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外伝2・最愛の相手の祈りと雫 4

ガタン・・・ガタン・・・



「・・・? 帰って、来たのか・・・?」


いつの間にか眠ってしまっていたぼうくんは、不意に耳にした物音に釣られて目を覚ました。

身体を起こし屋上と階段を繋ぐ扉の元へと向かうも、扉は閉まっており誰かが来た形跡もなかった。


「・・・気のせ・・・ ・・・?」


しかし、1つだけ妙な事に彼は気が付いた。

それは扉とは別の方角であり、彼の背後に広がる屋上からの眺めに異変があった。



所々に突き出た岩が目立っており、場所によっては砂嵐の起こっている所もあった。

暗雲が寄り濃くなり視界が悪くなって行くも、その現象が起こっている場所だけは何故か雲が薄く日差しが降りるか降りないかの状態となっていた。

そして、時々何かが崩れるかのような音が聞こえてきた。


「・・・クラウ・・・!」


目の前で起こる現象を目撃し、ぼうくんは何か嫌な予感がした様子でソファに置いてあった流星石を手にした。

手にした流星石をしっかり握りしめると、彼は栓を抜いたまま屋上から飛び降りた。

そして適当なビルの壁に液体を張り付けると、まるでワイヤーアクションをしているかのように引力に引かれて身体を宙へと飛び出した。


『怪我・・・してないよな! クラウ・・・!!』


飛び出した反動でしばらく滞空しながら、ぼうくんは必死にクラウの姿を探した。



せっかく会えた相手に、自分は何をするべきか。

そんな考えすらもまとまらない状況であったが、今は彼の元に行きたい。

彼の元に行って、安否を確かめたい。 怪我をしてないか確認したい。


ただそれだけの想いで、彼は空を飛ぶのだった・・・







「クッ!!」


ガシャーンッ!!



そんな彼が必死の捜索をしている中、クラウは飛ばされた反動で瓦礫が散乱した場所に放り込まれていた。

幸い致命傷となる物がなかった事もあり、彼は痛む背中を抑えつつも続けて急襲してくる相手の攻撃を避けていた。


「おらおらおら!!! 避けてばっかりいないで、ちったぁあ俺に攻撃でも当ててみろやぁあ!!」

「チッ!」


対峙しているアスピセスは両手に構えた【狙撃銃(スナイパーライフル)】でクラウを射抜こうとしており、マシンガンの様に乱発しつつも相手を狙って撃っていた。

そんな彼の攻撃に対しクラウは【水力光鞭(イアーラミスティ)】で弾丸を弾き、時々やってくる砂塵弾を避けていた。

周囲に立ち上る砂嵐はアスピセスの流星石によって発生しており、時々やってくる砂塵弾はその砂嵐が定期的に行ってくる援護射撃に過ぎない。

だがクラウには一発も当たっているほどの余裕は無く、今は戦う事だけを最優先にしていた。



それでも相手を傷つける事だけは避けたい様子で、自らが戦いに行くことは無かった。


「遠距離が苦手かぁ? 攻めるのが怖いかぁあ? 雄獣人のくせに、そう言うところは半人前だなぁあああ!!」

「何とでも言え!! ・・・俺はやられるわけにもいかないが、管理課として行動しプリンセスの元に居るべき相手のお前を・・・! 殺すつもりもない!!」

「ハーッハッハッハ!!! とうとう乙女まで捨てたかぁ! 腐れ獣人!」



「!!!」


傷つけたくない、やられたくもない。

その心境の最中での発言に対し、アスピセスはプリンセスまでも捨てたのだと叫んだ。

すると、それを耳にしたクラウは表情を一変させ、持っていた鞭で攻撃を払いつつ左手に流星石【(ランス)】を生成した。

そして一気に間合いを詰めるべく弾丸の様に投げ放ち、彼に攻撃を仕掛けた。


「なっ!!」


不意な行動を目にした彼は、持っていた銃で槍を撃ち落とそうと弾丸を放った。

しかし投擲された槍はそれくらいでは落ちる事は無く、ましてや獣人が投げたと言う事もあってかすさまじいスピードで彼の元に接近していた。

慌てた彼は撃ち落とす事を止め、素直に横へと回避した。

すると、


「ハッ!!!」



バシュンッ!


何時の間にか間合いを詰め終わっていたクラウが鞭を構え、彼の持っていた流星石を弾き飛ばした。

それによって無防備になった事を確認すると、彼は彼の体毛の生えた胸ぐらを掴み持ち上げた。

不意な事もあり慌てて掴んでいる両手を払おうとするも、アスピセスは持ち上げられた身体もあり息を保つのがやっとの状態になっていた。


「・・・もう一度言ってみろ・・・ 誰が・・・! プリンセスを捨てたと言ったぁあ!!」

「ゥッ・・・グゥッ・・・!」

「俺はあの人を捨てたりなんかしない・・・! 距離が出来たと思っても、俺は好きだと感じた相手を絶対に捨てない!! その気持ちだけは、イツワリじゃない!!」


苦しむ彼を見ながらも思っている事全てを吐き出し、クラウはそのままアスピセスを投げ飛ばした。

それによって彼は地面との摩擦で身体に傷ができるも、体制を立て直そうと手足を使い踏ん張っていた。


「ガハァッ・・・! ゲホッゲホッ・・・ ・・・偽りじゃない・・・だと・・・」

「俺がどれだけ馬鹿で愚かだと、言われる分には一向に構わない。 ・・・現に俺は、大切な人を誰一人救えないほどの存在だ。 お前に愚かだと言われても、否定はしない。」


身体が地面の上で滑るのが止まると、アスピセスは呼吸をし直し彼に問いかけた。

問いかけに対しクラウはそう答え、投げ飛ばした位置からアスピセスを睨みながら言い放った。



大切な存在を救えない、時間をかけて探していても忘れてしまった。

そんな自分は愚かであり、馬鹿だと言われても否定はしない。



それだけの大罪を犯してきたと、クラウは言った。


「だがな。 あの人に対しての気持ちが偽りだと言われたら、俺は何度だって違うと言う。 恋愛紛いだとか、変だと言われても・・・それは、俺が決めた事だ。 他人に何かを言われて変える程の、抑えられる気持ちじゃないんだ。 ・・・お前だってそうだろ。 アスピセス。」

「・・・」


自分に対しての文句は否定しなくても、クラウはプリンセスに対しての暴言に値する発言だけは絶対に否定すると言い放った。

実際に彼はプリンセスの事が大好きであり、祈りを共にしようと交わし指輪を創るほどだ。

誰かが自分の気持ちを否定されても、それでも貫きたい思いがある。


抑えられる気持ちではないからこそ、そうしたいのだと言った。

『お前もそうじゃないのか?』と言われるも、アスピセスは何も返事をする事は無かった。





ガタンッ・・・


「? ・・・ぼうくん?」


そんな2人だけの空間に、不意に別の方向から物音が聞こえた。

驚いたクラウは音の下方角を見ると、そこには瓦礫の上に降り立ったのかゆっくりと地面に降りようとするぼうくんの姿があった。

表情は左程変わりは無いものの、どうしてそこに居るのかクラウにはわからない様だった。


「・・・仲間割れ・・・なのか。」


整えられた歩道に降り立つと、ぼうくんは静かにクラウに今の状況が争いなのかと問いかけた。

それに対しクラウは静かに頷き、険しい表情は無くなりいつもの穏やかな彼の顔へと変えた。


「ゴメンな、ぼうくん。 報告する前に、俺は大罪を抱える事になってしまったんだ。 そんな俺が君の元に行く事すら、叶わなかったみたいだね。」

「・・・」


彼の意見を否定しなかった事と、彼の元に行きたくても行くだけの資格が無くなってしまった事をクラウは説明した。

どれだけ思っても敵わない事がいくらでもあり、そのために行動しなければならない時もある。

だが相手に見合うだけの価値が無ければ、その行動すらも敵わない事を告げるかのような言い方だった。


「・・・俺、お前の事・・・ ・・・嫌いじゃない・・・ ・・・価値が無いなんて・・・思わない。」

「そっか・・・ でも、ゴメン。 自分から、行く事は出来なかった。」

「・・・ ・・・ぃ」



「・・・ウ・・・ゼェ・・・!!」

「!?」


2人の気持ちが分かち合おうとしていたその瞬間、不意にクラウの後方から心の底から吐き出すかのような発言が聞こえてきた。

それを耳にしたクラウは背後を振り向くと、そこには落ちていた特殊な流星石を握るアスピセスの姿が。


「俺の苦しみを・・・ ・・・お前の大切な存在を、奪ってやらぁあああ!!!」


怒りと憎しみに苦しんでいるのか、アスピセスはそう言い周囲に砂嵐を発生させた。

それと同時に砂塵弾をぼうくんの元へと放ち、彼を攻撃しようとした。



「や、止めろ!!!」

「ぇっ! ッ!!!」



砂嵐を見かねたぼうくんは両手を顔の前に構え、動く事を止め攻撃を防ぐ様に止まってしまった。

彼の行動を見たクラウは、慌てて砂嵐と彼の間に割り入り両手を大の字に開き彼の壁になった。


そして、




バシッ! バシッ!! バシッ!!!


「あっ・・ぐぁっ!! ガハッ!!」


連続的に彼のボディに砂塵弾が直撃し、見境なく彼の身体を攻撃した。

腹部に直撃する物もあれば、彼の左胸に当たり心臓を容赦なく止めようとする攻撃も襲い掛かって来た。

広げた両手足にも砂は当たり、彼の顔にも攻撃の波が襲いかかった。


「!! や、止め・・・て・・・! ・・・クラ・・・ゥ!」





「終わりだぁあああ!!!」


そんな彼を見かねたぼうくんは慌てて止めるよう叫ぼうとすると、そんな小さな祈りを壊すかのようにアスピセスは叫んだ。

彼が叫んだと同時に大きな砂塵弾が、クラウの身体に襲い掛かった。



バァシィーーーーン・・・!!



「ガァハアアッ・・・・!!!」


そして、彼の身体を宙へと打ち上げた。





『・・・やっぱり、君の様には・・・俺は慣れないみたいだな・・・ ストレン・・・ジャー・・・』



身体が動かなくなる感覚の中、クラウは吹き飛ばされた拍子に目に映った空を見た。

晴れる事の無くなった地区の空は薄暗く、まるで全ての希望が存在しないかのような暗雲。

そんな雲を見て、彼は自分と同じようで違う存在の名前を、口にした。

そして、



バタッ・・・!!


宙から落下した拍子に来た衝撃が、彼の意識を奪ったのだった。




「嘘・・・だろ・・・! クラウ・・・!!!」


護ってくれていた相手が自分の後方に落下したのを見て、ぼうくんは彼の元に急いで駆け寄った。


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