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第15話 記録消去

「もう大丈夫、君たちが街にやってきたという記録は消した。政府から追われることもない」

僕は、「ほぉぉぉ」と情けない声が思わず出てしまった。

美由紀さんは両手で顔を覆って泣きはじめた。


「よかった、本当によかった」

剛志さんはそう言った。しかし顔色がかなり悪い。


「美由紀、もう二度と街に出てきてはいけない。監視カメラが君の顔だけではなく、生体情報まで盗んでいくからだ。整形しても変装してもムダだ」

「ああ、政府はもう、そんなところまで国民の情報を集めることができるようになっていたのね」

「そうだ。お父さんは、本当に…いや、もう済んだことだ。言っても仕方がない。

 美由紀、幸せに生きるんだぞ。もうおかしなことを考えてはいけない。

 大五郎くん、美由紀のことを頼みます」

そう言って剛志さんは、向かいに座る僕に手を伸ばし、肩をたたいた。


その顔は、とても悲しみであふれていた。一体電話で何を言われたんだろう。

「他に、何か僕たちが知っておかなければならないことはありますか」

「よく聞いてくれた」

剛志さんが、ソファに深く座った。やはりカッコいい。


「美由紀を絶対に街に連れて行かないでくれ。君の存在については政府は危険視をしていない。データも操作して、今日ここにいる記憶は消去させてもらっている。だから、何か街に必要がある時は、君だけが外に出るようにしてくれ」

「わかりました。あ!」

ーそうだ、今日街に出てきた目的をすっかり忘れていた。


「なんだい?」

「あの、僕は今日、お札と硬貨を売りにこちらに来たのです」

「お札と硬貨! それは本当かっ。まだ存在していたのか」

「はい」

僕は、ポケットをゴソゴソした。レジの中にあった3万8,532円をテーブルの上に置いた。


「こ、これはすごい金額になるぞ。信じられない。樋口一葉のお札は初めて見たぞ」

そんなに樋口一葉が人気なのか。僕は福沢諭吉の方が良い。


「換金をお願いできませんでしょうか。あなたを信用します。僕のIDカードに換金した分のお金を振り込んでいただけませんか?」

「わかった。すみやかに行う。それじゃ、そろそろ僕は出ていかなければいけない」


剛志さんは立ち上がった。美由紀さんも立ち上がり、抱きついた。

「ねえ、時々は私のところに来てくれる?」

「…ああ。落ち着いたら。でもいつになるか」

「そう…」


美由紀さんはうつむいた。まつ毛がとても長く涙でキラキラしている。


「これだけは忘れないで」

「なあに」

「僕は、何があっても、何をしていても、どこにいても、君だけを愛している」

「…私もよ」


どこからみても、美男美女のカップル。誰かが入る余地もない。

ああ、僕は少し手をつながれたぐらいで、何をのぼせていたのか。

自分のことがとても恥ずかしくなった。


「それじゃ、家まで送り届けてくれ」

「かしこまりました」黒いスーツの男がそう答えた。


「電磁波除去ボックスは、持って行きなさい。何があるかわからないから」

「ありがとうございます」

僕たちは、念のため、電磁波除去ボックスにスマホを入れたまま車に乗った。


「大五郎さん、車大丈夫なの?」

「あ、そういえば。うん、大丈夫そうだ」


乗ろうと思えば、乗ることが出来たのだ。僕は怖くて乗らなかっただけだったのか。

もしかしたら、人生の中にも他にも何かがトラウマだと思い込んだ結果、もう大丈夫なのに挑戦できないことがあるのかもしれない。自分の中の可能性をそうやって閉じ込めてしまったり、チャンスを失ったことに気づかないまま生きたりすることもあるのかもしれない。


車の中で、そんな人生のことを僕はぼんやりと考えていた。


途中で銭湯に寄らせてもらった。3日ぶりのお風呂だった。

また同じ服を着なければいけないことが少し残念だがそれでもかなりすっきりした。


さらに、ちゃっかり毛布もいただいた。


自宅に到着した。僕は、当分カフェの床に毛布を敷いて寝ることにした。

美由紀さんは2階の僕のベッドを使ってもらうことにした。


こうして、22世紀、二日目の夜を終えた。


朝起きると、メッセージが来ていた。

「IDカードにお金を振り込んだから確認してほしい」という連絡だった。


IDカードの残高の見方がいまいちわからない。

僕は、2階の美由紀さんの部屋の扉をたたいた。


「あら、おはよう」寝ぼけ眼で僕のパジャマを着た美由紀さんがいる。めちゃくちゃ可愛い。

「残高確認の方法を教えてほしいんだ」

ー本当は、スマホで調べればわかることだ。でも、このお金は、美由紀さんとの共有財産になる。二人で生きていくことになるから、隠しごとはしたくない。


「わかった、カードを貸して」

僕は、美由紀さんにカードを渡した。


ピッピッと音がした。そして残高という文字が出てきた。

「わー!」

その金額は、今まで見たことのないようなものだった。


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