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フロア3 造られしもの

 朝食を二人で食べた、今日は二人とも休みだ。

「今日のハムエッグはいかが?」

 妻がたずねる、今日は珍しく妻が作ったのだ。

「美味しいよ」

「そう、あなたのハムエッグみたいに上手くいかなかったんだけど」

「まあ、慣れだよ」

「それにしても、あなたが料理するって意外だったわ」

「まあ、今時自分で作るやつなんて少ないからな」

「そうね、ハムエッグだって売ってるもんね」

 そんな話をしながらも、今朝見た夢が気になった。

「あなた最近疲れてる?」

 妻が急に聞いて来た。

「そんなことはないけど」

「なんか時々疲れた顔してるから」

「そうかなぁ、通勤距離が伸びたのに慣れてないからかな」

 そう言いつつ、心当たりはあった。

「まあ、そのうち慣れるよ」

 外は相変わらずの雨降り。

  

 朝食を終えて身支度を整えてから、二人で出かけた。

 バス停まで小走りで走って行く頃には朝の夢のことなど、すっかり忘れていた。

 クリニックへはバスで直ぐだ。ここで妻の義足の具合を見てもらった。

 妻の義足はクラス4なので、バッテリー交換もなにも、自分ではできない。

 足の裏以外は、彼女の皮膚から培養した生体組織で覆われている、完全に右足に接合されているから、外科的手術をしなければ取り外すこともできない。

 なので、本格的なメンテナンスはかなり面倒なことになる。

 妻が点検してもらっている間、カフェのような待合室で、出されたコーヒーを飲んだ。

 考えてみると、この手のクリニックって割と多いような気がする。

 妻もそうだが、外見では分からないけど、義手義足の人って実は結構多いのではないのだろうか。

 そうでないと、こんなにたくさん装具専門のクリニックがある必要はないはずだ。

 ではなぜ、こんなに平和で事故も少ないのに、手足を失う人が多いんだろう?……

 妻がなぜ右足を失ったのか、そういえば聞いたことはなかった。


「お待たせ」

 考えてる間に妻が戻ってきた。

「どうだった」

「やっぱり交換だって、ついでに交換の予約をしておいたわ」

 妻はそういうと私の前に腰を下ろした。

「次はどこへ行く?」

「特に考えてなかったけど、どこか行きたいところある?」

「電気店へ行ってみようよ、第一電気」

「第一はここから結構あるね、他の店じゃダメなの?」

「今日はあそこでないとダメなの」

 妻はそういうと立ち上がって店の外に出た。


 トラムとバスを乗り継いで、この街の中心近くにある第一電気店にやってきた、来る途中も妻は目的については話さなかったので、俺も聞くのを諦めて黙って付いてきた。

「3階よ」

 妻はそう言うとエスカレーターにまっすぐ向かった。

 俺的にはエスカレーターは好きではないけど、階段はどこにあるかわからないので、素直に妻について行った。

 エスカレーターで3階に上がるといきなりライオンが出迎えた。

「ライオン!これかここにきた理由は」

 妻はまっすぐライオンの柵に近づいて行った。

「どお、すごいでしょ、今フェアーでいろいろな動物が見られるの」

 当然、本物ではない。本物の飼育は小鳥やモルモットも含めて基本的に全て禁止されているので、こうしたレプリカアニマルが作られている。

「25万だって、一頭いかが」

「それって俺の月給半年分、ちょっと厳しいな、それに居間にそんなのがウロウロしてたら邪魔だろ」

「そうね、スタンダードでこれだし、セミオーダーだと30万、フルオーダーだと50万だって」

 さすがに妻も少し呆れてる感じで言った。

 その時視界の奥に黒いものが動いているのが見えた。俺はすぐにその方へ歩いて行った。

「ペンギンじゃないか、それも王様ペンギンか」

 実は俺はペンギンが大好きだ、画像ライブラリーで見つけて虜になった、前世紀には水族館でも飼育されていたようだが、現代では禁止されている、なので当然だが本物は見たことがない。

 とにかく、あの姿を見ているとなんとも言えず癒される気がする。

 目を細めて眺めてると、妻が近づいてきた。

「ペンギン可愛いね」

「2万だってよ、欲しいな」

「思ったより安いね、でもあなたペンギン好きだったっけ」

「実は黙ってたけど、ペンギン好きなんだ、まだ野生にも生き残ってるからな」

「そうなんだ」

 妻は意外そうに答えた。

「でも、あっちも見て見ない」

 妻は俺の手を取って、ライオンの前を通ってその前に行くと、すぐ体に顔を埋めた。

「どう、もふもふよ。これ居間にいたらいいと思わない」

 妻が気に入ったのは羊だった。

「いや、それもいかげんデカくないか」

「でも気持ちいいよ」

 俺も体をさすってみた、確かにもふもふしてて気持ちいい、それに少し暖かい。

「確かに、気持ちいいな、でも18万は厳しくないか」

「そのくらいならローン組めるよ」

「ローン組んでまで飼うものじゃない気がするけど」

 妻も、少し悩んではいるようだった。

「そういえば”アンドロイドは電気羊の夢を見るか”って知ってる?」

「知らない」

「前世紀の小説で、映画の原作にもなったんだけどね」

 妻は全く興味がないと言う感じで、羊に顔を埋めたままだ。


 そう言えば、これだけ精巧なレプリカアニマルが作られてるのに、完全な人型ロボットって聞かないな。

 確かに、作業用ロボットならその作業にあった形態に作った方が効率がいい。実際そんなロボットは日常的に活動している。

 我が家にも家事支援用のロボットがいる。おかげで掃除洗濯などからは解放された。

 今頃家では、掃除や洗濯に励んでいることだろう。

 彼らは完全自立型で、作業も自分の判断で適正に行うことができる、それに自分で学習して最適な作業を行える。

 妻の義足を見てると、技術的にはおそらく人間と見分けがつかないほどの、人型ロボットだって作れる気がする。

 実は、俺が知らないだけで既に沢山の人型ロボットがこの街に紛れ込んでるのかもしれない。

 自分で学習して、記憶を積み重ねて行く完全自立型のロボットって感情は生まれないのだろうか。

 そのようなプログラムが組まれてないから、感情は無いと言われているけど、俺たちだって、記憶を重ねることにより自我を維持できてると思う。

 感情なんて、積み重なった経験によって生み出されるものでは無いのか、本能で感じる部分も確かにあるのかもしれないけど。それと、ロボットの記憶の積み重ねにどれほど差があるんだろうか。まあ、作業用ロボットが機嫌が悪いってのは見たことないが。

 “自分が何者かわかっているのか”急にその言葉を思い出した。

 ロボットに、感情はあるか、この羊も彼女に触られて気持ちいいとか気持ち悪いとか思ってるのだろうか。

 

「あなた、そんな難しい顔しなくても、羊は飼わないから」

 妻の言葉で我に返った。

「本気で考えてたの?」

「ああ、まあ、そうだな」

 本当は違うことを考えていたとは言えなかった。

「でも、ペンギンならいいよ」

「いや、もう少し考えてからにするよ」

 ペンギンにも感情あるのか、そのことを考える気分にはなれなかった。

「せっかくだから犬も見てみよう」

 彼女と犬のいるエリアに移動した。


 蒼い空、どこまでも続く。

 またいつもの夢らしい、昨夜はしっかり飲んだからな。

 いつも思うが、隣の人は誰なのか。

 実はもう誰なのかは薄々気が付いている。

 ただ、それを認めたく無い、確かめるためには顔を少し横に向けるだけでいいのだが、頭が動かない。

 いや、頭だけでは無い手も足も動かない、というよりあるか無いかもわからない。

 そもそもこの夢は、俺の記憶かそれとも妄想なのか?

 いくら考えてもわからない、ここで考えていることも目が覚めたら忘れてしまうのだろう……


 ヴィーヴィー…………

 相変わらず耳障りなアラームで目が覚めた。

 今朝もいつもの夢を見ていたようだ。

 頭を動かすと隣に妻の顔が見えた。

 右手を伸ばして妻の頬に触れてみた。

「おはよう、どうしたの……」

「どうもしない、けど調子悪そうだね」

「うん、先にシャワー使って、私もうしばらく横になってるから」

 俺はベットから起きだし、浴室に向かった。

 少し熱めに設定した湯を浴びると身体中の細胞が起き出す感じがする。

 頭と体を洗って、浴室から出た。

 下着と少し考えて部屋着を着て、寝室に戻った。

 昨夜脱ぎ散らかした服を拾いながら妻を起こす。

 彼女はノロノロと浴室へ向かった。

「ちょっと熱めにしてるから」

 彼女は右手を上げてから、浴室に入った。


 俺はキッチンで、朝食の準備を始めた。

 卵とハムを取り出し、パンをトーストしている間に、ハムエッグを作る。

 フライパンを熱して、オリーブオイルを垂らして、ハムを焼く。

 両面軽く焼いたら、右手で卵を割りハムの上に置くように割り入れる。

 卵を2こ割り入れたら蓋をして白身が固まるまで待つ。

 黄身が完全に固まる前に塩と胡椒を振って出来上がりだ。

 ハムエッグにしても生卵より安く手に入るのだが、俺は半熟の目玉焼きが好きだからあえて自分で作っている。

 皿に取り分け、ミルクとパンをテーブルに並べていると、ネグリジェを着た妻がキッチンへ現れた。

 今日は彼女は休みなので、まだ寝るつもりなんだろう。

「二日酔いの薬って、切れてたっけ」

「あれ、こっちの引き出しに新しいの入ってなかった?」

「まだ見てなかった」

 妻は立ち上がって薬を取り出し、シンクで水を汲んでから帰ってきた。

「それにしても、あなたタフね」

 そう言うと彼女は錠剤を水で飲み込んだ、そして残っていたコップの水もすべて飲んだ。

  

 昨日はあれから犬や小動物のコーナーであれこれ眺めてたら、ランチタイムを逃してしまい、昼食はハンバーガーですました。

 その後、妻の服を買って、一度家に帰ってから。少し早い時間から近所の行きつけのスペインパルで飲んだ。

 いつもの常連もいて、かなり飲んだ。

「そういえば、あなたが飲みつぶれたとこって見たことないね」

「まあ、それなりにセーブしてるからな」

 パンを食べながら答えた。

「あれで、セーブしてるの。私の倍以上は飲んでるよ、あなたと飲み比べして勝った人って見たことないし」

「体質かな」

「日系の人ってアルコールに弱いイメージあるんだけど」

「個人差だろ」

 今日はなんかこの話にこだわる。

「実はあなたアルコール燃料のロボットだったりしてね、昨夜もあんなに飲んだのに激しかったし」

 妻は笑いながらミルクを飲んだ。

 そういえば俺は酒に強い、そんなに自覚はなかったが、確かに飲み比べとかやって負けたことがない。日系人はアルコール分解酵素がない人間もいるって聞くが、俺は特別なんだろうか。

 それとも彼女の言うように本当は人間ではない……だが全く酔わないわけではない、しかしそれも酔ったと思い込んでるだけなのだろうか、俺は自分が何者かわかっているのか……。

「あなた、どうしたの、急に黙り込んで」

「あ、ああ、ちょっと昨日のこと思い出してた」

 右手に残っていたパンで、さらに残った黄身をすくって、朝食を食べ終わった。

「ちょっと遅くなったかな」

「今日は私が片付けておくからいいよ」

 片付けようと立ち上がったら、妻が言った。

「もう一眠りしてからだけどね」

「うん、頼む」

 そそくさと、キッチンを離れ身支度を整えた。だか人間なのかって言う思いが頭から離れなかった。


 トラムに乗り換え車内で揺られてる時、ふと思った真太郎って人も同じ疑問を持ったのではないか、と。

 真太郎さんのことを調べたら、この疑問の答えに近づけるのではないか、何の根拠もないがそう思った。

 オフィスに着くともう瑛里華さんがいた。

「おはようございます、そういえば瑛里華さんって真太郎さんご存知なんですよね」

「ええ、少し付き合ってたこともあるからね」

 ちょっと寂しそうに答えた。

「できれば、真太郎さんのこと教えてくれませんか」

 できるだけ控えめに聞いて見た。

「いいけど、今日は予定あるし、明日から定期検診なんで休みなの。休み明けでよかったら、私もあなたに興味があるから」

 彼女はタブでスケジュールを見てるようだった。

「それでお願いします」

「じゃあ明々後日、仕事の後で。でも高いわよ」

「夕食ぐらいは出しますから」

 彼女と約束を取り付けて、なんか少し安心した。

「そうそう、真太郎さんの事なら、私より博士の方が詳しいよ」

「そうなんですね」

「あの二人割と仲良かったから」

「ありがとうございます、博士にも聞いて見ますね」

「でも、真太郎くんのことなんて今更聞いてどうするの?」

「心筋梗塞のことが気になって」

 適当に理由をつけて答えておいた、本当のことはおそらく理解してもらえないだろうから。


 今日は博士は休みだった。

 仕事は今日も順調に終わった。

「じゃあ明々後日楽しみにしてるわ」

 瑛里華さんはなんか変な微笑みを残して、先にオフィスを後にした。

 デスクに座って考え事をしていたら、オフィスには俺一人取り残された。

 改めて、自分のデスク、以前真太郎さんが使っていたデスクを隅から隅まで、調べて見た。

 しかし、新たな発見はなかった。

 同じように、ロッカーも隅々まで調べたが、こちらにも特に痕跡はなかった。

 予想通りではあったが、少しがっかりした。

  

 家に帰ると妻が夕食の準備を終えて待っていた。

「ただいま、今日もなんか飲む?」

「そうね、体調もよくなったし少し飲もうか」

 夕食に妻とビールを飲んだ。

「そういえば、電気羊の映画見たわ、一作目と二作目がかなり間を置いて作られたのね」

「見たんだ」

「ライブラリーで調べたらすぐわかったから」

 妻は手に持ったビールをぐっと飲み干して続けた。

「なんかあの頃の未来のイメージって、実際と全然違うのね」

 彼女は、そう言ってから立ち上がって、二本目のビールを取りに行った。  

「あんな人造人間いると思う?」

 俺も追いかけて、ビールを取りに行った。

「どうなのかしら、今なら作ることはできると思うけど、見たことないね」

「俺がロボットだったらどうする」

「あなたが、……」

 妻は急に笑い出した。

「もしかして今朝のこと怒ってる?冗談に決まってるじゃない」

「いや、そんなわけではないけど」

「あなたは人間すぎるくらい人間だよ」

 彼女は何がおかしいのか、笑いながらビールを飲んでいた。


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