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外伝2・俺達の居場所 1

澄んだ青空の広がる空に徐々に紅色が付けたされて行く、とある街のとある一区。

そこは廃墟となったビル街と空家が目立つ寂しい場所であり、人はおらずとても静かな地区でもあった。

時々聞こえる争いの声が、その街での改革が進んでいないと思われる光景がある場所だった。





「知らない・・・ 俺に、仲間なんて必要ない・・・」


そんな寂しげな場所では、1人の存在が周囲の闇に溶け込むかのように呟いていた。

地区内の所々で起こる争いに目もくれず、ただただ歩く1人の存在。

暗くなってゆく街に灯る壊れかけた街灯からの光を見て、顔を上げる存在。



【今行くからっ! ヘヘッ・・・】

【うっせー! 俺が先導切るんだから、前歩くんじゃねぇーよ!】

【いい加減は慣れろっ! 馬鹿龍が!】



「ッ・・・ くっそがぁっ・・・」


脳裏に響く彼の居る地区外での、顔見知りの存在達の楽しげなやり取りと無邪気な光景。

それを思い出すたびに、存在は顔を歪め辛そうに呟き続けていた。


『あんな奴等・・・ 大・・・嫌いだ・・・』


辛く心を痛めながら呟く、1人の焦茶色の犬。

それが、この街で行動する事となる1人の存在だった。




「・・・よぉ、餓鬼がこんな時間に何してんだぁあ?」

「・・・」


その日も彼は、街を歩き絡んでくる輩に道を塞がれていた。

彼の居る地区ではこれが日常であり、行く先々を阻む存在と喧嘩を売ってくるつまらない街。

そんな彼等の間を掻い潜り先へと抜けると、彼は手にした流星石の栓を抜き中の液体をビルの壁へと付着させた。

それと同時に撓る鞭の様に身体を持ち上げ、敵の居ない遠くへと向けて宙を舞った。


「・・・俺の幸せって、一生ねぇのかな・・・」


空を飛びビルの屋上へと降り立つと、彼はそう呟きその場に崩れてしまった。



彼の名は『ぼうくん』 


この話の主人公となる、在りし幸せを否定し孤独になろうとする存在なのであった・・・


















彼の居る地区から光が失われたのは、丁度他の地区での改革が進み管理課との騒動が絶えなかった頃。

この場からも改革に名乗り出る者達が後を絶たず、散布されているとも知らずに流星石を集める者達が後を絶たなかった。



誰もが幸せを願い、誰もがこの環境から抜け出したい。



ただ願う事が同じなのにも関わらず、この区内は他の場とは違い『共闘』を望む者達が居なかったのだ。

皆が自分の幸せを願い、自分の望む場所に創り上げる。

その意志と仲違いが出来ない存在達の影響で、街は荒み、明るさが消え失せ日の光さえも遮断されるほどになってしまった。


改革を望む者達が起こす戦いの『怒り・憎しみ・穢れ』が、この地区を飲み干してしまったのだ。

血肉さえも飛び交い、血痕が残り瓦礫が辺り一面に置かれ放置される、その場を・・・





「・・・」


彼がこの街に留まる理由は無く、ただ昔居たという理由からその地区に留まっていた。

しかし彼が自ら創り上げた流星石で地区を仕切る壁を飛び越え、他の場へと無許可で侵入する事も少なくは無かった。

そのため頻繁に他の場所へと赴いた際、門番からは目を付けられ隙をうかがっては移動する。

その繰り返しを行っていた。



他の地区で改革を成功させ、改革者となった4人の青年達の話を彼も知っていた。

その存在を確かめるべく、足を運びその一部始終を彼は見ていた。

しかし、


『・・・何で、俺だけは出来ないんだ・・・! アイツ等は出来て、何で俺だけはっ・・・!!!』


改革者と呼ばれる様になった存在達、それは元々彼の知り合いばかりだったのだ。



繁華街へと姿を変えた地区を再度変え、友との再開を果たした青年『カツキ』

春の温かさを失った、凍土と化した学区内に新たな季節を吹かせた青年『シップス』

廃墟と化し、全ての者達が辿りつく墓場となった場を変えた少女『クロ』


そしてその者達を支え、共に行動を取る『ハンメル、ソニルス、涼』

皆が皆、元々彼の友人であった存在達であった。



しかし今ではその関係性は失われ、孤独となり彼は1人寄り付かないその地区に身を寄せていた。

例え地区の移動許可を得たとしても、彼は決してこの場に彼等が来ない事を確信していた。

その理由は、ただ1つ


改革を起こす変えられるほど、簡単な地区ではない事。

穢れに満ち溢れ、例え変えられたとしても誰一人残らないと思われる地区だから。

だからこそ、彼は決してその場から動こうとはしなかったのだ。

だがその行動が裏目に出たと、最近ではずっと後悔していたのだ。



行動しなかったからこそ、改革者になれない



住み心地の悪いこの地区を変えたいと願っても、そうする事が出来ない。

それが、彼のジレンマとなり動く事さえも阻害する概念となってしまったのだった。




ガタッ・・・



「・・・ハァ。」


不意に現れた敵から逃れ、ビルの屋上へと登った彼はその足で住処として使用している別のビルへとやってきていた。

しかしそこは『家』と呼べる環境には程遠く、崩れた瓦礫を動かして作り上げた『物置』に近い場所だった。

だがそれでも彼1人が住む分には十分の広さがあり、壊れたソファに横たわり外を眺める事が出来るほどだった。


屋上と言う事もあり、他人からの干渉は一切ない平穏な場所だった。


「・・・ ・・・俺を探してくれる奴なんて、居ないんだろうな・・・ 俺は皆と違う・・・ 誰一人、俺を心配なんて・・・してくれない・・・」


瓦礫の間から見える曇り空を見て、ぼうくんは1人呟き涙を流していた。

空腹もだが、彼の事を支えてくれる存在さえも居ない孤独な環境。

周りの存在皆が敵と感じる、恐怖と隣り合わせの地区。



その世界から抜け出したい。



彼はずっと、そう願っていたのだった・・・

誰にも相談できない、その孤独さと戦いながら。


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