動き出した! 我々がこんな悪戯にこまねいているうちに進撃を受けているそうだ……!」

「「「!?」」」

 昨日の宣戦布告から一日も経っていないにもかかわらず、レイヴンイエーガーズの進撃が行われていることにルヴィス達は衝撃を受ける。今攻撃を受けられていることは、彼らが本気であることを意味しており、自分達を崖っぷちに追い詰めさせようというのだ。

その予想だにしないその朗報に、耳を傾けていた貴族達も驚愕に包まれる。次第に不穏な空気がこの空間に充満していく。

「なっ……! 何ですと!?」

「こんな早くに……!? 卑怯な……!」

「薄汚いテロリストめ……!」

 次々と貴族達から怨差を口に出していき、空気はさらに濁り、酷く澱んだものになっていく。だが、それを吹き飛ばす一言がある男によって、もたらされた。

「落ち着けーーい!」

「「「「「!!」」」」」

「それでも貴様らは我が帝国の高貴なる身分の者か! よく聞け! これはまたとない好機だ!」

 ヴェルラの一喝に騒ぎが広まっていた貴族達の表情はすぐに引き締まる。さらには彼らを奮い立たせるような言葉をかけた。

「奴らがノコノコ現れたということは、逆にこの手で取り押さえる好機が向こうからやってきたということだ! 先の件は我々の油断が招いたものだが、今度はそうはいかん! この場にいる者すべてが力を集い、愚かな者どもに我々の力を見せつけ、この世界から排除するのだ!」

「お……」

「「「「「オォ――――‼」」」」」

 貴族達の口が一斉に木霊する。ヴェルラの言葉に引き寄せられるように貴族達は先程までの恐怖感も微塵も見せず、自ら立ち上がる姿勢を見せた。

 その貴族達の様子に、ルヴィス達は言葉すら出てこず、ただ黙るしかなかった。

「……さすがですね、父上は……」

「さて、我々も行くとしましょう。義兄上」

「ああ。すぐに大部隊を編成させなければならないが――」

「なら、私も連れて行ってください」

「「!」」

 父から軍を連れていくよう指示されたラドルスとヴェルジュが、軍の編成について話しつつ、この場を下がろうとしたところにレギルが声をかけた。

「あのような不埒な者に我々の恐ろしさを見せつけるというなら、私が適任かと思いますが」

「確かに貴君の言い分も分かる。だが、私のことを見くびっては困るのだが?」

「重々承知しております。ですが、皇女殿下に何かあっては、こちらも困るもので。特にヴェルジュ殿下の元にいるお二人も同じ気持ちかと……」

「!」

 心配されるような言葉にヴェルジュは自身の後ろにいるヴェリオットとグランディに振り向きつつ、鋭い視線を向ける。その視線がまっすぐに突き刺さった二人は思わず、後退ってしまった。

「……フン。いいだろう。確かに未確認が四つとなると、さすがに強力な騎士が必要になる。

たった一機でそれらを仕留めるなら結構だが、くれぐれも私の邪魔をするなよ?」

「イエッサー!」

 ヴェルジュから許可を頂いたレギルは、アレスタン達専属騎士が終結している歩行に目を向ける。その視線を感じたアレスタンは反対にレギルへと視線を向けた。

「リーディス卿、フェールゼン卿。お二人にも力を貸していただきたい」

「了解。っていうか、お前から頼み事とはな。だが、まあいい。クククッ、楽しみだぜ」

「分かったわ。ま、戻っていく点では同じだろうし」

 その二人も同行を了承すると、すぐさまレギル達は先に行くラドルス達の後を追うように歩みを進んでいった。



 一方、レイヴンイエーガーズの旗艦、ヤタガラスの艦橋で、アルティメスをはじめとする四機のシュナイダーがルビアンの中心部に位置する【ガルヴァス聖寮】を襲撃しているのを、ハルディ達は大型モニターで鑑賞していた。

「とりあえず、先制攻撃っと……」

「ホントに人が悪いですね~。あんなことを起こしてから、すぐに、って……」

「スタート合図みたいに、律義にやる必要なんてないわよ。だって、戦争なんだもん。卑怯なんか関係ないでしょ」

「そうですか……。でも交渉が成功すれば、別にどうでもよかったんじゃないですか?」

 ハルディの皮肉った言動に、グレイは一応納得をする。

確かに戦争というのは綺麗事ではない上、いつ始まるかも分からない。もちろん、制限時間の付いたゲームみたいに、勝敗も決するものでもないのだ。

 ただ、相手との交渉が上手くいけば何とでもできるだろうが、彼女にはそんな選択肢は取ろうとしもしなかった。

「いきなり基地に襲い掛かったり、国を混乱させた私達が交渉だなんて、図々しいにも程があるわ。それに、私達はもう、後戻りできないの。相手が誰であろうと、降りかかる火の粉はすべて払わなきゃ、前にすら進めないんだから……!」

 はじめから覚悟を決めたかのようなハルディの発言に、オペレーター達の表情も強張っていく。その彼らの瞳には激しい炎が灯り、さらには奥から青白い光が灯っていた。

「ところで状況は?」

「聖寮全体に配置されているシュナイダーの数、三割を切りました!」

「今のところ、順調のようね。今のところは……」

 目の先にある出来事に思考を切り替えたハルディは懸念を覚える。双葉からの応答を通して、彼女が恐れているその懸念とは、戦場に立つ五人に向けられていた。


 その【ガルヴァス聖寮】の周辺に配置された二機のディルオスはマシンガンを抱えながら、眼の先に映る目標に向けて発砲する。

 しかし、その銃弾が目標に向かっていく中でそのディルオスの胸部に強い熱量を持った光線が突き刺さり、熱量が背中にまで強烈な熱が滲んでいく。そして、光線が背中を貫くと一拍置いて爆散する。

『!』

 一瞬で破壊されたことに右隣にいたディルオスは慌ててマシンガンを構え直そうとするが、それさえ与えられないまま、次に放たれた光線に貫かれ、爆散した。

 その光線を天から撃ち込んだアテナヴェレッドは、自身がいる上空に何かが近づいているのをレーダーで感じ取ると即座に狙撃の態勢を解き、向かってくる敵を見据えた。

 その近づいてくる反応、フライトベースに乗ったディルオスが二機、アテナヴェレッドを捉えるとお手本通りにマシンガンを発砲するが、アドヴェンダーであるアレンは操縦かんを動かして回避に入る。

 さらにアレンは最小限の動きで回避し、ディルオスとの距離を少しずつ詰めていく。ディルオスは変わらず発砲するものの、弾丸は一発も当たらず、弾丸を消費するだけであり、次第に追い詰められていった。

 すると、アレンはアテネヴァレットの左腰に掛けているピストルを手に取り、銃口を目の先にいるディルオスに向ける。そして、その引き金を引くと右手に抱えるスナイパーライフルと同じエネルギーの弾丸が撃ち出され、一直線にディルオスを直撃、そのまま爆散していった。

 もう一機のディルオスがアテネヴァレットとの距離を維持しながらマシンガンを発砲するが、銃口から放たれた弾丸を躱し、アテネヴァレットは右手に持つスナイパーライフルを目標に向け、そのままエネルギー弾を撃ち、先程と同様にディルオスを爆散させた。

「他愛もない……。さっさとケリをつけたいところだが、リーダーが禁じているからな……。ハァッ……」

 何とも気分の晴れないため息にアレンは不機嫌になる。

 彼が乗るアテネヴァレットには、他の四体にも劣らない武装を搭載されているが、その使用を禁じられていることにアレンはバツの悪そうな顔を取るしかなかった。

 先の防衛拠点の制圧には、その後の宣戦布告に必要であることを踏まえて、それを使用したが、その威力に彼自身も驚きがあったという。

 それもあってか、まだこの街を壊すわけにはいかないと彼らのリーダーが決めたため、大火力の武装の使用を禁じられているのだ。テロリストとは思えないその行動だが、真意はどうやら別にあるかに思えた。

「まあ、その点では紅茜も同様か。なら、今はチマチマと任務をこなすとするか」

 コクピットの正面のモニターに映るへパイスドラグの姿を捉えながら、アレンは自身を狙いにつく敵を相手に前に進むのだった。


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