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そして捧げる月の夜に――  作者: あわき尊継
第四章(下)

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   ジン=コーリア


 現場に遭遇したのは全くの偶然だった。


 ハイリアの一件があって、ジーク=ノートンの周辺及び雑多な話へ加わるつもりのある奴は子羊亭へ向かった。浅黒い肌が魅力的なフロエちゃんのお店だ。俺も怪我の療養がてら眺めに行っても良かったんだが、どうにもあの感情波とか言われてたものは受けた人間を感傷的にするらしい。望みの無い相手を追いかけている時が一番面白いし熱中できる。いちゃいちゃしてるのも愉しいけど、時々どうにも気持ち悪くなっちまう。

 意味ありげに女物の首飾りを取り出し、物思いに耽りつつ外地の可愛い女の子を捜しに向かう途中、騒ぎがあった。


 俺は普段、そういうのに遭遇したらさっさと逃げ出す。

 そもそも俺は学生だ。荒事は守備隊の仕事だし、その為に税を取られてる。仕事はすべき人間へ任せて、無関係な者は不用意に首を突っ込まない方が良い。騒ぎの周りで右往左往する素人ほど邪魔なものもないしな。


 なのに見つけた好みの子から視線を外して駆け出してるのは、青臭い感情にアテられたからだろう。

 片腕を吊ったまま走るのは結構辛い。左手も手首は包帯でガチガチに固められた。包帯なんかより君の手に包まれたいなと言ったら新人らしい施療士の子がにっこり笑ってやってくれた。あのサドッ気の強い表情は嫌いじゃない。


 俺がカサンドラ=ノルドーの脚本に出てくる少年みたいな馬鹿をやった結果、


「おおうっ! ハイリアのとこの一人じゃないか!! ちょうど人手が足りなかったんだ手伝え少年!!」


 と、頭の中まで筋肉で出来てそうな巨漢の男に抱き上げられ、何故か一番偉そうな人の座るべき場所へ押し込められた。


「ちょっとここ座っといてくれ」

「常軌を逸するにも限度があるだろ」


 思い出した。

 相手は近衛兵団の現団長ディラン=ゴッツバックだ。

 豪放無比と称されてるのを聞いた覚えがある。どうやら褒め言葉じゃなかったのは今分かったが、組織の頭が急場にうろうろするのは情報の錯綜を招くから絶対に駄目だろう。


「だからお前がここに座るんだ。代わりに話を受けて適当にやっといてくれ」

「テメエで考えろ筋肉ダルマ」

「貴様この俺が考えるのが面倒臭いからこの場を任せると言っているなどと思うのか」

「違うのか」


 状況はさっぱり分からんが、ホルノス有数の荒事向けな集団が動いているなら余程の変事なんだろう。立場も無い、ちょっと信用ある人間の仲間だからで座を任せるのは気が狂っているとしか言えない。

 ついつい強気な口調で言ってしまってから、言い過ぎかとも思ったが、ディランは顎の髭をさすり何やら思案する。


「こんな所で座っとるより前線へ出て槍を振るいたいというのも嘘ではないがな」


 頼むから嘘だと言ってくれ近衛兵団団長。


「陛下は聡明なお方だ。ベイルがここに居ない事は承知されているから、我らに頭が足りん状態なのは分かっとる筈だ。必要ならば人材が派遣されてくる。無いのなら受け取る者など伝言と読み書きが出来ればそれでいい。信用出来る相手である必要はあるがな」


 唐突に音を落としてきた声と、その内容に、思っていた以上の思慮があるのに驚いた。

 新聞でも勢い任せな印象があったし、細やかなことは周囲へ放り投げているように思えたのに。


 いや、本当の本当にそんな人間なら、仮にでも近衛の団長には選ばれないか。


「思うにここが最前線だ。ならば必要なのは押すか下がるか、あるいは移動の指示だろう。そのような受け答えに位ある者を置いてはむしろ時間が掛かる。情報の速度は速いほど良い。多少の齟齬も、ウチの連中なら無理矢理修正してくれよう。今肝心なのは前線を支えることよ。ここから溢れさせれば最早止めることは出来ん。我ら近衛がやるべきことは、椅子に腰掛けていることではないのでな」


 結局俺の返事も待たず、片手を挙げてディランは部屋を出て行った。

 吊ったままの腕を見る。どの道、戦いには参加できない身の上だ。やることに常識が足りないのは内乱でも味わった。それに、この手の情報をやり取りする人間とは内乱中に顔を合わせることもあったから、団長に押し付けられたと言えば誰しも肩を竦めるだけで代役を受け入れた。違ったのは鉱山の採掘権を持つ連中くらいだったが、面倒くさかったから文句は王と近衛の団長に言えと黙らせておいた。後の事は知らん。


 慣れない左手で書状を広げ、内容を随時前線へ送り込む。

 あるいは前線からの情報を紙へ纏めてこの先必要だと思われる物資を要請する。具体的には食料と医薬品、長引くようなら仮眠用の場所も必要だろう。


 言ってしまえばこれだけで、細かい割り振りや何処に集積所を設けるかという点に悩みはしたが、極端に判断の難しいものはなかった。というより、判断の結果が行き交うのを調整するのが俺の仕事だったと言っていい。


 上は最良を求める。

 それを受けた現場指揮は最適を見出し、最前線は最善を尽くす。

 無理は無理だと突っぱねるが、最初から何もかも現実的な判断だけに修正してると負荷の掛かる現場はどんどんと判断が甘くなる。不可能だと思っても要所を締める必要があった。


「買われてたってことなのかねぇ」


 しばらく続けていて、ふと思い至った。

 内乱で俺はさしたる活躍もしていない自負がある。

 実質的な牽引役はクレアだったし、腕っ節ならヨハン・オフィーリア・クラウド辺り、裏方はくり子ちゃんって具合だ。

 正直俺はヨハンの頭をぶん殴ってた記憶しかない。後は裏方で出来上がった戦術を盤上のゲームみたいに繰り出していた程度。


「……んな訳ないか」


 近衛兵団が馬鹿なだけだろう。

 先代が俺たちの合流前に取った戦術だって、結果論でしか語れないような有り様だった。


 こう言うと学生如きがと笑われそうだが、歴史の積み重ねである学園で習う戦術論や史実で行われた芸術的な采配に比べると、兵団の動きは命知らずな暴挙としか言えない。


 なのに結果は出ている。


 ディラン=ゴッツバックの目を思い出す。


 豪放無比。勢い任せで何も考えていないように思えて、思考を委ねるということを知っている。少なくとも、何故委ねるのか、何処まで、誰になら委ねていいのかを考えている。結果俺というのは失策としか思えなかったが。


 俺だからこそ、なんて思いあがりはとうの昔に捨てている。


「持って半時か……行動指針の見えない『機獣』の広がり方は最悪の場合、水が広がるように四方八方へ流れる。となると前線の敷き直しは間に合わない」


 後退するほど円状に前線が広がっていくんだ、下がらなければ崩れてしまうのに、下がれば負担が増えていく。

 しかも『機獣』は無尽蔵に思えるほど坑道の出口から湧き出しているんだ。今押し留めているのも限界に近い。流れを受け止める陣地の作成は先行して用意していったのに次の後退では確実に一箇所決壊が起きる。


 なら、どこを決壊させるか。


 現在位置はデュッセンドルフの北西部、貴族街へも片足を突っ込んだ市民街だ。学園寄りに居座る貴族街を迂回して通学する連中もよく通る、比較的綺麗で金のある奴等の住処か。もう少し東へ寄れば街道から直接繋がる大通りへ出るから買い物にも困らない。

 簡単な話だ。折角北西部に位置しているなら、北へ流せば最も被害が少なくなる。ところが『機獣』発生時、南部から溢れ出すことを危惧した領主から避難命令が出て、また北側は動き出してもいない。


 そこまで出ているのに躊躇している。

 これまで通り右から左へ情報を流せばそれでいい。

 フーリア人らとの連携もあるおかげで、今ここと事態を取り纏めつつあるっていう所とはさした時間もなく話の行き来が可能だ。


「……言っちまったからな」


 王は民を守るもんだと。


 好き勝手な振る舞いばかりしているように思えた幼いフーリア人の王様へ、ついつい偉そうなことを言った。


 自分以外の判断に任せれば楽が出来る。

 きっと上も北へ流せと言ってくるだろう。

 貴族連中が顔を突き合わせているなら、余計貴族街の方向へは流したがらない筈だ。仮にホルノス王が開明的で、南部の避難が進んでいたとしても、だ。


 今、ここと上との連絡は極めて時間差が無くなっている。

 『剣』を走らせた場合に比べれば凄まじいくらいの速度だ。


 けど、上は現場の雰囲気を知らない。

 伝わった情報は文字としてしか残らないから、こちらを信用するほど字面を鵜呑みにしてしまう。

 その上で下される無茶は、実はほんの少しだけ余裕がある。


「ぁああくそ!!」


 というか何で誰も言って来ないんだよ!

 学生が天下の近衛兵団仕切ってるって頭おかしいだろ!

 難しい判断があって、もっと判断の時間が短縮出来るなら、とっとと頭をすげ替えたほうがいいに決まってる。


 ハイリア。


 これがあの内乱で、俺が結局は背負うことの無かったものなのか。


    ※   ※   ※


   ディラン=ゴッツバック


 近衛兵団という組織は変革を求められている。

 かねてよりそう考えてきた。


 兵団員の何割かは先王時代からの山賊上がりで、残りも貴族社会から弾き出されたり、飛び出してきたような癖のある者ばかり。


 腕っ節は無類。

 頭の出来がどうこう言われることもあるが、少なくとも状況への嗅覚が優れていたり、奇抜なことを言い出す者は相当数居る。

 個性豊かと言えば聞こえはいいものの、てんでバラバラなのだ。

 個別の価値観で戦場を見て、我を通すことに躊躇が無いだけに纏め上げるのは余程の求心力が必要だった。


 それを成していたのが先代、そして初代団長であるマグナス=ハーツバース殿だ。


 かつて近衛兵団に求められていたのはただただ結果だけだった。

 王都では鼻つまみ者だった我らだが、前線へ赴けば誰もが諸手を挙げて出迎えた。けれど常に多少のやっかみはついて回った。それは我らが時に彼らの常識を平然と踏み荒らして結果を勝ち取っていたからで、故にこそ結果をと求めもしたものだった。


 今も尚、フーリア人との戦線をホルノスは抱えていたが、フィラントの成立のみならず、内乱の戦線後退時に征西将軍が大幅な戦線整理を行ってくれた。当人はもう引退したが、おかげでこちらから前へ出ない限りは相当に負担の少ない状態となっている。


 近衛兵団は今、時代に取り残されようとしている。


 王都守備隊からの人員を受け入れ、ホルノス王自らが近衛として扱い始めたことで我らはかつての結果だけを求める集団では居られなくなっている。


 なのに兵団員はそれを十分には理解していない。

 元より荒事でのし上がってきたと自負する連中だ、位だの格式だのよりは実力を求める。

 故にハイリアの存在は大きかったのだ。

 共に内乱を戦い抜き、あの神父を決闘で下し、陛下を始めとした貴族らとの緩衝材をしてくれていた。

 彼が居た間は、かつての有り様を維持できるかもしれないと、そんな甘いことを考えもしていた。


 状況は変わる。

 世界は変わる。

 ホルノスが変わっていく中、我らは変わらぬまま。

 しかし思いもするのだ。


 我らは変わるべきなのか、と。


 周囲がそれを求めているのは分かる。

 王の目指す先で、いずれ我らの振る舞いは邪魔となる。

 再び排斥されたとして、かつてのような居場所が残るとも限らない。


 それでも、不要なのだろうか。


 マグナス殿よ。

 貴方と築いてきた兵団は、今在る者たちを地に伏させてでも、変えていくべきなのだろうか。


 死者は喋らない。

 死者への問いかけは甘えに他ならない。


 テメエで考えろ。


 貴方ならそう言うだろう。


「分からんのだ!!」


 槍を振るい、化け物を纏めて叩き飛ばして叫ぶ。

 どうにもこの声はよく届くらしい。共に戦う者たちが驚いて目を向けて、慌てて目の前の敵と切り結ぶ。


 『機獣』と定められた化け物共は『槍』の魔術を使う。

 坑道から無尽蔵に湧き出してきて、尚も増えてくる。味方の身を跳び越えてでも前へ進む姿は死兵に等しい。

 四足歩行の獣に思えるが、身を起こして前足を腕のように使っても来る。最も厄介なのは、奴らの全身が『槍』に於ける武装と同じ扱いになっていることだった。腕でも足でも胴でも、とにかくすべての部位から打撃の加護が発せられる。故に他はともかく『剣』が使い物にならん。あらゆる軍勢の例に漏れず我ら近衛兵団も半数近くを『剣』の術者が締めている。戦いへ投入可能な戦力が実質半減したも同然の状態だった。

 だからこそ、少しでも多くの『槍』を前へ押し出し、戦線を維持する必要があったのだ。

 『盾』は目隠しなどの状況作り、『弓』が火力の主力と言えるが、『機獣』共はとにかくすばしっこい。


 移動の制限を受けていない。


 獣の身で、あいや、背に歯車の翼を持つ以上果たして獣と呼んでいいのかも定かではないが、人ならぬモノが魔術を使うなど前代未聞だった。そして奴らは本来在るべき制約がなく、無尽蔵に湧き出してくる。


 全く以って、我ら向きの相手であろう。


 思うが、陛下の近くに侍るべきなのかとも考えてしまう。

 幸いにもジン=コーリアはよくやってくれている。()()()()()()の構築までの繋ぎ、集結し切らない状況で『槍』の使い手を遊ばせておく無駄を省く上での伝言役だったが、やはり勉学に通じた者というのは優秀ということだろうか。一度連絡が繋がってしまえば判断はそちらに任せられるし、受け皿として機能してくれるのなら十分過ぎる。


 次の後退に合わせて離脱し、近衛としてホルノス王の御身を守るべきか。


 考えろ。


 思い、腕を振るった時だった。


「団長」


 伝令だ。


 弾かれ飛んだ化け物が群れにぶつかり近くの建物ごと崩れていくのを見送り、再度構えながら問う。


「聞こうっ!!」


 もう一匹。


「例の学生、ジンからの要望なんですが、団長に一時戻ってきて欲しいとか」

「判断が必要ならば陛下の方へ飛ばせい!!」


 もう三匹!!


「いえ」


 なんだ。


 どうにも尻が痒い。

 次をぶっとばした後ならば掻けるだろうか。


「団長は後退時に突入部隊の人選をし、そいつらを率いて戻ってほしいんだそうで。そこで経路の説明をするとかなんとか」


「ぬう!?」


    ※   ※   ※


   ジン=コーリア


 幾らかの情報を独断で集め、考えを纏めなおした。

 先方からの返答は、任せる、とのことだ。ホルノス王自ら声を掛けてきた時には腰が抜けるかと思ったが、内乱といい今回といい、思ってる以上にお転婆なのかもしれない。


 準備はそこそこ整った。

 完璧にしてる余裕はない。

 急場だ。走りながら考えるしかないだろう。


 少しして、指揮所にしてる建物が軋むほどの足音が寄ってくるのが分かった。


「話を聞くぞ!!」


 開口一番コレだ。


 近衛兵団団長、ディラン=ゴッツバックは向かい合ってるだけで押し潰されそうなほどの覇気を撒き散らしながら大股で俺の前へやってくる。机を挟んで、そこへ手を叩き付けるようにして身を乗り出した男は一度見定めるような目でこちらを見てきたが、俺は若干気圧されて苦笑いするだけだ。至近距離で見詰め合うのは女の子だけにしたいねホント。


「何を考えておる」


 真顔のまま言われると本気でおっかないな。


「……それを説明させて欲しいんですが」


 逃げるように彼の後ろへ目をやる。

 ぞろぞろと纏まりの無い様子で部屋へ入ってくる男たち、指示してあった突入部隊の参加者だ。


「そうだな」


 身を引いてくれて、ようやく机の地図へ目をやれる。


「まずあれから動いた状況もあるから把握する上で聞いてくれ」

「省いても構わんぞ」

「いや」

 時間短縮のつもりだろうが、この場合作戦終盤の動きが変わってくる可能性もあるから知っておいて欲しい。

「確認したが、俺たちの居るデュッセンドルフ北西部はまだ殆ど避難が終わっていない。こっちがこうなる前に南部から優先して避難計画を組んだからだな。流石にここ一帯はなんとかしてくれたが、諸々あって避難は滞り気味だ」


 家財を惜しむ者だけならいいが、面倒なのはこの辺に新設された印刷所が多数在る事だった。

 鉄甲杯を切っ掛けとしてデュッセンドルフは様々な国からの投資を受けた印刷所が出来るようになっている。元々が多国籍な土地だったのも大きい。学園を卒業後、そのままこの地に根を下ろして勢力を形成している国は想像しているよりずっと多かった。

 印刷機は高価だ。しかもただの印刷機じゃない。各国の投資と情報提供を受けた、最新鋭の印刷機だ。

 現品以上に情報の漏洩を怖れて居座る者が多数。そいつらが居るからと更に退避を拒絶する者が増え、脅し付ければどこそこへ喧嘩を売るつもりかと抗議され、貴族経由で根回しをしようとすれば要求を述べられる。連中も事態はある程度分かっている筈だ。その上で限界ギリギリの駆け引きをし、利益を得ようとしている。


 状況を考えて欲しいとも思うが、小国の事情を思えば手放す訳にもいかないのは理解出来てしまう。


 ただ、最悪それはどうとでもなる。

 結局避難が後回しにされている上、北方の道から次の町までは時間が掛かるし、規模が小さすぎて受け入れも難しいと、そういう事情がある。


「だから、避難の進んでいる南方へ向けて一時的に『機獣』共を流す」

「流す? ここで押し留めねばどこへ拡散するか分からんぞ」

「包囲網に限界が来てるんだ。だから結局どこかを決壊させるしかない」


 南方の貴族街は道が広く、敷地内も庭園なんかがあるから兵力を展開しやすい。

 ここも貧民街ほどじゃないが入り組んでいて、だから移動や戦線の後退で負荷が多くなるんだ。

 なにより早期から避難を始めていたおかげであの一帯は無人化している。後は政治の側の問題だ。


「……聞こう」


 ディランは疑問をまずは全て呑み込む事にしたらしい、大きく頷いて先を促してきた。

 このある種の素直さは、近衛兵団の気質をよく現していると思う。人を動かす上で非常にありがたい。


「まずアンタたちが無理してまで包囲陣を敷いて戦っていた理由はなんだと考えた。引継ぎで俺には伝えなかったが流石に分かってきたよ。坑道内に取り残された奴らが居るからだな?」


「そうだ」


「そして今『機獣』の湧き出している場所は、おそらく坑道内の『機獣』発生場所から最も近い縦穴だ。他の縦穴にはもう人の手が回っているだろうから省くが、要するにお前たちは最終的にあの化け物共を押し戻し、取り残された連中の下まで攻め込もうと考えていた。違うか?」


「そうだ」


「だが事態を一番簡単に収拾する方法は穴を塞ぐことだ。犠牲は出るが、このまま拡散して地上の人を襲われるよりずっといい」


「その通りだろう」


 返答が変わった。

 同時に変わらない表情の裏で大きく感情が動くのを感じる。


 ()()()、息を落とす。


 正しさってのは便利だ。

 伝えられてきた戦術ってのには正義がある。

 歴史がこう語るから、理屈の上で間違っていないから、色んな言葉で指示した人間の正しさを担保してくれる。


 穴を塞げば、とりあえずの正しさを得られる。

 北へ流すってのも、内部の状態も分からないままは危険だと言えば、大体は頷いてくれる。


 失敗しても、判断に間違いは無かったと言い訳が出来る。

 他にどうしようも無かったから。

 出来る限りのことはしていたと誰かが慰めてくれるだろう。


 なのに今、俺が考えてる策には道理が無い。


 突入部隊を編成して送り込む、救助の為に。


 ある程度納得してくれる話かもしれない。


 だけど無謀だ。

 言い訳作りと言われても仕方ない。


 俺はハイリアじゃない。

 クレアみたいに引っ張るのも苦手だ。

 どっちかと言えば二番手三番手くらいで助言だけして気楽に突っ立っていたい。


「穴は塞ぐ」


 ディラン=ゴッツバックの周囲が歪む。

 感情だけで景色が歪むもんかと思ったが、もしかしたら魔術が絡んでいるのかもしれなかった。


「けどその前に大幅な戦線後退で『機獣』を吐き出させ、隙間を作った上で部隊を突入、救助を行ってもらう」


 周囲の雰囲気が変わるのを感じた。

 つい、口元が緩む。


 俺に出来る戦術は最初から一つだ。

「突入後、穴を塞ぐ。だから部隊の脱出口は別に作る」

 机上の地図に三箇所、大きく×印を付けてある。

 遠巻きに聞いていた者たちが身を乗り出して覗き込んで居て、内心で震えそうになるのをなんとか堪えた。


「この三箇所は比較的地上に近く、内一つは予備として掘削がほぼ完了している場所だ。最優先はここ。それ以外は二日か、三日ほど待ってもらうことになる」


「過酷だな。行き場を失った化け物共と何日も暗い坑道で戦うことになるかも知れん」


「あぁ、こんな仕事はこの世でアンタらにしか頼めない。だがやれ。取り残された連中を救い出せ。死体だろうと担ぎ出し、墓までしっかり送ってやれ。誰も残すな」


「地上はどうする」


「多くは残った連中で掃討する。貴族街の開けた場所へ誘導すれば今よりずっと効果的に『弓』を運用できる筈だ。けど確実に取りこぼしが出るだろう」


「貴族の庭を荒らすと後が怖いぞ」


「略奪はするなよ。でなければホルノス王がなんとかする」


 クク、と誰かが笑う。

 いや笑い事じゃないし。

 なんで近衛が自国の貴族街で盗み働く前提の話してんだよ俺は。

 長く中央からは切り離され、まともに予算も割り当てられなかったって話は聞き覚えあるけど、逞しすぎて怖いわ。


「漏れについては向こうから提案があった。南方では避難とは別件で人を動かしてるらしい。もしかしたら分散した『機獣』を誘導できるかもって」


 まさしくこの近衛にしてあの王ありだ。

 詳しい事情は分からないが救助を進めている筈の連中を餌にしようかなんて言い出すなんてよ。


 言い漏らしは無いか考えながら、少しだけ天井を仰いで息をつく。


「この作戦は負担ばっかり大きくて、正直上手く行くかさっぱりだ。利口なやり方は別にある。けど……」


「成功させれば最も犠牲が少ない」

「失敗すれば最悪の事態にもなる」


「あぁ」


 俺に出来る戦術は最初から一つだ。


 そいつらにとって、最もやりやすい環境を整える。


 戦術的正しさなんかじゃない。

 実際に動いて、戦って、死ぬ連中が存分に腕を振るえるかが大事なんだ、俺にとっては。


 だから組み上げた作戦も、それらしく理屈をくっ付けただけの粗悪なもので、正しさなんて何処にも無くて。


「ジン=コーリア」


 呼ばれ、視線を戻す。

 少し見ない内に、連中の人相が悪くなった。

 俺も似たような顔をしているのかも知れねえ。


「貴様の策に乗ろう。無茶で無謀だが、このままお行儀良く敵にしてやられるよりずっと良い。あぁ……良いなぁ」


「あぁそうだ。行くなら行くで、突入部隊に加えて欲しい人が居る」

「ぬ?」


 部屋の隅で控えていた女が進み出る。

 髪は短く、そして黒。


「リリーナ=コルトゥストゥスと申します。坑道への突入へ加えて頂きたく、こちらへ参じました」


 恭しく礼をする様は実に綺麗で麗しい。

 だが近衛の反応は一様に警戒だった。


 彼女を知らない者はそうそう居ない。

 なにせつい最近までホルノス王の率いる部隊で、試合中の護衛をしていた人物なのだから。

 そしてフィラント王の側近で、そのフィラントが何をしたのか、知らない者もまた、そうそう居ないだろう。


 強面が揃って睨みつける中、美人は美人らしく素敵で綺麗な笑顔で言葉を紡ぐ。


「ご安心下さい、今回は営業です」


 揃って俺を見るなよ。

 そう難しい話じゃない。


「競争相手が出来ると、ふんぞり返ってはいられなくなるってことだ」


 エルヴィスと誼を通じればあそこと協調するフーリア人らから協力を得られる。

 間で利益を抜かれはするだろうが、あからさまにフィラントを優遇する理由もかなり薄れたという訳だ。それに対セイラムに於けるフーリア人らの主力はオスロとかいう爺さんが率いていた連中だ。加えて、漏れ聞いただけの話だが、国連参加にあれだけ拒絶の態度を取っていたエルヴィスは、鉄甲杯の共同開催を決めた途端に異様なほど態度を軟化させたのだとか。


 軟化というか、裏が怖くなるくらい甘かったって話だ。


    ※   ※   ※


   ワイズ=ローエン


 女王陛下のご息女がホルノスへ向けて発ったらしい。

 情報の速度から考えて、こちらへホルノスからの打診があった時点で向こうへも伝わっていたのだろう。あるいは可能性がある、と陛下に近しい貴族らを通じての根回しをしてきたのか。兎にも角にも姫様がご来訪なされる以上、現地の筆頭上流貴族として急ぎ場を整えなくてはならない。


 まずは破壊力だ。


 姫様のご登場に際し、ホルノスの者共が思わず平伏し、あのフィラント王共々ホルノス王をも足元へ傅かせるような演出が必要だろう。

 デュッセンドルフでは今、未曾有の危機が発生していると認識している。出来るのなら解決を先延ばしにし、颯爽と援軍を連れて来るのがいいだろうか。しかし姫様の参じた場が荒地となっていてはいけない。難しい所であろう。


「ホルノスに最大限協力し、エルヴィスの威光を見せつけよ、だってさ」


 だから先輩から齎された新たな指示内容には思わず首を傾げてしまう。

 ホルノス、及びデュッセンドルフ内での政治的な動きを監視するべく特命を受けてガレットの美味しい店を経営する先輩は、この三本角の子羊亭という店の内部を興味深そうに眺めながら、


「デュッセンドルフ近郊に配置してある戦力を動かす許可も出てるし、私が預かってる秘密資金も後の復興費用として使うよう渡しておけって。後ね――」


 具体的な所を省くと現地にある全てを用いてホルノスを助けてやれと、そういうことらしい。


「そのようなことをして……採算が取れるのですか」


 普段からお店の経営に頭を悩ませている先輩を見てきたからか、ついついそんな事を言ってしまう。

 デュッセンドルフではエルヴィス人の出した飲食店に人は中々集まらないのだ。それが最近になってハイリアのサインを飾ったことで利益が出て来ていることに悔しさを覚えつつも、喜ぶ先輩の姿に我らは閉口するしかなかった。


「この先ホルノスは聖女セイラムの排除へと動き、大きな負担を被ることになるよね?」

「はい。未だセイラム討伐については伏せられていますが、そうなってから弱ったホルノスを内側から切り崩す命を私は受けています」

「それ無しになったから」

「…………はい」


 どういうことだ。


「ホルノス王は急ぎすぎてるんだよね。普通、国連なんて組織を立ち上げるよりまずは会議を開くべきなんだよ。内容なんて何でもいい。そこで集まって話し合いをしたっていう実績を重ねて、最終的に一つの枠組みを作るならここまで大きな反発は無かった。現にガルタゴとフィラントからは手痛く噛み付かれたみたいだしさ」


 未だに国際連合を軍事同盟と呼ぶ者は多い。

 違うとホルノスは言うが、そもそも上位能力についての情報公開を最初に提示してしまったのだから、無理からぬことだろう。

 話を聞いた各国は後の軍事的優劣を考えずには居られない。


「あのまま独走したのなら放っておいても良かったんだと思うよ。瓦解した加盟国から情報を吸い出してやれば、効率的にエルヴィスは勢力を拡大できるからね。当初はホルノスが大陸西方を牛耳る為の策で、玉座へ返り咲いた幼い王と内乱の英雄っていう若い連中にアテられた勇み足だって分析されてたよね。あの時点なら、そこまで外れてはいなかったと私も思った」


 ホルノス以前の時代でも、この一帯は巨大帝国を築いていた。

 一つの名を掲げ、過干渉を避けつつも加盟国を募って勢力を拡大していた帝国だ。


 いつしか廃れて自然消滅したが、遠巻きにその時代を眺め、知っている周辺国からすればまた巨大帝国を築こうとしているのだと思うのは当然の事。


 そもそも国というのは拡大を望むものだ。

 昨今では国土以外でも富の巡る輪であるとか、技術や知識であるとか、徐々に種類が増しているとされるが、コレを意識している国は未だ少ない。

 島国であるエルヴィスは内政へ目が向きやすく、外は侵略するものというより敵の住処。けれど広い内陸部で乱立する国々にとっては、地続きである利点がより領土の拡大を望ませる。


 現在では否定されつつある、国内へより富を溜め込もうという重商主義がエルヴィスで発達したのも無理からぬことか。

 実際には在る富よりも、動く富の方が重要なのだと我が国では言われ始めている。


「本気で手を取り合って仲良しこよしなんて考えているんだとしたら、そんな国には消えてもらった方がいい。ううん、出来る状況があって、出来る力があるのに想定すらしないっていうのは、外交相手として信頼出来ない。だからガルタゴの動きを知りながら座視したし、後の動きでホルノスの真意を知ろうと考えたんだよね」


 結果、ホルノスは動いた。

 しかも相当にえげつない方法で。


 殴られて俯いているだけの小娘ではないと示し、同時に周辺国の警戒を買った。


「まさか鉄甲杯の協同開催国として余興をしますって、場外乱闘の挙句にフィラントがデュッセンドルフ内へ持ち込んでいた機密資料や道具の一部を分捕るとは思わなかったけどねぇ」

「その際には先輩も大層忙しかったと伺っていますよ」

「ふふぅん」


 いきなり何をと言い出したフィラントへホルノス側は王シャスティ自らが内乱の英雄たるハイリアへ余興と称して斬りかかったことを挙げ、更には事前交渉も無しに求婚を叩き付けたとして、資料の回収はガルタゴとの癒着の証拠を見つけ出す為だったと裏に表に宣伝を行った。

 元々こちらでフーリア人への当たりは強い。新聞効果もあって殆どの民がホルノスの味方をするだろう。


 加えて決勝戦終了後に我らエルヴィスの大使を招き、次の開催地としてエルヴィスを指名した。

 完全にそっぽを向かれ、自分たち以外の競争相手が生まれたことで、一時はフィラント側からの決裂もあるかと考えられていたが。


「未だフィラントを国として扱っているのはホルノスだけだしね。ガルタゴとの記録は確かに見付かったけど、国の実権を握っている訳じゃない提督の独断として処理出来るよう窓口を絞っていたみたいだし」


 だからフィラントはホルノスを切れない。

 立地的な問題も大いにあるが、最初からホルノスの威光無しにはこの大陸西方で立ち行かない国だ。


 ガルタゴも、我らエルヴィスも、フィラントとの窓口にホルノスが立ち続けることを前提としての方策しかない。そうでなければ植民地にしてしまうのが最も良い、とそういう判断がある。ただ地理的にも難しいから、やはりホルノスを窓口に立てておきたい。

 奔放な動きばかりで、直接会わずとも裏工作を成し遂げ、独自の価値観と文化を持つフィラントを相手にするよりは、同じ思考の通じる相手の方が遥かに楽だ。どちらにせよ利益が望めるのだから。


 大きくガルタゴがにじり寄ったのは距離的な面もあるだろう。


「そんな状況で何故我らがホルノスを支援すると……?」


 エルヴィスの立場は強い。

 ホルノスはフィラントから離れる素振りを見せた以上、すんなり以前の状態には戻れない。最終的にそうなるとしても、今後もエルヴィスへの借りを作り、求めてくるだろう。我々はそれを適当にいなしつつ価値を高めることで、より多くの譲歩を引き出していける。

 今我らエルヴィスがホルノスの要請を突っぱねれば対フィラントへの姿勢が崩れてしまうのだから。


 なのに姫様自ら出て来られるとは……。

 せめてホルノス王を呼び出し、本国で歓待するのであれば良かったのだが。


「私さ、国を離れて長くなるし、段々と分かってきたんだよね」


「はい」


 先輩は物思い気な表情で少し離れた場所に居るハイリアの元部隊員らを眺め、


「ウチの国って、頼られると弱いよね。好意を向けられると、めっちゃ甘くなるよね」


「それは先輩だからでしょう。私は違います」


「いやでもワイズ。プレインもだけどさ、ハイリア様のこと物凄く嫌った態度取るし、対抗意識強いのも分かるんだけどさ。手を貸してくれなんて言われたら大喜びで駆けつけちゃうと思うんだよね」


 隣でプレインが鼻息荒く悪態をついた。

 普段意見の合わない彼とも、これに関しては同意見だという自信がある。


「侮らないで下さい先輩」

「えぇそうです。助ける? 大喜びで? ふふっ、ふふふふっ」

「そうですね、もし仮にアイツがそんなことを言ってきたらすげなく断ってやりますよ」

「そして苦しむ様を存分に楽しんだ上で、我らが威光を見せ付け言ってやろうじゃありませんか」



「「お前を倒すのはこの俺だ、とね」」



「うん。そうだね」


    ※   ※   ※


   ジン=コーリア


 準備は整っていない。

 けどやるしかなかった。

 包囲の維持も限界に達し、数箇所で決壊が発生している。

 既に後方で再包囲が進められていて、誘導する南方へ逃がすような形は凡そ完成している。

 問題なのは逃がした南方の避難完了と包囲の完成の二点で共に確認が取れていないことだ。

 巻き込むかもしれない。

 穴があって、予定外の方向へ突出されるかもしれない。


 それでもやるしかなかった。


 これ以上の無理は前線を支える連中の退路を失う。

 連中の戦力はまだ必要だ。ここで使い切るのは愚策。南方へ流した『機獣』の掃討で働いてもらって、そこで潰れてもらわなければならない。


 合図は簡単だ。

 デュッセンドルフ魔術学園には大時計が設置されている。

 そこから、時間ごとに鐘を鳴らすことで授業時間を区切っている。

 音は街中の方まで届くほどで、伏せている連中からでも見落としが無く、確実だ。


「副団長は間に合わなかったな」


 溢すと、一回りほど年上だろう男がコツンと頭を叩いてきた。


 あぁ、やるしかねえな。


 第一段階は今の包囲を部分的に崩し、敵を流し始める。

 第二段階でやや後方にて待機させてある部隊でなだれ込む方向にある程度の指向性を与え、それによって出来た隙間を通して前線を引かせる。

 第三段階、『機獣』の密度が落ちたのを確認し次第、突入部隊を坑道内部へ投じ、『弓』による集中射撃と突入時に仕掛けた火薬で縦穴を塞ぐ。


 敵の湧き出しを封じた上で第四段階へと移行する。

 包囲を縮め、結果生じる余剰戦力は随時南方へ回す。また、こちらも集結は完了していないとのことだが、デュッセンドルフに居る内乱での意識不明者及び回復者を囮に見立て、散っていった『機獣』共を引き寄せ殲滅。

 本当は細かく部隊を区切って予め割り振りを決めておきたいが、直感的に動く連中の多い近衛兵団では混乱を生むか。

 慣れたやり口とは違うのも、頼れる頭の切れる連中が後方に居ないのも、事の責任者が俺だってことも、初めてだ。

 でもやろう。


 あの感情の中に自分が居る。

 別に助けようとか、自分が成り代わってやるなんて思っちゃいないんだ。

 けど次に顔を合わせた時、ここで逃げ出した俺がいつかのように並べるんだろうかとか、そんなことを考える。


 俺はどっちだ。


 アイツに立ち上がって欲しいのか、もう、あのまま楽になっていて欲しいのか。


 どちらにせよ、いつか言葉を交わすその瞬間に、俺はここまでやったぞと胸を張れる。

 それだけが欲しいのかもしれない。


 あぁ行こう。


 時計を確認し、予定を頭の中で浚う。

 フィラントからの協力で突入部隊や幾つかの中継地点とで連絡が取れるようになったのはデカい。

 特に欲しいの坑道内部の状況だ。

 予測の付かない状況を知れるだけで、『機獣』が今後、あるいは近い内に他の縦穴から出てくるかどうか推し量れる。正直、全てを塞ぐには手が足りてないし、複数個所で湧き出された時点で詰みだ。後はどれだけ生存者を確保しながらデュッセンドルフを放棄できるかなんていう、考えたくも無い事態になる。


「頼むぜ……」


 大陸最強の戦闘集団なんだろう?


「鐘を鳴らせ!! 作戦開始だ!!」





 デュッセンドルフ北西部では『機獣』が大量に湧き出し、近衛兵団と守備隊が包囲を維持しつつ次への動きを始めた。

 南部の避難は三・四割程度進んでおり、意識不明者と回復者はまだまだ、というより『機獣』を待ち受けられる環境が整わず右往左往。


 お姉ちゃん好き好き助けて(解釈には個人差があります)って言われたエルヴィスはツンデレ発症中。

 お前舐めんなよ()って言われたフィラントは絶賛営業中。

 外交で大人しく問題起こさずは、戦争真っ盛り喧嘩上等のこの時代では大間違いです、殴り合いましょう。


 ルリカの元へは未だにウィンダーベル家での変事やシンシアについての報告は届かず。


 一年生ズは状況も知らないままワイワイやりながら人気の薄いデュッセンドルフを闊歩中。退避命令は出遅れたせいで綺麗に回避した。


 ジークたちは子羊亭へ戻るだけで一時間以上使っているのでハイリアとの決着前、あるいは『機獣』の湧き出し以前に戻ることは出来ない。


 他にも複数の思惑が動いていたりする中、貴族へ喧嘩を売った近衛兵団はいつも通り敵を作ります。

 幸いにも最大の敷地面積を持つとあるお家が更地にしたまま放置してくれているので利用しましょう。



 そしてヨハンとの試合直後かに思わせてもう鉄甲杯終了まで日にちが経過していました。

 ハイリアもメルトも意識が無かったので気付いていません。

 分かり易い利点としては確実に人口が減っている点。

 地味に後で効いて来るのは去った人たちが周辺都市で色々買いあさったせいで食料雑貨類が外部でも自分らの分だけでギリギリ。

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