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造形された空間 3

再度襲来してきた道化師達を蹴散らしながら、移動を図ったアルダート達。

その後徐々に暗くなる空を見ながら、彼等はこれからどうするかを考えるべく安全を確保出来る場所を探していた。

造形された地区である街中は何処も危険と見てか、彼等はもっと現実味のある場所を探していた。




「・・・ぁっ、ココとか良いんじゃねぇか?」


暗くなり街灯に明りが灯され出した頃、先導をきって歩いていたミークが後ろに居た集団に告げた。

彼の声を聞いた皆は前を見てみると、そこには先ほどまでのレプリカに近い建物とは違った場所が広がっていた。



恐らくゴミ集積場なのであろうと思われるそこは、何処か薄汚れた機材や廃材が大量に積まれている場所だった。

しかし生ゴミは無い様子で、害虫の姿は無く壊れた物しか置かれていなかった。

人気も無く明かりもないが、先ほどまでの敵が沸き出る空間とは違い何処か安心感があった。


「きったないわねぇー・・・ せめてもうちょっとゴージャスな場所は無いの?」

「贅沢言うなって。 元々俺等はこの地区に歓迎されてない集団なんだから、こういう人気のない方が安全だろ?」


とはいえ華美ではないため女性陣からは不評であり、ペルティは誰もが思っているであろう文句を言った。

その一言に数人が頷くも、彼は考えを変えず安全性と雰囲気が良い場所として選んだことを言った。

誰も賛成の声は無いまま彼は作業を始めだし、簡単に散らかっているであろう木材達を規則正しく並べだした。


運がいいのかそこに置かれているのはどれも温かみのある物ばかりであり、プラスチックの様な人工物はほとんどなかった。

壊れた廃材に家具が点々と置かれており、彼は得意げにホイホイと荷物を動かし壁を造り屋根を造りと作業を行っていた。

何処か手慣れている様子で、何かを作っていた。


「ちょっとこの辺のを動かせば、秘密基地に近いアジト位は造れるだろ? 当分この地区には居るんだろうし、寝床は欲しいしなー」

「秘密基地!? やるやるやる!!!」

「お、俺もーー!!」


軽い提案のつもりでミークは何を作っているか言うと、それを聞いた男性陣が声を上げだした。

何処か子供っぽくも夢のある響きだった様子で、ソニルスとライトは盛大に挙手をした後に彼と同じように廃材を退かし適当な所に並べだしたのだった。

それをみた残りの男性陣も口々に相談した後、彼等の後を追うように木材に手をかけ役割分担をして行動することになった。


「ぁーもー・・・ 何でこうガキっぽい事が好きなの? この連中は。」

「で、でも夢があって私は好きだけどなぁ・・・」

「そこっ、味方しないっ! ・・・もー、分かったわよ。 疲れるのと汚れるのだけは嫌だからねー」


とはいえ納得出来ない人も、中には居る様子。

渋々折れたペルティは簡単な仕事をしつつ汚れない様にと木材に手をかけ、手伝いに入って行った。

返答に困りつつも彼女の後をベルミリオンが追いだし、後に続いて行った。


「うーしっ、俺達もやろうぜっ!」

「うんっ」


元々気にはしていたが手を出さなかったクロと涼も参戦する事にした様子で、皆が総出で作業を行う事となったのだった。

文句をいう者もいればノリノリで作業をする者達もおり、何処となく楽しげな雰囲気が漂っていた。






それから辺りが真っ暗になる頃、彼等が作業を行っていた場所に1つの明かりが灯された。

明りの正体は流星石であり、東屋に壁を付け足しただけの掘っ立て小屋に優しげな光が出たのだった。


「うーしっ、俺達の家の完成だっ!! 結構いい出来じゃねぇかー」

「やれば出来るもんだな! ぁ、看板とかもつけようぜ!!」

「ペンキとかでいろいろ付け加えるのも楽しそうだよなー 今度なんか持って来ようぜ。」

「良いな! それ!」


何はともあれ、出来上がった家にカツキ達は大喜びではしゃいでいた。

久しぶりに皆で楽しげな事をしたのが何よりも嬉しい様子で、少し前まで戦い疲れていた事など忘れさせる雰囲気であった。


「まったく・・・ 家具が無かったら絶対ここで寝なかったわ。」

「男の子達と一緒に寝るって言うのも・・・ ちょっと、ね。」


しかしまだ納得出来ていないメンツもおり、性別の違いからか考えも違う様子だった。

餞別しマシだと判断されたソファやベットが家の中に置かれており、その上に寝そべりながらペルティは渋い顔を見せていた。

確かに皆が同じ考えであれば違いは生まれないが、こういう所は男女の違いが生まれてしまう物だ。

とりあえずと言わんばかりにパーテーションで部屋の仕切りは造ったが、それでも安心面は駆ける様だ。


「寝たからって、襲ってこないでよね!? 獣共!!」

「俺等皆動物だっつーの・・・ ってか、誰も襲わねぇって。」

「うっさいっ!」


何処となく互いへの信頼性は無い様子で、まだ見慣れていない存在達には警戒態勢を見せる者も居た。

無論意気投合している物もいるため不安は無いのだが、その辺はおいておこう。



その後外に食料を調達に出ていたメンツが帰宅すると、そこで食事を取る形となるのであった。






「・・・なぁ、ストレンジャー・・・だっけ?」

「何だ、ミーク・・・」


食事の席が開始しいつの間にか賑やかになっていると、部屋の隅で食べていたストレンジャーの元にミークがやって来た。

手には飲み物とおにぎりが持たれており、話をするために来た様子だった。


「お前、本当に名前覚えてないのか。 名前以前に記憶も無かったら、辛くないか・・・?」


話の内容は簡単な物であり、彼の紹介を受けた時の事だった。

アルダートの説明で完全には満足していない所が多々あり、仮の名前で呼ばれる事に違和感はないのかを聞きたかったようだ。

何処か心配そうに聞いてくる青年を見て、ストレンジャーは静かに答えた。


「・・・辛くないと言ったら、嘘になるだろうな。 それで時々アルダートには迷惑はかけたし、俺の紹介をしてくれた時も困らせた・・・」

「だよなぁー ・・・っても、俺はそう言う事が無いから同情は出来ねぇけどさ。 元気出せって、明るい方が良いぜ?」

「・・・」


話を聞いて彼なりに励ましてくれている事を聞くと、ストレンジャーは軽く頷きサンドイッチを口にした。

何時も自分が笑わない事が気に食わないのだろうか、それとももっと笑って欲しいのか。

どっちかは解らないが気にしてくれていると思い、ストレンジャーは嬉しく思うのだった。


口にした食物が喉を通り終えると、彼は軽く「ありがとう」と礼を言うのだった。




「・・・ぁっ、ストレンジャーさん、ミークさん。 僕も一緒にそこで食べても良いですか?」

「? あぁ、良いぜー」

「ありがとうございます。」


そんな2人の空間が調和してきた頃、彼等の元にアルダートがやって来た。

手には一緒に食べようと思って持ってきたのであろう食べ物が持たれており、手にしていたドリンクを軽くストレンジャーに手渡した。

それに対し彼はお礼を言うと、アルダートは笑顔を見せながら彼の隣に座った。


「アルダートは、コイツが記憶が無いって言われて辛くなかったか。 ・・・って、その様子を見ると怖くもないのか。」

「怖い・・・? ストレンジャーさんがですか?」

「・・・」


その後持っていた食べ物を口にすると、ミークは彼にも質問を投げかけてきた。

不意な質問に一瞬驚くも、アルダートは彼が何を言いたいのかわからない様子だった。


「・・・俺は、正直言うと怖いな。 記憶が無いってことは、思い出した時に何かをするって事だろ? 改革者になった俺が言えた義理じゃないけど、危険なのってやっぱ怖いしさ。」

「僕は、ストレンジャーさんは怖くないですよ。 最初は笑ってくれることもあまりありませんでしたが、今では僕に笑顔を見せてくれます。 ・・・むしろ、記憶を取り戻してあげられるお手伝いが出来たなら・・・ 良かったんですけど。」

「ぇっ。 何でだ?」

「記憶が無いってことは、それより前の大切な思い出が無いって事じゃないですか。 辛い事もあったと思いますが、やっぱり大切な思い出は・・・ 持ってて欲しいんです。」


どうやら彼の怖い面に気付いた様子でミークは話しをしており、アルダートにそんな感情は無いのかと気にしていたようだ。

何時もそばに寄り添っている時点でそんな事は無い事は解っていたが、やっぱり不安な気持ちは拭いきれない様だ。

彼の話を聞いて考えに驚くも、アルダートの話を聞いているうちに彼は少しずつではあるが理解しようとしていた。


「・・・」

「僕はストレンジャーさんの事が大好きですよ。 いつも僕のそばに居てくれて、いつも僕の事を助けてくれました。 ・・・怖くなんてないです。」


その後アルダートはストレンジャーの方を見ると再び笑顔を見せ、本当にそうなのだと表情で伝えていた。

それを見たストレンジャーは彼の頭を軽く撫でると、アルダートは嬉しそうにはにかんだ。


「・・・不安な気持ちを、持たせてしまっていたのか。 俺は。」

「ぇっ、ぁー いや・・・」

「悪いな、ミーク・・・ ・・・俺は表情を常に変えられる方ではないから、いつもこの顔なんだ。 不安にさせたのなら、謝ろう。」


話を聞いているうちに思った事を理解しつつ彼はそう言い、ミークに静かに頭を下げた。

それを見たミークは一瞬驚くも、元々表情が柔らかくないためいつも無愛想で居る事を告げた。



彼が笑わない理由は解らないが、そうする必要が無いからこそ笑顔を見せないのかもしれない。

もしくは本当に見せたいと思う相手が、まだ彼の前には居ないのかもしれない。

彼等の居る家にはそんな気持ちを抱える者達は居ないため、きっと彼の気持ちは理解出来る者は居ないだろう。

ミークは彼の謝るその素振りを見て、一瞬のうちにその事を理解するのだった。




そして、こう言った。


「・・・俺の方こそ、ゴメン・・・ 怖いって、言って・・・ 何もしてないのにさ。」

「いや、良いさ。 もし君の言うように俺が危険な存在になってしまうのなら、君は迷わず俺を倒せばいい。 ・・・きっと俺の事で悲しむ人も居るだろうけど、思い出せない俺が悪いからな。」

「ストレンジャーさん・・・」


その後互いに謝りあうも彼はそう言い、敵になった時はそうして欲しいと意志を告げた。

軽く暗い雰囲気になる中ストレンジャーは手にしていたおにぎりを一口で食べ終えると、軽く合掌した後彼等の元を離れ1人外へと出て行ってしまった。

そんな彼の後を、彼等はただ見守る事しか出来ずにいた。




「・・・悪い事言っちまったな、俺。」

「ミークさんは悪くないですよ。 ストレンジャーさんは、そんな事で怒る様な人ではありませんから。 ・・・でも、会いたい人に会えない気持ちは・・・やっぱり、僕には解らないかもしれません・・・」

「俺もそうだな・・・ 今じゃ平和に想えていても、平和じゃない奴が近くに居るって思うと。 駄目なんだろうな・・・きっと。」


しばし反省し合う2人であったが、彼が帰ってきたら何をするかは一緒である事を話した。

彼が戻って来てからする事、それは1つだけ。



『何事もなかったかのように、彼を出迎え集団の内の1人である事を認める。』



ただ、それだけだった。


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