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造形された空間 1

再び入り込んだ大扉の先は、彼等にとって見覚えのある白い霧に包まれた光景が広がっていた。

辺りは靄によって色は無く、共に歩く2人の色以外は何もない状態。

手を握り先導を切っていたアルダートは、不意に不安になったのか右手の力を少し強くした。



すると、それに答えてか握られているストレンジャーは少しだけ手に力を込めそれに答える様に返事をした。


「・・・俺はここに居るぜ、アルダート。」

「うんっ」


軽く聞こえた声を耳にし、アルダートは少しだけ嬉しそうに返事をし歩きつつ彼の隣へと移動した。

そして並んで歩いている内に、次第に周囲を覆っていた霧が晴れて行った。






「・・・今度は、何処に付いたんでしょうか。」


徐々に色を取り戻していく造形物の姿を目にし、彼は呟きながら周囲を見渡した。

彼の呟きにストレンジャーは返事はしなかったが、同様に辺りを見渡していた。



彼等が新たにやって来た場所は、今まで2人がやって来た場所とは違った雰囲気を出す地区だった。

灰ビルでもアンティークの街でもない、表現のしにくい場所。

小さな一軒家が点々と立ち並び1つの地区を作りだして居るその場所は、何処か『おもちゃ』の様な雰囲気を醸し出していた。

家はどれも木造建築の様だが、目立った釘後も無く丁寧に塗り整えられたペンキが印象的だった。


1つの仕切られた土地に一軒の家が建ち、周囲にはどこか造られた雰囲気のある植木と外壁。

花も生きていると言うよりは『造られた』かのような、立体ではあるが平面の様な花。

その地区にある物は、どれも似せて作られた雰囲気のするものばかりだった。




そして前に居た地区同様、人の気配はしなかった。



「・・・何か、気味が悪いですね・・・ どれを見ても綺麗なのに、全部造って出来てる物ばかりです。」

「生き物ですら、造られた地区・・・ すでに生き物なんて居ないような場所だな・・・」


周囲の様子を見ていた彼等は、両サイドに家が建つ道路に立っていた。

灰色のコンクリートの上に立っていた彼等は、全て造形されている地区に気味悪がっていた。


今までどんな地区でも『植物』は全て生身であったのにも関わらず、この地区だけはそれすらも造られていた。

その上地区を歩き回る存在すら居ないその場所は、まるで1つの『ジオラマ』の様だ。

自分達はその上に立つ『人形』の様な、そんな雰囲気をさせる場所だった。


「・・・でもココに、僕の希望した人達が居る。 僕達と同じ改革をした人達が、必ず。」

「あぁ・・・居るはずだ。 ・・・探そう。」

「はいっ」


一通りの街並みを見終えると、ふと彼は大扉を通る前に頼んだ事を思い出した。

初めて通った扉の先でも、彼等の言った事が必ず実現し遠回しに再現されていた。

それならばこの場所にも、アルダートが頼んだ『改革者』が居るはず。

街の雰囲気に一瞬怯えたものの、彼は気合を入れ直し前へと進みだした。



そんな彼の後を、ストレンジャーは静かに付いて行くのだった。





スタスタスタ・・・


「こうやって2人で歩くのって、なんだか習慣になってきちゃいましたね。 初めは僕1人で、こんな事が出来るなんて思ってもみませんでした。」


誰もいない道路の中央を歩きながら、アルダートは不意に想った事を口にした。

初めて彼が外に跳び出した時にあった不安や恐怖は、今は存在せずに前へと歩き出せる。

1人で居た時の寂しさや孤独さは無く、今は一緒に並んで歩ける相手が居る。

その事を心から喜んでいる様子で、アルダートはストレンジャーに告げていた。


「・・・君が望んだ姿と行動が、今の状態になっているだけだ。 俺は何もしていない。」

「それでも、僕はストレンジャーさんと出会えて良かったです。 貴方に会えなかったら、僕は前みたいにこんなに笑顔を出す事なんて出来ませんでした。 もっともっと、貴方の隣で笑っていたいんです。」

「・・・ ・・・光栄だな。」

「はいっ」


彼からの意見を聞くもストレンジャーは謙虚にそう答え、自分は何もしていないと静かに言った。

だが本人が思っている以上に協力してもらえた事を彼は言い、これからも一緒に居て欲しいと言った。

自然と笑えるようになった彼の横顔は柔らかく、初めて会った時の不安の色は無かった。

しかしそれ以上に何かをしなければならないと言う意気込みだけは残っている様子で、初めの時よりもずっと強くなったアルダートが居た。


共に居て欲しいと告げられ、ストレンジャーは軽く微笑みながら返事を返した。

するとアルダートは満面の笑みを浮かべ、その声に答えるのだった。




だがそんな平和な時間は、長くは続かなかった・・・





ガタガタガタ・・・!


「ぇっ? 何ですか・・・!?」

「敵・・・!!」


不意に彼等の周囲から瓦礫が崩れる音が聞こえ、静寂を取り乱す音が周囲を囲んだ。

突如やって来た音と恐怖感を感じ、アルダートは驚きストレンジャーの影に隠れつつ右手に流星石を構えた。

同様にストレンジャーは彼は背後に隠しつつ、適当に取り出した流星石を握りしめ周囲を気にした。


すると、




バキバキバキ!!


「!!」


彼等の居る両脇の外壁が突如破れだし、中から道化師と思われる奇妙な存在が姿を現した。

現れた敵はおぼつか無い足取りで静かに前へと進みだし、ゆっくりと彼等を囲うように移動し出した。

まるで操られているかのような雰囲気が、道化師としての迫力を物語る風景だった。

次第に増えていく敵を目にし、ストレンジャーはどう行動するかと敵を睨みながら考えていた。

すると、



《キェエエエエエーーー!!!》

『来る・・・!!』


不意に奇声を上げだした道化師達は釣り糸で引かれているかのように胴体から宙へと飛び出し、彼等目がけて襲い掛かって来た。

敵襲を目撃したストレンジャーはアルダートを抱え、飛んだ際にがら空きになった道化師達の足もと目掛けて跳び出した。

相手の襲撃をひとまず回避し終えると、つい先ほどまで彼等が居た道路には道化師達が集まっており、足元のコンクリート盤が浮き上がり襲撃された際の威力を物がっていた。

道化師達の両手には包丁の様な透明な刃物も見え、流星石で造られた武器を持っている事が分かった。


「・・・敵の数が多いな。 いけるか、アルダート。」


周囲が安全である事を確認し終えると、ストレンジャーは抱えていたアルダートを見ながら戦えるかと確認を取った。

今まで戦闘に参加させる事のなかった彼であったが、敵の数が多く何をしでかすか解らない敵の大群には無理をしない様考えたのだろう。

助力を求められたアルダートは首を縦に振り、改めて流星石を構えた。


「ぁ、はいっ ・・・僕だって、何時までもお荷物になっている訳には行きませんから。 無理だけは、なるべくしないようにします。」

「上出来だ。 ・・・来るぞ!」

「はい!!」


戦えることを確認し終えると、2人は互いに選んだ流星石の栓を抜き、戦闘態勢に入った。

すると、それを待っていたかのように道化師達は再び彼等に向かって襲い掛かって行った。






「破ッ!!」


道化師達の動きを見た2人は、双方に別れ敵の分散を図ってから戦闘を試みた。

一部の敵が自らの元へとやってくる事を見たストレンジャーは、瓶を振り液体を散布し攻撃を開始した。

液体は火球弾となり、襲いかかろうとしていた道化師の一部に命中し衣服を燃やし出した。


《キェエエエエーーー!!!》

「身体は普通か。 なら、これでも十分だ・・・!」


衣服と共に燃え散る道化師達を見て、彼は通常の攻撃が効く事を確認し栓を閉め別の流星石へと持ち替えた。

その際やってくる敵を蹴り飛ばしながら相手を避けると、取り出した流星石の栓を引き抜き瓶を振った。

すると今度は周囲にカマイタチが生成され、縦横無尽に飛び交い道化師達を襲った。


《キェエエエエエーーーー!!!》


服を裂かれた道化師達は徐々に消え失せ、布切れとなって居なくなってしまった。

だが敵の数は減る様子を見せず、次から次へと彼等に向かって襲い掛かって来た。


『・・・減る様子は見せない・・ ・・・となると、まだ敵襲はありえるのか・・・!!』




「はぁああっ!!!」


一方別の場所で戦っていたアルダートは、瓶を振り確実に1人1人相手を減らしていた。

使かっていた流星石はつい先ほど仕入れた【(アロー)】であり、大きくも野太い矢は道化師達を貫いていた。

矢が刺さった相手はその場で崩れ落ち、背後に居た道化師の一部もそのまま貫通し消していた。


「クラウさんに託されたんです・・・! 僕はまだ、止まるわけには行かない!! 消えて下さい!」


攻撃する際も撃ち落とせない敵襲があり、アルダートは何度も回避し相手の攻撃を避けながら仕留めていた。

今まで戦いに参戦していなかった彼であっても、身体能力は良く軽く跳んでも確実に着地し前転しても周囲に気を配る事を止めなかった。

戦いは不向きであったとしても、彼の身体には素質がある様だ。



道化師達は相手の攻撃を受け何度も奇声を上げながら消える中、やはり数を減らす兆候を見せようとはしなかった。

それどころかどんどん襲い掛かるペースが速くなり、回避しても続けざまに襲い掛かる相手が居る程だ。


必死に攻防戦を続ける彼等であったが、何時しか追い込まれ背中わせに囲まれてしまっていた。




「ハァ・・・ハァ・・・ ・・・ど、どうしよう。 全然減りません!」

「撃ち落としても蹴散らしても、何故減らないんだ・・・ ・・・何処か大本があるのか。」


両サイドから囲まれ背中合わせになっていた2人は、顔の向きは変えず前を見たままやり取りをした。

攻撃しても攻撃しても減らない道化師達は仮面を付けたまま笑っており、相変わらずおぼつか無い足取りでフラフラと待機していた。

中には袖から見せる刃をちらつかせながら、いつ襲いかかって来てもおかしくない敵も居る程だった。


「ど、どうしましょうストレンジャーさん。 このままじゃ・・・」

「・・・ ・・・でも、諦めるわけには行かない。 ・・・怖いか。」


劣勢になりつつある状況を見て、アルダートは少し声を震わせた。

全力で戦っているにも関わらず不気味な笑みを浮かべる相手ほど、自らの心境を覆す者は居ない。

声を震わせるアルダートを思い、ストレンジャーは静かに声をかけた。


「大丈夫・・・です。 貴方が居るなら、僕は大丈夫です。」

「・・無理させて済まない。 ・・・まだ、負けないぜ!!」

「はいっ!」


そんな彼の声に返事を返すと、2人は再度深呼吸し相手に向かって戦いを挑もうとした。

すると、






「お前等!! 今助けるからなっ!!」

「ぇっ・・・?」


何処からともなく声が聞こえ、それと同時に立ちふさがっていた道化師達が右から左へと吹き飛んで行った。

同時に周囲に強風が吹き荒れ、瞬時に2人は足に力を入れ踏ん張った。



しばらくすると風が徐々に収まり、2人は風と声の下方角を見た。

するとそこには1人の青年が立っており、後からやってくる存在達の姿も見えてきた。




「改革・・者・・・?」


吹き飛んだ際に瓦礫が舞い上がり、誰がやって来たのかとストレンジャーは体制を立て直しながら相手を見た。

影に近かった相手はすぐに色を取り戻し、茶色い犬である事が分かった。

その手には流星石と思われる瓶も握られており、先ほどの風は彼が起こしたものだろうと判断した。


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