その希望は絶たせない 3
管理課となる2人の存在を打ち負かし、再び地区の外へと出る手段を手に入れたストレンジャーとアルダート。
その時その時で繋がる場所が変わる大扉へと向かいながら、彼等は時々吹いてくる風を感じていた。
時刻は何時しか昼前となっており、美しさのあるその街での平和はとても静かな物だと彼等は感じていた。
「・・・ クラウさん、これからどうするんでしょうか・・・」
先ほどまで戦っていた相手であるクラウの管理する宮殿を後にしたアルダート達。
不意に優しい笑顔で見送ってくれた彼の事を想いだし、アルダートは少し寂しそうに元来た道を振り返りながら呟いた。
彼のイメージする管理課の存在達とは違い、あからさまに優しい性格をしていたクラウ。
そんな彼を倒した事になっている自分は、本当に正しい事をしたのか。
アルダートは少し不安げな様子を見せていた。
「・・・心配しなくても、奴なら平気だろう。 たとえ管理する地区を俺達に譲ったとはいえ、プリンセスとやらに殺されるわけでは無いだろうからな・・・」
「ぇっ・・・ そうなんですか?」
何度も何度も宮殿を見返すアルダートを見て、ストレンジャーは静かに言い彼の心配はする事は無いと告げた。
元々自分達が地区の主を倒したからと言って彼等が死ぬと言うわけでは無く、ただ単に管理する人物が入れ替わったという『評価』を得たに過ぎない。
現にネコが生きている事はクラウからも聞いており、ストレンジャーは残酷な制度が何処までも広がっているわけでは無いとわかっていた。
ゆえに、アルダートが心配になっている彼の安否は気にする事は無いと言うのだった。
とはいえその話は初耳に等しかった様子で、アルダートは意外そうに彼に問いかけた。
「管理課と呼ばれる存在は4人いるが、4人しかいないとも言える・・・ ・・・幾多の地区を纏めていると言う事は、1つ1つのミスで命を絶たせるような姫でも無いだろう・・・という推測だ。 事実は分からないが、クラウが死にはしないさ・・・」
「そうでしたか・・・ 良かったです。 クラウさん、良い人ですから。」
「そうだな・・・」
問いかけに対し彼はそう答え、多いようで少ない管理課の命をミスだけで絶たせる事は無いと推測が立っている事を告げた。
事実、彼が見てきた管理課は根っからの悪人ではない事をストレンジャーは感じており、ましてや婚約をしたかの様に接しようとしているクラウの行動が一番その推測を確定させるかのような行為でもあった。
心から愛し接している存在に、会いたい存在が見つからなくても決して当たることなく接し続け、常に優しい眼差しを向けている。
ネコも悪戯をしているかのような小馬鹿な言動等々は目立つものの、それでも悪人ではない事は彼にもわかっていた。
皆は『プリンセスの考え』に則って行動しており、その考えに反発している自分達の前に立ちはだかった。
ただそれだけなのだと、ストレンジャーは思うのだった。
そんな彼の考えを聞き、アルダートは安心したかのように笑顔を見せ再度クラウは良い人だと言うのだった。
敵である事実を告げても彼の考えは一向に変わらず、詫びがあったとはいえアルダートはクラウの事が好きなのだ。
優しい存在には優しい存在が寄ると良く言うが、クラウの場合はやはり例外の点が目立つのかもしれない。
「もう一度会いたいな」と楽しげに話す彼を見て、ストレンジャーは静かに微笑み大扉を目指すのだった。
すると、
ガタガタガタガタ・・・
「?」
彼等の歩く道路に、何かが走る音が響きだした。
不意に感じた物音の正体を知ろうと周囲を見渡す彼等の視界に、1つの馬車の様な影が見えた。
物音の正体は道路と細くも丈夫な車輪が擦れる音であり、時々聞こえる足音は車を引く馬の足音の様だった。
突如やってきた馬車を見て、ストレンジャーはアルダートの手を引き轢かれない様にと、道路中央から建物の近くへと移動した。
しばらくして接近してきた馬車はゆっくりとスピードを緩め、彼等の前で停車した。
薄くも透明感のある桜色の車体は、素材は何で出来ているのかと思えるほど神秘的な外装をしていた。
操縦席の後ろに席があり、手綱が無いのにも関わらず前方の馬は正確に乗車した存在の命令を聞いてここまでやってきたようだ。
その馬車に乗って存在に、彼等は見覚えがあった。
「クラウさん?」
「やぁ、まだここに居たんだね。 良かった、間に合って。」
馬車に乗っていたのはクラウであり、どうやら彼等に再度会うためにここまでやって来たようだ。
慌ててはいない様だが、次の地区に移動する前に会えた事に喜んでいる口ぶりで話し、彼等の前で馬車を降りた。
その後再度笑顔を見せた後、ゆっくりと彼はその場に膝を付いた。
「・・・どうしたんだ、クラウ。」
「もしこの地区を他の誰かに譲った時、プリンセスがして欲しいって言ってた約束があってね。 それを果たしに来たんだよ。」
「約束ですか・・・?」
意外な役者の登場にストレンジャーは軽く驚くも、やってきたクラウは約束があった事を話し彼等にその事を行いに来たと言った。
とはいえ彼等の知らない約束に等しい話であり、すぐには意味が呑み込めずアルダートは不思議そうな顔をしたまま彼を見ていた。
「正確には、俺が託した訳では無いんだけどね。 それでも君達は、俺にとって大切な存在だ。 これを受け取ってもらえないかな。」
そんな彼等を見て軽く苦笑しながら彼はそう言い、ズボンのポケットから流星石を2つ取り出した。
取り出した流星石は普通の代物とはまた少し違った物ではあるものの、餞別として持ってきた様子でクラウは丁寧に彼等の手に1つずつ流星石を手渡した。
「きっとこの先、同じ力を使おうとしても君達の手を阻む存在が居ると思う。 弱い力ではあるけれど、君達の役に立ってくれれば俺は嬉しいよ。」
「ぁ・・・ ありがとうございます、クラウさんっ」
自分の考えを告げ約束を果たした彼を見て、アルダートは笑顔でお礼を言った。
そんな彼にクラウは再び笑顔を見せ、アルダートの頭を優しく撫で「しっかりするんだよ」と再度励ますのであった。
「俺の考えた調合ではあるけれど、きっと君達の役に立つと思う。 アルダート、君のは『弓』だ。 前衛で活動出来ないと思うなら、援護をして龍君を助けてあげな。」
「はい!」
「改革者の龍、ストレンジャー 君のはあの時使った『杖』に、君に相応しいと思う力を注いだ物だ。 近距離で戦うにはなかなか難しいと思うけれど、君なりの戦い方をこれからも見せてくれ。」
「・・・感謝するぜ、クラウ。 ありがとう。」
その後彼等に託した流星石を軽く説明し、彼等が持っている持っていないは気にせず相応しいであろう力を渡した。
アルダートが受け取った流星石は『弓』と呼ばれる物で、瓶自体の変形させる時間を無くし必要だと感じたその時に攻撃が可能な代物だった。
瓶先から大き目の矢を放ち、援護でも活躍したいと願う彼の行動をサポートする流星石だった。
変わってストレンジャーが受け取った流星石は何かは彼は話さず、あの時使った『杖』である事を彼は告げた。
その上クラウが考えた調合を施した代物であることを付け加え、何かは言わなくても君なら使いこなせるだろうとクラウは言った。
互いに受け取った流星石を見た後、2人はクラウに礼を言い軽く握手を交わした。
「それじゃあ、検討を祈るよ。 改革者のお2人さん、君達の望む希望をこの街に巻き起こしてくれ。」
握手をし終えると、クラウはそう告げ再び馬車へと乗り込んだ。
馬車の淵に手をかけ華麗に乗り込むと、尻尾の位置を直し彼は馬車を走らせようとした。
すると、
「ぁっ、クラウさんっ!」
「ん? 何かな、狐君。」
そんな彼を呼びとめようと、アルダートは声をかけた。
その声を聞き馬車を走らせようとしていたクラウは手を止め、ゆっくりと下ろしつつ彼に返事を返した。
「クラウさん。 その馬車って・・・」
彼が声をかけた理由、それはクラウが乗り込んだ馬車の事だった。
この世界には生き物と呼ばれる生き物は生活しておらず、ましてや透明感のある馬車の素材はどう考えても流星石だと思ったのだろう。
元々流星石に興味があったアルダートは、その馬車が何なのか気になってる様だった。
「あぁ、これかい。 コレは、プリンセスから頂いた俺だけの流星石だ。 『幻想車』と言って、あの人の望む行動をするために使っているんだ。」
「ネコSの使っていた『機械兵』と、同じ流星石か・・・?」
「そうだよ。 ・・・もっとも、俺はこの力を支配には使わないと決めている。 プリンセスは共存を望んでいても、破壊は望まないからね。」
「そうだったんですか・・・」
質問に対し、クラウは丁寧にここまで来るのに使った乗り物の説明をした。
アルダートの読み通りで、馬車は流星石で出来ておりクラウは『幻想車』と呼んでいると言った。
燃料や障害物を気にせず相手を送迎する力であり、その気になれば壁さえも壊す万能の移動車である事も同時に話し、クラウはその使い方をしていない事も同時に告げた。
ネコSとは違った使い方をする所も、彼なりの配慮であり悪用するつもりは元々無い様だった。
その後続けて質問がない事を確認すると、クラウは再度座り直し周囲に障害物がない事を確認した。
発信前の確認の様子で、確認を終えると再び彼等の事を見た。
「・・・それじゃあ、気を付けて行ってきな。 お2人さん、幸せな結末を祈っているよ。」
そんな2人からの最後の会話を終えると、クラウは再びそう言い軽く馬と思われる生物に指示を出した。
その指示を受け馬達が軽く鳴くと、馬車は静かに走りだし彼を元来た道へと送り出すのだった。
旅路を見送られ去ってゆく姿を見送ると、ストレンジャーは軽く声をかけ再びアルダートと共に歩き出した。
受け取った流星石を何度も見返し上着の中へと入れると、2人は大扉の前へと到着した。
そこには一度通った時同様に数人の兵隊達が並んでおり、扉の前へとやって来た彼等を警戒していた。
その後アルダートは受け取った鍵を静かに兵隊達に見せると、数人の兵隊は驚き左右に居た同僚にコンタクトを取る様に手で動作を取っていた。
「僕達、この地区の管理課から認められた者です。 ココを通りたいのですが、門を開いては貰えませんか?」
代表してアルダートが彼等に声をかけると、兵隊達は行動を開始し門を開ける準備に入った。
兵隊の内の1人がまたしても鍵を受け取りに来ると、アルダートは素直に確認を取りに来た兵に鍵を渡した。
鍵を受け取った兵隊は鍵を確認すると、手元から消し2人を一瞥した。
「コード確認。 ・・・お前等、通るのは二度目だな。 行先はあるか。」
どうやら鍵を確認した兵隊はあの時の存在だった様子で、見覚えがある様子で行先を聞いてきた。
問いかけに対しアルダートはストレンジャーの顔を見ると、彼は静かに頷き「好きな場所で良い」と彼に告げた。
その言葉を聞いて、アルダートも同様に頷き兵隊を見てこう告げた。
「もし、僕達と同じ行動をしている方が居たら。 その場所へ連れて行ってください。 同じ行動を、共にしてみたいんです。」
「場所指定無し、注文受注。 了解だ。」
告げた内容を理解した様子で兵隊は答え、門が開く音と共に彼等の横へとずれ道を開けた。
「・・・行ってきな、改革者達。 共に行くと望むのなら、その希望を叶えるがいい。」
道を開け餞別であろう言葉を投げかけ、兵隊は静かに敬礼し彼等の旅路を見送りだした。
その光景を見たアルダートは頷き、返事を返しつつ横に居たストレンジャーに手を差し出した。
「行きましょうか、ストレンジャーさん。」
「ああ・・・」
そんな彼の手を静かに握り、2人は門の中へと向けて歩み出して行った。
扉の先から発光する眩い光を見つつ、2人はそのままゲートを抜けて行った。
2人の姿が見えなくなると、兵隊達は周りに誰も居ない事を確認し門を閉じた。
ガチャン・・・
『変えるつもりみたいだな・・・奴らは、この街を・・・』
旅路を見送った兵隊は体制を直し、アルダート達の行動を見て心の中でそう呟くのだった。
誰も叶えられないと思った、街の改革をしようと本気で思っている事を。