森の冒険
「・・・進むか」
「「せやな」」
てくてく歩き始める一行。
クオンがぼそぼそ、自分のスキルを告げる。
それに軽く頷いて進み続ける2人。フィニオンを舐めていると先程のように突然強烈なイベントが発生することが理解できたので少々警戒しつつ、ようやく街に到着する。
「ついたね・・・」
「せやな・・・」
「宿でも取るか・・・」
宿を取らなければ睡眠ができないので心理的に疲れながらもまずは宿をとることにする。
睡眠不足のバッドステータスがあるのだ。かなり重要なことと言える。
野宿にはそれ専用の道具が必要になるができる。
道具なしで野宿をすると魔物やらなんやらに襲われる仕様だ。
「・・・あっ!待て待て!お金がないわ!」
アリスが気づいて呼び止める。
確かに3人の所持金は0だ。
まずは依頼で稼ぐのだ・・・が。
「え?ほんとだ・・・狩り行きますか?」
「行きますかぁ」
この3人は依頼などという単語は頭になかった。武器も現地調達する気満々である。
プレイヤーが群がっている方に行けばよかったものを・・・。
3人はパーティを組んでキビキビとした動作で森へと方向転換し、素早く森にたどり着く。
「どうする?」
「何もないから・・・枝で殴るか」
腕力上昇を持つクオンとリノンがそこらへんの枝を適当にバキバキ折ってアリスに渡し、自分の分も取る。
邪魔な細い枝をとって、一本の丈夫な棒にしてから敵を倒しに森へ入った。
「あ、ちょうちょだ」
モンスターだ。
鱗粉を撒き散らすあれだ。それに恐れることなく向かっていく。先程のドラゴンに比べたら大丈夫、というわけだ。
「んと、あたしがこの枝投擲してみるね。当たるかわかんないけど」
近づくことができないために枝を投げる。
逸れても枝を取りに行けるように素早くリノンが蝶の向こう側に回った。
「いっくよー・・・」
枝を握りしめた拳を肩の真上あたりに引く。そのまま肘をぐっと後ろに下げる。大袈裟なダーツの構えのような予備動作のあと。
ヒュ
小さな風切り音と共に放たれた木の枝は、蝶の体のど真ん中に命中。蝶は光の欠片となって消えた。
「さっすがクオン。相変わらず命中値の関係ないゲームでは完璧なチート具合」
リノンが言ったようにフィニオンでは命中値は関係ない。
全く関係ないと言われればそうではないが、相手の回避が高すぎて攻撃がすり抜ける、といったことはない。
当たったらダメージが入る、それだけだ。
しかし命中値は投擲などではかなり重要で、命中補正をしてくれるものだ。
命中値が低いと、投擲などの遠距離攻撃では補正が全くない状態になっている。
しかしそれをものともしないクオンの技術はこのような数値だけではないゲームで発揮される。
「おう、射的と暗殺ゲーで鍛えたあたしの腕がここで発揮されてしまったな」
そのおかげでシューティングゲームでは無敵だ。
「もうこれクオンだけでよくね?」
そう言いながら手際よく蝶を倒してから残ったドロップアイテムを拾うアリス
これを売って通貨を稼ごうとしているのだ。
「鱗粉と羽と触覚だってさ」
それぞれの前にはモンスターの名前がつく。
それから判明した名前はスリープバタフライ、らしい。そのままの名前だ。雑魚モンスターっぽい。
「クオン滅多に外さへんし、木の上から狙撃しようや」
その案が採用され、そのあとからはひたすらクオンが頑張ることとなった。
クオンが狙い撃ち、ドロップの回収はリノン。
パーティチャットを使用して地上のリノンに指示を出すのがアリスだ。
ひたすら狩りを続け、最終的に溜まったのは。
スリープバタフライの鱗粉×32
羽×64
触覚×64
蜜×4
耳羽うさぎの耳羽×36
毛皮×18
瞳×36
歯×3
きのこ×79
かなりたくさん溜まった。
きのこはそこらへんに生えていたので見かけたら拾った。
この森には蝶と、耳が羽のようになっている(跳ぶのではなく飛ぶ)うさぎ以外には何もいないようだ。これらのアイテムを持って帰り、初心者の店という看板の出ている所で全て売った。
合計で5378H
かなりの額を稼ぐことができた・・・と、本人たちは思っている。
彼女たちは知らない。最初の依頼を達成するだけで5000Hもらえることに。
その依頼内容が、スリープバタフライの鱗粉5つだということに。
しかし彼女たちはご機嫌だった。
森のモンスターをばかばか倒しまくったおかげで、パーティ全員に同じだけ経験値が溜まっていたのだ。
レベルも上がった。
全員が6レベルだ。
《クオン》
体力 200 → 560
筋力 20 → 59
魔力 15 → 55
命中 20 → 65
防御 5 → 24
回避 35 → 82
精神 25 → 76
幸運 20 → 55
《リノン》
体力 350 → 850
筋力 40 → 83
魔力 5 → 20
命中 15 → 55
防御 35 → 86
回避 30 → 68
精神 5 → 19
幸運 40 → 97
《アリス》
体力 180 → 330
筋力 5 → 21
魔力 50 → 99(495)
命中 20 → 61
防御 10 → 28
回避 10 → 48
精神 30 → 78
幸運 40 → 99
このようにステータスも大幅に上昇している。
それぞれのステータスを確認しながら宿を取りに向かった。
「一番安いところでいいよね」
そう言ってとった部屋は狭く、寝るだけの場所、といった風で。狭い部屋に大きなベッドが2つ置かれているだけ。
「狭いねぇ・・・」
思わずクオンがそう呟くほどだった。
荷物を適当な場所に置いて、3人で2つのベッドに寝転がる。寝相の悪いリノンを真ん中にして川の字になって掲示板を見ていた。
そしてようやく、依頼でHを稼げたことに気がついて、3人で唖然としたあと、顔を見合わせて苦笑した
「依頼・・・あったんだね」
「気づかなかったけどね」
「終わったことは仕方ないやん、他のみようや」
アリスが急かして、パーティリーダーのリノンが他のスレを探す。
そうして見つけたのが、
【ボスモンスター発見!】
という題名。
初めて少ししか経っていないというのにもうボスモンスターを見つけたプレイヤーがいるようだ。
森全体を探索でもしたのだろうか。
1 ただひとりの名無しさん
聞け、お前ら
ボスモンスターを発見した・・・
2 ただひとりの名無しさん
マジかよ
3 ただひとりの名無しさん
ありえねー・・・
4 ただひとりの名無しさん
森?ほかのとこ?
5 ただひとりの名無しさん
モンスターっていうか、ボスエリアみたいなところ
街の方の森の入口から見て北東にある
俺も適当に探索したから正直道がわからないけど、とにかく北東
6 ただひとりの名無しさん
質問多いだろうから回答者である名無しさんコテおなしゃす
7 発見者の名無しさん
これでおk?
8 ただひとりの名無しさん
おkおk
9 発見者の名無しさん
じゃあ何から言えばいい?
10 ただひとりの名無しさん
ボスエリア周辺について
11 発見者の名無しさん
らじゃ
さっき書いたけど、とにかく北東に進む
そしたら、木がぽっかり生えてないところがある
そこに祠みたいのがあるんだよ
多分それがボスエリア的なものに転送できる装置だと思う
12 ただひとりの名無しさん
なにそれ、じゃあ行ってねえの?
13 発見者の名無しさん
その祠の前なう
14 ただひとりの名無しさん
もうそのまま突っ込んじゃえよwww
15 ただひとりの名無しさん
おいおい、それはダメだろ
なんの準備もしてないんだろ?
16 発見者の名無しさん
寧ろスリープバタフライに襲われまくってHPが3分の1しかねぇ
あと武器防具なしです。インナーのみ
17 ただひとりの名無しさん
ちょwwwwwおまwwwww
18 ただひとりの名無しさん
初心者の森だからってwwwww
それはねぇわwwwwww
19 ただひとりの名無しさん
ちなみに種族は?
20 発見者の名無しさん
吸血鬼ですけど?
21 ただひとりの名無しさん
紙防御じゃねーかwwwwww
22 ただひとりの名無しさん
お前は勇者だ、誇ってもいい
23 発見者の勇者さん
おk
24 ただひとりの名無しさん
はwwwwwやwwwwwいwwwwww
25 ただひとりの名無しさん
で?突入しちゃうの?
26 ただひとりの名無しさん
それはねーだろwww
27 発見者の勇者さん
行ってくるわ
28 ただひとりの名無しさん
勇者wwwww
29 ただひとりの名無しさん
勇者と書いてバカと読む
30 ただひとりの名無しさん
あいつの名前は特攻勇者にするべき
31 発見者の特攻勇者
まかせろ
32 ただひとりの名無しさん
だからはやいってww
33 ただひとりの名無しさん
・・・・・・―――
ここから、特攻勇者と呼ばれるプレイヤーの書き込みがなくなったので本当にボスエリアとやらに突撃したのだろう。