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ヨハン=クロスハイト
一度目は弾かれて、二度目は受け流された。
けどよぉ。
「射貫けたぜ、最強」
前は重心を捉えることも出来なかった。
攻撃そのものは効いちゃいないが、中身が違う。
流せる状態、逃げられる余裕を与えているから受け流される。
なら、そいつを塞いだ上で今のを見舞えば、まともに受けるしかねえってことよ!!
「おいおい、そんな盛り上げんなよ。熱くなっちまうだろ」
「こっちは熱くなりっぱなしなんだよっ!!」
剣戟が連なる。
相手は短剣。こっちはサーベル。
得物の長さを考えれば技巧に優れているのは向こうの方か。
けど関係無ぇ。
振り始めの軌道と、手の握りで最終的に通る場所は感じ取れる。
そいつを自在に変えてくるのがこの相手だとしても、この直感自体は放棄しない。
魔術光の揺らぎは見えてる。
下手に身構えて見ようとすれば、その視線を捉えて惹き付けられる。
そうなりゃお見事、プレインの言ってた消える攻撃が来るってこったろ。
走り抜けながら相手の短剣をしっかり押さえこみ、何事も無く行き違う。
ひゅう、危ねえ危ねえ。
手首がよ、指の掛かり具合がよ、ヤバいんだって今の。
下手すら今ので死んでたわ。
「随分と変わったな。どこで掴んだ」
「嫁を抱き起こした時」
急に始まった雑談に、なんとなく付き合う。
その間だって容赦無く斬りつけてくるし、こっちだって殺すつもりでサーベルを振るう。
間合いの取り合い、呼吸の奪い合い。
俺の刃先が奴の鼻先を通り抜けていく。
「なんだ、結婚してたのかお前」
「まだだよ。テメエら掃除した後だ。子が産まれる予定になっててよ」
「っはは! そんな身で戦場なんざ来てんじゃねえよっ」
「うるっせえ! テメエらが沸いて出てきたんだろうが! つーかよ」
踏み込まれた。
首元へ迫る短剣を柄で受け止め、転げるみてえに後ろへ距離を取る。
ミシェルは。
居ない。
魔術光を燃やす。
膨れ上がった炎が相手の短剣を照らす。
振り返り様に一斬。
「子にお前の父ちゃん最強なんだぜって言いてえ!」
「なるほど、そいつぁ大した夢だ」
サーベルの刃先が奴の左肩を僅かに撫でた。
奇襲に失敗したミシェルが離れていく。
「お前はどうなんだよ」
追いかける。
斬り付ける。
避けられた。
もう片方。
吹き飛ばした。
地面に手を付いたミシェルが笑う。
「テメエほど大それた理由じゃないねえ」
「いいじゃねえか。終わるまでの暇つぶしだ、付き合えよ」
どちらかがしくじれば、どちらかが上回れば、すぐにでも終わりそうなこの一戦。
なのにまるで終わる気配が無かった。
森とも言えねえ木々と岩場に囲まれた丘の上、俺達は焚き火を囲む様にして話し始めた。
※ ※ ※
ミシェル=トリッティア
ヨハン=クロスハイト、っつったよな。
初太刀を受けるまでも無く、前からその片鱗は見え隠れしてた。
行くところまでっつうか、そこそこ得物を扱い慣れた奴にとって、毎度大真面目に振るうなんてガキのやることだ。
適当でいい。
八割か七割、六割くらいでも構わない。
そうすっと、攻撃ってのは割とそれで十分なんだって気付く。
敵との交戦の中、十割の攻撃を放てるって時がどれだけある?
出来たとして、十全の攻撃を出しに行った時点で相手にも余裕が出来る。
結果、防がれる。
全力を出したのに防がれると、無駄に相手が大きく見える。
違うんだよ。
攻撃ってのは相手の全部を上回って初めて届くんじゃなくて、相手の隙間を縫って差し込むんだ。
隙のない奴なんてこの世にはいない。
動けば隙は絶対に出来るし、動かないなら手段にさえ拘らなければ隙だらけと一緒さ。
大事なのは手に馴染んでいること。
碌に扱えない奴がコレやると、あっさり死ぬだけだからな。
けどコイツくらいに馴染んでると、中身を上手く持って回るだけで十分化ける。
嫁抱き上げた時、だったか。
いいねぇ、上等じゃねえか。
私ン時はアレだったな。
酔って蹴っ飛ばした小石が跳ね返って額に当たってさ、むかついたから放り投げようって拾い上げた時だ。
くっだらねえだろ。
そんなんで掴める時だってあるんだよ。
投げた小石は自分でもびっくりするくらい綺麗に飛んだ。
「暇つぶしねぇ」
しっくり来る言葉だった。
私にとっちゃ、今のコレがもう暇つぶしみてえなもんだ。
「顔見たかっただけ、って言ったらどう思う?」
ジークとか、フロエとかには言えねえ理由だ。
面子がある。
紛いなりにも面倒見てきたって思ってるからな。
「あー、いいんじゃねえか」
「おいマジかよ」
「馬鹿みてえって言って欲しかったか」
それはそれで腹立つからな。
「これでも結構、赤面しながら言ってんだよ、私は」
攻撃を受けながら足を滑らせ、首元を間合いに納める。
そこを狙うと見せかけて、本命は胸元。
首を庇って浮いた隙間を狙う。
が、咄嗟にサーベル手放して抑え込んできやがった。
普通ならもみくちゃになる所だが、掴んできた腕と、一度は受け止めたもう片方の得物、同時に押し込んで距離を取られる。
「そんな殊勝な態度には見えねえな」
「乙女の告白に何言ってんだよ」
「乙女って歳かよ」
蹴った。
なんでか知らねえけど綺麗に入った。
「っ、~~! アンタもう死んでんだろっ。だったら別に、死んだ後に残した連中、どうしてるのかって見たくなってもそりゃ普通だろうが!」
「だからって敵に寝返るかねぇ」
「うるっせえ! なんで俺がお前の言い訳考えなきゃなんねえんだよ!」
敵味方なんて考え、とっくの昔に無くしたよ。
仕事があって、報酬があって、あとは殺るだけだ。
ちょいと趣味に走った時期もあるけどさ、とにかく殺しなんてものは退屈で、どうでもよくて、けど儲かったから。
寂れた故郷を支えつつ、何か適当に遊ぶのには丁度良かったっていうか、あっちこっち行けたしさ。
「大切に思ってたガキ共も……誰一人守れなかったからな」
「そういうこともあんだろ」
「フロエなんか凄いぜ。死んでから聞かされて、もうよ、あーーーーってひたすら転げ回ってた。いや、死んでると転げる身体も無いんだが」
「あぁ、軽く聞いた事あったな」
「マジかよ」
何年も一緒に居て、私には一度も相談してくれなかった。
頼りにならないって思われたのかねぇ。
そりゃ殺しの事は隠してたけどよ、同姓だし、結構気にしてたんだぜ。
「八つ当たりでお前殺したくなってきたわ」
「最初からそのつもりだろうが」
ジークはジークで、あれ、ラ・ヴォールの焔とかっていう石っころな。
あいつを馬鹿領主の渡しちまって、ずっと一人で抱え込んで、探してたってんだろ?
相談してくれりゃ、片っ端から殺して解決してやったさ。
解決、出来たよな、私なら。
くそう。
「むかっ腹立つ。どいつもこいつも、もっと頼れってんだ」
「頼り甲斐が無かったからじゃねえのか」
「んだとコラ!!」
なんで蹴りならあっさり入るんだよ。
っつっても、上手く転がりやがる。
不意に痛い目合わされるのに慣れてるな。
「死んで蘇るくらい悩んでる女を前に、もっと言葉選ぶとかないのかよ妻帯者」
「まだ結婚はしてねえって言ってんだろ」
それで子まで生えてくるってんだから、分からないもんだねぇ。
子。子どもかぁ。
結局産まなかったな。
碌に育てられる自信もなかったけど、憧れた時期だってあったんだ。
「ハイリアも結婚するんだって?」
「おう。おっかねえ女とな。あと、もう一人囲うんだとよ」
「なんだそりゃ。そういうの、嫌がる方かと思ってたのに」
「好きになっちまったんなら、仕方ないんじゃねえの」
そういうもんか?
分からないねぇ。
あの小さなジーク坊やが。
結局私は誰のことも理解できず、誰かに頼られることもなく、なんか適当に上手くいってる感だけ出して、勝手に死んじまった訳だ。
ヒースさんの事も、全部終わってからだ。
引退出来たって大喜びして、金積んで店出して、酒飲んだり飲ませたりしてはしゃいでたら、その死を知らされた。
初恋の相手、だったんだけどなぁ。
ははっ、本当にどうしようもない役立たずだ。
そりゃ無意識に顔向けできないって、ガキの面下げて現れもするさ。
「けどなあ、馬鹿みてえだろうが、役立たずだろうが、こちとら心配したんだよ。不器用なりにこっち来いっつって、面倒見ようとしたんだよ。私が居れば、ちゃんと見てれば、もう死なせることはないって。なのにアイツら揃って一人でこそこそ抱え込みやがってっ。こっちの気にもなれってんだ」
「挙句敵に回って馬鹿やってんだから、馬鹿でいいだろ」
「確かにな」
敵味方。殺る殺られ。その辺の考えなんてとっくにぶっ壊れてる癖して、頼りになるなんてどの口がほざく。
「けどまあ、それはそれとして、恩は感じてるんだぜ」
「セイラムに?」
「そりゃそうだろ。余計なこと吹き込んで来た分は殴ったけどな、それでもアイツらの顔を見たい、もう一度、なんつーか、借りを返したい。そういうのの機会をくれたんだ」
一杯貰ったんだ。
ガキの頃のジーク、ハイリアなんて可愛かった。
僕は頭良いですって面してるのに、私がはしゃいで玩具にしてると怒り出すんだ。
後から来た今のジークだって、フロエだって。
大きくなって子羊停で働くフロエの姿見てたら、もし子を産んでたらこういう景色もあったんだろうなって思った。
ジークと揃って話してるのを遠巻きに見ながら、もしかしたら二人が結婚して、その子どもを見たり出来るんじゃねえかって思った。
おばあちゃん、おばあちゃん、って。いやそんな歳でもねえか。まあでも、あの店で、食いに来る連中と酒飲みながら、そういうのの成長を見ていくのだって十分過ぎるくらいに上等な人生だろう?
私はまだまだ生きていたかった。
生きて、アイツらと一緒に居て、大きくなって、幸せになっていくのを見たかった。
そうして静かに老いて、死んでみたかった。
あぁ、未練なんざ幾らでもある。
大切なものが山ほどできた。
そういう誰かを殺してきたんだって分かってる。
分かってて今も繰り返してる。
変えられなかった自分の性分。
命を大事に思う癖に、関係無ければ幾らでも奪っていける手癖の悪さ。
そんな言葉で片付けるのだって、馬鹿みてえだろ。
「今からでも寝返るか」
「馬鹿言え。泣きじゃくって片っ端から手を取ってくるようなガキ一人残して、背を向けられるかよ」
生前は誰にも頼られなかった。
その後になってから、手を掴まれた。
だから自分が矛盾していることだって構わず戦える。
「分かったよ」
何がだ。
何も分かってねえ私に教えてくれよ。
「俺がアンタを止めてやる」
降りかかる攻撃をいなす。
筈だったのに。
ふわりと浮いた刃先が私の左腕を切り裂いた。
※ ※ ※
ヨハン=クロスハイト
多分、似た者同士だ。
生まれから人らしさがぶっ壊れてる。
大切なものがあるのに、奪うことに躊躇が無い。
俺が今こうして大切なものの味方に立ててるのは、周りにそれを気付いて止めてくれる奴が居たからだ。
アンナが引きとめなきゃ、俺は殺しの仕事を始めてた。
学園に行くことも無きゃ、ハイリアとだって会ってない。
そのハイリアが奴隷助ける為にイルベール教団と敵対したから、その後で連中がこの国にとって悪とされたから、俺は善い側に立ててる。
多分、何かが違っていたら、俺は平気で悪に転べる。
もし子が流れて、そいつをセイラムが生き返らせてくれるってんなら、今からだって味方に剣を向けられる。
そうしたくねえと思いつつも、やれる自分を感じる。
だけど、と。
そう考えてみた所で、ふと自分に楔が打たれていることにも気付く。
アンナ、それと子ども。
ハイリアとか、クレアとか、セレーネとかオフィーリアとか、他にも大勢居る仲間達。
出来るか?
どうだろうな。
簡単に揺らぐ。
でもどうにもならない。
もし。
もし、あの子が流れたら。
この手にある幸せが無くなったら。
迷いながらもセイラムの側に立っちまうんじゃねえかって思う。
経緯は違うさ。
実際に始めちまった奴に言える慰めなんてねえ。
けど進みたくて、進みたくなくて、どっちも欲しくて足掻いてるってんなら、その敵としてやれることはある。
「俺がアンタを止めてやる」
誰かの望みを潰す。
それが戦いってもんだろ。
他の奴じゃ理解だって出来ないかもしれねえけど、俺は結構分かるつもりだからよ。
こっち側の先頭に立って戦いたかったお前の代わりに、俺がアンタの護りたかったものを護ってやる。
だから存分にやって見せろ。
言っただろう。
俺はアンタを越えて、最強になる。
「っ、はははははは!! そうかい!!」
剣戟が煌めく。
刃先が血を舐めて、滴る熱が鼓動を早める。
「ならこっちも本気でいかねえとなあ!!」
燃え盛る赤の魔術光から、長剣が生み出された。
切り替わりの隙を狙うが強引に叩き飛ばされ間合いを作られる。
空気が変わる。
温度が冷えた。
熱が来る。
「っはは! 上等だァ!!」
哂った。
受けた初太刀は、こっちを圧倒してきた。
※ ※ ※
斬り合う。
殺し合う。
御託は十分に並べた。
勝ちも、負けも、十分に味わった。
後は結果が転がってくるだけだ。
下方から跳ね上げたサーベルがミシェルの顎元を切り裂く。
代わりに、俺の二の腕が大きく裂けた。
打ち付けた斬撃が快音を響かせて、忍び寄るもう片側を強引に封じてきた。
長剣を持ったミシェルは小技を用いない。
真っ直ぐ。
ひたすら真っ直ぐに切りつけてくる。
体格や、体重や、膂力。
そういうものに差が出ると、理不尽な程の圧倒が可能になる。
これはそれに近い。
どこから攻撃が這い出して来るか分からない危うさはないのに、打ち付けられる全てが何もかもを押し流してくる。
強い。
そう感じずにはいられない。
だからこそ滾る。
「っしゃあ!!」
差し込んだサーベルを跳ね上げて、奴のこめかみを撫でた。
切っ先は額に弾かれたが、血が流れて目元を隠す。
「っはは!」
なのに怖じない。
血が眼球を赤く染めても、当たり前の顔してかっぴらいてやがる。
脇腹が裂けた。
肩口を打ち付ける。
振り抜かれた長剣が胸元を斬り付けた。
心臓狙いの一突きが骨に阻まれる。
転げた先に飛びついて左肩を貫かれた。
斬り払って、指の一本が飛ぶ。
互いに防御が通用してない。
被害を浅く留めるだけで、攻撃の凄まじさがその上を行く。
だけど、
それでも。
「……っ、死んで堪るかよ」
こっちの方が浅い。
腕はやれねえ。赤ん坊を抱きあげるのに必要だ。
手だって守らねえと。まだまだ先まで育てて、養っていくんだ。
脚だって、首だって、肩だって、大事な支えなんだ。
大切なものが出来た。
幸せってもんに手が届いた。
だから意地でも守り通す。
死にたくねえから、怖じたから、弱くなったなんて言わせねえよ。
強さなんてそれぞれだろ。
勝った奴がどうして俺は勝ったか、なんて語ってるだけだ。
結果から語っても意味はねえ。
押し通す。
俺は俺の思う侭に貫いて、その先で望むもんを護り抜く。
だから。
必死になって護り抜いたものが、最後の最後で生きることだってあるだろう。
「…………はぁ、終わりか」
激しかった斬り合いが嘘みてえに立ち止まり、向き合っていた。
「余生はどうだったよ、先輩」
「はン、嫌味かい」
どちらがこうなってたっておかしくなかったからな。
「まあそうだな」
胸元を貫く俺のサーベルを、まるで赤子の頭をそうするみたいにトントンと撫でる。
「はは、やっぱ未練ばっかしだ。だからよ」
「あぁ」
「後ぁ任せた。死んだ奴はそこまでだ。何を残そうと、何を悔やもうと、そこで終わっておくべきだったのかもな」
セイラムがずっとずっと昔からこんな未来にまで手を伸ばし続けてきたように。
「だけどよ」
それでも。
「生まれたもんはあるんじゃねえか」
暗殺者は俺の言葉を受けて、悔しそうに笑ってから、それでも最後は、満足そうに逝った。
もっと。もっと何かあった筈だ。
けどミシェルの言葉通り、死んだ奴はそこまでだ。
後はもう、想像するしか出来ない。
※ ※ ※
これはもうしばらく経ってからの話だ。
決着と同時にぶっ倒れた俺は、後方に下げられ、そのまましばらく寝ていたらしい。
目覚めた時には、負けた時と同じく、アンナが編み物をしながら傍らに居た。
その脇には出来上がった子どもの服が幾つもあって、大きさが違っていて、あぁそういう日々があるんだなと、なんか、幸せになった。
「おう」
「うん、おかえりなさい」
勝ったぜ。
言おうとして握った手が、傷でぼろぼろになってて、思わず舌打ちが出た。
ミシェル=トリッティア。
強かったなぁ。
何日寝てたか知らねえけど、俺からすると直前まで戦ってた相手だ。
きっと、覚えてねえけど、寝てる間もずっと戦ってた。
でも勝った。
「俺、最強の剣士ってもんになったぞ」
「そうだねぇ」
これで子に誇れる。
なんて思ってたら。
「でもヨハンくん、『剣』の魔術はもう使えないんだよ?」
「………………………………………………………………は?」
なんだそれ。
「えー…………もしかして根本的な話を理解してなかった?」
どういうことだよ。
「顔だけで言われても、まあ分かるけど」
「俺最強じゃないの?」
「『剣』はまあ、頑張ればちょこっとだけ使えるようになるらしいけど、魔術を使っての、魔術での最強はもう無理なんじゃないの?」
「はあ!?」
なんでそんな話になってんだよ!!
折角最強ぶっ倒して最強勝ち取って来たんだぞ!?
おいハイリア!?
「ハイリア様はずぅぅっと説明してたよ。使えなくなるって。だから皆、魔術には見切りを付けて鍛造された武器? とかを使う様になってたんだけど、なんで一番最初にそれやり始めてたヨハンくんが普通に放り出して『剣』だけ鍛えてたのか、これでようやく分かったね」
「分かったねじゃねえよ!? 俺の最強どうなるの!?」
「えーーーっと」
ため息なんてついてんじゃねえよ。
思ってたら、やけくそ気味な笑顔で言われた。
「また目指せるねっ! 良かったね!」
「そういうことじゃねえだろお!?」
「この子に夢を追う父親の背中を見せてあげればいいよ!」
「お前開き直るの早過ぎだろ!!」
「あーもう何がいいの。もう剣は止めて頭良くなる? どうだろうなぁ。うん無理か」
「諦めるんじゃねえよ! くそうっ、もう一度最強になってやる!!」
「あーはいはい、頑張ってねー。おっ、今蹴ったよ。お父さん頑張れって応援してるみたいだね」
お、おう。
子が言うなら仕方ねえよな。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………とりあえず、こっち来て」
「はいはい」
「今日はお前と子を抱いて寝る。後は知らん」
「はいはい。よしよし」
最強はまた遠退いたが、まあ掴めたものは確かにある。
身体はボロボロ、血が足りない。
けどまずは、嫁と子を補充だな。
「生きて帰って来たぞ」
「うん、おかえりなさい」




