★★★2
「お化け屋敷?」
「そう。お化け屋敷って好き?」
「私は、あくまで私個人の考えだから、聞き流してもらってくれたらいいんだけど。私はわざわざ人工的に作られた闇を受け入れたくないから、あんまり好きじゃないかな」
それに恐怖を覚えて何にでも悲鳴を上げたって別に構わない。好きなだけ、叫べばいい。だって、ヒトって奴は好きなものしか見ないんだから。換言すれば、見たくなければ、ピントを合わせない。認識から排除するんだ。
そもそも闇と光は表裏一体。光は闇がなければ存在できない。逆に光がなければ闇は存在できない。だからこそ、私たちの日常は闇と光によって構成させているはずなのだ。普段の中でどこにでもあるようなありふれたもののはずなんだ。それを無視して、無かったことにして、人工的な闇に手を伸ばすのは、それらを軽蔑して、軽視しているような気がして、なんとなく嫌だ。
「うん、静寂っぽい返答だ。でもさ。人間はみんなそこまで優しくはないんだよ?」
この人はたびたび私を「優しい」と形容する。私はそれが自分のことを表現しているようにはどうしても思えなくて、まるで別の人間のことを言い表わしているようには感じられなくて、なんともむず痒い。それをごまかすようにしかめっ面をしてしまう。私は自分のことしか考えていないし、まして慈愛に満ちているわけでもない。当然「優しい」からはかけ離れた存在であることを自負しているのだ。
「でもね。用意してもらえなきゃさ、闇に気づけない人だっているんだよ?」
それに夏の風物詩だしね。とこの人はその大きな瞳をキラキラときらめかせて付け加えた。
「つまり、それはコーヒー豆のようなものだってこと?」
「例は何だっていいのさ。だってコーヒー豆ってそのままボリボリだべる人もいるでしょ?でも取りあえず、及第点ってところかな。あるとあらゆる食材は、真名じゃなかった生で食べるよりも、一流の料理人が手を加えた方が美味しくなるってものじゃん。人の手を甘く見積もったらいけないな。それに手をかけて闇を体験することでこそ、光のよさを再発見することにつながるんじゃないかな」
でもそれじゃ。ダメだ。私は厭なんだ。闇に対しての偶像があるのだろう。闇とはもっと、きっと粗暴で、コントロールの効かない暴走列車のように圧倒的な存在でないとダメだと思う。飼い慣らせる類いのものはきっと偽りだ。偽物だ。それを「闇」とは呼べない。その言葉を受け入れてしまったら、私は黒のインクを塗りたくって作り出したものとの違いがなくなってしまう。
「でもね、最終的には何の手も加えられていないクロとインクで塗りつぶされたクロ。結末だけを見れば、違いなんてさほど問題ではないんだよ。そもそもその違いを判別することができるとは思えないしね」
その言葉は深遠で、真意がつかめない。その寓話を用いて、私に何が伝えたかったのだろう。むしろ何を伝えたくなかったのだろう。
「だからさ、静寂。君は諦めないでよ。優しさを捨てないでね」
優しさ?やっぱりよくわからない。




