外伝・改革への対価 3
ドリフトに手を引かれ、カツキはもつれる足を必死に動かし彼に着いて行こうとしていた。
しかし不意な事もふまえ走る気力さえも失いつつあった彼にとって、その行動は難しく時々つまづく物が無いのにもかかわらず彼は倒れそうになっていた。
そんなカツキを必死に連れて行こうと、ドリフトは彼の足を気遣いつつ倒れそうになった時は両手で必死に彼の身体を支えた。
そして彼の身体に怪我が無い事を確認したと同時に走り、再び倒れては気遣うという行動を繰り返していた。
彼からしたら何故そこまでして自分の事を支え走らせようとするのか、今のカツキには理解出来ない様だった。
「アッハッハッハッハッハッ! さぁあ蔓達よ、あの愚か者を根絶やしにしておしまい!!」
トライムと彼を追って公道へと出たメイリー達の元へと到着すると、カツキ達は周囲に轟く彼女の声を耳にした。
声を耳にしたドリフトは、徐々に走るスピードを緩め一度カツキをビル蔭へと隠し公道を見た。
するとそこには、彼女の生成した蔦の集合体がドンと公道を埋め尽くしトライムを捕獲しようとしていた。
メイリーの居る頂上付近にはベルミリオンが未だに拘束されており、迫ってくる攻撃をトライムは流星石で対抗するも全力で行動出来ない様子を見せていた。
基本は攻撃から逃げる事を優先にしており、距離を取り雷電が強く流れない位置に移動してから放つ。
その行動を繰り返しており、どちらかと言うと彼の方が劣勢に見えた。
その後ドリフトは、彼等の居る周囲の様子を見た。
公道の脇に立つビル街周辺には彼女の攻撃の手によって壊されたのか、その場で開かれていたであろう市場の露店が残骸となり散らばっていた。
周囲には人気は無く、どうやら不意に現れた管理課の蓄えていた力を見せつけられ逃げ出したのだろうと彼は予想した。
今この状況で力となる流星石を持っているのは、彼を含めトライムとベルミリオンだけに等しい。
しかしもう1人、その力を持っているであろう存在が彼の後方に居た。
それは彼の探し求めていた友人である『カツキ』であり、行動する事は無かったもののズボンの右ポケットには何か道具が入って居る事を彼は知っていた。
何とかして戦える戦力を増やし、彼女を止めないととドリフトは考えていた。
しかし、今の彼をどうやって励ますか。
ドリフトはその事を考えるだけで時間が足りないとばかりに顔を左右に振り、落ち着こうとしていた。
そんな彼を見て、カツキは不意にドリフトの頭を撫で出した。
「カッツ・・・?」
「・・・大丈夫か、ドリ・・・ ・・・そう言っても、俺じゃ何の励ましにもならないかな・・・」
不意な事だったためドリフトは少し驚くも、彼の純粋な思いでその行動に出た事を彼の口調から悟った。
まだ彼の中で行動したい気持ちはあり、それに火をつける事さえ出来ればいくらでも行動出来る。
改革時の意欲は残っていると悟り、ドリフトは頭に乗せられた彼の手を優しく握り彼を見た。
「ううん、凄い嬉しいよ。 カッツに撫でてもらうの、とても久しぶりだからさ。」
そして静かにお礼を言いながら笑顔を見せると、カツキは軽く返事をし再び顔を俯かせた。
何か悪い事を言ったつもりは無かったものの、今の彼の意欲を沸かせるのは至難の技だろう。
ドリフトは彼の手を静かに下ろし、顔色を気にしながら何を言おうか考えていた。
『カッツ・・・ 俺、お前と一緒に居るだけで何でも出来るって思ってるんだぜ。 ・・・でも今のカッツからしたら、過去が酷過ぎてまた自分が駄目なんだって思う事が怖いんだよな。 ・・・』
励ます言葉はあっても、今の彼に相応しいと思える言葉が見つからない。
今の自分に出来る最大の努力さえも出来ないと、ドリフトは悔しい思いが込み上げるも必死に落ち着きながら考えていた。
すると、
バシンッ!!
「グァアアッ!!」
不意に彼等の近くで、悲鳴と共にビルに物体がぶつかった音が聞こえた。
慌てたドリフトは音の正体を確かめようと再び公道を見ると、そこにはボロボロの姿になりつつあったトライムが蔦に挟まれ壁に打ち付けられている光景が広がっていた。
「アッハハハハッ! 捕まえたぁあー!」
「トライム!!」
その光景を目にしたドリフトはひとまず彼を助けようと、再び流星石を武器の姿へと変え公道へと飛び出した。
ビル蔭に隠したカツキの事も気にかかるが、今はそちらが優先と踏み大地を蹴った。
すると、
シュルシュルシュルッ!
「クッ!! 邪魔するなぁああ!!」
新手の姿を確認したのか、メイリーの指示を受けずに蔦が動きだし彼の行動も阻害させようとしていた。
そんな蔦達を見てドリフトは槍を振るい、襲い掛かる拘束の手を手当たり次第に絶ちだした。
時々その場に止まり親玉に向けて弾丸を放ち、隙を作ってはトライムの元へと向かっていた。
無論それくらいでは彼女の攻撃の手も止まず、次々と蔦を生みだし彼の足元を集中的に狙いだした。
「ド・・・リ・・・」
そんなドリフトが応戦し金属音が周囲に響き渡る音を耳にしてか。
ビルの陰に隠れていたカツキはゆっくりとビル蔭から公道に顔を出し、外の様子を窺った。
するとそこには、拘束され身動きが取れないトライムを助けようとするドリフトの姿があり、手持ちの槍を使い蔦の胴体を裂きながら走っていた。
周囲に散乱する蔦は意識があるかのように大地にもぐり、その場に根を生やそうとしているのが見て取れた。
このままでは、彼が不意な攻撃にやられてしまうかもしれない。
そう思うカツキではあったものの、外へ出ようとしたその瞬間・・・
ズキンッ・・・!
「グゥァッ!!」
彼の持病である頭痛が不幸にも襲い掛かり、彼に牙を向け出したのだ。
締め付けられるかのような痛みに襲われた彼は、その場にうずくまり痛みむ箇所に手を乗せた。
しかしそれくらいで収まる彼の頭痛な訳もなく、徐々に彼の頭に根付くかのように脈拍にそって痛みを脳内に走らせていた。
「あぁっ・・・くうぁっ・・・! な・・・んで・・・ 俺が・・・俺ばっかり・・・!!」
頭の痛みに耐えながらもフラッシュバックする記憶を見て、カツキは悶え苦しみだした。
今一番目にしたくない捨てられた時の映像が瞑っているはずの目に映り、不安な気持ちに襲われた彼は叫ぶようにその過去を否定していた。
自分は何もしていないはずなのに、何故そうされたのか。
何故自分だけそんな体験をして、周りと隔離されたかのような生活をしなくてはならないのか。
そんな現実を思わせる記憶ばかりが脳内をよぎり、カツキはどっちが現実なのか解らなくなるほどに苦しんでいた。
「ド・・・リぃっ・・・!! 皆ぁ・・・!」
「ハァアッ!!!」
ジャキンッ!!
そんな彼が苦しんでる間も懸命に闘っていたドリフトは、トライムを縛り付けていた蔦の元へと辿り着いていた。
自らが持つ槍の先端で蔓を切り裂き、そのままトライムを引っ張り出すかのように彼の事を引き出した。
その後迫ってくる攻撃に対しても彼は策を練っており、不意にベルミリオンとの別れ際に得た流星石『雷』の液体を周囲に散布した。
黄色い液体は空気に触れ小さな雷となり、直線上に飛び交い迫ってくる蔦に攻撃を開始した。
触れた途端に空気中の酸素と発生した火花で放電し、蔦の先端を燃やした。
その隙にと、彼はトライムを連れ安全な場所であり再び見守るべき相手であるカツキの近くへ走り出した。
「クッ・・・二度に収まらず三度にまで・・・!! もう許さないわよ!! 貴方達!!」
蔦の先端に着いた火を地面に擦り消しつつも、メイリーは逃げたトライム達の姿を追った。
計算に入れて行動したのか、彼女の死海を潜り走った彼等の姿を瞬時に見つける事は出来なかった。
しかしすぐさま視界に映り火が消えると同時に、彼女は攻撃の手を彼等に伸ばそうとしていた。
「助かったぜ、ドリフト!」
やられてしまう所を助けてもらった礼をドリフトへ告げつつ、トライムは背後から迫ってくる蔦の動きを見ながら前へと走っていた。
礼に対しドリフトは軽く頷きながらカツキの居るビルの影へと向かい、路地を見た。
するとそこには、頭痛に襲われその場から動くことが出来ずにいた彼の姿が映っていた。
何時しかうずくまる体制から地面に横たわる体制となっており、頭が痛むのか苦しそうな表情のまま頭を押さえていた。
「・・・! カッツ!? しっかり!!」
「なっ! まさかまた頭痛が!」
何かにやられたのかと心配するドリフトを見て、トライムは持病の頭痛だと判断し携帯していた頭痛薬を取り出した。
しかし背後からやってくる敵の気配を感じ、薬を路地へと投げトライムは攻撃をジャンプして避けた。
無論その攻撃はドリフトの目にも入っており、そのまま路地の中へと飛び込み彼の投げた頭痛薬を手にした。
「またっ・・・!」
「悪いドリフト、もう俺は助けなくても良い・・・! カツキを頼む!!」
「トライム!!」
再びやってきた敵の攻撃を目にし彼が呟くと、トライムは再び囮になるが助けなくても良いと彼に告げその場を走り出した。
それと同時に、今まで守ってきたカツキを守ってほしいと告げ、彼はドリフトにカツキを託すのだった。
「メイリー! こっちだ!!」
「お待ちなさいっ!!」
例え目に見えた囮作戦であっても、トライムは負けずにメイリーの前に立ちはだかり流星石を手にした。
先ほどから同じ手段しか取れないものの、それでも今は止まるわけには行かない。
今倒すべき相手は目の前に居るが、たとえ倒せなくても時間稼ぎはしなくてはならない。
トライムはそう考えている様子で、必死に彼等のためにと時間を稼ぐのだった。
『トライム・・・ ・・・』
そんな彼の行動を目にし、ドリフトは手にした頭痛薬をカツキに服用させようと彼を抱きかかえた。
抱え右手で器用に箱を開け、中に入っていたタブレットタイプの錠剤を手にし彼の口の中へと入れた。
飲むための水が無く飲み干せるか心配だったものの、口に入れられた薬を感じカツキは一生懸命に飲み干した。
その後しばらくして、頭痛が和らいだのか段々と表情が落ち着き彼の呼吸も整いだした。
落ち着いた彼を目にし、ドリフトは静かにカツキを床に寝かせ起き上がれる時を待とうと彼を見ていた。
『カッツ・・・! お願いだ、助けてやってくれ・・・!!』
そんな彼を見ながら、ドリフトは静かに祈り彼が再び目を開けてくれる時を待つのだった。
時間が無いと焦りながらも、彼の身体を気にするかのように。
-続く-