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コントラポストの業  作者: p-zomble39
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学校行事はほとんどの場合において、変化がない。すなわち退屈なものである。誰も歌うことのないお決まりの校歌。お決まりの話。終業式は儀礼的な行事でもある訳なので、至極当然の結果だとは思う。それは学習指導要領にも示されていることであるし、逆らうつもりなど滅相もないのだが、寝てしまった。原因はと考察するまでもない。昨日の情報過多だろう。まさに情報社会の弊害だと声を上げたところでわかってもらえるわけなどなく、そもそもクラスの中で透明感だけはトップレベルを維持している私の寝顔など、眼中に止まるはずもない。 気づけばとっくに式など終了していて教室で「さようなら」と言葉を交わす段段階に移行していた。あれ?いつの間に通知表をもらったっけ?

 人間の環境適応能力はおそろしい。エアコンや新素材のシャツなど、年々身体機能の低下が著しいと叫ばれるが、それは一面での話だと認識を改めざるを得ないのだろう。なぜなら、人間は本能としての効率化、言い換えれば省エネルギー化を求め、進化し続けているだけなのだから。もっと簡潔に言えば、「楽したい」に帰結する。そのために自動で動いてくれる階段、そうエスカレーターがあれば、八割の確率でそちらに飛び乗るし、決まり切ったルーティーンには余計な頭を働かせないという一面があるのだろう。だから、本日の学校での過ごし方が曖昧なのは仕方のないことで、むしろそれは人としてあるべきなのだ、と勝手にエゴイスティックな論を下し、帰宅することにした。

 終学活が終わったということは、最後の大会に向けて熱を入れる運動部員、吹奏楽部員で校内が満たされるということを意味しており、そのような中に薄汚れた灰色を混ぜては、純度が低くなってしまう。そして、何事も努力していない、一生懸命さがない自分自身に対しての卑屈度のみが、一層高まりそうだ。それに今年の夏休みはひと味違うものになってしまう。なぜなら、ポイント強盗なるものを捉えなければならないからだ。なんと魅惑的な夏の始まりだろう。素敵すぎて、胃酸が逆流しそうだ。

 まったく、放課後の……いや「学校」というのは、全般的に「正しさ」の権化だ。だからこそ、ここにおける振る舞いは、そのままポイント変動へと直結する。まさに、目前五メートルほど向こうから、大量のノートを運ぶ川北のように。他人に貢献する振る舞いがあふれている。そして。ポイント加算の機会を餌に、あらゆるものが他人の好意を要求するのだ。それって、本当に道徳的ということができるのだろうか。他の地域でいう、「金」と引き替えに召喚した傭兵といかなる差があるのだろう。ある地域では仮想通貨を流通させ始めているという。それに対してここでは全ての言動を数値という単一のものさしで計測する。評価する。以上なのはどちらだろう。明らかに、

 「お、およ?あ、あっ、あああああぁああっ」

 メートル法的な長さにして二メートル、もしくは六尺半。一昔前のそばの出前のように積んでいたノートが崩壊した。いくら全ての行為がポイントで換算されるからといって、ニュートン先生の質量保存の法則は勿論、健在であり、ノートは狭い廊下を通行止めにするには十分すぎる冊数があったということである。あれ、ニュートンだったっけ?

 さて土砂崩れに遭遇したときの鉄則は、回れ右。関わらないことである。つまり、この場合にそれを適合させるとすれば、ノートを拾わない、という選択肢を選ぶということを示している。まったくこの手の状況は非常に苦手だ。自分で自由に選択する場面は、それを選ばなかった正当性を考えなければならない。そうでなければ、自分でその行動の責任を負うことができなくなる。

 それにまことに遺憾ながら、このケースの登場人物は私と川北の二人だけ。しかも二人の関係性は、ほぼ無し。強いていえば、中学校の時に図らずも彼女のパンツを見てしまったということぐらいである。その程度の関係性なら、強風にスカートで出歩けばいい。いくらでも演出することができる。

 あれは、高低差とスカートという特殊な事象が偶然、奇跡的に重なり合って生まれたイリュージョンである。私は、勇者でも無ければ、一級フラグ建築士でもない。ましてや小説などのマクガフィンを手にできる男子主人公でもない。たまたま、居合わせたあわれなる仔羊でしかないのだ。別に、いや別に全く、ほとんど気にする必要なんてないのだ。実際向こうだって、何も気にしていないじゃないか。その後、高一でも高二でも何故か同じクラスで、校外学習などで何故か班になっていたが、そちらの態度は慈愛に満ちた微笑み。適度なノリのよさ。うん。私が平等に保てば、

 「パンツ」

 思いっきり、吹き出した。腹に一撃が加えられたような痛み。ゴホゴボと咳き込んで、声も継げない。あのー、何仰っているんですか。川北さん。

 「いや、やっぱ静寂はパンツを見せなきゃ手伝ってもらえないかなって思ったからさ。仕方ないでしょ?」

 どうしてすでに下の名前呼びをしていらっしゃるんですか。何が仕方ない?疑問符で脳内が通勤電車の混雑時のようになっている私を尻目に、河北はおもむろに手を伸ばしてスカートの裾を握りしめた。細い腕だなと場違いな感想を抱くよりも先に何の躊躇をすることもなく、それを捲り上げた。当然露わになる下着類。ほっそりとしながらも、肉付きの良い太もも。

 声が出せない心情を察してほしいと心から願うばかりだ。幸い誰もいない廊下でスカートをまくってパンツをもろだししている女子と、それを間抜けな顔で凝視する女子。やばい。どんぐりの背比べだ。どちらの立場であっても変態に変わりがなかった。

 彼女のパンツは依然とは違い、ピンク色を召していた。パッションピンクといった、色彩鮮やかな代物では無く、桜を彷彿とさせるような柔らかなピンク。足の付け根の部分にレースが細かくあしらわれており、生地はおそらくコットン百パーセントだろう。やさしくやさしく、彼女を守っている。

 「もうそろそろいいよね。スース―してちょっと冷えちゃうんだけど」

 「あ、ありがとうございます」

 「うん。じゃあ、わたしのパンツを食い入るように見ていたから、手伝ってくれますよね?」

 「あーはい……って、ちょっと待っていただけますぅ?」

 危ない危ない。こんなところで、私のスルースキルが落とし穴になりかけるとは。透明度百%だからといって、これ以上透かしてしまってはいけない。私の社会名誉に大いに関わることである。このスキルも一長一短だと言わざるを得ない。

 「川北さん」

 「さん付けなど不要だよ?川北、もしくは時雨でおっけーだから」

 「じゃあ、川北。沢山聞きたいことが湧き出てきて、脳みそがドラム式洗濯機のとうになっているんだけど。まず始めに優先して片づけなければならない誤解が日本海溝のように私たちの間に横たわっていると思うんだ。だから、素直に教えてもらいたい。私は川北の中でどのような人間だと、カテゴライズされてるの」

 「まじめくさった質問ですね。そんなに畏まられてた、わたしの方が恥ずかしくなっちゃうよ」

 いやいや、恥じらうタイミングを間違えているんじゃないか。そう心中突っ込んだ。

 「質問だけど、うん、お答えするまでもないことだけど、静寂はパンツを見せないと手伝ってくれない人だもんね」

 「いやいやいやいやいやいやいやいや。ちょい待って。ちょっと落ち着いてる?川北さん、自分が言っていることの意味分かってる?」

 「わたしは至って冷静だよ。なんなら今日は調子がよいぐらいで」

 「あ、あ~そう。じゃあ、どこからその結論を導き出したのか、教えていただけるかな」

 「その、結論?」

 「私が、女の子のパンツをエネルギー源にしないと人のために動けないという話」

 「え?だってそうじゃん。中三の卒業文集制作の時のこと、覚えてる?」

 「覚えてるよ」

 主に、白と桃を。

 「あの時、わたしのパンツをじっくりと観察したから、その対価として委員長補佐の仕事を受託し、助けてくれたんだよね。それにパンツの見返りとして、写真を撮るだけでなく、原稿を取り返してくれたじゃん」

 「いきなりお前は水槽の脳だ、と宣告されたぐらいの驚きだよ。曲解だって。そう思われて、私高校二年間を過ごしていたんだ。そら偶然、偶然、見えていたことは認めるけどさ」

 「偶然、かなぁ?それなら、視線を避ければいいじゃん。静寂は、たっぷり三十秒は凝視していたよ?視姦初体験でこっちがドキドキだったよ」

 「なんかすみませんでした。で、拾えばいいんだね?」

 「あ、お願いします」

 雑多に崩れていたノートを過不足無く、名簿順に並べ直すのは、意外と手間のかかる作業だった。クラスメートの名前が記憶にない私にとっては、表紙の数字だけが頼りだった。しかし、それも前の学年のまま使っている人もいれば、番号の記述そのものすら欠けているノートも多い。そういった部分は、全て川北に押しつけた。

 「ありがとうね」

 作業完了と同時に、川北はノートを重ねて立ちあがった。それにしても、川北は中学三年生のあの時点ですでに自らのパンツが私の認知されるところにあったと気がついていたということらしい。彼女に何の罪も無いということを重々承知の上でも、やはり私の罪悪感を返してほしいということを唱えたくなったのは、きっと私のエゴイズムだ。みっともないにもほどがある。

 パンツの一見……いや一件があったとはいえ、本来なら私と目の前でノートの塔を再確認する彼女は本来ねじれの位置にいるべき関係性だ。だから事務連絡以外のことでもう話すこともほとんどないだろう。それならば、「ピサの斜塔か」なんて、冷たすぎる突っ込みをいれるぐらいの足掻きを見せてもいいのかなあと内心苦笑いがこみあげていると、

 「あ、わたしこれ職員室まで運ぶんで、ちょっぴり待っててね」

と、一方的に宣言されて取り残されてしまった。別に了承した覚えはないんだけどなあ。ただ、彼女の鞄を見捨てるわけにもいかない。

 数分後、彼女は戻ってきた。それに続いて歩く。

 「そういえば静寂、推測するに私に聞きたいことがあったんじゃないの?確かドラム缶式洗濯機が」

 「缶が余計かな。余計に汚れがこびりつきそうだよね」

 「ごめんごめん。ドラム式の洗濯機で、とってもいい音を奏でるんだよね」

 「私の脳みそは楽器じゃないよ。それに彼らみたいに叩かれ強くもないし、打てば響くほど頭の回転も速くないよ」

 「失礼失礼。聞きたいことがあったんだよね、どうぞどうぞ。さあ、遠慮なく」

 遠慮無く、と言われてしまうとめっぽう言いにくい。人間というのは、不平不満はすぐに口から出してしまう弱い生き物であるが、大抵の場合、満たされたり求められたりすると、と点に形勢逆転。言いづらくなる。一説によると、強盗や泥棒といった輩も、大量の金銭を差し出されると、逆に逃げ出してしまうという。

 「え?言わないの?じゃあ、不肖わたくしめが推察しよっか」

 「あ、いいですいいです。自分で言うから。っていうか、教室内でのキャラとちょっと違いすぎかな、って戸惑っていただけだから。別に気にしなくていいよ」

 「キャラって、キャラクターのこと?へ、つまり国語辞典でいう、性格や人格、その人の持ち味のことだね。ああ、そんな風に静寂は私のことをカテゴライズしていたんだ。うわぁ。もしかして、パンツを見せびらかして、パンツを餌にして人を動かす痴女とでもしていたんでしょ?わたしちょっとショックだな」

 言葉とは裏腹に口調と表情は明るい。起こっている、という訳ではないらしい。人の感情の機微に疎いから、あまり自信を持って断定することはできないけど。

 「うん、でもまあ、人間とは観察する

関係しか築くことのできない、静寂にとっては及第点を与えるにふさわしい言動だろうね。OK、いいよ。答えてあげる。……わたしの中でも案外、意外な展開だなあって思ってるしね。確かに教室ではこんな軽口を叩くことはないね。でもさ仮にも『委員長』と呼ばれて、ああ接してこられたら、ああいう風に返すのが普通でしょ?あそこに、ボケは皮膚必要だよ」

 「えっ……何?あれは演じてたってこと?」

 「演じる……演技ってことは、つまり静寂は私が心にもないことを堂々と人様に言っていると思ったんだ。そんなこと、わたしはしない、というよりもできないかな。それをすることのメリットがよく分からないから。あ、もしかして静寂は経験したことがあるの?」

 「そ、そりゃ、人間関係を都合良くするためには、多少は必要になんじゃないかな」

 川北の表情は硬く、どちらかといえば蔑むものへと変化した。もしそれに救いのようなものを求めるとすれば、彼女のそれには「同情」の類いがみじんも感じられなかった事だと思う。

 人間は、それぞれに異なる価値観を持っている。人種によって共有できるものもあれば、家族でしか共有できないものあるし、誰とも共有できないものだってある。それなのに、人はそれを誰かにわかってもらいたいと願う。なまじ言葉というツールがあるから、余計に。たまに通じることを「絶対」と勘違いして、わかり合えると思い込むんだ。自分の考えや気持ちが欠片でも伝えることができたんじゃないか、と。そんな希望を抱いてしまうから、それがたった一パーセントだったと知ってしまったとき、落胆し、怒りを生む。自分の正当性を主張するためだけに、他人を巻き込む。このような自分勝手なことがあるだろうか。

 じゃあ、どうすればいい。そんなのある一点においては容易だ。約束されたバッドエンドを回避する方法は一つ。やめればいいだけだ。伝えたいことを伝えないために言葉を交わし合えばいいんだ。言葉はきっと、伝えないために紡ぐのだと思う。

 「んー?……確かに、人間関係は平等には接することができないよね。だったら、公平に接すればいいだけじゃないの」

 川北は、こともなげにいいのけた。まるで「太陽を直接見てはいけませんよ」や「一たす一は二になるんだよ」、「平仮名って五十音っいうんだよ」といった分類のいわゆる常識を幼子に伝えるような感覚での言葉だった。

 いやいや、冗談だろう?それはつまり、相手の性格などに応じて、一定の距離間で関係を築くといっているのと同義だ。それをするためには、会話相手の内面を深く、もしかすれば相手以上に理解していなければできない芸当だ。それに性格といってもその内実は非常に難解だ。もしかすると生育環境に関与する必要に迫られるかもしれない。その重責を理解して言っているのだろうか。

 それに、一定の距離間を保持するということは誰とも親しくならないということではないか。一度話しただけの相手と、友人を同列に置くことができるだろうか。何より、自分の感情を同等にコントロールできるのか、私は確信が持てない。

 「人類、みんな兄弟みたいなものじゃない。そこに帰結すると思うんだけどね。だから、誰が、とか言って避けるのはちょっと違うような気がする。正しくないと思うね」

 圧倒的な善であり、正しさ。まさに目が覚める思いである。そして、田沼の澱みを恋した民衆の如く、絶望的な宣告に思われた。この人は、本当にこの信条を掲げてこれまでの人生を歩んできたのだろうか。生きづらくはなかっただろうか。もし、それが普通と断定できるのなら、それは次元が違う。あまりにも、自分自身のこと、周りのことに対して無頓着だ。

 「へ、へぇー。友達、多そうだね」

 返事も気の利かない寒い嫌味で、全く恐縮だ。

 「静寂よりは多いかもね。あ、そうだ。アドレス教えてよ」

 「え?」

 「多分ID持っていなさそうだからさ、ほら、スマホ貸して」

 やや強引に奪われる。礼儀として鞄から取り出そうか、と手を突っ込んだばかりだったのに。まさか、鞄の中から正確に取り出されるとは思わなかった。そして、あたかも自分のスマホのように慣れた手つきで捜査している。ロックをかけてあるはずだが。

 「はい。登録しておいたから」

 ものの一分間のできごとだ。

 「え、いや、その……パスワード入力する必要があったと思うけど……」

 「ああ、もう少し複雑なものを考えた方がいいと思うよ。推測したら、一発で開錠できたから」

 おそるべし、川北時雨。天才委員長は伊達ではない。敬服するしかない。委員長は関係ないかもしれないが。おそるおそるアドレス帳を確認すると、三件目に登録されていた。

 校門に到着すると。再び川北が口を開いた。

 「静寂。ポイント強盗って知ってる?」

 右に進めば駅。左に進めば海沿い道。あと八分、と呟いた声が聞こえてきたから彼女は電車に乗るらしい。

 ポイント強盗。都市伝説と化してしまった存在。六年前にいなくなってしまった人からの伝言。それが川北の口から、再び出てきたのに、肩の力が入る。


 「言霊になるから、言わない方が良いんじゃなかったっけ?」

 「んー。興味本位でしか口にしてなかったから、少し釘を刺しただけ。彼女たちが言葉にすることで、引き寄せたり、被害者になったりしたら、かわいそうじゃん。そうなったらそれで、まあ、助けてと言われたら、手を差し伸べようとは思ってはいるけど」

 「私はいいの?」

 「もしも、何かあったら、静寂も何か言ってくれたらいいよ?それでね?噂をわたしなりにまとめると、どうも駅の近くで被害が集まってるみたいなんだ。それで、少数のポイントを奪っていくんだって」

 大層な分析だ。

 「川北は、ポイント強盗に会いたいの?」

 「えーんー。そうだね。興味は、ある」

 「どうして?」

 ポイント強盗。この市に住む上でのライフラインを脅かす存在。この市における、絶対悪。もしも本当に怖くて追いつめられていて、精神に支障をきたすようになりそうならば、リセットは容易だ。たった一つ。水瀬から出ていけばいい。それでポイントとはおさらばだ。強盗も持っていないものを、まさか盗めまい。

それにポイント関連での事件なら、市役所が動員をかけるはずだ。一週間もすれば逮捕され、処分場行きだ。そしてそのニュースは忘れ去られる。

「だって、他人のものを盗むのは悪いことでしょ?それを乗り越えてポイント強盗は、犯罪に手を染めているってことだよね。だって。少々のポイントを得たいなら、ちょっとした慈善事業に従事するだけで一発だよ?本音を言えば、一代目のポイント強盗と話したかったんだけどね。それは、難しそうだし……」

「興味本位じゃん」

 「ふふふ、自家撞着だね。でもやっぱり、自分とはまるっきり価値観の違う人間とも話してみたいとは思うんだ

 「他人の価値観て大概にして理解不可能なものばかりだとは思うけど……」

 「ええ?納得はできないけど、理解はできるとは思うけど」

 また、次元の異なる発言に下を巻くしかない。

 「人間って、自分の理解の範疇を越えた存在に対して、底知れぬ恐ろしさを覚える生き物だから。わたしは、恐れたくないんだよ」

 「公平に、ってわけだ」

 「そっ。だから、あ、ごめん。もう次の電車来来てるから、ごめん本当。つまらない話聞かせちゃって」

 「あ」

 「んじゃ、バイバイ」

 線路脇の撮影ポイントにたまたまやって来た通過したリニアモーターカーの速度に驚くようなミステリー体験。まさに川北との会話を見事に言い当てていると思う彼女の思考の独壇場であり、何のために私を呼びとめたのか、どういう思考の流れで至っているのか、まるっきり見当もつかない。

 まるで狐につままれた三十分だったなあ、とのんきに思う。自分の理解しがたい存在に出会いたい。なんと高尚な悩みなんだろう。こっちは他人の心情がこれっぽっちも分からずに未だに教室でのポジションが曖昧で、どのようなキャラで行こうかも、高校生活三年目をスタートさせているのにもかかわらず、絶賛迷い中だというのに。しかし、彼女のそれはきっと、分かり過ぎるが故の悩みだ。優秀だからこその悩みであり、結論だ。それでもし、彼女がポイント強盗と出会えば、それなりの化学反応を示すに違いない。それはそれだ。明日は明日の風。私には関係ない問題である。


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