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外伝・消失した優しさ 3

そんな一瞬の戦いがビル屋上で送られている事は、街の存在達は知る由もなかった。

街の露店は賑わいと喜びに包まれており、戦いとは無縁であり寂しさを感じる事は左程なかったからだ。

しかし、中にはそんな楽しげな空間に入れずひたすら何かと戦う存在達も少なくはなかった。




「・・・」


そんな逃走劇と戦いが行われていた事を知らずに、寝てしまっていたカツキ。

いつしか目を瞑り寝てしまって居た事を改めて知り、ベットとして使用しているソファの上で身体を起こした。

その後頭に宿っていた痛みから解放されたことを知り、近くでは椅子に座ったまま寝てしまっているトライムの姿もあった。


「・・・ゴメン。」


そして再び彼に迷惑をかけた事を知りつつ、カツキはソファから足を下し地面に足を付けた。

そのまま壊れかけた窓ガラスのある窓辺へと移動し、軽く外を見つつ様子をうかがった。



相変わらず外からは露店から聞こえる楽しげな会話と呼び子達の声が聞こえ、常に賑わう事を止めようとはしなかった。

共よりこの街が好きではない彼にとってみれば、それは酷い雑音であり好ましい声ではなかった。

その後再びベット周辺へと移動し、トライムが取ってきてくれた朝食用のパンと水を手にし軽く外へと出て行った。



外へと出ると、午前中にあった日差しが変わらずに街を照らしておりとても暖かかった。

軽装に近い彼の衣服では丁度良い気候であり、そのまま少し移動し適当な塀の上へと昇り腰かけると、持っていたパンを齧りつつ遅めの朝食を取っていた。

彼からしたら、こういった静かな空間で行う一人ぼっちの朝食が好ましい様子で、静かであり周りを気にせずにいられる空間を好んでいた。

他人を信用したくないと言う気持ちからか、他人を気にしなくていいこの空間が唯一落ち着くのだろう。


トライムが休息を取っている間だけでも、彼に迷惑を駆けまいと彼なりの配慮をしている様にも見えた。


「・・・ハァ。 ・・・いつもと同じ味。」


しかし、食べている食事にあまり満足していない様子の彼であった。

配給されているに等しい食事な上に、元より味付けなどされていないパンと水とでは味気なさが目立つ。

そう言った感覚から新たな感覚を得るには、やはり露店に赴き商品を購入するしか方法は無い。

だがその方面には出たくない様子で、仕方なく持っていたパンを全て口の中へと放り込み食事を終えた。




その後彼は、軽く視線を空へと向けた。

空は青空に点々と雲が浮かぶだけのとても良い天気であり、時折飛び交う鳥達の姿も見えた。

自ら空へと飛ぶことは敵わないが、それでもそう言った『自由に過ごしている』と思われる生き物達は彼は好きだった。


信用等の言葉とは無縁であり、自由に自由に好きなところへ行ける。



それが、今彼が求める自由の様だった。


「空とか、飛べたらな・・・ 俺も、こんな息苦しい所から早く出ていけるのに・・・」




「・・・そうかしら。」

「?」


空を飛んでいた鳥達を見ながらカツキが呟くと、不意に彼の後方から声が聞こえた。

声を聞き後ろを見ると、そこには先ほどまで屋上で風を感じて佇んでいた雀の少女の姿があった。

ゆっくりとした足取りでこちらへと向かってきており、適当な位置で足を止めるとカツキを見ていた。


「空を飛んだって、何か変わった事を感じられるわけでもないわ・・・ 退屈な事には変わりないし、無駄な事をしている人達が視界に映ってかえって疲れるもの。」

「・・・そうは感じないからな。 俺は。」


寂しげにカツキの言った事に反論する少女を見た後、彼は彼女の言った事に対してそう言った。

互いに感じる物は別々であり、自分はそう感じるが相手はそう感じない。

彼はそれが分かっており、たとえ他人の意見であっても自分の考えを変えるつもりは無いようだった。


「地上に居たって、自由になれるわけでもない。 行動しても、結局意味の無い行動に成り下がった。 ・・・だったら、別の行動をしたくなるのも普通だろ。」

「・・・新しい行動に手を出すと言うのは、私も賛成するわ。 変わった事が出来るのであれば、私もそれを望みたいもの。」


再び空へと視線を戻したカツキは、空を見ながら軽くそう言った。

彼の意見に対し彼女はそう答え、もしそれをするつもりならば私もそれをしてみたいと言っていた。


「・・・でも。」




「それは1人では出来ない。」



その後彼女が言いかけた事に対し、2人は声をそろえてそう呟いた。

軽く言おうとしていた事を言われ、彼女は少し驚きながらカツキを見た。


寂しげにその場に座る青年は、軽く空を見ているだけでそれ以上の事は何もしていない。

武器と呼べる武器も持っていない上、軽装過ぎてむしろ肌寒いのではないかと思われるほどの井出達だ。

後ろ姿しか見れなかったが、それでも十分魅かれるものがあった様だ。


「・・・貴方。 名前は?」


そして不意に、彼女は彼に名前を聞いていた。

それに対し、彼は少し彼女の方を向きつつ「カツキ。」と告げた後、再び空を見上げていた。


「カツキ・・・ ・・・カツキね。」


名前を聞くと、少女は再び少し前へと移動し彼の座っている塀部分に軽く手を触れた。

その後塀を背にしもたれると、彼女も同様にその場から空を見上げた。

同じ空を見て、少しだけ気分が変わると思ったのだろう。

出会い当初のつまらなそうな表情から、少しだけ笑顔が戻っているかのようにも見えた。


彼女のそんな行動を軽く横目で見た後、彼は特に何も言わずにその場で空を見上げていた。

静かであれば干渉する必要が無い様子で、かえって同じ時間を共有している事に少しだけ楽しさを覚えている様だった。

軽く吹いてきた風に衣服をなびかせながら、2人は空を見ていた。





「・・・ぁっ、カツキー」


そんな2人だけの空間でいると、不意に彼の事を呼ぶ声が聞こえてきた。

名前を呼ばれ再び視線を前へと向けると、カツキの前には先ほどまで寝ていたトライムの姿があった。


「もう平気なのか? 出歩いて。」


軽く彼が寝ていた場所に姿が無かったことに心配していた様子で、彼はそう言いつつカツキの顔色をうかがっていた。

顔色は先ほどよりも明るく、今では元気な彼でいるのが見てとれた。


「ああ・・・ 飯も食べたし、今は大丈夫。」

「そうか。 ・・・あれ。」


トライムからの問いかけに彼はそう答えると、不意に彼のそばに居る少女の姿を見て驚いていた。

元より他人を寄せ付けようとしなかった彼のそばに、ましてや少女が居るとは思わなかったのだろう。

異様な光景を目にし、少し意外そうに彼女を見ていた。


「カツキ。 知り合いか?」

「・・・いや、さっき会ったばかり。 ・・・」


問いかけに対し彼はそう答えると、静かに再び少女を見た。

すると少女は背にしていた塀から身体を起こし、彼等の居ないところへと向かって歩き出した。

それを見たカツキは何か言おうとしたがうまく言葉が出ず、その場で行動しようにもできない様だった。



「・・・なぁ、お前。 ちょっとだけいいか。」


そんな彼を見て、トライムは彼の代わりに適当に彼女に声をかけた。

すると彼女はその場で足を止め、少しだけ振り返りつつこちらを見ていた。


「少しだけだけどさ、カツキと居てくれてありがとう。 名前、よかったら教えてくれないか?」


少女に対しそう言うと、礼を言いつつ名前を教えて欲しいと彼女に頼んだ。

すると、少女は少し横を見た後彼等の方へと振り返りつつこう言った。




「『ベルミリオン・スパロウ』 ・・・カツキ、またね。」



軽く彼女は名前を名乗りそう言うと、彼女は背に羽を出し空へと飛んで行ってしまった。

そんな彼女の後姿を見ていると、カツキは塀の上へと立ち上がり彼女の後姿を見送った。


「・・・良いな。 空。」

「へ?」


不意にカツキはそう呟くと、トライムは不意に言った発言を聞き取れなかった様子で声を上げた。

その後彼は塀の上から地面に飛び降りると、トライムを見ようと振り返った。


「・・・疲れたから、また少し休むよ。」

「あ、ああ・・・」


振り返ったと同時に彼はそう言うと、元来た道を戻りつつ彼の横を通り過ぎた。

しかし通り過ぎると同時に、ある言葉を口にした。


「・・・ゴメンな。 トライム。」

「?」


トライムに対して彼はそう言うと、カツキは再び表情を戻し先ほどよりも気分が楽になった様子で住処へと戻って行った。

そんな彼の様子に少し戸惑いつつも、再び後を見守ろうとトライムは走りだし、彼の後について行ったのであった。



 -続く-


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