外伝2・俺達の居場所 2
「『周りが触れるその光に 憧れを感じていた』・・・ 『いつその光に 出会えるかな』。」
街でさまざまな噂が飛び交う中、管理する者達が集う塔では。
彼等の長であるプリンセスが、ホールの窓辺付近で1人寂しく詩を口ずさんでいた。
時折軽く吹いてくる風に身を感じつつ、静かにその日も過ごしていた。
「・・・」
そんな姫を遠目から見守る様に、クラウは静かに様子を見ていた。
元より明るく振る舞う姫を見た事が無いため、これが彼等にとっても普通の光景ではあった。
詩に何か意味がある様にも感じていたが、彼等にとってそんな事を気にしている余裕はあまりなかった。
『今日もプリンセスは、いつもよりも寂しそうだな・・・』
壁に背を預け様子を見ていたクラウは、不意にそう思いプリンセスの元へと向かって歩いて行った。
そんな彼の事に気付いたかのように、姫は不意に詩を口ずさむのを止め後ろを振り向いた。
そして、互いの目が合った。
「プリンセス。 少し、外の空気を吸いに行かないか。 ここの空気ばかりじゃ、息苦しいだろ?」
特に何かしたいと言うわけではなかったのだが、クラウは姫にそんな提案をしていた。
彼がここに居る理由は、姫に助けられたと言う事もあるが自らここに居たいと思ったからだ。
自分には大切な人が居たようにも感じていたが、それが誰なのか。
わからず悩むことはあったが、それでも今は自分の事を見ていてくれる相手が目の前に居る。
それだけで彼の気分は晴れており、その日を過ごすのが彼は好きだった。
「・・・はい。」
彼からの提案を聞き姫はそう言うと、軽く手を出しクラウの手を握った。
相手の返事を聞くことができクラウは安堵すると、その手を優しく握り返し共に外へと向かってホールを後にして行った。
その後塔を下る道を通り、2人は街と同じ塔周辺の地面へと足を付けた。
一時姫の手を離すと、彼は上着のポケットに手を入れ1つの流星石を取り出した。
栓を引き瓶を軽く前へと投げると、瓶は変化し1つの馬車の様な形へと変化した。
彼だけが持つ特殊な流星石であり、クラウはそれを『幻想車』と呼んでいた。
馬車が姿を現すと、再びクラウは姫の手を取り共に馬車へと乗り込んだ。
「出してくれ。」
彼がそう言うと、馬車の前に待機していた馬の様な存在は鳴き声を上げ、ゆっくりと前へ進みだした。
それと共に彼等に周囲の風が優しく吹き込み、2人の衣服と髪をなびかせた。
「・・・」
そんな彼の持つ力をくれたのは、クラウの隣に座る姫だった。
だが彼は力になりうるその流星石と戦いに使おうとはせず、主に移動用手段のみに限定して使用していた。
それが最良だと彼は考えており、無駄に戦いを生もうともせず姫との時間を有意義に過ごしていた。
楽しんでいるかと横目で彼が見ると、表情は特に変わりはないものの姫も楽しそうにクラウの手を握っていた。
軽くクラウに寄り添うようにそばに寄っており、ずっと居て欲しいと言う雰囲気を出していた。
「・・・なぁ、プリンセス。 1つだけ、聞いても良いか。」
そんな姫を見て少し安心すると、馬車を走らせたままクラウは質問をした。
その声を聞き姫が少し顔を上げると、彼は真剣な目をしながらこう言った。
「もし、俺が本当に探していた存在が見つかったら・・・ プリンセスは、俺の事を殺すか・・・?」
「・・・」
質問をした後に何をされても良いように覚悟を決めつつ、クラウは姫にそう言った。
無論守るべき相手は姫1人であり、他人を守ると言おうものなら反逆行為に等しい。
ゆえに、姫の持つ力で自分を殺すかどうかを聞いていたのだ。
「ずっと俺は貴方のそばに居てきたが、それでも俺には必要な人が居るって心のどこかでずっと思ってたんだ。 貴方の事を裏切る事になってしまうかもしれない、それでも・・・」
ギュッ・・・
「?」
言葉に迷いつつも言いたい事を言っていると、不意にクラウは手を強く握られる感触を感じた。
それを見て彼は姫の事を見ると、ただ相手は自分の事を見つめていた。
「その人は・・・ 貴方の事を、心から大切だと思っている人・・・?」
「・・・」
不意に姫は口を開き、クラウの質問に質問を返していた。
どうやら結論は後であり聞きたい事を聞いてから、結論を出すつもりの様だった。
そんあ相手の目を見た後、彼も同様に手を握り返し返事をした。
「ああ。 ・・・もしかしたら、プリンセスよりも大切な存在だと・・・ 思う。」
「そう・・・」
嘘偽りなく彼は返事をすると、姫は軽く俯き少し残念そうに呟いた。
無論その返事を聞いて笑顔を見せてくれるとは思っていなかったクラウは、手を握っていなかった右手をだし姫の肩に手を置いた。
「・・・でも。」
「?」
そして、話に続きがある様に彼は口を動かし続けた。
「貴方と同じくらい、とても優しい人だ。 俺の事をずっと見ていてくれて、俺の事を想ってくれる人なんだ。 ・・・だから、貴方も気に入ってくれるかもしれない。 もしよければ、会わせたいくらいなんだ。」
「・・・」
返事に付け加えるかのように彼はそう言い、優しく姫を抱きしめた。
自分の大切な人は目の前にもおり、たとえその人が見つかったとしても貴方のそばから離れないと言う事を証明した。
見つけたからと言って、見捨てないと表現していた。
「でも、貴方にも会いたい人が居るから。 そういう提案は、やっぱり野暮だよな・・・ ・・・ゴメンな、妙な事を言って。」
しかし彼はよくよく考え、姫にも会いたい存在が1人いる事を知っていたためその提案は野暮だと不快な気分になっていた。
マズイ事を言った事に変わりは無く、もうフォローは居れず相手の返答を待っていた。
すると、
「・・・良いよ。」
「ぇ・・・」
「クラウさんが強くそう思っているなら・・・ きっと、大丈夫だと思う・・・ ・・・私も、貴方の事が好きだから。」
姫はそう言いつつ彼の身体に軽く触れ、胸の鼓動を確かめるかのように彼の身体に耳を付けた。
想いは互いに一緒であり、たとえ見つかっても彼の意志が曲がらない覚悟があるのなら、自分は構わないと言っていた。
怒るだろうと思っていたクラウにとって、その返事はとてもうれしい物だった。
「良いのか・・・? 貴方を、裏切る事になるかもしれないのに・・・」
「・・・好きには、変わりないから。」
嬉しく思い彼は姫の身体を抱きしめつつそう言うと、相手はそう言い再び互いの目が会った。
そして、
スッ
姫は軽く身体を動かし顔を彼の顔に近づけると、そのまま優しく彼の口元にキスをした。
本当に好きな相手にしかしない行為であり、こういう事をするのは彼1人だけである。
安心と想いを感じ、彼は姫がしてくれた行為に返事をしようと、一度顔を離し再び顔を近づけた。
馬車はゆっくりと進む中、2人のその行動が絵になる様に周囲から花弁が吹いていた。
「・・・」
その行為を遠目から1人の存在は見ており、軽く苦虫を噛む様に表情を変えていた。
その存在とはアスピセスであり、姫の気持ちはクラウに揺らいでいる事を彼も知っていた。
だがそれでも負けないくらい彼も姫が好きであり、その現場を見てしまった事に苛立ちを覚えていた。
「あの野郎・・・ ・・・プリンセスに好まれている事を知っておきながら、あんな質問しやがったな・・・」
軽く持っていたスティックを折ってしまうかと思われるくらいに彼は手に力を入れており、軽くミシミシとへこむような音が聞こえてきた。
そして相手の想いを利用して、取引を成立させたことが許せない様だった。
「・・・最初から気に食わないと思ってたが、ここまでやるなら・・・ 俺にも考えがあるぞ・・・『クラウ・ルミナシール』!」
バキッ!!!
そしてとうとう持っていたスティックは真っ二つに折れてしまい、軽く投げ捨てるように彼は棒を捨てそう叫んだ。
苛立ちを覚えながらも、彼を裏切り者に仕立てよう。
アスピセスはそう考え、行動を開始するのであった・・・