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フィリップ=ポートマン
早めに会場入りしたはいいものの、喉が渇いて控え室を出た。
試合前にあまり腹へモノを入れるなとは言われているものの、果実の絞り汁くらいなら問題無いだろう。
雲一つ無い快晴で、木陰に居れば心地良く、日差しを受けると汗が浮かんでくる。
「わぁ……! すっごい人の数ですよ。私こんなの劇場でしか見たことないです」
奢ってやると言えば調子良く付いてきたセレーネが軽やかな足取りで手すりの向こうへ身を乗り出す。
まだ観客の入場が始まっていないせいで、場内への入り口前は警備と誘導の人間しか見えない。その更に向こう、踊り場から見る群集の凄まじさは俺もまた度肝を抜かれていた。
五千……六千……? いや七千くらいは居るかもしれない。
だが見たこともない数というのは往々にして過剰な計数をしてしまうというから、本当は予想の半分以下である可能性もある。
だとしても、デュッセンドルフはそれなりに大きな町だが、ここまでの数を外部から受け入れるのに、どれほどの苦労があるのか想像もつかなかった。
下位の小隊であった俺の所の試合など百人そこらしか見物が居なかったと思う。
下手をすれば観客もおらず、偵察として送られてきたやる気の無い下級生が見ている程度という日も少なくなかった。
今回の会場はとりわけ大きな所だが、果たしてこの人数が入るのかと言われたら大いに疑問が残る。客席はあるが、祭り気分で興奮した群集が、席が埋まったからといって入場を諦められるかも怪しい。無理矢理詰め込むつもりだろう。
「表から出たのは失敗だったな」
「そうですねぇ」
安易に近い方からと考えた自分が愚かだった。
ここからではちゃんと見えないものの、何らかの方法で入場待ちの観客たちを整列させているらしい。
あの中を突っ切って後方の出店へ辿り着くのは不可能に近い。
訓練外とあって手首やら首下やら足首やらに様々な装飾品を身に付けるセレーネは、陽の中に居ると結構眩しい。
金属部が光を反射してくるから、時折目元を光が掠めるのだ。
ともあれ、ここでまごついていても仕方ない。
違う出口から出て、近くで何か買おうかと提案しようとしたのだが、
「…………」
じっと、溢れ返る群衆を眺めるセレーネに落とす言葉もなく黙り込んでしまった。
我が小隊のエースたれ。
彼女はずっとハイリアからそう言われてきた。
俺も言われるまま手を貸し、頑なに身に着けようとする装飾品なんかの着飾りがどれほど戦いの中で邪魔かを知らしめた。
筋力、瞬発力、持久力、他にも色んな事への説明を受けながら多種多様なトレーニングを、時には遊びにしか思えないようなものをしてきた傍ら、俺と彼女は良く訓練で相手をさせられた。
我ながら偉そうに多くを指摘したものだと思う。
目に見えて成長することもあれば、何度指摘しても失念してしまうこともあった。
ある程度見極めてはいたのだろうが、体力を限界まで削り落としてから普段通りのメニューをこなす日などは、一緒になって地面を這いずって文字通り血反吐をぶちまけたこともある。
まあよく耐えられたものだ。
あの日の自分が別人にすら思えてくる。
同じ苦労を背負った仲間が居ることへ強い満足感があるのも確かで、ついつい心を預けたくなる。
未だ初戦を飾ってはいない。
それでも、確かな自信を得るだけの結果は掴んだ。
今から彼らに、そいつを見せ付けるんだ。
彼らは、きっと多くは今日の最終試合であることや、ハイリア個人を見に来たのだと思うけれど、視界の端に俺たちが居ることに変わりは無い。
ましてセレーネは、今日が初めての試合だという。
内乱の際にそれとなく前線へ出て戦ったこともあるらしいが、よわっちい自分はあっさり怪我してそこからは後方で雑用してましたー、と本人は言っている。学園での総合実技訓練へも、特に一番隊はハイリア個人が牽引する小隊という印象を俺でさえ持っていたくらいだ。
命懸けの実戦の怖ろしさは確かに知るか知らないかで大きく違うのだろうと思う。
同時に、大衆の目に晒された中で腕を振るうというのも、また別種の緊張があるものだ。
「お前は十分頑張ってきた。自信を持て」
俺なりに励ましのつもりだったのだが、群集に意識を飛ばすセレーネには届かなかったらしい。
武者震い、ではないのだろう手の震えに、そっと重ねる手を俺は持たない。
風に揺れた耳飾りが陽を反射して、目を細める。
やはり少し、眩しいな。
「ありがとうございます」
最初何を言われたのか分からなかった。
遅れて彼女がこちらを向いたから、聞こえていたのだと知って、少しなんとも言えない息苦しさを覚えた。
なので口端を歪め、皮肉っぽく言ってやる。
「ハイリアでなくて悪かったな」
「そんなことないですよー。今の小隊の皆も、私好きですもん」
じんわりと言葉が沁みこんで来るのは、過去の傷で心がひび割れているからだ。
「そうか」
強がってあっさり言うと、今度はセレーネが皮肉っぽく目を細めた。
「フィリップさんこそ、大丈夫なんですかー? 今日の試合、昔の小隊の人たち絶対見に来てますよー」
「ぐ、っ……!」
分かっていたけど考えないようにしていたことを……!
「わわ、分かってるわそんなこととととと………………っ、ああ俺が今なんと呼ばれてるかも流石に耳に入ってるからな!!」
権力を失って、多くに恨まれながら小隊を解散させた情けない没落貴族ことポートマン家が、今まさに誰もが羨む男の小隊に入った。
ハイリアの靴を舐め回して仕方なく入れてもらっただの、実は無関係なのにしつこく追い回して仲間のように振舞っているだの言われ放題だ。
アイツが何と思っているかは知らないが、俺からすればその通り手を差し伸べられたようなもの。謂れも仕方ないことと割り切ってはいる。つらいけど。
盛大にため息をついてしゃがみこむと、セレーネが馬鹿みたいに笑い出した。
「あっはははははは! ごめ、ごめんなさいっ! でもそんな落ち込まなくても良いじゃないですかっ、もう私たちっていう仲間が居るんですからね!」
「…………そう言われると本気で嬉しくて涙が出てくるから余計に嫌なんだよ!!」
また一層笑われてしまったが、彼女が落ち着く頃には俺もさっきまでのしんみりした気持ちが吹き飛んでいた。
踊り場からまたぞろ群集を眺める。
「人だな」
「人ですね」
「いっぱいいるなぁ」
「ま、どうでもいいことですよね」
ハイリアが何かしら目論んでいるのは知っているし、これまでの恩を思えば喜んで手を貸そう。
ただこの群集を背負ってどうこう、なんていうのは俺みたいな小物にはちょっと無理だ。
「フィリップさんフィリップさん」
「ん……?」
群集に背を向けて、手すりへ腰掛けたセレーネは、また少し遠くを見詰めながら言う。
「月並みですけど、人は変われるんですよ」
「そう、か……」
俺は自分が変わった姿なんて想像出来ない。
少しはマシになっただろうかと思えても、根本的な所で俺は権力嗜好だし、ハイリアのように人の意識を変えようだなんて思えないんだ。
奴隷だって居るなら居るで便利なものだ。飯と寝所を用意するだけで労働力を稼げる。確かにフーリア人を殊更に痛めつけたり、虐待をする者というのは居るが、人間一人を買うというのはそれなりな出費があり、出来るのなら長持ちして欲しいから無為な傷を負わせたりはしない。
確かに、奴隷である者とそうでない者とで、手の出やすさは違ってくるし、反抗されれば潰すのも覚悟で見せしめを行う場合もあるだろう。
いいや。
そうだな。
結局は同じなのだ。
奴隷だから、でこんな考えを持つ者は、身分の違いや些細な差を理由に容易く同じことが出来てしまう。
自分に余裕があればいい。けれど追い詰められたり、苦しかったり、疲れていると、やっぱり内側から小さな自分が顔を出す。
浅はかな自分に、どれだけ取り繕っていても根本は変わっていないことを思い知らされる。
するとセレーネは手すりの陰でしゃがんだままの俺を覗き込むようにして言った。
「実は私ですね、昔はこーんな前髪だったんですよ」
こーんな、と言って自分の目元に覆いかぶさるような所に手を翳す。
「髪はもっと長かったんですけど、お洒落っていうよりはただ伸びてただけで、もう枝毛にほつれに酷かったんですからっ」
今の彼女は、女性らしい艶やかな赤毛で、肩に掛かる程度の後ろ髪がある。
単純に短いのではなく、意図して形を作り、整えているのだろう。
見るからに鮮烈な印象のある赤の髪は、男の俺から見てもよく手入れされているのだろうと思えた。
「それにそれにっ、装飾品なんて一個も知らなくって、休み時間なんてじっと机を見詰めてるだけだったんですよーっ」
思わぬ方向の吐露にどう反応すればいいか分からなくなる。
「ぼそぼそーっとしか喋らなかったんで、華やかな貴族の人たちから結構嫌味とか言われたんですよねー。私も私で言い返したりはしなかったんですけど、内心じゃ彼女らのこと馬鹿だの何だの罵倒しまくってたんで、どっちもどっちですよね。私の故郷、赤毛なんて珍しかったんで、よく苛められたりしたんです。それで、嫌だーってなって飛び出して、このデュッセンドルフの親戚の家で厄介になったんですけど……まあ思い切った時は良かったんですけど、やっぱり学園って物凄い煌びやかじゃないですか、私全然馴染めなくって、ずっと誰とも喋らず黙々勉強だけしてました。それしかやる事見付けられなかったんで」
今の彼女は、とても快活で、華やかで、誰とでもすぐ仲良くなってしまうような、居るととても場が明るくなる人だ。
あれほど装飾品に拘っていたのも、少しだけ繋がった気がした。
女の子らしさを求め、生活が苦しいと言いながら化粧品を買い集めようとするのも、きっと。
「ハイリア様が誘ってくれたんです」
その一言は胸の奥に鋭い傷を生んだ。
でもやはり、同じ光景を俺は知っている。
だから出るのはため息で、バツが悪くて頭を掻く。
「そんなに退屈なら、なりたい自分をここで見つけてみろって」
学生というのは時間が山ほどある。
なのに、やりたいことを見つけた途端、僅か数年の時がとても短いように思えてくる。
俺が小隊を率いていた日々がそうであったように。
対して、
この小隊へ入ってからの日々がそうであったように。
どう過ごすかも決めずに居るのは、きっと勿体無い。
「それで好きになったのか」
間にはきっと多くの事があっただろう。
けれど、だから――彼女は心の底から幸せそうに言うんだ。
「はいっ!」
本当に、眩しいな。
※ ※ ※
結局飲み物を探す時間が無くなって、人の入り始めた会場内を関係者限定の通路を使って控え室へ戻っていた。
早めに戻れば良かったのだろうが、人入りの最中は会場の運営をしている者も非常に忙しく行き来していて、俺たち二人は敢えて遠回りをして道を譲ることにした。
ようやく控え室に近付いてきた時だ、選手やその関係者以外は立ち寄らない筈の通路で話し声が聞こえた。
俺もセレーネとの馬鹿話に夢中になっていて、事を把握もせず鉢合わせた。
「だから精々足掻くんだな――ん?」
長身で痩せぎすの男がまずこちらを見た。
肌は青白く、不健康そうな印象が強い。
「フィリップか。それにセレーネ」
相手をしていたのはハイリアだった。
意外な光景、だとは思わない。
奴の事は俺も知っている。
「はン! 噂をすれば雑魚二人のご登場かよ!」
プレイン=ヒューイット。
二番隊所属の『剣』の術者で、性格に難がありすぎて本隊からは切り離されていた、そして今回俺たちの対戦相手でもある男。
「対戦者表を見たときは驚いたぜ。おい、なあフィリップちゃんよお、お前本当にこの野郎の尻でも舐めて仲間に混ぜてもらったんじゃねえだろうな!?」
「ハイリア様のお尻なら私が舐めましょう」
「いや断る」
「そう仰らず」
すかさずセレーネが馬鹿なことを言ってくれたので心はさほど波立たなかった。
踏み込もうとしたプレインをハイリアがこちらへ振り向く動きで遮り、少し困ったような顔を見せてくる。
あぁ、女性から尻を舐めますと言われた時には俺もどう反応して良いか困るだろう。
「話はそれだけか? 試合前だ、あまり話しこんでいたら八百長の相談だと思われるぞ」
切り上げようとするハイリアの言葉を鼻で笑い飛ばし、プレインは彼の頭上を越えて言葉を飛ばしてきた。
「話は聞いてるぜえ? お前随分元お仲間から恨まれてるみたいじゃねえか。頭ごなしに相手の意見を潰して全部自分の言うとおりにしろだとか、挙句盛大に負けて全員から見限られた……! なあ、お前さ、身の程ってもんを考えろよ。テメエがこの場に居ること事態おかしな話だってわからねえのかよ!?」
「嗚呼ダメ男ことフィリップさん……!」
「ぐぅっっっ……!」
まさかの追撃に、耐え切ったと思えた心が思い切り挫けた。
「そうですよねぇ……、限界ギリギリの小隊を立て直すべく奮起したものの、元々がカリスマなんて無かったもんだから誰も指示に従ってくれない……! それとなく応じたかと思えばすぐサボる! 哀れなんとかしようとすればするほど皆との意識がすれ違い、力不足で挙句大・爆・死! 実際にはあんまり注目されても居なかったから、気付いたらなんかあの小隊消えてた程度の扱いなのがまた一層憐れです!!!!」
「ぐはぁぁぁっっ、ぉぉぉぉおおおおおお……!!」
「セレーネ、少しは容赦してやれ。試合前だぞ」
ハイリアが真剣に心配そうな顔をしてきたが、すべて事実だから仕方ない。
「そんな過去があったんですよね?」
途端に彼女は大笑いし、膝をつく俺の背中を遠慮なくぶっ叩いてきた。
目の端に涙さえ浮かべて、セレーネ=ホーエンハイムは学園で三指には入ると言われる『剣』の術者を見た。
「ええと、プレーンさんでしたっけ?」
「……プレインだ」
「ねえプーさん」
息を吸い、鼻で嗤いながら、
「アンタ、ウザい」
分厚い鉄の響きが一直線に通路を切り裂いた。
赤の魔術光が二つ。
『剣』と『剣』。
ホルノスの兵が使うのとは少し造りが異なる長剣を、両手に構えたソードブレイカーが受け止めていた。
刃先が溝へ飲み込まれている以上、捻りあげれば武器を奪うことも出来る。けれどもプレインは自信ありげにセレーネを視線で舐め、薄暗い声を吐いた。
「お前ら二人は俺が始末する。もう二度と偉そうな態度を取ろうとは思えんよう、徹底的にやってやる」
しばらくにらみ合いが続いた。
けれど、おそらくは敢えてプレインの踏み込みを見逃したハイリアが吐息を落とし、不意に空気が弛緩した。
「やるなら試合でやれ。評価なら後で聞こう。プレイン=ヒューイット、それともここで袋叩きにされたいか?」
「あァ、確かにホルノスの英雄様を含んでるとなると厄介だ。厄介だが――」
通路の向こうから、待機していたのか、それとも俺たちのように偶然か、プレインの部隊員らしき者たちが顔を出した。
二人。一人は、見覚えがある。
「まあそうだな。やるなら観衆の前で。それにゃあ俺も賛成だぜえ?」
プレインが軽く手を振り、二人を引っ込ませる。
日頃から猫背になっているが、こうして近くに居ると圧迫感を覚えるほどの長身だ。
手足が長く、筋肉質ではないものの、先の動きからも鞭にような印象を覚える。彼が持てば長剣も普通の剣と変わらない。しかし、片手で振り回した時の間合いは『槍』にも匹敵するだろう。
不意打ちを受け止められておきながら、プレインは余裕の表情で俺たちを見下し、背を向けた。
ただの歩きでさえ一歩が長い。
恵まれた肉体を見せ付けるようにして奴は、かつての俺の仲間と共に去っていった。
頭の中に、身を抱いて崩れ落ちる副隊長の姿が浮かぶ。
その傍らに寄り添って震える身を支えながら、心からの憎しみを向けていた彼が、これから向かう戦場に居る。
過去を消すことは出来ない。
放った言葉は永遠に頭の中で繰り返される。
取り繕う言葉ですら、二度と届かない。
「フィリップ」
成功者からの声に、助けられてもいながら、後ろ暗い気持ちを抱く自分も居る。
「フィリップさん」
「ほおほふはふは」
横合いから頬を摘まれ半眼を向ければ、明るく笑ってくれる彼女がいて、盛大にため息が出た。
結構強めに摘まれて、そのまま引き抜くものだから痛みが残る。
けれど少しは口が笑みを作れた。
「やるさぁ……! あぁ、やってやる! 負けてなんていられるかっ!」
※ ※ ※
そして試合の終盤、こちらに『盾』が居ないことで縦横無尽に走り回り、徹底して俺とセレーネを狙い続けてきたプレインに苦戦を強いられていた。
奴の足は速い。同じ『剣』と比べても、セレーネでは追いつけもしない。
こちらで機動力があるのは彼女と、あとはナーシャくらいだが、『弓』では『剣』を相手に不利となってしまう。
護衛としてのジェシカ、そして後背をハイリアが守る以上、浮いた俺たちがなんとかするしかない。
『剣』のプレイン。
そしてかつての仲間である『弓』の術者が執拗に纏わり付いてくる。
だが押し負けても居ないつもりだった。
確かにこのまま行けばジリジリと体力を削られた俺たちが崩れるのかもしれない。
それでも決め切れる手を持てずにいるのは奴も同じだ。
なら期を見極めれば、その動揺をついて崩すことができれば、
ナーシャが信号としての矢を打ち上げる。
同じ考えか。
思えば、ちんけな嫉妬など吹き飛ぶほどに嬉しく、この背を押してくれたことに頼もしさと高揚感がある。
視線が合った。
変わらず憎しむ目が俺を見ている。
償う方法は、きっとない。
副隊長自身が会うことを拒絶している。
俺が彼らに出来る事はない。強引に近寄って、それで俺が過去を清算したとしても、もう元には戻れない。
この戦いを見ているか……?
せめて知ってくれ。
俺は進む。
自分勝手で、我侭で、吐き気を催すほど傲慢に、お前たちを過去にして突き進む。
「いくぞセレーネ!! 俺たちでこの勝負を終わらせる!」
青の風が暴風の如く広がって、騎馬の嘶きが蒼天を衝く。
『槍』の紋章が書き換わる。
不意に己を繋いでいた枷が外れたように感じ、目の前に道が開けた。
「きゃーっフィリップさんかっこいいい!!」
おふざけだろうが嬉しいから困るけど嬉しい!!
同じくトゥーハンデットソードを放り投げ、両手にソードブレイカーを握り直したセレーネの眼前でも、『剣』の紋章が書き換わっていく。
「見せ付けろ! お前たちの力を――!!」
大音声が会場を貫き、驚きが歓声に変わった。
全く、格好良すぎるだろう、ウチの隊長殿は。
「なんだ……お前らが? なんなんだよ! なんなんだよソレはぁあああああ!!!」
動揺したプレインの歩が弱まる。
即座に俺は駆けた。
『騎士』、そして『旗剣』。
もうこの歩みを留めるモノは何も無い。




