外伝・望みの行く先 1
ベルミリオンと名乗る少女と出会ってからというもの。
カツキは何かきっかけを見つけたかのように、今までとは違う一面を見せる事が多くなってきていた。
それを一番に悟った相手は、彼と接する期間の長いトライム。
かと、思われた・・・
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
街の一角にある路地裏に逃げ込んだドリフトは、乱れた息を整えつつ追手から見えないようにと暗がりに逃げ込んでいた。
丁度廃棄用の器材が点々と置かれている場所だったため、自身の身体を消すにはうってつけの場所であった。
息をひそめながらも、今その場にいない相手の事を考え空を見ていた。
「ハァ・・・ ・・・何処に、居るんだ・・・ カッツ・・・」
呟き混じりに言葉を吐くと、ドリフトは寂しそうに軽く涙を流していた。
探している相手が近くに居るのは分かっているのに、その存在の姿を見つける事が出来ない。
それどころか静かに探す世暇さえ残されていない今の彼にとって、休息を取る事すら厳しい現状であった。
食事などをろくに取らずに走り回る事も増えており、自身の体力が何時まで持つかも彼自身は気にしていた。
出会うべき相手に会う前に、自分が倒れては意味がない。
ドリフトの中で燃え上がる意識そのものだけで、今の彼は活動しているに等しかった。
絶対に会わないといけない人が居る、ただそれだけで。
「・・・」
ガサッ
「・・・! 居たぞっ!!」
「クッ!」
そんな寂しげな空間すらも長続きしない様子で、ドリフトは再び聞こえた追手の声から逃げるべくその場に立ち上がった。
そして視界に映った相手から逃げるべく、相手が来た路地とは別の方向へと逃げようとした。
しかし、
ガッ!
「くぁっ・・・!」
その場にあった小さい木箱に足を引っかけてしまい、彼はそのまま地面に倒れこむ形で路地裏に倒れこんだ。
それを見た追手達は、チャンスを逃すまいとばかりに彼に駆け寄り、そのままドリフトの手足を地面に押さえつけた。
「クッ!」
「さぁ、ようやく捕まえたぞ・・・! ドリフト、奴の居場所を教えてもらおうか。」
「・・・」
倒れたままうつ伏せの状態で来る問いかけと共に、手足を押さえつけられドリフトは唸った。
だが相手が欲する情報を元から持っていない事に等しい彼にとって、返す返事もなくそのまま顔を地面に向けていた。
「言え・・・ 言うんだ!」
グッ!
「ガァアッ!」
問いかけに対し返事がない事を悟ると、追手の1人が握っていたドリフトの右手を持ち上げ捻りあげた。
普段ではありえない方向に手が曲がったと同時に、ドリフトは声を上げ痛みを耐えていた。
その後別の箇所からも痛みが伴いだし、どうやら他の追手達も手足を捻ったり踏んだりと拷問する体制になった様だ。
彼の背後にある尻尾も持ち上げられてしまい、ひどい有様ではあったが彼は必死に耐えていた。
今いない相手に会うまでは、絶対に死ねない。
それだけが彼の心を前へと向かせており、軽く涙が出てくるのに対し彼は声を上げながらも耐えていた。
「・・・チッ、しぶとい狼だ。」
「ハァ・・・ハァ・・・」
どんなに手足を痛みつけても口を割ろうとしないドリフトを見て、追手の1人は一度捻るのを止め再び彼を地面に押し付けた。
痛みが弱くなるのを感じ、ドリフトは一息つこうと呼吸を荒くしつつもうつ伏せになっていた。
「しかたねぇ。 口を割る気が無いっていうんだったら、死んでもらおうしかねぇぞ。 糞獣が。」
「・・・」
これ以上の拷問は無く止めを刺すかのように追手は台詞を言うと、背後で何かを取り出す音と共に彼の目に流星石の姿が映った。
目に映った流星石は、瓶自体に特殊な加工はされておらず液体自身が黄色い代物だった。
どんな効力があるのかは彼自身も分からないが、致命的なダメージが来る事だけはわかった様子でドリフトは虚ろな目を向けながらもその力を見ていた。
「もうどんなに身体に痛みが来ようが、お前は何も言う気は無いんだろうしな・・・ だったら、このまま雷撃と共に心臓の動きを止めてやらぁああ!!」
追手の1人はそう言うと、瓶を引き抜きドリフトの身体に向けて雷を放とうとした。
こればかりは耐えられるかわからないと悟り、ドリフトは目を瞑り覚悟を決めようとした。
その時、
「待ちなさい・・・」
「!」
振り下ろされそうになった瓶が途中で停止し、それと共に彼等の耳に声が聞こえてきた。
声のした方を見てみると、それは上空に映った影からの声の様でゆっくりと彼等の前にあった木箱の上に降り立った。
「ベル・・・ミリオン・・・」
降り立った存在を見て、ドリフトは途切れ途切れの声で彼女の名前を呼んだ。
そこに居た存在とはベルミリオンであり、追われている身でありながらもドリフトの前へとやってきた存在だった。
背後の翼を消しつつ追手を一瞥すると、手にしていた流星石を軽く前へと向けた。
「その子を殺すと言うのなら、まず私を倒す事ね。 物騒な物でそれ以上の傷は、何も生まないわ。」
「ほぉ、カモがネギを背負ってきたとはこういう事を言うのかもなぁ。 汚れた雀が。」
「小賢しい台詞は、終わった後に言う事ね・・・」
顔見知りである様子で、ベルミリオンはそう言いつつドリフトを離すよう彼等に命じた。
しかしその交渉を飲むような追手達では無い様子で、軽く小馬鹿にするように彼女に言いつつ抑えていた数人の追手達が立ち上がり彼女も捕獲しようとしていた。
行動が気に入らない様子で彼女は呟くと、瓶の栓を取り外し軽くその場で液体を振りまいた。
すると、
ボワァアァッ!!
「グァァッ!」
まるで路地全体に液体を振りまいたかのように地面から炎が吹き出し、追手達全員を覆い尽くし出した。
事前に策を練っていた様子で彼女はその場から床に降りると、追手達が手を離した隙にとドリフトの手を取り路地の外へと向けて駆け出した。
軽く足がもつれるものの、ドリフト自身も必死に足を踏みだし彼女の後に続いて外へと向かって行った。
「ま、待てっ!!」
吹き荒れる炎に翻弄されつつも追おうとした追手はそう叫ぶも、吹き荒れる熱風にはなすすべもない様子で行動する事は無かった。
その隙に逃げ出した2人は、そのまま上空へと飛び出し彼等の来ないであろうビルの上へと向かって行った。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「・・・本当に、貴方って馬鹿ね。 そんな身体になるまで、探す相手が居るの?」
昼間の日差しが降り注ぐビルの屋上へと降り立ったドリフトは、そのまま前のめりになりつつも息を整えだした。
手足の節々が痛むものの身体自体は無事な様子で、意識をしっかり持とうと頭を左右に振り正気になろうとしていた。
そんな彼を見ながら軽く膝を曲げたベルミリオンは、彼の顔を覗き込みつつそう問いかけた。
無駄な行動をしているのを何度も見かけていたため、どうしても彼女自身は理解出来なかったのだろう。
呆れながらもその思考を知ろうと、そう言っていた。
「居るぜ・・・ アイツには、俺が必要ってことが分かってるからな・・・ たとえ離れ離れになろうとしても、俺はアイツが望む限り絶対にそばに行くって決めたんだ・・・」
「・・・」
「グリップ達に、俺は託されたんだ・・・ だから、絶対に・・・!
俺はカッツの元に行くんだ!! 身体がボロボロになって、アイツを悲しませることになっても! 俺はそばに行くって決めたんだ!!」
「・・・」
問いかけに対しドリフトは小声でそう言っていると、次第に声のボリュームを上げながら彼女に向かってそう言い放った。
無駄に探したとしても、それは無駄ではないと彼は思っている様子で必死に伝えようとしているのが彼の目からも伝わってきた。
そんな彼を見ながらベルミリオンは先ほどから変わらない目つきで彼を見ており、何を言ってもその考えを変えるつもりは無いのだろうと思った。
それを悟ると、彼女は静かにその場に立ち上がり軽く横を向いた。
「貴方の言うカッツって、『カツキ』の事・・・?」
「ぇっ・・・」
軽く屋上にあるフェンスに両手を置きながら、ベルミリオンは先ほどから気になっていた相手の事を質問した。
知っていないであろう彼の事を言われ、ドリフトは驚きながら彼女を見た。
「お前、知ってるのか!? カッツが何処に居るか!」
「言わなくても、多分貴方なら行くでしょうね。 その場所に。 ・・・その子が今、どうなってるのか。 貴方はわかるの?」
驚き振りを見て探している相手であることを知ると、ベルミリオンはそう言いながらカツキの事を問いかけた。
もし本当に会うべき必然性があるのなら、今の彼の事をどれだけ感じているのかもわかっていると彼女は読んだのだろう。
返答によって、この後の行動を取る体制が表情から見て取れる。
「・・・きっと、過去のアレで心がズタズタになってる。 カッツは元々そういう事に強い方じゃないから、いつもいつも1人で頑張ろうってしてる。 ・・・でも今回ばかりは、傷つけられ過ぎた。 だから早く、アイツにあって俺が道を示してやりたいんだ。」
「そう・・・」
彼の考えるカツキの現状を聞き、ベルミリオンはそう言いながら持っていた流星石を彼に手渡した。
それは先ほど追手達が使おうとしていた流星石であり、すれ違いざまに取り上げた『雷【トネーラ】』だった。
差し出された流星石を見て、ドリフトは軽く手を伸ばし瓶を受け取った。
「あの子なら、この先の路地を行った古びた家に居るわ。 ・・・無事に、示してあげられると良いわね。」
「! ありがとう!」
ベルミリオンはそう言いながら軽く微笑むと、ドリフトは嬉しさのあまり満面の笑みを見せながらお礼を言った。
そしてそのまま流星石を持ったままビルのフェンスに手をかけ、そばにあった雨水を地下へ流すためのパイプを頼りに下へと降りて行った。
そんな彼を見て、再び彼女は空を見上げた。
『あの子が、貴方の探していた相手なのね。 ・・・羨ましいな、思い出と共に行動出来るなんて。 私には、思い出なんて何もないのに・・・』
軽く嬉しい事があり喜んでいる反面、彼女は少し寂しそうにフェンスに持たれ、顔をその場に預け外を見ていた。
-続く-