外伝・望みの行く先 2
「・・・あーらぁ、逃したの。 目の前にしておきながら、2度も3度も・・・」
「も、申し訳ありませんっ・・・」
ドリフトが新たに向かうべき場所を見つけた頃。
その地区のとある大きな温室の一角では、そんなやり取りをする集団がいた。
温室には色とりどりの花々が咲き乱れており、その場だけはとても平和であり外の妙な賑わいの空気とは違った空間を保っていた。
報告をしていた追手達は、上司に位置する存在に報告をし満足のいく報告を持ってこれなかった事に苦し紛れにそう言っていた。
花を象った玉座に座っていた上司はそう言うと、その場から立ち上がりゆっくりと彼等の元へと向かった。
そして、
スパァンッ!
「グァッ!!」
手にしていたスティックで相手の頬を叩くと、叩かれた追手の1人はその反動で殴られたまま別方向へと飛ばされてしまった。
女性の腕力ではありえないほどに相手は飛ばされており、先ほどまで白かった頬は赤く腫れ上がっていた。
「・・・ 貴方達も・・・」
スパァンッスパァンッ!!
飛ばした相手を一瞥した後、残りの存在達に向かって上司は再びスティックによる叩き攻撃を繰り出した。
そのまま座って報告をしていた存在達は別方向に飛ばされてしまい、頬を抑えながらも再びその場に土下座していた。
「仕えない存在は、苗になりなさい。」
その後上司はそう呟くと、殴られた存在達は身体に違和感を覚え頬を抑えた。
すると、
ボコッ・・・!
「!!」
殴られた箇所に一輪の花が咲きだし、それと共に咲いた箇所から激痛を伴いだしたのだ。
顔に近い箇所からの激痛を感じ、追手達はその場でのだえ苦しみだし地面を転がった。
花を中心に顔には根っこのように血管が伸びだし、彼等の身体に異変が起こっているのが良くわかった。
「たとえ使えない存在でも、血肉くらいにはなるでしょ? さぁ、綺麗な花を咲かせて頂戴。」
「ぐぁぁあああああっ!!!」
再び玉座に戻った上司はそう言うと、追手達は徐々に広がる痛みに苦しみだした。
苦しむ存在達を目にし、上司は不気味な笑みを浮かべながらその様子を堪能している様子でゆっくりと愛でていた。
「ぉ、お許しをメイリー様ぁっ!!」
「お、俺達は・・・! 苗じゃ!!!」
「黙りなさい、下等が。 使えない存在は、私嫌いなの。 お解り?」
「ガアアッ!!」
メイリーと呼ばれた上司はそう言うと、再びやってきた激痛に追手達は苦しみだした。
しばらくすると、足にまで伸びた根っこは足を突き破りそのまま地面に刺さり徐々に根を張りだした。
それによりどんどん成長する花を見て、メイリーは嬉しそうな笑みを浮かべながら巨大化する花を堪能していた。
「ウフフッ、本当に綺麗ね・・・ 使えない存在はゴミ同然だけど、貴重な肥料に変わりないもの。」
しばらくして悲鳴すら上げなくなった追手達を見て、メイリーは背後の羽をはばたかせながら花の元へと向かって行った。
顔にはすでに正気の色は無く、いつの間にか無くなった目からも咲きだす花をメイリーは静かに見ていた。
すでに彼等に命は無く、全ての行動が花によって奪われたのが分かる光景だった。
この温室に美しい花々が咲き乱れるのは、彼女の要望を叶えられなかった存在達の命そのものだった。
身体すらの自由を奪い、体内で生成される成分全てを花の栄養源にすることでどんな時期でも美しく咲いていられる。
メイリーはそれによって生み出された花々を愛でる事が大好きであり、使えない存在の報告を聞かなくて済む事から次々に苗にしていった。
今の行いによって新たに3輪の花が出来上がり、それに満足している様子でメイリーは花を見ていた。
「・・・本当、逃した存在1人をどうして処分出来ないのかしら。 狼なんて、汚らわしい独り身の存在じゃない。」
彼等の報告を再び思い出した彼女はそう言うと、持っていたスティックを握りしめ羽ばたきながら外へと出て行った。
その頃・・・
「・・・」
見ず知らずの場所で命が落ちた事を知らない、青年カツキはと言うと。
その日もやってきた朝日を窓辺で眺めつつ、トライムの帰りを待っていた。
晴天に変わりない青空を静かに見ており、時折見せる鳥達の姿をぼんやりと見ていた。
その日その日でする事は同じではあるものの、それ以外の事をする気力を持たない彼にとってこれ以外する事が無い。
時折の広場で外を見る事はあるが、最近ではそれをすることも減っていた。
「・・・ つまんないな。」
軽くそう呟いた彼は、その場で見る事に飽きた様子で部屋の中に戻った後外へと出て行った。
頻度が減ったとはいえ、彼が外へ出なくなると言う事に繋がったわけではない。
天気が良ければ外へ出るし、行動目的が無くても何か変わった事が見つけられるかもしれない。
最近の彼は少しだけポジティブな目線で見る事が可能になった様子で、その日も外へと出て定位置である塀の上へと登って行った。
そして再度空を見上げ、青空をのんびりと見ていた。
『・・・ ドリ・・・』
その後その場にはいない存在の名前を、心の中で呟いていた。
『俺、本当に何がしたくてココに居るんだ・・・ 世界が変わって、街が変わって、住処が変わって。 周りばかり変わって、自分だけ何も出来てないじゃん。 ・・・何がしたいんだ。 俺って・・・』
空を見ていた目線は徐々に下へと向かい、カツキはうずくまる様に身体を丸めていた。
徐々に顔の明るさも失われていき、生きるための目的が見えない様子で苦しんでいた。
その時その時で出来る事をしていたのにも関わらず、自分には何も出来ない。
それだけが毎日見え隠れしている様子で、彼は軽く吹いてきた風に髪を揺らしつつ丸まっていた。
「・・・なぁ、俺・・・ 何が出来るんだよ・・・何がしたいんだよ・・・ ・・・ドリ・・・ッ!」
「カッツなら、なんでも出来ると思うぜ。 俺は。」
「・・・?」
次第に心の声が口から出た様子で、カツキは呟いた声に対する返事を耳にした。
不意に聞こえた声の主を確かめようと、丸まっていた体制から静かに顔を出し前を見た。
すると、彼の見た先に1人の影がありこちらへとゆっくり向かってきていた。
それを見かねたカツキは体制を元に戻しつつ、その存在が誰なのかを確認しようとしていた。
「何が出来るとか、そんな明確な事は必要ない。 カッツはカッツ、自分らしく生きてしたい事をするのがカッツじゃないか。」
「ド・・・リ・・・!
ドリフトッ!!!」
バッ
その後聞こえてくる声と影の色がハッキリすると、カツキはその場にいた存在を見て驚愕した。
そして相手の名前を想いきり叫ぶと、座っていた塀から飛び降りそのまま大地を蹴り彼の元へと向かって行った。
そこに居たのはドリフトであり、先ほどのベルミリオンとのやり取り後すぐさま彼の事を見つけた。
しかし寂しそうにしている彼を見てすぐにはいかず、タイミングを見ていた様子でゆっくりと彼の元へとやってきたのだ。
涙目になりながら自分の元へとやってくる彼を見て、ドリフトは優しく彼を抱きしめた。
「ドリフト・・・! ドリフトぉお・・・・!!」
「カッツ・・・ ・・・1人にして、ゴメンな。」
泣きじゃくりながらも叫ぶ彼を宥めるよう様にドリフトは言うと、優しく背中をさすり彼の欲していた自分がそこに居る事を伝えた。
それが切欠となったのか、カツキは込み上げてくる感情に耐え切れず泣き叫び、ドリフトの手の中で涙を流した。
そんな彼を見て、ドリフトはただ優しく撫で落ち着くまでそうしていようと決めるのだった。
「・・・良かったわね、カツキ。」
2人きりの空間になっているのを、遠くから見守っていたベルミリオンは静かに見守る様に見ていた。
その後聞こえていないであろうカツキに対し軽くそう言い、優しい笑みを浮かべていた。
会いたかった存在に、出会えて良かった。
今までずっと耐えていた感情を、抑えなくても良いきっかけに出会えた。
辛かった思い出ごと綺麗サッパリに忘れてしまえば、また笑顔を見せてくれる。
彼女はそう思っている様子で、ビルの屋上から彼等を優しく見守っていた。
しかし、
「・・・こんな所にいましたのね。」
「!!」
静かに見ていたベルミリオンの背後から声が聞こえ、彼女は驚きながらも背後を見た。
するとそこには、不気味な笑みを浮かべながら自分を見ている妖精の姿があった。
妖精と言っても彼女と同じ背丈ほどある妖精であり、その笑みもあってか恐怖を彼女に与えていた。
「今までの拘束から逃げられたからと言って、調子に乗らない事ね。 汚れた雀。」
「メイリー! ッ!!」
背後に立っていた存在が言った事に対しては何も言わず、ベルミリオンは敵である事を再確認しその場から逃げようとした。
「あら、何処へ行こうというのかしら。」
シュルシュルシュルッ・・・ ガシッ!!
「ッ!!」
しかしすでに敵のテリトリーに入って居た事を後に知らされ、メイリーの言葉と共に行動し出した蔓に捕まってしまった。
綺麗なワンピースごと彼女を縛り付けており、磔にされる形でベルミリオンは拘束されてしまった。
「無駄な抵抗はおよしなさい。 そうでないと、貴方も使えない家来達のように苗になるのよ。」
「ッ・・・ ・・・」
ベルミリオンを縛りつけた事を確認すると、メイリーは顔を近づけ至近距離で彼女にそう言い聞かせた。
元より彼女の事を知っている様子で、ベルミリオンは抵抗はせずただその場で静かにしていようと決めた。
そして近くに居る存在を悟られないかと、軽く気にしていた。
「? ・・・あらぁ、これは絶好なターゲットね。」
スッ
「・・・! 待って・・・止めてぇえっ!!!」
しかし軽く視界が泳いだ事を見逃さなかった様子で、メイリーは軽く彼女の見ていた方角を見て嬉しそうに言葉を漏らした。
そこにはビルの間から見えるカツキとドリフトの姿があり、拘束すべき対象が揃っている事に歓喜したのだ。
せっかくのチャンスを逃がすまいと、メイリーが取り出したスティックを見てベルミリオンは叫んだ。
「ウッフッフッ・・・! 見ぃつけ・・・たぁあっ!」
「カツキ! ドリフト!! 逃げてぇええーーー!!!」
その後メイリーがやるであろう行動に予測がついていた様子で、ベルミリオンは遠くに居るカツキ達に聞こえるであろう声量で思い切り叫んだ。
それと同時に、自身を拘束していた蔓達がメイリーのスティックにより動きだし、彼等を捕まえようとするのであった・・・
-続く-