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レムレスとファムト

 レムレスが策を仕掛けてから一日後、レムレスとファムトがレムレスの屋敷跡地で剣を振るっていた。

 しかも、いつもより鋭く速く木剣を振り、ガコンガコンと音が連続で響き渡っている。

 目立たぬように行動するとは言ったが、鍛錬は怠らない。

 そして、鍛錬をするのならより良い鍛錬をと、二人はシルヴァに剣を見て貰うことにしたのだ。

 そうしたらリンネやノワルーナだけでなく、他の騎士達まで見たいと言って集まってしまった。

 そんなこんなで、ちょっとしたイベントのようになり、レムレスもファムトもはりきっていた。


「さすがファムトだよ。僕の搦め手がこうも通用しないなんて」

「よく言うぜ。何度俺の急所ギリギリに剣がかすめたと思ってる?」

「それを言うなら防御しても崩れそうになるファムトの攻撃の方がよっぽど怖いよ」


 柔と剛。

 二人の戦い方をシルヴァはそう評した。

 そして、両者の実力はほぼ互角。

 柔よく剛を制し、剛よく柔を断つという言葉があるが、両者の攻撃はまさにその言葉通りにおこなわれていた。

 シルヴァは多くの兵士達の鍛錬を見たことがあるが、この二人の力量を持つ者はほとんど見たことが無かった。

 決して、シルヴァが世間知らずな訳でも弱い訳でも無い。ただ、そもそも同じレベルの人間が少ないだけだ。

 二人の実力はもはや達人や猛将と謳われる者達に近かっただけだ。何千人、何万人の中の一人と言えるほどの。


「そこまで!」


 良い所で試合を止められたレムレスとファムトは、きょとんとした顔でシルヴァを見た。

 何か間違いを犯したのか、それとも見ていられないほど酷い試合をしたのかと、レムレスは少し落ち込んだ。

 けれど、それは違った。


「ファムト王、レムレス殿、お二人は一体どこでこの剣術を身につけたのですか?」

「物心ついた時から毎日打ち合い続けていたら自然とこうなった?」

「こうやってずっと試合を続けてきたんです」


 ファムトが答えると、レムレスは同意するように頷いた。


「一体何試合やってきたというんだ?」

「「今日ので五千試合目」」


 レムレスとファムトの声が重なると、今度はシルヴァ達観客全員の声が重なった。


「「五千!?」」


 しかし、その中でシルヴァだけはすぐに納得したように頷いた。


「それでその強さも納得いきました。願わくはこのシルヴァ、二人と一試合立ち会ってみたい。二人同時に相手をしてもよろしいか?」

「あぁ、面白え。俺達がどこまで通用するか知りたかったんだ。良いよなレムレス?」

「騎士団長相手か、疲れそうだなぁ。でも、これからのことを考えると強い人と戦う経験は必要だし。分かりました。受けて立ちます」


 突然の申し出だったが、ファムトとレムレスはすぐに申し出を受け入れ、剣をシルヴァに向けた。

 そして、シルヴァも先端を布で包んだ木の槍を構える。


「「ハッ!」」


 三人が同時に飛び出し、得物を振るう。

 激しい打ち合いが繰り広げられ、三人が目にも止まらぬ速さで動き回り、立ち位置が目まぐるしく変わった。

 見る者全てが釘付けになり、瞬きすることすら惜しいと思わせる戦いとなっている。


「なるほど。これほどまでとは!」

「近衛騎士団長は伊達じゃないか。レムレス!」

「分かってる。僕が隙を作る」


 しかも、二対一とはいえ王の盾と呼ばれる強者がわずか十五歳の少年たちに押されているのだ。

 そして、最後にはレムレスがシルヴァの懐に飛び込むと、剣を振るう振りをしてファムトに剣を投げ渡し、背後に回ったファムトが一本の剣でシルヴァの槍を止め、もう一本の剣でシルヴァの首に触れた。


「某の負けですな。お見事です」

「よく言うぜ。二対一でギリギリなんだからさ」

「ふう、疲れたぁ……」


 レムレスとファムトは勝てたが厳しい戦いには違いなかった。

 とはいえ、大事なのはシルヴァに対する勝利ではなく――。


「でさ、シルヴァ。俺とレムレス、どっちが強かった?」

「引き分けです」


 シルヴァの判定にレムレスとファムトはガックリと肩を落として座り込んだ。

 おそらくシルヴァに負けるより落ち込んだであろう二人に、二人を見守っていたリンネが声をかける。


「お兄様とレムレス様は本当に仲がよろしいのですね」

「小さい頃からの付き合いだからな」

「血の繋がった私よりよっぽど兄弟のようです。お二人はどういう生活をしていたんですか?」


 リンネが興味津々そうな顔を見せている。

 生き別れの兄がどのような生活をしていたのか気になるのだろう。


「あんまり良い生活はしてないけどな」


 孤児院で聞いた王の物語に心を躍らせたこと。その夜から二人で玩具の剣で特訓を始めたこと。そして、ソウハがユアン大国との戦争に負けると一気に孤児院の経営が悪くなり、文字の読み書きと算術が出来る小間使いとして奉公に出されたことを話した。


 奉公先のサルーザの商館では毎日のように殴られ、少ない食糧を分け合って食べた。

 それでも外で隠れて剣の稽古を続けたり、稽古帰りにおつかいの仕事でちょろまかしたお金でこっそりとドライフルーツを買って食べたりした、と楽しい話しもした。


「同じことをずっと一緒にやってきたけど、結構違うところも多いぜ?」

「そうなのですか? 先ほど剣の力も互角だと聞きましたけど」

「俺は攻める方が得意だけど、レムレスは防ぐのが得意だ。それに策も俺は目に見える数とかを頼りにするけど、レムレスは相手の裏をかく策を得意にしている。俺達は似ているようで案外真逆なんだぜ」

「へぇ。それでも一緒にいられるのなら、まるで鏡写しの自分みたいですね」


 リンネの表現にファムトとレムレスはお互いの顔を見合わせた。

 どう見ても鏡写しの自分には見えない。


「心の鏡とでも言いましょうか。お二人の得意なことは正反対なのに、同じ事をしていますから。まるで正反対の自分です」

「確かにそうですな。某も先ほど手合わせをした時、二人相手のはずなのに、まるで一人の人間が色んな方向から同時に攻撃を仕掛けているような連携の良さでした。それほど二人の意思は通じ合っております」


 シルヴァの言葉にレムレスとファムトはそれなら分かると頷いた。

 目配せや動きで次どこに攻撃するかは、長年の経験から言葉が無くても分かってしまうのだ。

 きっとそれのことだろうと。


「お二人が羨ましいです」


 リンネがそういって少し寂しそうに微笑んだ。

 血の繋がった兄妹だというのに、まだまだ他人行儀なファムトに寂しさを感じているのかもしれない。となれば、きっと伝えたいことはもっといっぱいあるのだろう。

 そう思ったレムレスは奥手なリンネに助け船を出すことにした。


「ファムト、せっかくなんだしリンネに街を案内してあげたら?」

「そうだな。リンネは街を回ってみたいか?」

「はい! 見てみたいです! レムレス様! ファムトお兄様! お二人がどんな場所で育ったのか見てみたいです!」

「あぁ、分かった」


 リンネの表情から寂しさが消え去り、パァッと明るい顔があらわれた。

 その笑顔は思わずレムレスも照れるほどかわいらしかった。


「ねぇ、シルヴァ良いでしょ?」

「そうですな。街にいたユアンの探索部隊を排除した今、自由に散策しても問題はないでしょう。某とノワルーナが護衛につきましょう」


 シルヴァの答えにリンネは明るく笑い、ファムトとレムレスの手を取って走り出した。


「ちょっ!? 走って大丈夫なのか!?」

「嬉しいのは分かりますけど、無理しないでください」

「大丈夫です! お兄様達と一緒ですから!」


 まるで新しい兄にじゃれるようなリンネの笑顔だったが、この三人が手をとりあって笑ったのは、これが最初で最後だった。

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