世界へ飛び込め
カーテンの隙間から差し込む光が顔に当たり目を覚ます少女。
いつもの起床時間よりもかなり早い時間らしく、ぼーっと虚空を眺めている。
が、すぐにハッとした顔になると慌ただしく玄関へ向かい、郵便受けを覗き込んだ。そこにあったのは新聞、広告、そして一枚の封筒。
震える手でそれをつかみ、荒々しく封筒を開ける少女。そこに書いてある文字は、当選、の2つ。
口に手を当てて絶句した少女、かなり嬉しいらしい。
少女が手にする封筒に入れられたもう一枚の紙、それには、
『クオン様 Infinity Online のβ版テストプレイ、テスターに当選されました』
その文と注意事項が書かれていた。
そして浮かれた少女はそのなかにまぎれた一文に気がつかない。
『ながいねむりをあなたに』
平仮名で書かれたそれに、何人の当選者が気づけたのだろうか。
答えは、0人。誰もがその文に気がつくことなくテストプレイを始めてしまうのである。
まるでそれはその文に魔法がかかっているような、そんな不思議な現象だった。
テストプレイヤーたちは、ひとり、また1人、ゲームの世界に眠る。
『ワールドダイヴ Infinity Online』