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外伝2・最愛の相手の祈りと雫 3

『・・・クラウ。 ちゃんと、プリンセスって奴と和解出来たかな・・・』



朝食を共にしたクラウと別れ、1人住処のソファに仰向けに寝転がるぼうくん。

「後で食べても良いよ」と言われ残された袋の中に入っていたラムネ菓子を食べながら、彼は1人自分を迎えに来てくれた相手を待っていた。

空はいつもよりも雲行きが悪く、下手したら雨が降ってきそうな位の暗雲だった。



『でも・・・和解なんて、簡単に出来るはずねぇもんな。 アイツがやろうとしてる事は、素直に俺だって凄いって思える。 ・・・俺が出来なかった事を、アイツはやろうとしてるんだ。』


戻ってきてくれるまでの間待機する事になっているぼうくんは、決して彼との約束を破ろうとはしなかった。

それでも待っている事は退屈であり、なおかつ今出かけて行ったクラウは普通に持ち出しても難しい話題を行いに行った。

それがぼうくんにとって素直に凄いと言えるくらい、常人には簡単に成し遂げられる事ではない。




 それだけの反感も来るだろう

 それだけの対価も払うだろう



再び何かを背負って帰ってくるであろうクラウを想うと、ぼうくんはじっとしている事は出来なかった。

考えるたびにソファでゴロゴロと体制を変え、仰向けだったりうつ伏せだったりと、身体を忙しなく動かしていた。

だがそれでも、絶対に屋上から出て行こうとはしなかった。



『・・・ ・・・俺、待ってるだけしか・・・出来ないのかな。 俺から誰かを迎えに行くなんて、出来ないの・・・かな・・・ ・・・クラウ。』


次第に空模様の様に彼の気分も落ち込み、込み上げてくる涙を彼は必死に抑えていた。

そして、再び仰向けになり空を見た。



「・・・早く、帰って来いよ。 俺、寂しいよ・・・」


空を見つめたまま、ぼうくんはただ一言呟いた。


届いているかも解らない、クラウに宛てて。

一言、呟くのだった・・・











一方、その頃・・・




ガシャンッ! ガシャンッ!!


「おらおらおら!! 最初の威勢はどうしたんだよ!! 馬鹿獣人がぁああ!!」

「ッ!」


クラウを待ち続けるぼうくんの居る地区の外れでは、その地区を管理するアスピセスと。

たった今管理課の称号を剥奪され、反逆者となってしまったクラウとの攻防戦が続いていた。


とはいう物の、一方的に彼が攻撃しクラウがそれを避けていると言っても間違いではない。

何としても早く行きたい相手の元に、中々いけないと言う状況が続いているのだった。


「アスピセス・・・! お前、どうして俺にばかりそんなに執拗に付きまとうんだ!」


彼からの飛んでくる砂塵を回避しながら、クラウはアスピセスに問いかけた。

管理課の時もそうだが、彼はクラウに対して執拗に突っかかってくる事も少なくは無かった。

それは決まって姫の居ない時であり、2人きりで居る時も時折邪魔してくることもゼロではなかった。



そして先ほどのやり取りを想いだし、クラウは確信したのだ。

『ワザと邪魔をしているのではないか』 と。


「ハッ、今更何を聞いてるんだ!! そんなの、決まってるだろう・・・がぁあああ!!!」




バチバチバチバチバチ!!!


「ッ! 【(トネーラ)】!?」


そんな彼からの問いかけにアスピセスは叫び、手にした流星石の原液を周囲にばら撒いた。

すると、路地裏に置かれていたビルの中へと繋ぐパイプに原液が触れ、周囲に電気が走り出した。

発光する雷とやってくる波を見て、クラウは慌ててしまっておいた流星石を取り出し中身を散布した。


散布された液体は地面に触れると、やってくる雷を阻害するかのように幾多の岩が周囲に突き出した。

そして見事に壁が出来上がると、這っていたパイプもろとも雷を全て防いだのだった。


「へぇー、お前【(ラテーラ)】なんて持ってたのかぁー まさか俺の得意分野で、それを邪魔されるなんて思ってもみなかったがなぁ。」


路地裏に完璧な壁が出来上がってしまい、アスピセスは軽く立ち止まりつつも岩の向こうに居るクラウに告げた。

半ば戦いを楽しんでいるかのようにも見えるが、彼の得意とする属性で防がれるとは思ってもみなかったのだろう。

軽く岩に触れ、拳を握っていた。


「・・・甘く見てもらっても困るよ。 伊達にプリンセスに認められて、祈りを交わした相手じゃない。 ・・・それとも、契りが嫉妬だったりするのかな?」

「ッ・・・!! 言わせておけばぁあああ!!!」



バコンッ!!!


そんな彼に返事を返し言葉を口にするも、不意に1つの仮説がクラウの中に浮上した。

それは彼の右手に着けられている1つの指輪であり、それを貰った相手が自分だった事に対しての嫉妬ではないかと口にした。

クラウの一言を聞いたアスピセスは再び血の気が上がり、握っていた拳に力を込め岩を殴った。


すると、岩は簡単に砕けバラバラと周囲に崩れ落ちた。

それを見たクラウは再び駆け出し、一刻も早くぼうくんの元に行こうと鬼ごっこが再開された。


『アタリか。 ・・・意外と、血の気が昇ると存在は単純になってしまうみたいだ。 ・・・プリンセスは、皆に大切にされてるね。』


解りやすい回答を目撃し、クラウは走りながらも後方を気にし考えていた。



自分に嫉妬してしまう程大好きだった相手に、彼は一切当たる事無く日々を過ごしていた。

時折自分がそばを離れると聞いた時は喜んで共にいると良い、姫との時間を彼はたくさん作ろうと努力していた。

その行動もクラウは知っており、管理課の皆は自分を含め姫を大切にしている。

だからこそ護りたい気持ちが強く、ちょっとした事ですれ違っても使命だけは忘れない。



繋がりを生む、関係なのだ。



『・・・早く、ぼうくんにもこの想いを思い出させてあげないと・・・ 1人だって、また抱え込んでしまう。』


プリンセスの心配が少なくなった事を悟り、クラウは一層走るスピードを早めだした。

元々の素質があるのか、普通に走るだけではなく壁を伝い跳び出したりと、華麗に歩を進めていた。

それを見たアスピセスは徐々に走るスピードを緩め、彼の跳んで行った方角を見ていた。



『・・・やっぱり、単純に追いかけただけじゃアイツは捕まらないなぁ。 ・・・でもなぁ、クラウ。 お前には、弱点になっちまうほどの駄目な存在が居るんだぜ?』


元々単純に追いかけただけでは追いつかない事は彼も解っており、本気を出して逃げられては見失うと思っていた。

現に今がその時であり、徐々に彼の姿は見えなくなり暗雲による日差しの少なさから影を追う事も出来なかった。


だがそれでも、彼には勝算がある様子で軽く口元に笑みを浮かべていた。




「アイツを殺して、俺がプリンセスの祈りと懸けになるんだ・・・ ・・・そうでなければ、ここまでした意味が・・・ ねぇ・・・!」


その後手にしたスティックの上に両足を置き、上空から彼の後を追いだした。

細い棒の上に器用に足を置き、自らが望む方向へ飛ぶ姿はさながら目標を追い続けるジャッカルの様だった。


互いに望んだ事柄を叶えるべく、逃走劇を繰り広げるのだった。


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