電子妖精の苦悩
「どうしよう!好きな人ができたよ!どうすればいいの!?」
私のご主人様は、そう言って私に報告してきた。
まずは、自分の紹介から始めよう。
私の名前は、セキ。
大きさが10GBある、電子妖精だ。
電子妖精とは簡単に言うとパソコンの中で勝手に動くカーソルのようなもの。画面に映し出されるカーソルも別にあるが、このソフトをダウンロードしている人はカーソルを消しており、主もそうだった。
容姿は、桃色一色で、これは主の趣味だ。断じて私の趣味ではない。
機能に関しては様々なタイプがあり、私の場合、思考能力もあるので、こうやって主の悩みを聞いてあげることもできる。
まともにカーソルとしての役割で使われたことはないので、専ら相談役だ。
私の家でもある主専用パソコンの前でうな垂れているのが、わが主である加奈子だ。
彼女は、年齢の割に顔が幼く、よく小学生に間違われるのだと嘆いていた。
可愛いのは確かなのだけれど。
それにしても、ここまで動揺しているのはめずらしいな。
たびたび惚れたやら好きになったやら報告してくるけれど、今回ほど動揺したことはなかったはず。
本気なのか・・・・?
『一体どうしたの?話が見えないのだけれど』
画面上の私の口が開くと同時に、私の言いたかった言葉が私の横でふきだしになって現れる。
声は出せないのだ。
「あのね、今日運命的な出会いをしたの」
『運命?』
彼女が言うには、本日の昼休みにとある男子とぶつかったそうである。
その人が、怪我をした自分を保健室まで送ってくれたらしい。
『まさか、介抱してくれたから好きになったとかじゃないわよね?』
そんなことはないと思いつつも、一応尋ねてみる。
しかし、彼女は私から目線をそらした。
『ええええええっ!?ちょっと待ちなさい。一目惚れってこと?それって』
「一目で好きになったわけじゃないから一目惚れじゃないよ!」
そういう問題じゃない。
私、そういうの(恋愛沙汰)が苦手なのと本音を明かしてみると、かなり落ち込んだ顔をされた。何、私が悪いのか。
その次の日から、彼女はそのとある男子に猛烈アタックをしているらしい。
結局今の今まで名前は教えてくれないのだが、そこそこ順調に言っているのだそう。
まあ、元がかわいいから、予想されていた結果であったが。
私は、持ち運ぶことができない。
今話題のスマートフォン?とかいうやつならその中に入り込むことが可能ならしいが、あいにく加奈子の携帯はガラケーだ。
私の重さでは非常に重くなるので無理なのだそう。
私の友達の主が、スマホなので(スマートフォンの略なのにスマホなのは理解しがたいけど)たまにうらやましく思う。
だって、主のサポート役ならば、こういう時こそ積極的に行くべきだよね。
もどかしく思いながらも、今日も空の星に祈る。
空と言っても、マイフォルダに入れられていたまがい物の空なのだが、私は祈った。
夜と外出時はパソコンの電源は切られており、今パソコンの画面を見るならば真っ暗であろう。
なんせ、外が見えないのだ。星に祈ろうとも、画面が消えているため、見えない。
私に見えているのは、デスクトップの内側だけ。
フォルダなどは漁ることができるが、外の世界は見えない。
いつも、この状態になると、私は不安になる。
私はもう、ここから外の世界を見ることができなくなるのではないかという不安。
それは、インストールされた時から思っていた。
何故、製作者は思考能力を持たせたのか。
人間と同じように不安になるというのに。
現在の時刻は、2時を回ったところ。
加奈子は、明日の為に先ほどまでクッキーを焼いていた。
明日はバレンタインデー。
中学校最後の特別な日でもある。告白するつもりなのだ。
加奈子と男子は、同じ高校に行くらしいのだが、少し心配である。
フラれたらどうするとか、全く考えていないようで。
私は、もどかしさに身を奮わす。
しかし、私はサポート役で、彼女の目下の悩みは恋なのだ。
インターネット回線へ入り込み、チョコケーキやクッキーなどの作り方を参照してやることができる。
それだけではあるが、私は私にできることをしたまで。
ここから先は、後押ししてやることはできるが、彼女の問題だ。
私は、もう一度願う。
もう、あのときみたいなことにはなりませんように。
結論から言うと、加奈子と泉は恋人同士になった。
ああ、泉とはとある男子の事。最後まで教えてくれなかったので、勝手に調べておいた。
裏サイトとはかなり便利だと思う。
バレンタインデーの告白はうまくいったらしく、不気味に思うほどの笑みと共に帰宅した。
そこからののろけ話と言ったらもう・・・・口から砂糖を吐き出すかと思った。
電子妖精たる私が、砂糖なんぞ口から出せないけど。
しかし、告白がうまくいってよかった。
あの星空の画像を幸運を呼ぶ画像としてネットに流そうか。
私の名前はセキ。
本当のお仕事は、パソコンを守る事だ。
うんまあ、つまりセキュリティシステムである。
しかし、加奈子はインターネットにつなぐことはない。
ガラケーで用を済ませてしまうのである。
フィルタリングサービスはついていないため、検索し放題なのだそう。
つまり、このパソコンでインターネットをつなぐのは私以外になく、私自身がセキュリティのため、ウイルスはやってこないのだ。
何で私をインストールしたのかは未だに分かっていないが、そのうち聞こうと思う。
私は、今日も本来のお仕事ではなく、わが主の相談に乗っている。
嫉妬深いのもほどほどにしておけと思うが、言わない。
結局のところ、恋人同士の関係というものはそうであると思っているから。
私は、傍観者として彼女を見守っていこうと思う。
閲覧ありがとうございます。
小説に煮詰まると別の小説を書いてしまうのが私のくせだと最近理解した次第であります。
この話の中身がスカスカすぎて、笑うしかないですもう。