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外伝2・唯一叶った願い事 1

「う・・・そ・・・だろ・・・! クラウ、クラウ!!」


急遽目の前で行われた自分の事を『守ろう』とする行為と、その対価となる『仲間割れ』の行為。



懸命に自分のために戦ってくれた獣人を見て、ぼうくんは彼の名前を叫びながら傷ついた彼の元へと駆け寄った。


「・・・ぼうくん・・・ ・・・ハハハ・・・ようやく、名前を呼んでくれたな・・・」

「何で・・・! 何で俺なんかのために!! 俺には誰にも必要とされてない、必要性を感じてくれないほどの屑なのに!! 何でこんなことをしたんだ!」


必死に自分の体形以上に背丈があるクラウの背中に彼は手を置き、身体を起こそうとした。

するとその手の温かさを感じクラウは気を失いかけていた眼を開け、自分の名前を呼んでくれた事を軽く喜んでいた。



探し求めていた本当の相手を、ようやく見つけたような気にも見えた。



しかし身体には無数の切り傷があり、出血も見られこのままでは彼の命が危うかった。


「馬鹿だな、ぼうくんは・・・ そんな事、言わなくても俺がする理由・・・わかってるんだろ?」

「・・・」

「俺は君と一緒に居たい、守りたいから・・・ どんなに性格が違っても、それでも俺は・・・ぼうくんが必要なんだ・・・ 探したい、見つけたいって思うくらいにね。」


そんな彼の顔を見ながら話していたクラウは、懸命に負傷した右腕を動かし彼の左頬に手を添えた。

泣き叫んでいた事を感じたためか、少しでも彼の心を落ち着かせたいとクラウは考えていた。

たとえ言葉で何かを叫んでも、それ以上の行為を求める寂しい存在。

それが『ぼうくん』であると、彼は感じていた。



そんな寂しげな光景を見てか、アスピセスは特に追撃等はせずしばらく様子を見ていた。

しかし暇な様で、何処からともなくお菓子を取り出し一服する様に口に入れていた。





「・・・なぁ、ぼうくん・・・」

「何だ、クラウ・・・」


軽く泣いていたぼうくんを見て、クラウは彼の涙を指先で拭いつつ声をかけた。

それに反応して、されるがままであったぼうくんは返事をした。


「俺の事を必要としてくれている人が、もう1人この世界には居るんだ・・・ ・・・でも、もう俺にはその人のそばへ行く資格がない・・・ ・・・だから、頼みたい。」

「・・・」

「俺の代わりに、プリンセスの所へ行って・・・ ・・・あの人の心を、開放してやって欲しい・・・ 俺に出来る事をしたつもりだったけど、もうこれ以上は無理みたいだ。」


次第に顔に触れていた手は彼の手へと移動し、クラウは目を見てそう言いながら彼の手を握った。

今まで彼に会うまで行動を共にしていた存在がおり、彼以上に苦しむ存在が居る。

その人の所へ行って、自分の代わりに心を開放してやって欲しいと言った。



自分の事をずっと見ていたからこそ、クラウにはわかっていた。

プリンセスがどれだけ他の人達を羨ましく思い、その行動を自分にもしてもらいたいと思っていた事を。

それゆえに自分で出来る事をクラウも行っており、存在のそばにいた。



しかし本当に会うべき存在に出会い、反逆者となってしまった今となっては。

その人のそばへ行く資格がないため、街を変える希望を持った彼に頼んでいたのだ。


「・・・」

「コレ・・・」


特に返事をしなかったぼうくんを見つつも、クラウは右手を動かしポケットに手を入れ1つの流星石を取り出した。

それは今まで見た事が無いデザインが施された流星石であり、貴重な代物だと言うのが見て取れた。

華の様な華美な模様が入ったその流星石を見て、ぼうくんは手を離された左手でその流星石を手にした。


「これがあれば、あの人の所に行ける・・・ ・・・他の地区にも、ぼうくんと同じ存在が多数いるのを知っている。 その人達と・・・一緒に」

「嫌だ・・・」

「・・・」



「嫌だ・・・ 俺は・・・あの場所に、あの場所に・・・! 俺は行きたくないっ!!」


とても貴重な代物だと言う事を説明しながら、クラウは他の地区にもいる存在達と共にその場所へと向かってほしいと言った。

それを聞いたぼうくんは、急に振るえるようにそう言いだし泣き叫んだ。


今まで他の地区をちらほらと1人で見ていた彼にとって、他の地区に居る存在達の様には行動できない。

仲間など信用できない彼にとって、その集団に入る事を恐れていたのだ。

元より1人で居たからこそ、再び干渉し傷つく事を怖がっていた。




そんなぼうくんの心の声を聞き、クラウは再び右手を動かし彼の手に触れた。


「もう、良いんだ・・・」

「ぇ・・・」

「居たいとか、居たくないとか・・・気にしなくてもいいよ。 ・・・俺の、最初で最後のわがままだからさ。 聞き届けて、欲しいだけなんだ。」


そして身体を震わせている彼に声をかけ、彼自身の理由ではなく自分の理由だけでそこへ向かってくれればいいと言った。

元よりわがままなど言う事は彼には無かったため、唯一信じている存在にこそしたい。

託したい相手だからこそ、そうして欲しいと彼は言っていた。


「クラウ・・・ お前・・・」

「プリンセスもそうだけど、ぼうくんも分かってるだろ・・・? 俺は見た目よりも忠実っていうよりは、適当な性格なんだからさ・・・ 悪戯が好きって、思ってくれ。」

「・・・」


そして傷で身体が痛むのをお構いなしで、クラウは一度目を閉じゆっくりと目を開け笑顔でそう言った。

あくまでクラウのわがままで行って欲しいと言う事を聞き、ぼうくんは自分の事を考えて言ってくれた事に涙した。



どうしてそこまで心を揺らす相手を、自分は否定していたのか。

改めて考えると、何が何だかわからない気持ちになってきたようだ。

そして感情に身を任せ、涙を流していた。


「聞き届けてくれるか・・・ぼうくん。」

「・・・ ・・・分かった。 お前の頼みだからな・・・」




「ありがとう。」


再度問われ、ぼうくんは拭いつつも流れてくる涙をよそに、笑顔で彼にそう返事をした。

するとその返答を聞けて嬉しかった様で、クラウは再び笑顔を見せた。

しかし、右手から力が抜ける感覚に陥った様で次第に彼の手を握っていた手は離れだし、彼は目を閉じ動かなくなってしまった。

笑顔を残したまま顔は次第に傾き、気を失ってしまった様だった。



「クラウ・・・? クラウ! クラウ!!」


そんな彼を見かね、再びぼうくんは彼の名前を呼んだ。

だがその声は彼の耳には届いても、目を開ける事は無かった。


「・・・なんで・・・ ・・・お前が、俺の代わりに・・・ 





死なないと・・・いけないんだぁぁあああーー!!!!」




言葉では否定していても、心では否定していなかったかのように。

ぼうくんは彼が動かない事に苛立ち、そう叫んだ。

それと同時に涙が溢れ、再び彼は大量の涙を流した。

これ以上ないかと思うくらいに泣き叫び、たくさん泣いていた。


たった1人だけでも、自分の事を待っていてくれた存在が倒れてしまった事。

ただ、それだけに。







「・・・ったく、手こずらせやがって・・・ 裏切り者が。」

「・・・」


一通り泣いて気が落ち着いた頃。

アスピセスはクラウが動かなくなったことを確認し、丁度食べていたお菓子が無くなったと同時にそう言った。

それを聞いて、ぼうくんは先ほどから変わらぬ体制で彼を支えており、近くでずっと握っていた左手を離そうとはしなかった。


「俺達はプリンセスに助けられた存在だ。 その元から離れて他の輩と一緒に居ようだなんて、甘い考え持ったのが罪なんだよ。」

「・・・」

「第一、こんな輩の何処が良いってんだよ。 品の欠片もない腐った存在が。 馬鹿な獣人だなぁ、本当に。」




「クラウは・・・馬鹿なんかじゃない・・・」

「あ?」


何も言わずずっと彼の言葉を聞いていると、不意にぼうくんは呟くようにそう言った。

そしてクラウの身体をゆっくりと地面に寝かせると、その場に立ち上がり彼を睨んだ。

軽く残っていた涙を全て拭うと、アスピセスと対立する様にクラウの前に立った。


「お前なんかに、クラウの気持ちはわからない・・・ 守りたい存在が、1人しかいないお前なんかに・・・! クラウを馬鹿にする資格はねぇんだよ!!」

「・・・」


そして彼の言った言葉に訂正を加えるかのように、ぼうくんは彼を庇うようにそう叫んだ。

命を懸けてまで自分の事を守ってくれた、たとえその後にどんな仕打ちが来ようとも決して考えを曲げる事はなかった。

1人だけのためにしか行動できない考えの持ち主には、そんな事は絶対に理解できないと言い放った。


「コイツは、助けたいと思う俺と助けられたプリンセスとやらの気持ちの中。 必死になって俺の事を助けてくれたんだ! お前等から裏切り者として見られる事を、分かったうえでだ!」

「それの何処が馬鹿だって言わねぇんだよ。 殺られるって解ってるんだったら、普通は安全な方を選ぶだろ。」

「それじゃあ・・・お前らはただ『逃げてる』だけなんだよ!!!」




「ッ・・・」


自分と出会う前までに助けてもらった存在の事を想うも、それでも後から出会った本当に守りたいと言う自分の事を思う気持ち。

そんな両者を取る事が出来ない考えの中、必死に苦しみ考え行動した結果が、今のクラウだと言った。

たとえそれが安全な道でなかったとしても、それでも彼は考えを変えるつもりはない。

逃げようとはしなかったのだと、ぼうくんは言った。



ただまっすぐに前を見続けて、そして行き着いた考え。

それを否定する事は、絶対に許さないと彼は言った。


「・・・」

「お前等だって、こんな考えはおかしいとは思うだろ・・・ 安全な道ばかり選んで、苦悩するこの街の存在をずっと見続けていたら! おかしいと思うだろ!?」

「うるさい! 俺はプリンセスの考えを想い、あの人がこれ以上苦しまないように行動しているだけだ!!」

「そんなのはただの思い込みだ!! 心があるなら、お前の心に問いかけろ!!」


そしてこの街の仕組みについて、一番良く知る存在であるアスピセスに彼は問いかけていた。

自分達だけ楽な暮らしをし、周りの存在がどんどん傷つき苦しむ姿をずっと見ていたら、普通の存在だったらおかしいと思うはずだと。

だがそれを認めようとはしないアスピセスを見て、彼は怒鳴る様に説教した。


「心に嘘をつく様な奴が、他人を守れる訳ねぇんだよ!! 今すぐにその考え方を変えろ!!」

「・・・黙れ・・・! お前も同罪だ!! そこの馬鹿獣人同様に、テメェも殺してやる!!!」




そして言うだけ言われ、アスピセスは我慢出来なくなった様子で流星石を取り出し戦闘態勢に入った。

無論ぼうくんもそんな相手を見過ごす事は無く、同様に背後で倒れているクラウのためにと流星石を取り出した。

そして、心の中でこう呟いた。



『クラウ・・・ 今まで・・・ごめんな。 お前の望み、必ず叶えるからな・・・』



願いと希望を胸に秘め、ぼうくんは彼の願いと共に戦闘を行う事を決心し、大地を蹴った。


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