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レムレスのネタばらし

 大勝の戦果を聞きつけて、隠れていたリンネもレムレスたちと合流した時に、森からファムトも帰ってきた。

 レムレスは一番危ない場所にいたファムトが無事なことを確認すると、ホッとしたように息をついた。

 仮にも王様を一人で死地に囮として送り込んだのは、さすがのレムレスも緊張していたのだ。

 とはいえ、そんな気苦労を知らないファムトの方は、興奮しながら手をパンパンと叩いてレムレスを讃えている。


「はー、さすがレムレスだな。いつも通りのとんでもない奇策に身震いするぜ」

「そんなことないさ。敵が正常な判断が出来なくなるぐらいに、頭に血を上らせていただけだよ」

「そうさせたのは、お前の火計の策だろ。俺が囮に置いてきた馬車と引き替えに、敵の物資と軍馬百頭を奪えたっていうんだから、お前はやっぱりすげぇよ」


 ファムトの言う通り、レムレスはユアン兵の持っていた軍馬百頭をまるまる奪うことにまで成功している。

 百人の敵がわずか十人の騎士によって一方的に皆殺しにされたなんて、誰も信じない話を現実にしたのだ。

 しかも、相手は大帝国を築き上げ、不敗神話を持つユアンの騎兵だというのだから、戦ったシルヴァたちにとっても信じられない戦果だったらしい。


「まるで奇跡を使ったかのような勝利でしたな。全てレムレス殿の言った通りに敵が動きました」

「僕は大したことはしていませんよ。条件が揃っていただけです」

「ハハハ、ファムト王の軍師は大層謙虚なのだな。では、何故こんな作戦を思いついたのか、後学のために改めて配下の騎士達にご教授願いたい。それと、ノワルーナにも」


 シルヴァがそう言うと、黒く煤けたノワルーナが屋敷の中からサルーザを引きずりながら出てきた。


「一番大変な役割を押しつけられました。全く火の中でこの豚が敵に見捨てられたら救い出せとは……。こんな豚にまだ利用価値があるというのですか?」


 そういってノワルーナがサルーザを放り投げると、サルーザは白目をむいてその場に倒れた。どうやら気絶しているらしい。

 サルーザの存命はある意味、一番大きな戦利品になる。


「あるから生かしておいたんだよ。それじゃあ、改めて今回の作戦の意図を説明するね」


 まず敵であるユアンの民は騎馬民族と呼ばれており、小さい頃から馬に乗っているためか馬に乗ったまま弓を扱うのに長けている。

 そして、一方的に弓を射ることが出来るように鎧を着ず、身を軽くして馬の速度を活かして戦う。

 その後、敵が矢傷を負って動きが鈍った所に騎馬突撃を仕掛けて圧倒するのだ。


 その戦い方が出来るユアン人は馬上戦闘において確かに最強の民族であるが、逆に言えばただの地上戦や屋内戦で強みはない。

 むしろ、鎧を着ていないため、火や近接戦闘には弱いのだ。

 だから、馬上戦闘を避けて、屋内戦に持ち込めば兵士の質はレムレス達が上回る。


「なるほど。だから、この屋敷を決戦の地にした訳ですな」

「そうです。ユアンの兵士達にサルーザがユアン大国を裏切ったように見せかければ、ユアンの兵士がサルーザの首を取りに戻ってくることは簡単に予想できたので」


「そのサルーザがユアン大国を裏切ったように見せかけるのが、空の馬車だったということですな?」

「その通りです。名付けるなら空城の計ならぬ空車の計。ユアンの兵士が空の馬車を見れば、僕達の逃げの策に引っかかったと思うでしょう。となれば、情報を売ったきたサルーザが僕達に情報を流していたと敵は考えます。となれば、僕達の新しい情報を得るためにサルーザを狙って動くんです。サルーザが唯一の手がかりですからね」


「そして、屋敷に乗り込むとなれば、馬を下りざるをえない。サルーザがコソコソ逃げないように見張り部隊を散らして置く必要がある。そうなれば、我々の戦力でも対処出来る数に分散すると」

「はい。しかも、敵の注意はサルーザに向けられていますし、完全に逃げ切った僕達がこの場にいるとは思いません。だから、相手が多くても背後から瞬殺出来ました。そして、後は屋敷内に油を染み込ませ、サルーザの部屋の扉に置いてあった油瓶と火の点いた燭台が扉を開けられた瞬間に倒れれば、あっという間に敵の勢力を火に包めます。さらに、逃げられないように正門を崩れやすく細工して塞ぎ、裏門には伏兵の僕達が待ち構える。そうなれば百人の敵くらい十人で倒せます」


 混乱して弱った敵を一方的に殲滅するだけであれば、数が少なくても勝てるという作戦だった。

 この作戦を実行するにあたって、レムレスは奇跡も魔法も使っていない。

 サルーザが巡らせた策を逆に使ってやっただけだ。

 そんなレムレスの策をノワルーナも感心したようにうんうんと頷いていた。


「レムレス、あなたをバカにしたことを謝ります」

「ん? 何かバカにされていたっけ?」

「こんなに若いのが軍師になれるの? って疑ったことです」

「あぁ、別に気にしていないよ。きっと僕がノワルーナさんの立場なら、同じ事を言っていただろうから」

「君は本当にすごい男ですね。もちろん次の策も準備しているのですよね?」


 ノワルーナは期待の眼差しをレムレスに向けながらそう尋ねた。

 レムレスは頷くと、鍵はサルーザだと言って続けた。


「サルーザの持っている流通網、輸送経路、各地の支店。これら全て使って兵站の用意をするんだ。サルーザの印鑑と僕の声真似でね」

「兵站ですか?」

「国を取り返すためにはまずユアン大国が置いた地方統制局を落とす必要がある。地方統制局は地方都市の軍事拠点も兼ねているので、攻めるとなると一種の城攻めになるんだ。となれば、大規模戦闘は避けられない」

「なるほど。早めに用意しておけば、いつでも出陣出来るという訳ですね」

「その通り。それともう一つ罠を仕掛けるつもりなんだ。その罠とは――」


 レムレスの発想は悪魔的な内容で、確かにサルーザ無しでは出来ない作戦だ。

 サルーザという商人というのは何でも売る。形のない情報から形のあるモノまで金になるのなら何でもだ。

 その悪名高さのおかげで、出来る仕掛けはたくさん生まれる。今回商館ではなく屋敷を狙ったのもそのためだ。商館はまだまだ使い道がたくさん残っているのだから。


「姫様とファムト王の情報を売るですって!?」

「その通り。どうせ地方統制局を落とした後は、ソウハ再興を宣言しないと新しい役人が派遣されて終わりだからね」


「だからといってお二人の情報を売る必要なんてないでしょう!? 敵の警戒の目が厳しくなって危険です!」

「違う。どうせ公表するのなら、情報に価値がある内に利用する方が良いんだ。実はソウハ王家の生き残りが再起を図っている、なんて報せがユアン大国の耳に入れば、真偽を確かめるために奴らは血眼になってファムトを探す。たとえ偽の場所を教えられたとしてもね。僕達が情報を公表する前なら、敵は自分達で真偽を確かめるしかないんだから、偽報でも動かざるを得ないんだ」


「なら一体何のために!? そんな危険な情報を流して何がしたいんですか!?」

「三千人の人間が動くんだよ? 嫌でも目立つ。それならもっと目立つモノで敵の目を反らすしかない。このままだと集まる前に各個撃破されて終わりだ」


「なるほど……ですが、お二人のお気持ちを聞いておりません」


 ノワルーナの言葉にレムレスはその通りだと頷いた。

 レムレスの策を実行するかどうかは、再興軍を率いることになるファムトが決めなければならない。


「俺は構わない。レムレスの策に乗る」

「私もです。病弱の身で戦場に立てない身でも役に立つことがあるのなら、この命惜しみません」


 即決だった。

 迷いの欠片すら感じられない速さに、ノワルーナが口をパクパクさせているぐらいだ。

 それに、どうやらファムトはレムレスの意図に気がついているようだった。


「んで、兵が集まったら敵に援軍を要請される前に一気に攻め入るんだろ?」

「その通り。今、地方統制局のあるガレアナの街には一万人の防衛部隊がいる。これ以上増やされたら勝ち目がないからね。でも今なら勝ち目がある」


 三倍の敵になら勝ち目があると言うレムレスに、他の人達が目を見開いた。


「「!?」」


 通常攻撃側が勝利するには守備側の三倍の戦力が必要だと言われている。

その正反対で守備側が三倍いるのに、攻撃側である自分達が勝利出来るとレムレスは言ってのけたのだ。


「情報っていうのは武器だからね。戦場の弓みたいに離れたところから相手を攻撃出来る。後は僕の策が実るか実らないかでどう動くかは変えるよ。それまでみんなには騒ぎをおこさないように注意してください」


 レムレスの言葉にその場にいた者達はただ静かに頷いた。

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