外伝・消失した優しさ 2
いつしか『頭痛持ち』となり、日々苦しむ事となってしまったカツキ。
それを支えるトライムではあったが、彼も彼なりに何かできる事をしたいと望んでいた。
街の雰囲気は変わったとはいえ、唯一彼の生活は平和にはならなかった。
その事が日々彼の頭をよぎり、改革を行っていたグループから抜けた後もずっと考えていたのだった。
「・・・」
一時空家へと戻ってきたトライム達は、痛みを落ち着かせるために普段使用している医薬品をカツキに服用させた。
街で合法的に手に入れたものであるがゆえに効力は高く、しばらくするとその痛みも薄れてくるほどだ。
そうすればまた彼が苦しむ事無く、時間を少しだけではあるが平穏に過ごせると思っていた。
しかし続けて服用する事による効力の低下は、どうしようもない事ではあった。
「ハァ・・・ ハァ・・・」
飲んだ直後ではまた効力がないためか、カツキは痛む頭を抑えつつ楽な体制を取っていた。
普段寝泊りで使用しているソファに腰かけ、そのままあおむけになるのが一番楽なようだ。
そんな彼を見て、トライムは静かに見守る事しか出来ずにいた。
「大丈夫か、カツキ。」
「あぁ・・・ ・・・悪い、トライム。 少し、横になるよ・・・」
「おう。」
辛そうな彼に一声かけると、先ほどとは違い少しだけ信用してもらえている言葉が返ってきた。
時折彼がそう言う事には無理もないと思っていたためか、トライムは時折呟き混じりに一言言う以外は彼を攻めようとはしなかった。
元より悪いのは改革側であり、全員が救われていない改革では彼も納得していないのだ。
ゆえに、もう一度変わらないといけないと彼は考えていたのだ。
『・・・早く、この辛さから解放してやりたい・・・ ・・・でも、俺に出来るのか・・・? そんなことが。』
とはいえ、1人でそんな大きな事が出来るのだろうかと考えてしまうのが普通だ。
トライムもそのうちの1人であり、いつしか眠ってしまっているカツキを見つつそんなことを考えていた。
本気になってやろうとは思っても、多人数で成し遂げられたかどうかも分からない事を個人でやるのは無理だ。
どうしてもそう考えてしまう様子で、椅子に腰かけつつ空を眺めていた。
『なぁ・・・ ・・・お前だったら、出来たのかな・・・ ハンメル。』
そして、ここにはいない存在の名前を口にしつつぼんやりとするトライムなのだった。
そんな空家での寂しげな風景が広がる中。
タッタッタッ・・・
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・」
人通りの多く賑わいが絶えないとされている、露店の広がる商店街の通り道。
そこでは1人の存在が、色とりどりの商品にも目をくれずに通りを駆け回っていた。
紫色に白色の狼であり、どうやら追手から逃げている様子だった。
『何処だ・・・ 何処に居るんだ・・・! カッツ!!』
「居たぞっ!!」
「クッ!!」
探している存在が居る様子の狼の背後から、彼を捕まえようとする集団。
声を聞くたびに舌打ちをしつつ、狼は通りに時折転がっている木箱を障害物として通った道に置き、追手との距離を取ろうとしていた。
時折裏道に入り視界から消えようと努力するものの、なかなか一筋縄ではいかない様子だった。
「待てぇえ! アイツは何処に居るんだ!」
「教えろ! ドリフト!!」
追手達も彼の巧妙な策にはまるまいと足を前へと踏み出しており、こちらも探している存在が居る様子だった。
ドリフトと呼ばれた狼は特に叫び声には返事をせず、ただひたすらに前へと進み逃げつつ探す行動を続けていた。
『お願いだ・・・ 絶対に、死ぬんじゃないぞ・・・ 俺が、お前のそばに行くまでは・・・!!』
追手達の距離を確認しつつ、ドリフトはただひたすらに今会いたいと思う存在へ対し願い続けていた。
相手の死が近いと悟っている様子で、走りながらも願う事だけは彼は止めようとはしなかった。
「待てぇえ・・・・!」
「・・・」
そんな彼等の走り回る商店街の風景と、叫び声が周囲に広がる光景を見ている1人の存在が居た。
通り道沿いに立ち並ぶビルの屋上の柵に座り、ドリフトが駆け抜けた後を追手達が通る光景を静かに見ており、干渉はしないがその成り行きを見守っている様子だった。
屋上付近を吹く風が、その存在の身に着ける桃色のワンピースドレスを靡かせ静かな雰囲気を作っていた。
纏っている存在、それは『雀』だった。
「・・・つまらないわね。 同じことをずっと続けるなんて、何も成し遂げられないし変わりもしないのに・・・」
街中で広がる逃走劇を見ながら、雀は不意に口を開きそう呟いた。
どうやら心配で見ていると言うわけではなく、ただ単にその行動を取る理由が馬鹿げていると言う風に見ている様だった。
髪を靡かせ時折手で退かすものの、それでもこれと言った行動を取ることなく様子を見ている様だった。
すると、
カツンッ・・・カツンッ・・・
「・・・」
不意に彼女の後ろから物音が聞こえ、彼女は座っていた場所に足を置きその場に立ち上がった。
そして、特に後ろを振り向くことなくその場から飛び立ち、別のビルへと移動した。
背後に翼をもつ彼女も空を飛ぶことが出来る様子で、特に羽ばたきはしなかったが水平に飛びつつ別のビルの上へと降り立った。
到着すると再びその場から逃走劇を静かに見ているという、その行動を繰り返していた。
彼女もその行動自体にマンネリを感じている様子で、街の雰囲気は変わっても楽しくもなんともないと思っている様だった。
「捕まえたぁあ!」
そんな事を思っていると、再び彼女の背後から捕まえてこようとする存在の声が聞こえた。
しかし再び彼女は同じように空を飛び、再び別のビルへと移動しその行動から避けていた。
彼女も追手から捕まえるべき対象として見られてはいるが、特に何をしたと言うわけでもないため一筋縄で捕まるつもりは無い様。
そのため無言ではあるが静かに飛び立ち、追手が来ない空を移動してその行動から避けていた。
すると、
「逃がすかぁ!」
今度は到着するビルを予想して待機していた追手達が沸きあがり、彼女を捕まえようと手を伸ばした。
「・・・ハァ。」
すると今度は彼女は逃げる事はせず、溜息を1つした後スカートの中に入れていた物を取り出した。
それは流星石であり、珍しいデザインをした代物だった。
「! マズイ、逃げろ!!」
「・・・」
彼女の取り出した流星石を見て、背後に居た追手はそう叫びその場から逃げようとしだした。
しかしすでに手を伸ばしている追手達にはその行動は出来ず、逃げる事はしなかった。
すると、次の瞬間
「・・・退いて、焼き尽くして・・・」
シュッ
彼女は一言呟くと、流星石の栓を抜きその場で軽く振るった。
その瞬間彼女の周囲に火柱が立ち上がり、彼女を包み込むように塔のように燃え上がった。
「グァアッ! なんだっ!?」
攻撃から避けられず火を直に浴びた追手達は手をひっこめ、距離を取りつつそう叫んだ。
しかし攻撃はそれだけでは止まず、彼女は日の中で両手を伸ばし軽く手で薙ぎ払うかのように動かした。
すると、塔の形態をとっていた炎はすぐさま周囲に向かって進みだし風にあおられたかのように追手達を飲み込んだ。
「グアアアアアッ!!!」
灼熱の炎に包まれた追手達は次々に声を上げ、その場に倒れてしまった。
前身は焼け焦げ、飲まれた時間もあってか生きてはいない様子だった。
横目で追手達が止まった事を確認すると、雀は瓶に栓をし再びポケットの中へと入れた。
「・・・本当、つまらないわね・・・ 街も、他人も・・・皆・・・」
そして再度そう呟き、軽く吹いてきた風に髪を靡かせていた。
彼女の名前は『ベルミリオン』
その地区では強力な流星石『熱風烈波【ベーイズフラーラ】』を使う、追手達の対象とされている少女なのであった。
-続く-