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そして捧げる月の夜に――  作者: あわき尊継
第四章(下)

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 全て事が済んだ後、ゆったりと水面に身を浸しながらまどろんで――――とはならなかった。

 メルトがこっちのお腹に顔をくっつけたまま離れない。

 耳が真っ赤になっているし、髪を纏めて避ければうなじも真っ赤になっているだろうことは明らかなので、理由を敢えて言及するのは避けるべきなのだが。


「メルト、そろそろ」


 言うとお腹に張り付いた少女はそのままイヤイヤと首を振る。

 その癖ずっとくっついてくるし、半分水の中だから熱くは無いんだけど、いやむしろ触れ合っているのが心地良いくらいなんだけど、ようやく落ち着いたものがまた疼きだしてしまいそうだから非常に困る。


「その……すまなかった、やりすぎた、か……?」


 ふりふり。

 違うらしい。

 いや、違わないけど違うというか、その。


「いやぁ、それにしてもメルトも中々大きな声を痛たたたたたっ!?」


 と、抓られた俺が悶絶している間もなんとか自分を整えていたメルトが、やがてゆっくりと顔をあげる。


「やっと落ち着いたのか?」


「ぁ……ぁ、ぁぁあ、ぁ」


 駄目だった、なんかまだ目がぐるぐる回っている。


 今し方というか、さっきまでたっぷりしていた行為について、彼女はとてつもない衝撃を受けたらしい。一番最初の最初から知っているような素振りだったし、あれだけ自分から誘ってきたのだから、まさかこんな状態になるとは思いもしなかった。


 しかしお互い未だに裸だ。

 夜明けにはまだ時間もあるだろうが、いつまでもこのままとはいかない。


「すぅぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ……すぅぅぅぅ――」


 一生懸命深呼吸をして自分を整えているのだろうが、これだけ密着した状態でされると匂いを嗅がれているようにしか思えない。まあ、もうどっちがどっちなんて分からないくらいの状態だけど。


「申し訳ありません、落ち着きました」

「顔真っ赤だし、さっきまで対等に話してたのにな」


 鼻をつんと突いてやるが、表面的にメイドモードへと切り替えたつもりのメルトは真っ赤な顔を動かさない。

 流石、ウィンダーベル家の教育とは凄まじいものである。


「でもやっぱり、その状態って相当に気を張ってたんだな。さっきまであんなに甘えていたのが嘘みたいだ」


 本当はかなり残っているのだが、そういうことにしておく。


「私たちは主人の装飾品である、とメイド長から教わりました。どのような状況、状態であれ、主人に侍る以上、その品格に相応しい振る舞いを決して崩してはならないのだと。私たちの失態は主人の失態、仕えるべき方の品位を貶める装飾品は廃棄されるが当然のこと。ですから決して、私たちに失態など許されないのです」


 因みに現在全裸で抱き合っているんだが、メルトは現状の把握は出来ているのだろうか。

 触れ合う肌の感触は心地良いし、堪能させて貰った胸がおへその辺りから下腹部へ駆けてたっぷり包み込んできている訳だが、これは物理的に装飾品的な何かを体現しているという話ではないだろう。


「もうメルトは俺の婚約者だし、俺はそもそもウィンダーベル家の人間では無くなっている。いつもあんな感じで構わないんだぞ」


 言うと、ようやく少し表情を崩し、彼女は眉を下げた。


「そう……言われてしまうのは、少し寂しさがあります。私は、ハイリア様にお仕えしていることを誇りとし、尽くすことに喜びを見出しています」

「それも教育で言われたとか?」

「……そのような言葉があったことは確かですが、本心です。疑われるような落ち度があったのであれば、心よりお詫びし、身を切る覚悟があります」

「信じてるよ」


 おちょくりたかったのだが、身を切られても困るので止めておいた。


 そしてメルトはようやく身を離し、けれどちょっと寂しそうにするから、俺はまた引き寄せた。

 離さないでと、そう言われたからな。


 ただ、身を起こして荷物を確認した。

 月明かりが強くて周囲がよく見える。荷物、着替えや手拭いは反対側だ。


「先ほどは失礼しました」

「ん?」

「終わった後……取り乱してしまいました……」


 取り乱したというか、最初は息も絶え絶えでまともに立てなかったのを受け止めていただけなんだが。

 そこから恥ずかしくなって顔をあげられなくなった、という感じか。


「つ、妻として……しっかりとお応えしていけるよう、しょ、精進致します。あの、あの、あ、ぁ、ぁんなことをするのですね……………………」


「メルト……その、俺も度を弁えるようにするから、変に気負わないでくれ」


 再び目を回し始めたメルトをなんとか宥めようとするが、中途半端にメイドモードで取り繕っているせいかいつもと違う方向で暴走しそうな感じになってきた。というか盛り上がりに任せて事に及んだ挙句相手が怖気付いてる時点で俺が悪い。いや、そんなおかしなことは、そう、特殊なことはしていない筈だ。


「一つ疑問なんだが、いや、敢えて答えなくともいいんだが……屋敷のメイド同士でそういった知識の交換とかはしないのか……?」


 問うと明らかに逃げる素振りがあった。


 なるほど、あるんだな。


 とりあえず身を起こして、立てた足を彼女の背凭れにさせて落ち着かせる。髪を軽く纏めて外へ流し、丸見えになった部分へつい視線が流れるが、まあ仕方ない。何かを掛けてやりたいものだが服が無い。


「……話に聞いていたより色々あったと」


「はい」


「つまり俺を誘った時点ではこのくらいかなと思い込んでいて、だから余裕の笑みなんか浮かべながら調子に乗っていたら予想以上の事があって備えていた冷静さが全部吹き飛んで取り繕うのにも苦労しているということか」


 はい、とは言わなかったが、顔の赤さが目に見えて濃くなったから間違いない。


 そういえば、ジークとの戦いの後でクレアと三人で話している時にも思ったんだったか。

 この世界における性知識と、俺のそれでは随分と開きがあるらしい、みたいなことを。貴族女性なら一子相伝みたいな感じで伝え聞いたりするんだろうけど、そんな知識を他所を交換するとは思い難い。活版印刷によって本の数は増えたし、その手の出版物がR指定も無いまま出回っているのを俺も目にしたことがある。とはいえ、そうか。


「私は……」


 ふと、メルトが己の腹部へ手をやりつつ呟く。


「ハイリア様のお子を宿せたのでしょうか。それが何より心配です」


 その一言が、何よりも今までしていた行為を生々しく感じさせた。

 つい顔が赤くなる。取り繕ってたのは俺も同じだ。軽口を叩いていないと恥ずかしくなるくらいには。


 というか、そうか。そうだな。メルトは、懸命に受け止めて、子を宿そうと必死だった訳だ。最終的にというか時々びっくりするくらい押してくることもあったけど、そういう気持ちが強かったからなのか、彼女の気質なのかはまだ保留としておこう。


「駄目ならまたすればいい」


「は、はい」


「メルトに無理をさせないようにはする。その、嫌がってはいないようだったし、途中から声が変わ――」


 なんか手で口を塞がれた。


 ので手を取って、甲へ口付ける。


「とりあえず、一方的にはなっていなかった、んだよな? それがちょっと心配なんだ」


「だ、だい、じょうぶ、です」


 手首へ、そして腕へ、肘と肩へ。


「ん」


 それ以上は突っ込まないでおいた。

 隙だらけになっている彼女を見ているとまた手を離したくなくなりそうだったから、早めに立ち上がって服を取りに行くことにする。


 心地良い疲労感がまだ体の周囲に漂っている感じだ。


 軽く伸びをしながら対岸へ渡ろうと水底を蹴ろうとした時、



「わ、きゃあ!? 待って待ってなんか引っかかった引っかかった! スカートがめくれてるぅ!」

「オイ声出すなって言ったろクソアンナ!? 口っ、とにかく口塞げっ!?」

「だってヨハンくん下着流れちゃったし今何も穿いてないんだからね!?」

「分かった! 分かったから黙れ! 俺が取るからそれ以上何か言ったら」

「やだ見ないでえっち! いま絶対目がこっち向いたしむんんんんん!?」



 ドボン、と人二人分くらいはありそうな重量物が川へ落ちる音を聞いた。

 とりあえず、そこの岸辺に打ち上がっている下着がメルトのものでないのは見間違いではないらしい。

 ついでに声だけで誰か分かる。いや、まあお互い名前呼んでたから明らかなんだが。


 そうか。


 俺は素早く着替えを回収し、メルトに事情を説明した後、これ以上状況が面倒にならないよう全速力で屋敷へ向かった。


    ※   ※   ※


   セレーネ=ホーエンハイム


 私はちょっと目を覚まして、用を足そうとしていただけ。

 なのに今、何を聞かされているんだろう。


「あのねっセレーネちゃん、すごいの、すごいのっ」


 その前にお前の恰好が凄いよ、心の底から叫びたかったけど、アホのアンナは顔を真っ赤にして興奮しているせいで気付いていない。


 服が肩口から破けて胸元丸出しだし、なんか擦ったような痕と、髪には幾つも葉っぱがついたまんまだ。

 両方ぐーにして胸の前で握った腕、肘から先にはなんか長時間どこかに押し付けていたみたいな軽い痣があって、というかそもそも髪も服も濡れっぱなしだし、張り付いた布地の向こうにコイツがぱんつはいてないの丸分かりだし。というか廊下すっごい濡れちゃってるじゃない。高い絨毯なのに。


 何よりなんか疲れ切ったというか、なんでか敗北感に打ちのめされたようなヨハンがアンナの後ろで膝をついてるんだけど、まあそういうことよね。いや、なんか私の知ってる事後とは随分違う感じがあるんだけど、さてはヨハン思ってたよりしょぼくてアンナから手酷い言葉でも貰ったとかじゃないかしら。ん、でもじゃあ何がすごいの?


「わかった、落ち着いて、まず何がすごかったの?」


 上手く聞き出して冷静になった頃たっぷりおちょくってやろう。そんな程度の気持ちだった。というかトイレ、早く行きたいから後回しでもいいやとさえ思ってる。こんな廊下で女友達の初体験話なんて聞きたくは、んー、まあ全く興味が無い訳じゃないんだけど、今は急ぎの用件がある訳だし、ね?


「あのねっあのねっ、すっごく、すっごく大きかった!」


「へぇ」


 睨むようにヨハンを見る。

 チビだしどうせしょぼいんでしょとか思ってたけど、なるほどなるほど。まあ処女だった奴の評価だから何かと比較した訳じゃないし、どこまでアテになるか分かったもんじゃないけどね。


「でも大きいだけじゃ駄目ってよく言うじゃない? 持久力はどうだったの? 二回? 三回?」


「じゅ、じゅうさんかいっ」


「へー…………」


 なんか私の聞いた話と違うじゃない?

 男って四回五回くらいが限度じゃないの?

 実は聞いた人の相手がそうだっただけで本当は十回くらい余裕でいけるの?

 だったら今度会った時にアンタの男みんなしょぼかったんじゃーんて言ってやらないと。


「あのねっ、遠目だったから本当はどのくらいかわかんないよ? でもねっ、そのくらいしてたっ、いろんなのでっ」


 うん、よくわかんない。


 ん、あれ?


「ヨハンくん五回目でもうしょぼおおんって感じだったのにっ、すごくない!?」


「アンタなにいってんの……?」


 なにか変。

 こいつが何言ってるか分からなくなってきた。


 ともあれヨハンは五回か。

 十三回とか言われた後で聞くとしょぼさが引き立つけど、そもそも何の数なのかも分からない。いや、言わんとすることは分からないじゃないんだけどさ。あーもう、いつも分かったような顔して聞いてたから細かい所はどうしても分かんない。


 その……男の人って具体的にどうやって数を数えればいいのかな? どうなったら一回なの? 十三回って何が十三回あったの……?


「だからっ、私たち先に来てたんだけどっ、そのあとでっ、ね!?」


「いいよ落ち着いて。聞くよ? でもとりあえず私の用件が終わってからでもいい?」


「待って待ってこれだけは言わせて」


「はいはい分かった。手短にね」


「あのねっ、やっぱり凄かったんだよ、ハイリ――――――――――――」



 突然だけど、外は嵐だった。

 雷が鳴って暴雨は渦を巻いたみたいに荒れ狂って窓を打ち付けていた。

 山の天気は変わりやすいっていうけど、変わりやすいとかって話じゃちょっと収まらないくらいの激しい雨だった。


 次に雷が私の目を焼いた時、唐突に廊下の灯りが全部落ちた。

 だけど大丈夫、これだけ雷が鳴っていれば通路一面真っ直ぐ見通せる。

 だから見えた。

 いや、()()()()



「こんな所にいらっしゃったのですか」

 連続する雷の僅かな間、一瞬の暗転の直後にその姿を見た。完全無欠なメイド服に身を包んだフーリア人の女、メルトーリカ=イル=トーケンシエルがいつも通りのいけ好かない綺麗な笑みを浮かべてやってくる。

 ゆっくり歩いているようにしか見えなかったけど、なんか時々つっかえたみたいに崩れかけてたけど、気付いた時にはアンナの肩へそっと手をやっていて、そういう、らしくない行動に私が眉を顰めた時だった。


「セレーネか?」


 声だけで分かる。

 なんだよアンナのくっだらない話に付き合わされて面倒だなぁなんて思ってたけど、こういうこともあるならむしろ大歓迎っ。振り返る前にちょっと前髪を整えてから頬へ手をやった。女の子はいつだって最高の笑顔を見せるのよっ、頑張れ私! はい、せーのっ。


「ハイリア様っ、なんだかこんな時間に目が覚めちゃって、ハイリア様もですか?」

「あぁ。ん? 誰かと話していたんじゃないのか?」

「え?」


 言われて振り返るけど、アンナの姿もメルトーリカの姿ももう無かった。

 何か用件があったのかも知れないし、私の興味はもうそこには無い。むしろ邪魔な二人が居なくなったことで良かったと思えるくらい。


 ……なんか、崩れ落ちてたヨハンが一時期よりもハイリア様へどっぷり心酔したような、男として尊敬しますっみたいな様子で平伏してるけど、この馬鹿にもようやく身の程が分かったってことなんでしょうね。


「さっきまでアンナが変なこと口走ってただけですよ。それよりも、どこかへ出てちょっと涼みながらお茶でもしませんか?」

「そうだな、と言いたい所だが、何故か急な嵐が来ているじゃないか。灯りも落ちているし、女性の一人歩きは危険だ、部屋まで送ろう」

「そのまま送り狼になっちゃってもいいんですよ? ふふん」

「馬鹿なことを言わず、今日はもうゆっくり休むんだ。それで、アンナの様子がおかしかったそうだが、具体的には何を言っていたんだ?」

「それがですねー」


 外は嵐でうるさくて、だけど私は束の間の幸せを噛み締めながら、ゆっくりゆっくり廊下を歩いた。

 ハイリア様もこの時間を楽しんでくれているのか、私の話を噛み締めるように、何度も何度も繰り返し聞きたがった。

 二人でゆっくり、部屋に戻るまでの幸せに私は浸った。


 なんかどこかから悲鳴が聞こえてきた気がするけど、割とどうでも良かったから聞き流した。


 ただ、ハイリア様の髪がしっとりと濡れていたのは、なんでなんだろう?

 服装とかはいつも通りだし、そこだけ変な感じだ。

 でも乙女的にはその濡れた髪、いいと思いまっす!


    ※   ※   ※


   オフィーリア=ルトランス


 廊下の向こうへ消えていくお二人を見届けた後、そっと扉を閉じました。


 じゅ、じゅうさんかいっ!


 お話の内容を噛み砕いていくとどういう事が起きたのかは見えてきます。()のご友人であるアンナさんとヨハンさんのお二人がとうとう契りを交わされたというのはとてもとても喜ばしい話ですし、私も友人としてそのお話に加わりたい気持ちで一杯だったのですが、内容に引っかかりを覚えて身を隠していたことが幸いしたのでしょう。


 お二人は……えぇ、あのお二人もとうとう。


 そしてじゅうさんかいも。


 遠目に、と仰っていましたから本当はもっとだったかも知れません。


 学園でこの手の話と接するようになって、その知識不足を自覚してより、ばあやから様々な事を教わりました。その話によると男性は多くとも五回程度ということでした。諸所の事情により奮起が必要な場合、あるいは一回や二回で終わってしまいそうで、且つ相手の方が消沈されているようであればこのように、という手管は教わりましたが、まさか十を越える数をこなす方がこの世にいらっしゃるだなんて。

 メルトさん、大丈夫かしら?

 さっき見たところ、普段通りに歩けなくなっていらっしゃったようですし、もしかしたらさり気無く助けて差し上げる必要があるかもしれません。あら、それはなんだかとても友情を感じます。あまり多くを語り合ったことの無い方ですが、これを期に話す場を持てればよいのではないでしょうか。


 ふふふ。


 でもそう、まずはこのお話を誰かに。

 セイラさんなら聞いて下さるかしら。

 ここだけの話ですよ、と断っておけば、口の固い方ですから大丈夫ですよね?


 本当は胸の内に留めておくのが一番なのでしょうが、私たちが心から信頼する長たる方と、その伴侶となられる方が契りを交わされたのですもの、この興奮と熱を誰かにお裾分けしなければ今夜は眠れそうにありませんっ。


 では上着をどなたかに。

 思ってベルを鳴らし、私は収まりつつある嵐を眺めながら椅子へ腰掛けて人が来るのを待ちました。

 お友達にお呼ばれしたのですから、連れて来ているのは数名だけ。不寝番も隣の部屋で待機しているだけで、こういった雑務とは別の人を使わなければいけません。


 すぐに扉がノックされ入室の許可を求められます。雷の音と被って、良く聞こえませんでしたけど。ウィルホードさんのお屋敷の方はとても凄いのですね。専属で振り分けているでもないのに、ベルを鳴らしてほんの数秒でいらっしゃるだなんて。


「どうぞお入りになって下さい」


 声に応じて、ゆっくりと扉が開きます。


「……失礼致します」


 入ってきたのは、何故かメルトさんでした。


    ※   ※   ※


   セレーネ=ホーエンハイム


「それでですねっ、その時アンナのやつってば変なこと言うんですよーっ」


「はは、彼女は時々そういうことがあるようだな」


「そうなんですよ! でもって、ぁー……」


「ここがセレーネの部屋か?」


「ぁーはい。もう一度聞きますけど、ちょぉぉっとだけ、ちょっとだけ部屋でお茶でもしていきませんか?」


「俺も明日があるからな。戻って休むとするよ」


「そうですかー……。ハイっ、わかりました。わざわざこんな所までありがとうございます」


「礼には及ばない。ほら、もう嵐も収まってきたし、大丈夫だろう」


「むーっ、もうちょっと続いてればキャー雷こわーい作戦が続けられたのに」


「そんな見え透いた策には乗れないな」


「ふふっ、えぇそうですよね」


 開けて貰った扉の向こうに回り、板一枚分の向こう側へ笑いかける。


「ハイリア様」


「あぁ」


「おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 やわらかく綻んだ笑みを目に焼き付けて、扉を閉める。

 今日はもう、その笑顔を思い浮かべながら幸せ気分で眠れそう。

 ふにゃりとする顔も今は誰も見てないし、ふかふかな寝台へ飛び込んでえーい!



 あーーっ楽しかったー!





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