表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/51

外伝2・最愛の相手の祈りと雫 2

自らが会うべき相手『ぼうくん』に全てを話し、受け入れてくれたと喜ぶクラウ。

だがその笑顔も管理課の塔に着く頃には落ち着き、普段の凛々しい彼の表情がそこにはあった。


これから行うべき事は、おそらく一生後悔する行いだろう。

だがそれだけの行いをしなければ、ぼうくんは愚かプリンセスに顔向けが出来ないほど後悔する思いもあった。

だからこそ伝えなければならない、だからこそやらなければならない事。

それを思う度に、彼の心には緊張が走った。



移動用に使っていた流星石を元の姿に戻し終えると、クラウは塔の中へと入って行った。

塔の階段を上る時間を短縮させるための装置の上に乗ると、装置を起動させ彼は姫の待つホールへと向かって行った。


『・・・ ・・・大丈夫。 ちゃんと俺は、ぼうくんに言えたんだ。 プリンセスにも、言葉が詰まってでも・・・ ちゃんと、伝えるんだ。』


廊下を歩き向かう最中も、彼は考える事を止めず想いを伝えるべき相手の顔を思い浮かべていた。




笑顔を亡くし二度と見せず、涙を流し続けるプリンセス。

信頼を亡くし孤独を好み、自らに冷たかったぼうくん。


だがどちらにも笑顔が似合うと彼は考えており、その仲介者にもなりたいと思っていた。

どちらを選べと言われても、きっと選べない大切な人。

その人に伝えるべき言葉があると、改めて気合を入れて。

彼はホールへの扉を、ゆっくりと押し開けるのだった。





扉を開けホールへと入ると、そこには見慣れた顔ぶれが揃っていた。

小さい猫に、羽根の生えた妖精に、毛並みの豊かなジャッカル。

そいて彼が話すべき相手、プリンセスも・・・



しかし、



「ただい・・・ ・・・?」

「・・・」


その場に居た顔ぶれの周りを囲む空気が、いやに張り詰めている事を彼は悟った。

いつもと変わらないネコの顔もそうだが、彼の隣に居る妖精の表情はあからさまに冷たかった。

入ってきた自分を見た際のその顔付は、とても怖く仲間内とは思えないほどの冷酷な物だった。


「・・・帰ってきたの。 貴方。」


不意に開いた彼女の言葉を聞いて、クラウは一瞬たじろいた。

何を言ったのかと一瞬解釈に時間がかかったが、すぐに何を言ったかが分かった。

それと共にやってくる冷たい視線も、とても異様な物だった。


「どうしたんだ・・・ ・・・何か、空気が張り詰めてるが・・・」

「・・・そう。 詫びるつもりは、無いのね。」



「詫び・・る・・・?」


軽いやり取りを交わし、クラウは集団の中で何が起こっているのかを知ろうとしていた。

彼女は何に対して自分に詫びろと言っているのかが分からず、冷たい視線は何時しか3人の背後に立つプリンセスに向けられた。

それを見たクラウは、少しだけ前へと進み相手が何かを持っている事を知った。

何を持っているのかを知るために、彼は前へと踏みだし一定の距離で足を止めた。

すると、


「お前、最低だなぁー そんな顔しておきながらさぁ?」

「ぇっ・・・?」

「コレ、なんだかわかるか?」



パシッ!


「? ・・・!!?」


彼から放たれた一枚の写真を見て、クラウは驚愕をあらわにした。

そこにはつい先ほど行われていたぼうくんとの2人きりの朝食のシーンが写されており、どうやら話す前に彼等の元に情報が行ってしまった事を彼は悟った。

そして何故あれほどにまで冷たい空気が張り詰められていたのかを知り、姫が持っている写真もおそらく同一の物だろうと悟るのだった。


「プリンセス・・・ ・・・俺は、」



「黙れ反逆者!!」

「ッ・・・!」


慌てて弁解を図ろうとするも、クラウの一言はアスピセスからの言葉で打ち消された。

言葉を聞くも顔を上げようとはしない姫を見ると、言葉は届く前にかき消されてしまった様だ。

隣に居るネコSだけ、この空気には左程干渉していない様にも見えた。


「お前、乙女に何をしたのかわかってんのか!? 俺様達には、守るべき相手が居る。 その護るべき乙女をほったらかして、挙句の果てに不倫だなんて・・・! お前も乙女を苦しめる気か!!!」

「ち、違う!! 俺はそんな事はしていない!! ただ俺は、管理課でありプリンセスのそばに居ると同時に、叶えたい願いがあって」

「そんな言い訳言うんじゃねぇ!!! 見苦しいぞ!!!」



スパンッ!!



「クッ!」


何とか誤解を解こうとクラウは言葉を口にするも、アスピセスは聞く耳を持たずに彼をスティックで思い切り叩いた。

顎元に直撃し怯むも、彼は決してその場から逃げようとはしなかった。


「・・・クラウ・・さん・・・」

「プリンセス・・・ ・・・俺は、そんな事をしたかったんじゃない。 貴方にあの時告げた話を、今ここでするために俺は来たんだ! こんな報告をするためじゃない!!」

「黙りなさい! 汚らわしい・・・ ・・・私達と違う風貌も気に入らないとは思っていたけど、まさかこんな事をしてこんな風に苦しめるなんて・・・! 思ってもみなかったわ!」

「そうだ! テメェなんて、もう乙女のそばに居る資格はねぇンだよ!!! 失せろ! 反逆者が!!」

「ッ・・・」


軽く姫から名前を呼ばれたクラウは、再び弁解しようと言葉を告げた。

しかし今度は、相手の耳に言葉が届いている事を確認するも、メイリーとアスピセスがその発言を許さなかった。



自分達の護る相手は姫であり、その姫意外との干渉は彼等『管理課』ではタブーとされていた。

元々それ以上に大切な存在が居ない事も事実であり、何らかの経緯があって彼等はそこに身を置いていた。

だからこそ、その掟が自然と創り上げられ他の考え方を鵜呑みにする事は無いのだ。


同時に、クラウの様にもう1人大切な人が居ると告げられても、彼等は理解出来ないのだった。


『駄目だ、完全に誤解されてる・・・ 俺はプリンセスが大事だ、ぼうくんと同じくらい大事だ・・・! ・・・でも、もし俺がプリンセスの心を苦しめる要因になってるなら・・・ ・・・俺は・・・』


そんな彼等の言葉と武器を持って対峙している姿を見て、クラウは言葉だけでは彼等の考えを変える事は出来ないと判断した。

だからと言って諦めるわけにもいかないが、彼等の口にした言葉がクラウの考えを揺らがせていた。



大切な存在が居る事も事実だが、それに並ぶくらい姫の事を大切にしている。

だがその想いがすれ違い溝になってしまうのであれば、彼等の言う通りこの場に居ない方が良いのかもしれない。

と、クラウはしばし頭を悩ませていた。





「・・・分かった。」

「・・・」


その後しばしの空白の秒数の元、クラウは考えを纏め上げ一言そう告げた。

彼等とここで一戦を交えるよりも、大人しく今は身を引いたほうがいいと考えたのだろう。

ゆっくりとその場から去りつつ、クラウは静かに彼等の元へと振り向いた。


「・・・ ・・・プリンセス、これだけは言わせてくれ。」

「?」

「俺は、今も貴方の事を愛してる。 ・・・決して、そばを離れても。 貴方の事は忘れない・・・ ・・・プリンセス、ラプソディ。 貴方は俺の、最愛の人だ。」



バッ!


しかし何もせずに去ろうとはせず、クラウは去り際に大切な相手に言葉を残し走り去った。

その後に何が来るのかも大体予想している様子で、今は姫のそばに居てくれる相手も居ると彼は勢いよく飛び出した。


「・・・ ・・・クラウ・・・さん・・・」


彼の言葉を聞いて、姫は写真を持ったまま彼の去って行った方向を見つめ、言葉を漏らした。

その後静かに両目から涙を流し、寂しそうな表情を浮かべるのだった。


『!! 乙女・・・まさか・・・!!』



「アスピセス! 何してるの! さっさとあの汚らわしい獣を裁いてきなさい! 管理課の長が、やるべき事よ!」


そんな姫の様子を見たアスピセスは動揺するも、考えに同意していたメイリーに行動する様告げられた。

管理課のトップであるクラウが破門になり、今のトップはアスピセスとなった事。

そして罪を犯した相手を逃すまいと、早々に排除する様彼女は言うのだった。


「ぇっ? ぁ、ああ!! 待ちやがれ!! 大悪党!!!」



バタバタバタ・・・



一瞬どうすればいいのかと迷うも、アスピセスは言われた通りに彼の後を追った。


自分のやった事が正しいのか、間違いなのか。

その場に居る皆は、今は誰も何も知る事は無かった・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ