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そして捧げる月の夜に――  作者: あわき尊継
第三章(下)
97/261

86

 なんとか都市内部へ逃げ込むことが出来た。

 程近いティレールで戦いが起きていることもあり、高い城壁に囲まれた都市は物々しい雰囲気に包まれている。

 ここの領主は戦いに加わっていないらしい。中立を保ち、領土を通ることにも関税取立てを緩和する形で極力どちらにも関わらないようにしているらしい。おかげで大部隊が通る度に、その後ろにくっついて関税を誤魔化そうとする者が増えているとのことで、こんな状況にあっても物は充実していた。

 行商をする者にとって、戦争に巻き込まれることも、野犬や狼や野盗に追われることも大差がないのだそうだ。


 身分の証明にはメルトが所持していたウィンダーベル家の所有奴隷であるという証書が効いた。

 見張りはしきりに俺の顔を確認していたが、確信には至らなかったのか、あるいはどこかに情報を売るつもりなのか、宿の紹介までしてもらった。

 遠慮なくその宿に五日分の金を払って部屋を取り、余分な荷物を置いた上で別の宿を取った。まあ、教団が俺を探していると知れ渡っている可能性は低いし、売り先は領主か宰相の手の者か。ヴィレイが先回りして抑えている可能性はあったが、中立を謳うこの都市では教団も寄り付くのは難しい筈。その宿に顔を見せる人物を追っていけば、具体的に誰が俺を探しているかを調べることも出来そうだ。ただ、あくまで余禄。


 とにかく休息が必要だった。

 俺やメルトにではなく、陛下に。


    ※   ※   ※


 「昔、から……たまにあることだから」


 ベッドで横たわる陛下の傍ら、じっと言葉を聞いていた。


「少し、熱は、出るけど、病気とかじゃ、ない、の。疲れた、だけ」


 今までよりよっぽど、彼女は多くを話してくれた。

 父親と、先王と上手くいっていなかったこと。宰相との微妙な関係。正直に言うとマグナスは苦手らしいということ。最初に読んだ本の話。今はどんな本が好きで、実は俺が宿に頼んで出してもらっていた甘い飲み物より、辛い食べ物の方が好きだということ。

 彼女なりの不安の紛らわせ方なのかもしれないし、俺が悔やみすぎないようという配慮かもしれない。


 この人は、本当によく物事を考える。

 子どもらしく、安直な思考に流されることはあるのだと思う。

 ずっと本を読んできて、知識だけで世界を見てしまってもいるのかもしれない。


 俺は一度彼女を暗君と評した。

 けれど外に出て、もっと多くの人と話して、多くの営みを目にすれば、まだまだ変わっていく余地は十分にある。それこそ、まだ幼いのだから。


 多くは彼女の主観と、それに拠った思考の産物だ。

 賢者は経験ではなく歴史から学ぶとも言われるが、経験に勝るものはないのも事実。

 俺だって山ほどの本を読んで、いろんな価値観や考えを知って、自分なりに理解したつもりではいても、やはり現実に触れ合うことでしか分からない物事は山ほどあると思う。理解している筈の出来事と遭遇して、その時に身に湧く感情まではきっと想像し切れない。


「あの人……エリックは、もどって、きた?」


 俺が呼びかけていたのを聞いたらしく、陛下は時折赤毛少年の名を呼んでそう確認する。

 決まって、俺は同じ言葉を返した。


「彼とはあのまま別行動の予定でしたから、再会するのはまだ先ですね。そして、彼はきっと生きています。そう約束を交わしました」


 不安はある。

 陛下以上に頭から離れない自分を知っている。

 それでも信じる。エリックは生きている。積み上げた知識を信じる以上に、築き上げてきた信頼を、友を信じて託す。今考えるのはそこまででいい。決して、死んでいった女亭主の姿に、あの時の自分に浸ってはいけない。


 丸一日が経過して、陛下の体調は言っていた通り回復しつつあった。

 元から不健康そうなので元気一杯とはいかないが、考えていたよりずっと頑丈なのかもしれない。

 それでもあと一日、休息を取ることにした。

 メルトに食料なんかの物資を買い集めてもらう傍ら、都市内部を調べてもらった。まだ教団は都市内部にも、外にもやってきてはいない。その事が不審でもあったが、彼らは本来前線に立ってマグナスらと戦っている筈の戦力であり、またエリックと合流予定だった増援がしっかり動いてくれているのなら、あの神父を相手にも遅れは取らないだろうという目算もあった。


 メルトと陛下の関係はまた微妙だった。


 俺に対して、そして俺が膝をつく相手として敬意も礼も払っているようだが、どうにも態度がそっけない。

 いや、奴隷として辛い経験をしてきたメルトからすれば、成す術が無かったとしても差別弾圧の筆頭であるホルノス国王と仲良くなどと出来る筈もないというのは分かる。彼女個人で終わるならいざ知らず、姉のフィオーラや、両親だって……。

 特別無礼が無い限り俺も強くは言えないまま、冷ややかな状態が続いていたのだが、


「メ……メル、ト」


 所用で俺の所へ顔を出したメルトへ、陛下が呼びかけた。

 俺へ一礼した後、あげた顔をそのまま彼女へ向ける。


 十分、不敬な態度と言えた。

 けれど陛下自らの呼びかけで、俺が上から抑え付けてしまえば、この会話全てが上っ面に変わってしまう。

 同時にやはり、俺も話を聞いておくべきだろうと考えた。どちらかといえば、何故こうなる前に、二人で話をしておかなかったのかと後悔はしたが。


「はい」


 冷ややか、ではなかったが、固く静かな返答だった。


「フーリア人、ど、奴隷、というのは……どういう、もの、なの……?」

「なぜそのようなことを私に?」


 陛下は一度黙り込み、目を逸らし、口をすぼめて引っ込めて、ため息のように言う。


「興味」


 嘘だ。

 メルトも分かっている。

 しかし、そんな言葉で触れていいものじゃない。どうして、という疑問は、メルトの声に塗りつぶされていった。


「動物園というものを、見たことはありますか」

「う、ううん、ない」

「どういったものかはご存知でしょうか」

「……動物を、普段見れない、珍しい動物を並べて……みせ、ものにする…………場所」

「この大陸へ運び込まれた私が、暗い船底から一月ぶりに這い出て陽の光を見たフーリア人が、最初に晒される場所がそれです」


 一枚の写真を思い出した。

 俺の世界にもあった、奴隷貿易の最たるおぞましさを見せ付けるソレは、この世界でも同じように、きっとありふれて起きている出来事だ。


「一人の少年が首輪を掛けられたまま囲いの中へ放り出されます。大勢の白い肌の人たちが、囲いの外から物珍しげにその少年を見て、笑い、あるいは表情を歪め、しかし興味を持って少年の姿を観察していました。少年は、首輪以外になにも身に付けるものを持っていませんでした。売りに出されるでもなく、ただ物珍しい動物として見世物にされます。そこに人を扱っている自覚はありません。ある時、年老いた方が柵へ入れられている時、見物客の連れていた子どもが石を投げました。その人は船旅の途中で一緒だった孫を死なせてしまい、ずっと塞ぎこんでいました。ご老人は、やめてくれと叫びました。なぜこんなことが出来るんだと、涙ながらに訴え、怯え、身を縮めて泣き続けていました。大人たちは一斉に手を叩き、少年を褒めていました。よくやった、と。その時の私もこちらの言葉は分かりませんでしたが、音を覚えることは出来ましたから、ずっと耳に残るその音の意味を知った時、本当に、心からあの場のおぞましさを知りました」


 陛下はぐっと胸元を押さえ、嗚咽するように、息を吸う。

 十分な灯りを点けているのに、部屋の中は不思議と薄暗い。

 メルトは静かに、淡々と続ける。


「故郷が焼かれるのを見ました。私の家の前には大きな樹があって、春になるととても美しい花を咲かせるんです。ずっと小さな時、誤って枝の一本を折ってしまって、母から強く叱られました。その樹は幹から伸びる枝が一つの命として繋がっているのだと教えられました。たった一本、小さな枝を折ってしまうだけで、すべてが枯れてしまう。だから、小さく見えるものでも、大きな枝を支えるとても大切なものなのだと、誤りであろうと、折ってしまうなどありえないと、父が教えてくれました。その樹は、あの日私たちを狩りに来たモノたちによって焼かれました」


「…………両、親、は」


「死にました。迎え撃った戦いで片腕が使えなくなっていた父は、労役奴隷としても使えないと考えたのだと思います。船の場所へ向かう途中、重りを付けて崖から落とされました。落とした男たちは皆して笑っていました。母は、あまりの扱いの酷さに、言葉が通じないことを分かりながらも抗議し、殺され……死体は野犬の群に放り込まれていました。私の両親だけではありません。もっと、ずっと同じ場所で生きて、暮らして、言葉を交わしてきたいろんな人達が、なんとかしようと行動を起こして、悲惨な死に晒されていました。私はもう、何かを感じることも、考えることも嫌になって……………………それでも心は動いてしまって、守ろうとした思い出も、大切なものも、次々に壊れていきました」


 ふと、視線を感じた。


 俺もここまで詳細に聞いたことはなくて、傷口を抉るだけだと避けていた部分もあったから、あまりにも静かなメルトの語りに顔を俯かせていた。


 メルトは目を伏せ、陛下に向き合っていた。陛下は、苦しそうにその様子を見ている。


「でも、どれが本当で、どれが妄想なのか、自分でも分からなくなる時があります。本当は故郷が焼かれたなんて嘘で、巫女の修行で行き来していた時に私だけが攫われたのかもしれません。姉さんも……一体どこで別れてしまったのか、私ははっきり覚えていませんから。ハイリア様と……出会うまで、出会ったことで、ようやく私は安堵出来ました。一体何年、息をするにも、眠りに落ちるにも怯えていたのか、やっぱりもう思い出せません。ですから、ハイリア様がなんと仰っても、私はハイリア様に救われたのです。この方と出会って、今の私は生まれました。ですから、私の全てをこの方に捧げています。全てを使い潰していただけるのなら、それでいいと考えています。


 それでも――」


 彼女の横顔を、その目に宿る感情に、俺も改めて向かい合う。



「怒りも、憎しみも、私の知る言葉では足りないほどの拒絶の思いが、私の中にも確かにあります。赦す未来はありえない。もし赦す道があるとすればたった一つ、返せ、と。時間を、命を、感情を、あの日の思い出を、あの儚くも美しかった樹を、全てを返していただけるのであれば、私も喜んで赦します」



 メルトは、フーリア人奴隷メルトーリカ=イル=トーケンシエルは、俺たちを赦さない。

 俺に救われたと言い、そして同じ目的を持って共に行動し、尽くしてくれる。最初はラ・ヴォールの焔を条件に、奴隷解放と、いつか故郷へ連れて行く約束と、フロエの救済を目的に、彼女はここに居る。俺に言われるまま、俺の示す目的を果たす為に居るんじゃない。


 故郷に帰りたい。かつてそう言った彼女の表情を覚えている。

 戻ることの出来ない辛さを、俺も分かるつもりだ。奪われたとなればより深いのだろう。


「……そう」


 陛下は膝上の置いた両手を、掛け布団の布地をぎゅっと握って言う。


「ありがとう……」


 強く、呼吸するのが聞こえた。

 喉が震えている。嗚咽が漏れない様耐えているのが分かる。

 手は出すまい、とは思いつつも、以前の経験からつい様子を伺ってしまうが、強く目を瞑っている姿に黙って待つことにした。


 ふと思う。


 彼女の本質はどこにあるのだろう。


 安易に評価を下した自分を恥じる一方、頑なに表舞台に立って何かを動かすことを拒否していたのも確かだ。

 けれど俺を陥れようとする教団に、俺を蔑み罵倒したヴィレイに、彼女は真っ向から立ち向かった。奴の誘惑に乗ってしまったという過去も今回の話で聞かされた。その時は振り払うことが出来なかったのに、なぜあの時は出来たのか。

 俺の為に言ってくれたことだ。それは分かるし嬉しくも思うが、ならばどんな考えで以ってそこに辿り着いたのかを知りたいとも思う。

 今回の発言も、メルトを挑発するような言葉を敢えて選んだ節がある。あれほど他人の目を恐れていて、まして批難を受けることなど避けたいだろうに。

 何故?

 意図を量りかねる。


「……ハイリア」


「はい」


 返事が少し固くなってしまう。陛下は握った手を更に強く握り、唇を震わせながらも言う。


「どうして、向き合えるの。どうして、こんな感情を受け止められるの。私は、きっと、無理。壊れそうになる。怖い、よ」


「……俺が本当に、メルトや、フーリア人の抱える怒りや恨みを受け止めているのかは分かりません。理由はいらない、と確かに言いました。ただ、俺は人を人とも思わぬ扱いを平然とする者に強い怒りを覚えます。憤り、ふざけるなと言いたくなる。俺が今の奴隷制度を辞めるべきだと考える根っこはそこなのだと思います。過去行われていたような、商売としての奴隷業であれば廃止を訴えたりはしなかったかもしれません」


 更に続けようとして、いや、と思う。

 これは返答になっていない。


「陛下」


 呼び掛けは転機となった。


「実の所最近まで、俺は自分をそこそこ有能だと思っていました。幼稚な思い上がりではありましたが、確かに学園での成績でも遥か上位でしたし、家名は勿論の事、アリエスという天使の如き妹まで居て、それはもう完璧、完成された人材であると――」


「へ、へぇ……」


 まあ多少冗談も混じりつつ、軽く引いた陛下を見て笑みを溢す。


「蓋を開けてみればこの様です。たった一つの勝利でさえ、俺は自分一人の力で掴むことは出来ませんでしたから」


 かつてジーク=ノートンとの戦いで勝利できたのも、小隊の皆が居たからこそ。

 教団との戦いで神父を敗走させ、メルトの姉フィオーラを助け出すことが出来たのも、俺の無茶苦茶な叫びに応える皆が居たからこそ。

 今ここで陛下と話が出来ているのも、赤毛少年が命懸けで繋いでくれたおかげだ。


「世の中には、誰の助けも借りず全てを成し遂げてしまうような者も居るのかもしれません。ですが、仮に一人で出来るとしても、背負った荷物を預けることの出来る仲間が居れば、少しは楽に歩いていける」

「一人で歩けば、きっともっと遠くへ行けたとしても?」

「それも……あるのだと思います」

 多くと共に歩むことで道行きは楽になるかもしれない。

 ただやはり、歩みは遅くなってしまうのかも、しれない。

 その先に続く言葉を俺もまだ持ち合わせていない。いや、しっかりと言葉になっていないんだ。


 息をつく。この先は陛下の現状を批判するに等しい。


「しかし、先行きの不安に足を止めてしまうより、望みを持ちながら諦めてしまうより、ずっといい」


 誰かと歩めばいい。

 彼女に並ぶ、誰か。


 一歩を踏み出さなければ、次に踏みしめる地面さえ見えてこない。


「……それでも、歩むことで絶対に苦しみは生まれる。今を維持することで生まれる不幸と、進むことで生まれる不幸が絶対的に違うとは言い切れない。奴隷解放はどう進めた所で痛みを伴う。恨みを持ったフーリア人が全て、彼女のように冷静で居られるとは思わない。不和は起きる。それはいずれ、今こそフーリア人を助けるべきだと思っていた者の中から差別派に傾く者を生む。反抗を目にすれば自然なこと。今とは比べ物にならないほど強い否定の気持ちを抱えるようになる。石を投げて褒められるどころか、金銭を得る者も現れるんだと思う」

「否定は、出来ません」

「それだけじゃない。ホルノスは労働力のかなりの部分を労役奴隷に頼ってる。無償で、食事と寝床だけで使える人間が居なくなって、正規の報酬を払わないといけなくなれば、物価は爆発的に高騰する。貨幣の価値さえ、無くなってしまう、かも。彼らを解放して、じゃあ故郷に戻せと言われたら、国中に居るフーリア人を新大陸へ送るだけでどれだけの費用が掛かると思う? 増税は免れない。そうなると普通の、平民階級の不満だって爆発する。なんとか食い繋いでいるだけの低位の貴族はもう耐えられない。それくらい、今の奴隷制度は、この国に、西方諸国に根付いてる。どう、するの? どうすれば、いいの? それでも……やるの?」


 仮にそれらを乗り越えたとして、この地に根を張ってしまっているフーリア人の中には、こちらでの生活を望むかもしれない。

 かつて英国で一方的な奴隷解放を宣言するも、結局行き場の無い奴隷たちが定められた賃金すら支払われること無くそのまま荘園で働き続けていたという話は俺も聞いたことがある。観念論だけで、具体的な方法もなく訴えるだけではいけない。


「それでも、始めなければ改善していくことも出来ないのだと思います」


 具体的な方策を提示しようとしたが、陛下はこちらを見て首を振った。

 今はそういう議論の場ではないということだろう。もしかすると、彼女なら俺の考えをある程度は分かっているのかもしれない。解決策の一つや二つ、考え付いているかもしれない。だからいい。方法が問題なのではなく、その方法を導き出す根っこを考えなければ。


 話は、自然と抽象的なものになっていった。


「我々は罪を犯している。それを何の痛みも無く解決しようというのはおこがましい考えです。無論、不必要に痛みを伴うことはないと思います。諦めず、急ぎ過ぎず、互いに腰を据えていかなければより多くの遺恨を残してしまう。それは俺も避けたいと思います」


「皆が、ハイリア……貴方のように、強くは無い、よ。罪を背負うのを嫌がる人が出る。それが、差別をもっと激化するとしても?」


「同時に差別を赦せないと考える者もきっと生まれます。その正義が行き過ぎないよう、保護が行き過ぎないよう、気を付けなければいけないのでしょうけど」


 一度芽生えた差別が消えることは絶対にない。

 けれど、減らそうとする努力を怠る理由にはならない。

 背負うのが嫌だと思うのなら、それこそ傍らに立って、向き合えるよう促していこう。


 多くを話した。

 俺の事も、陛下の事も、今まで以上に素直な気持ちで話せたのだと思う。


 陛下の容態は気になったが、彼女の問い掛けを遮る理由にはしたくはなくて、敢えて口にはしなかった。また、時折メルトに意見を求めるような場面もありつつ、時折蝋燭を付け替える陛下を彼女はじっと見詰め、何かを考えていた。


 そして最後に、俺はこう締めくくったのだ。


「皆大いに勘違いしている事がある」


 あまりにも馬鹿みたいな、夢を見過ぎた発言ではあるが、いい加減我慢なら無いことがあった。



「新大陸の発見……そう称することの傲慢は脇に置きますが、少なくとも大洋を渡り、新天地を見つけ出した人々は多くの希望を抱いた筈です。新たな可能性、新たな文化、新たな価値観、そんな、この上ない興味があった筈です。数百年か、千年か、それだけの歴史を重ねてようやく出会うことが出来た。


 これは紛れもない一つの奇跡です。

 賛美されるべき出来事であるべきなのに、こうまで拗れてしまっている。


 俺はこの出会いを、愚かな悲劇として終わらせたくはないのです」



 この言葉に、陛下が一度は表情を緩めたのを俺は見た。

 けれど気を入れ直すように、引き締め、しっかり彼女は俺の急所を抉ってくるのだ。


「エリックが…………彼が死んでいたとしても、同じことが言える……?」






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