外伝2・隣り合わせの不安 2
食料の調達に出かけ、お菓子ではあるが空腹を満たす物を手に入れたぼうくん。
再び寝床に戻るため帰路に付きながら、先ほど気まぐれに起こしたやり取りを思い出していた。
「・・・何で気まぐれ起こしたんだろ、俺。」
元々誰かに何かを上げる事などをしたことが無かったためか、彼は自分自身で起こした行動が疑問に思えて仕方がなかった。
他人などどうでも良いと考えていたのにも関わらず、何故見ず知らずの相手に食べ物を分けたのか。
ましてや空腹など感じていなさそうな相手にしたことが、とても驚きだったのだろう。
手にしていたお菓子袋を見ながら、ぼうくんは首をかしげていた。
「・・・改革をするって、こういう気分なのかな。」
なんとなくその時の気分を思い出しながら、彼はそう呟くのだった。
すると、
ガサッ・・・
「?」
不意に目の前に誰かが立ち止まる音を耳にし、彼は顔を上げ前方を見た。
そこに立っていたのは昨夜に出会った連中であり、面倒そうに彼等を見たぼうくんは嫌そうな顔を見せた。
「飯持ってんじゃねぇか、お前。 今日俺等何も食ってねぇんでさー なんかカンパしてくんねぇか?」
「もっとも、お前が良いって言ったら俺等がそれ全部食ってやってもいいんだぜ? ヘッヘッヘ。」
「・・・」
嫌そうな顔を見せる彼に対し、連中はそう言い遠回しに持ち物をよこせと要求してきた。
無論そんな要求を呑む事はせず、彼はただその場に立ち彼等が早く何処かへ行ってくれないかと首を動かしながら様子を見ていた。
互いの要求が成立する事は無く、次第に待ちきれなくなった様子で連中は懐に入れていた流星石を取り出し出した。
その様子を見て、ぼうくんは仕方なく上着に入れてあった流星石を取り出した。
「俺等としては、中身の原液を減らしてそんな少量の食料を得たくはねぇんだよ。 さっさとよこせや、餓鬼が。」
「・・・何でお前等みたいな奴に、渡さないといけないんだ。 馬鹿じゃあるまいし。 何処か行ってくれないか。」
「ッ! 言わせておけばぁああ!!」
バッ!
「・・・」
彼等の挑発文句をもろともせず、彼は反論し渡すつもりは無いと再度宣言した。
おまけで彼等を小馬鹿にする言葉も付け加えると、その言葉に奮起した彼等が集団となって襲い掛かってきた。
その様子を見て、彼は菓子袋を持ったまま流星石の栓を開け液体を彼等の身体に付着するよう散布した。
すると、液体は周囲には散らばらずにバケツで水を撒いたかのように続いて彼等の身体に付着した。
それと同時に液体は次第に凍り始め、集団の内の1人を完全に拘束したのだ。
「なっ!」
「邪魔だから、別にお前等怪我しても良いよな。」
捕まえた事を確認すると、ぼうくんは一言呟いたと同時に手にしてた瓶を両手で持ちその場で回転し出した。
便から続いていた液体に釣られ、拘束されていた集団の1人がその場から引っ張られ隣に居た相手に激突した。
凍りついた液体がまるで『ロープ』の様に動き、彼が回転するに連れて敵は砲丸の様に周囲の敵達に向かって体当たりを開始した。
相手を捕まえ、自らの手を汚す事無く周囲の相手を蹴散らす力。
それが彼の持つ流星石【義手着弾】であり、攻撃にも移動手段にも使える便利な流星石であった。
何時からその瓶を持っているのかその記憶さえも彼の中には残されておらず、彼はただ障害と感じた相手を退かすために使っていた。
使用用途と攻撃手段は完璧に把握している様子で、彼は1人また1人と敵の身体を使って薙ぎ払っていった。
誰を傷つけても、自分には関係ない。
自分の邪魔になるのであれば、早々に退かしていく。
それが、今の彼の考え方の様だった。
「・・・」
「うぅっ・・・ くっ・・・」
襲い掛かってくるであろう集団を払い除けると、ぼうくんは拘束していた1人を解放し周囲に倒れた連中の中へと落とした。
まるでマジックハンドで掴んだ物を空中から落としたかの様に相手は落下し、一部の連中を下敷きにした。
「・・・ 馬鹿みてぇ。」
その後彼等が動かなくなったことを確認すると、彼は流星石の栓を閉めその場を去って行くのだった。
一方その頃。
「スゥ・・・」
「・・・良い寝顔だな、プリンセス。」
管理課の住む塔の一室にある、とある部屋では。
周辺を散歩し終えた姫とクラウの姿があり、少し疲れた様子で彼に寄り添い眠る光景があった。
少し大き目のラブソファに座る彼の身体に身を寄せ、静かに寝息を立てる姫君。
優しく背中を撫で、クラウは相手の寝顔を見ながら微笑んでいた。
「・・・」
『俺に出来る事と言ったら、いつもこれくらいしか無い・・・ プリンセスのそばに居て、貴方の孤独な時間を減らす事しか・・・ ・・・あの龍だったら、もっと別の事が出来るんだろうな・・・』
しかし微笑んでいた彼の表情も次第に暗くなり、眠っている姫のためにしてあげられる行為が少ない事を悔んでいた。
共に行動し、相手が1人で居る時間を出来る限り減らし、なるべく楽しい事をしてあげる。
本来ならば十分なその行為すら、彼からしたら少ないと感じる行為の様だった。
塔に住む者達全てが想い、皆がする行動。
それは姫の為の行動が全てであり、寂しそうにする相手の心を溶かしてあげたい。
ただその一心で、行動しているのだ。
中でもクラウは特にその思いが強く、他の存在達が出ている間は彼が付きっ切りで相手をする事も少なくは無い。
だからこそ、マンネリと化す行為だけはしたくない様だった。
ガチャッ・・・
「ニャー 前半の作業が終わったニャッ」
そんな2人だけの空間を割るかのように、扉を開ける音と共に軽快な調子で話す声色が聞こえてきた。
その正体はネコSであり、先ほどの食材の運搬を終えた様子で部屋へと入ってきた。
「お帰り、ネコS。 運搬作業、ご苦労様。」
「どうもニャッ」
出かけていた理由を知っていたクラウも彼に声をかけ、姫が起きない様少しだけ声量を落として欲しいと言うのだった。
その声を聞いたネコは軽く頷き、忍び足であり俊敏に彼等の元へと移動した。
彼等の居るソファの背もたれから顔を出すと、寝ている姫の様子を見ていた。
「・・・眠ってるニャね。 良い寝顔だニャ。」
「だな。 ・・・そういえば、それは何だ?」
「ん? コレかニャ。」
起こすつもりは無い様子で話すネコに返事を返すと、クラウは不意に彼が手にしていた物を見て質問をした。
彼が持っていたのは賞味期限の切れたどら焼きであり、袋には『主食に成れないドラ焼き《ウグイス色》』と書かれていた。
ポップ体の丸文字で書かれており、子供向けのお菓子である事が見て取れた。
軽くネタ香のする商品名だが、普通に美味しいお菓子である。
「運搬先の店で出会った少年から貰ったのニャ。 美味しいから良いよねーって言ったら、食えないからって貰ったのニャ。」
「・・・飢えた地域から何を集ってるんだ・・・」
「仕方ないのニャ。 紫髪の少年が餡子の味が食えないって言うから、貰った上げただけなのニャ。 ニャニャーン、ウグイス餡はマジ天使なのニャー」
「紫髪?」
受け取るに至った話の流れを聞き、彼は呆れながら集ってきた事を知った。
ましてや彼等が行う運搬物資の行先は『飢えた地区』と名目付けられている場所であり、よりにもよって何故そんな場所から取って来たのかを苦悩していた。
餓死しないための策として行っているのにも関わらず、行う側が集るなどいい迷惑である。
などと思っていると、不意に彼は気になる単語を耳にしネコの顔を見た。
嬉しそうにどら焼きの袋を開けており、賞味期限が切れたとはいえ普通に食える様子でほおばっていた。
心なしか、笑顔で目が輝いている。
「紫髪の・・・どんな相手だったんだ。 その子は。」
「ハーフジャケットに迷彩柄のズボンを履いて、首元からは大き目のネックレスも下げてたかニャ。 名前はなんて言ってたかニャ~・・・ 人っぽくない名前だったニャ。 暴君?」
「!!」
「・・・ん、知り合いかニャ。 どら焼きうまうま。」
気になる特徴を聞いた彼は、その相手の事が気になりどんな相手なのかを質問した。
どら焼きを食べながらネコSはそう言い、覚えている範囲で話し曖昧ではあるが名前を言った。
名乗っていないのにも関わらず知って居る事に驚きだが、実際には店内利用者の名簿に名前が書かれているから知っているだけである。
何処となく姑息なネコだ。
「・・・いや。 ・・・少し、姫をお願いしていいか。 出かけたい。」
「解ったニャー」
一瞬驚いた表情を見せるも、クラウは平気を装い彼にそう告げた。
ネコもネコで何も言わずに彼からの頼みを聞き、彼が居なくなる際膝枕の位置が開きになると思いその位置へと身体を入れた。
姫の枕になる様子でボディで相手の頭を受け止めると、開いている顔と手元は相変わらずどら焼きを食すのであった。
その後姫に軽く頭を下げ小声で出かけてくる事を告げると、クラウはその場を後にし部屋の外へと出た。
ガチャッ
「っと。 ・・・ん、どしたクラウ。」
部屋の扉を静かに開け廊下へと出ると、丁度近くに居たアスピセスが後ろへ下がりつつ出てきた相手を見た。
外の様子まで気を使っていなかった事を知り、クラウは軽く詫びながら扉を静かに閉めた。
「あぁ、すまないアスピセス。 ちょっと出かけてくる、プリンセスをお願いできるか。」
「おう、任せとけ。 俺様がちゃーんと乙女を見といてやっからさ。」
その後出かけるため姫を見ていて欲しい事を告げると、彼は決めポーズをしながらそう言い彼を見送った。
姿が見えなくなると、扉を開け中へと入り枕になっているネコSを見た。
「・・・なーにやってんだ、お前。」
安らかに眠っている乙女の寝顔に一瞬顔が緩む彼であったが、枕になっている相手が気に食わないのだろう。
全身を使って枕になっているネコに、何をしているのかと問いかけた。
「枕代行ニャ。」
「あっそ。 ・・・で、アイツ何処へ行くって言ったんだ?」
「特に聞いてないニャー」
「ふーん。 ・・・ま、とりあえずそこ退け。 俺が乙女の枕になるんだからなっ!」
「ニャいニャい。」
するとネコはそう答え、その前はクラウがやって居た事を今代行してやっていると告げた。
一足遅かったとアスピセスは舌打ちするも、代行の代行をすると良いネコを退かし今度は彼が膝枕をするのだった。
その行為自体はネコは何も言わず、残っていたどら焼きを頬張り合掌し食事を終えた。
『乙女の膝枕を任せるなんて、よほどだよな・・・ ・・・もしかして、あの時言ってた相手が見つかったのか・・・?』
姫の寝顔を見ながら、アスピセスは考え事をしクラウが何しに行ったのか検討するのであった。
自体の鍵となる、行為の意味を。