外伝・護るべき行く末 2
「さぁ・・・! かかっていらっしゃい!!」
育成し作り上げた蔓の集合体のそのまた上、自らの台座と思われる大輪の花の上でメイリーは叫んだ。
遠回しなその声を上げた後、メイリーはステッキを振り蔓達に攻撃を命じた。
その合図に応呼してか、蔓達はそれぞれで近くに居る目標に向けて攻撃を開始した。
「蔓に触れれば俺達の負け、幾多の攻撃は俺達の絶望・・・ なら!」
スッ
「例え低能だとさげずんたその声でも・・・ 俺は・・・! 負けない!!」
蔓達の攻撃を見て安全県外と思われる場所を走りながら、カツキは持っていた流星石の栓を開けた。
そして手元周辺に液体を振りまき、自らが調合し創りだした力を発動させた。
両手の中に風を集めるような仕草をすると、周囲の風達は彼の願いを叶えるかのように次々に集まりだした。
目で見えるほどに彩りも変化し出し、彼の手の中には風玉と思われる大きな自然の玉が生成された。
「ハァアアッ!!」
相手を攻撃するための手段が整うと、カツキは作りだした風玉を発射させるかのように左に振りかぶり前へと放り投げた。
すると風玉は前へと向かって飛び出した瞬間、弾けて前方一面に向けて強烈な風圧を放った。
風は風力もあり次々とカマイタチへと姿を変え、蔓達の集合体へ向けて攻撃を開始した。
「ウフフッ 威力は凄くても、届かなければ意味はないわっ!」
彼の攻撃が始まった事を目にすると、メイリーは蔓達に指示を出し風が来る場所周辺に防御壁を展開させた。
それにより命中した箇所の蔓達ははじけ飛ぶものの、ぶつかる回数が増えていくにつれて風の威力は弱まって行った。
再度風を作り発射させようとするカツキの動きも見て、彼女は蔓達に攻撃の指示を与えた。
すると、溜めこんでいる体制であった彼目がけて蔓達が急襲をかけてきた。
「させないっ!!」
ガシュンッ!!
そんな彼へ向かった攻撃を見て、間に割り込んだドリフトは槍を振り攻撃してくる蔓達を切った。
近距離に特化した分動きはスムーズであり、自分と彼を守る分には十分すぎる範囲だった。
その後続けてくる攻撃に備え、彼は手元のトリガーを引き援護射撃を放った。
放たれた弾丸はそのまま直線に飛び、先ほどカツキが攻撃した防御壁の根本を根こそぎ撃ち抜いた。
「おるぅぁああッ!!!」
バシンッ!!
盾となり自分を守ってくれたドリフトの姿を見た後、再度攻撃の準備が整った様子でカツキは風玉をバスケットボールの様に地面に打ち付けた。
すると風玉は弾力性のあるボールの様に弾み、地面を飛び立とうとした瞬間に弾け、再び蔓達に向けて攻撃を開始した。
弾力による運動エネルギーも追加された事もあり、反射角に沿って動く風の威力が大幅に上がっていた。
再びやってきた風圧に耐え切れず、多量の蔓達は風に切りとられ宙に吹き飛ばされて行った。
これこそが、彼の創り上げた流星石【圧力風爆】だった。
四代元素の中で上位に位置する『風』の力を使い、圧縮し固めた風を放つシンプルかつ強力な力。
弾力性もあるその力は、彼が改革を乗り出した際に幾多の攻撃パターンを編み出す事にも繋がった代物。
今となっては堕ちてしまったその力も、今変えるべき目の前の現象を変化させるにはもってこいの力であった。
ドリフトの持つ力と相対的と言う事もあり、相方としての相性も抜群であった。
「ッ! ・・・まさか、ここまで貴方達がやるだなんて思ってもみなかったわ。 そんなに、周りの存在が大切?」
吹き飛ばされた蔓達を見て、再び周囲の植物を集めながらメイリーは彼に問いかけた。
先ほどまでの意気消沈していた彼とは違い、今の彼の目は輝き正気に満ち溢れていた。
存在が一番輝ける瞬間であり、何事にも屈しない不屈の精神とも思われる光景であった。
「あぁ、大切だ! 例え俺を捨てた奴らがこの街に住んでると言われても、俺にはまだ護るべき相手が居る・・・ そいつさえも、殺されてたまるかぁああ!!」
「フフッ、意気込みだけは買ってあげる。 ・・・でも、貴方の力だけでは無理よ。 こっちには、こんな事も出来るんですからねぇっ!!」
問いかけに対しカツキは叫ぶと、小馬鹿にはせず彼女も本気とばかりに杖を振った。
すると、蔓から飛び出ていた刺が宙へと放たれ彼等目がけて攻撃を仕掛けたのだ。
その動きを見た2人はその場から回避する様に移動し、双方に別れた。
しかし、
シャキンッ!
「ッ!」
ただ回避するにも刺と言う事もあり、幾多の飛び道具を華麗に避けるには今のカツキには難しい事だった。
纏っていた衣服に刺が突き刺さり、その拍子に布地が破れ段々と皮膚に近づいてきたのだ。
致命傷となったのは、左腕に向かって飛んできた一撃であった。
「カッツ!」
「・・・大丈夫だ、ドリッ・・・! ・・・おりぁあああっ!!!」
別の位置で攻撃を避けていた相方の声を聞き、カツキは返事をしながら風を集め飛び交う刺に向かって放った。
すると風に巻き込まれた刺は有らぬ方向へと吹き飛ばされ、周囲のビルに向けて突き刺さった。
動く事の出来なくなった刺はそこから進む事は無くなり、彼等に向かう攻撃は一瞬にして消え去った。
「ヘヘッ、どうだっ!!」
「やるじゃない? ・・・だったら、これならどう?」
挑発交じりに彼は言い、服に刺さっていた刺を払い腰に巻いていた上着を脱ぎ捨てた。
活動し身体が熱くなった様子で、その顔はとても生き生きとしていた。
戦う事に対しての意欲かは解らないが、今までの暮らしと比べてとても生きがいを感じている様だ。
『元気ハツラツ』と言った方が正しいのかもしれない。
そんな彼の言葉を聞き、彼女も負けてはおらず次の行動へと移った。
再び声と指先で合図を送ると、蔦達は動きだし目にも止まらぬ速さで動き出したのだ。
そして、彼等を拘束すべく襲い掛かってきた。
「そんなの・・・払えば効かないぜっ!!」
瞬時に動く蔦の動きに目もくれず、彼はそう言い圧縮した風を自分の周りに展開した。
すると、風が防御壁になったかの様に接近してくる蔦を払い、自分の身に寄せ付けまいと彼の身体を護り出したのだ。
弾かれる攻撃を目にし、蔦達は意識がある様に触れるか触れないかの位置でとどまり、様子を見ていた。
「そう、貴方には効かないわ・・・ ・・・でも、そっちはどうかしたねぇえ!」
「ぇっ!?」
彼の攻撃方法を見て左程驚かない様子を見て、カツキは慌てて別の位置に居るであろうドリフトを探した。
トライムはすでに別の場で戦っており、彼等の近くにはおらず拘束の心配は少なかった。
だが近くで戦っているはずの彼は別であり、自分にとって大切な人の事を思い焦っていた。
すると、彼の顔が左へと向き紫色が彼の視界に映った。
だがその発見は少し遅く、前方からの攻撃を払っていたドリフトの後ろから数本の蔦が接近してきた。
そして、
ガシッ!!
「うわぁあっ!!!」
「ドリッ!!」
不意に隙を突かれ捕まってしまったドリフトを見て、カツキは彼の名前を叫んだ。
全力で蔦の拘束が酷くならない様彼自身も努力しているが、おそらく誰かが助け出さない限り逃れられないだろうと思われる攻撃だった。
周囲の蔦達は収束し太いロープとなって、彼の手足を縛りつけようとしていた。
それを槍で必死に防いでいる状態に等しく、劣勢すぎた。
「さぁ、貴方も死になさい!!!」
「クッ・・・!」
彼の元へと移動し助けようとするも、自身を護っている風は位置を変えてしまえば再び生成しなければならない。
液量がどんどん減って行く彼等に対し、無制限とも思われる彼女の攻撃は非道同前であった。
そんな光景を目の当たりにし、どうする事も出来ずにいた。
『・・・まだ、死にたくないんだ・・・!! 嫌だぁああ!!!』
そんなドリフトを助けようとするも、今の自分の状況にカツキは目を強く瞑った。
近接で応戦する力は手元にないため、彼の持つ力では応戦するには時間が足りないのだ。
メイリーの声に反応し再び接近する蔦を見て、カツキは諦めそうになる心で叫び声を上げた。
すると、
【ワァォオオーーーン・・・・!】
「ぇっ・・・?」
何処からともなく、獣の遠吠えと思われる声が周囲に響き渡った。
その声を耳にし、涙目になっていたカツキは正気に戻りつつ声の主を探した。