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生前

1,


「ユートさんユートさん!!!こっちですよぅ〜!!」


可愛らしいピンク色の髪を揺らし、ある人物の名前を呼びながら手を振る美少女がいる。


呼ばれている当の本人が無反応なため、その美少女は心配そうにこちらの様子を伺いながら駆け寄って来つつまたしても心配そうに先程の名を呼ぶ。


「トーマさん?さっきからボーッとしちゃって...大丈夫ですか?」


『あっ、ごめんごめん!ちょっと考え事しててさ、』


そう、先程から呼ばれている「トーマ」という名前は俺の名前である。


ストレートな少し長めの黒髪、細過ぎず太くもない健康的に筋肉のある体、決して不細工とは言えない整った顔立ち、目の前にいる美少女とは誰がどう見てもお似合いと言えよう。


「まぁ最近、イベント続きで忙しかったですもんねー」


...ゲームの中だけの話だが。


俺の本名は「柊 冬馬」

どこにでもある平凡な名前のいい歳した大人である。

ちなみにゲームでの名前も本名からとった。シンプルイズベスト。


平凡なのは名前だけではなく人生もだ。

学力も普通の高校に行き、勤め先もごくごく普通の一般社員。


毎日当たり前のように社畜人生を歩んでいる。


『そうなんですよ〜ゲームは疎か、睡眠すらろくにできてませんからね...』


目の前にいる彼女も、俺と似たような境遇の人物だ。


しかしキャラも可愛く口調も可愛らしいので、きっと中の人も可愛いんだろうな...

俺も、こんな美少女と夏のワンナイトラブしてみたかったな...


なんて物思いに耽り画面から目を離し現実にふと目を向けると、眼下の厚く肉が巻かれたふとましい自身の腕が見えた。


次の瞬間画面もブラックアウトし、不意に無精髭が生え目つきが悪くハゲ散らかった自身の顔が画面に移り込み二連続でダメージを受けた。


というかPC系統の電源がすべて落ちている。

どうやらコードが断線してしまった様だ。


買いに行かなければ。


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