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その希望は絶たせない 1

「さぁ・・・ 来い!!」

「行くぞ・・・!!」


対峙し準備が整ったと同時に、クラウの叫び声を聞いてストレンジャーは行動を開始した。

走りながら距離を詰めると同時に流星石の栓を開け、周囲に冷気を漂わせながら瓶を振った。

それを見たクラウも同様に瓶の栓に手をかけ、静かに栓を開けた。



ヒュー・・・ シャキンッ!!



「破ッ!!」


周囲に生成した氷の塊を目にすると、ストレンジャーは再び瓶を振りかざしクラウへと向かっていくよう指示した。

手の動きによって微量の風が生まれると同時に、氷の塊は瞬時に移動を開始し塊のまま彼へと攻撃を開始した。


「『(グライラ)』か、面白いね。 ・・・でも。」



シュンシュンッ!



「水・・・?」


自らの元へと接近してくる氷の塊を目撃し、その場に立っていたクラウは瓶を振りかざし中から液体を放出した。

中から出てきた水色の液体は連なったまま宙を飛び交い、鞭の様に変形しだした。

とはいえ物体は水に違いはなく、先ほどの『(ロッド)』の様に色は変わらず質感を液体として保持したまま姿を保っていた。


「ハァッ!!」


しばし形を作るように鞭を振っていた、その時。

クラウは迫り来る氷の塊目掛けて攻撃を開始し、鞭で叩く様に氷を叩いた。

攻撃を受けた氷はそのまま周囲に向けて飛び交い第二の攻撃を開始しすると、それを予測していたかのように彼は振った体制を保持しつつ足を捻り、その場で少し回転した。

そして回転した運動エネルギーを利用したまま再び鞭を動かし、弾け飛んだ氷をなぎ払う様に鞭で防御した。

その行動をしばらく繰り返し、ストレンジャーからの攻撃をほぼ全て無効化していた。


一部の弾け飛んだ氷で自らの身体に攻撃をしないものはそのまま彼の横を素通りし、背後の地面に突き刺さっていた。

彼の使っている力、それは『(イアーラ)』と『弾力(エラティ)』、そして『曲力(ミスキー)』を併せ持った流星石『水力光鞭(イアーラミスティ)』だった。

形の安定しない水そのものを素体とし、さらに弾力と曲る力を組み合わせ安定した形となる打撃武器へと形を変えた代物だ。

その動きは鞭そのものであり、生み出された新たな生成系の流星石でもあった。


「鞭・・・か。」

「ただの鞭だと、思ってもらっても困るよ。 俺の力はただの力ではない、プリンセスを護るための・・・華麗なる遊戯だ!」


意外な武器を使っていることを目撃したストレンジャーは、彼の周囲に突き刺さる氷で乱反射する光の光線を見ていた。

凛々しい顔と身体付きをしている男の獣人の、華麗な攻撃であり優雅な戦い方を見せていた。

庭園に咲く花が風に吹かれて舞い、突き刺さる氷から出た日の光がさらに彼を美しく見せていた。



何処か楽しんでいた彼の光景を目にした直後、クラウはそういい手にする流星石を持ってストレンジャーに攻撃をしかけた。

立っていた位置から少し移動しつつ鞭を振り下ろし、彼の立っている場所目掛けて攻撃を落とした。

迫る鞭の攻撃を目にし、ストレンジャーは翼を広げ上空へと避けた。



しかし、


「残念だけれど、甘いよ。」

「何ッ・・・!!」




パシュンッ!


「クッ!!」


床へと打ち付けられた鞭はそのままバウンドし、本来の鞭の攻撃ではあり得ないほどの弾力性を発揮し出したのだ。

まるでボールを地面に思い切り投げたかのように鞭も跳ね上がり、飛んだにもかかわらずストレンジャーの顔面に鞭の攻撃が到達した。

予想外の攻撃を頬に食らい、ストレンジャーは打たれた頬に走る痛みに耐えていた。


「・・・悪いけど、もう手加減はしない。 プリンセスの希望になりえるのはどちらか、ここで決着をつけさせてもらう。 ストレンジャー」


攻撃と同時にバランスを崩した彼は、一度体制を直しつつクラウを見た。

その様子を見たクラウは静かにそういい、もう手加減をするつもりはないと改めて宣言していた。




「さぁ、改革者の龍。 ・・・俺を、倒してみてくれ。 希望のために行動し、プリンセスを泣かせるのであれば・・・ 俺は、もう君を味方だとは思わない!」


軽く見つめられたクラウは少し俯きつつ呟いたと思うと、その直後に顔を上げ彼に向けて宣戦布告をするのだった。

その表情は真剣そのものであり、これ以上の仲違いは使命に変化が出てしまうと思ったのだろう。

それだけ互いに和解する時間が長すぎた事もあり、両者が相手の事を考えすぎた。

現に自分が怪我をしそうになった時にストレンジャーは気遣う言葉を向けたため、クラウにとってそれは優しさに近い言葉でもあった。

だが相手は敵であり、自分の大切な存在の命を奪いかねない存在。

それを改めて知ったと同時に、それ以上の仲は自分の生きる意味を失いかねない。

心を鬼にしたかの様に、クラウは武器を振り彼を倒そうとするのだった。



『クラウ・・・ ・・・お前って本当に、優しい奴だな・・・』


そんな彼の行動の急変振りを見て、ストレンジャーは地面に降り立ちつつそう悟っていた。

つい先ほどまでのやり取りと敵であるが故の行動を取りたいと告げられた時から、彼はクラウの事を敵だとは思っていなかった。

例え言動が変わり本当に敵だと悟ったとしても【倒すべき相手】ではないと思った様だ。

表情は変えないものの、彼をそうさせてしまう今の仕組みがある事をストレンジャーは悲しんでいた。


「・・・」

「どうした、ストレンジャー・・・ 俺は元から君達の敵のはず、ためらう必要なんてないはずだ。 何故君は行動しない。」


流星石を握ったまま棒立ちになっていると、クラウはそんな彼の様子を気にし攻撃を誘うような言動を向けた。

もうそれ以上の優しさは欲しくない、敵ならばどちらかが倒れるまで戦うしかない。

そうでなければ、この時まで続いた優しい時間を再び自分は求めてしまう。

軽い焦りもある中、クラウは行動して欲しいと思い言葉をかけていた。

しかし相手の優しさを知ってしまった以上、ストレンジャーにとってそれ以上の行動を取る事は出来ずに居た。

使命は違えど、自分と似ていると思える考えを持った存在に初めて出会った。

そんな相手を倒そうとは出来ず、ストレンジャーは少しだけ顔を俯かせていた。

すると、




「・・・あれ、ストレンジャーさん。 クラウさん・・・?」

「?」


不意に2人しかいなかったその空間に、別の声が聞こえてきた。

軽く緊迫した空気が張られていた2人は我に返り、声が聞こえてきた方角を静かに見た。

そこには庭園を散策し終え、軽く数本の花束を持ったアルダートが立っていた。

散策する前に来た場所に2人が居なかった事もあり、心配になって探しに来た様だった。

その証拠に少しだけ息を乱しており、軽く駆け回っていた雰囲気を出していた。


「あの・・・ 流星石を持って、何をしてるんですか・・・?」

「・・・」


頬が少しだけ赤いストレンジャーと、流星石から生成した鞭を持ったクラウ。

その2人が距離を置いて互いに面を向かって対峙している光景を見て、アルダートは恐る恐る2人に問いかけた。

先ほどまでの中の良さそうな雰囲気が一変し、まるで敵同士であるかのように闘っている2人。

事実が分かる光景を目の当たりにし、それが事実ではないと願っているかのように彼は言っていた。

そんな彼の話し方を聞いて、ストレンジャーは少しだけ顔をそらし返答に困っていた。


「済まないね、狐君。 俺は元々、君達の敵なんだよ。」

「ぇっ・・・」

「俺は『クラウ・ルミナシール』 プリンセスの元で行動する、管理課の1人の『藍髪の獣人』 改革の行いをしたという君達の情報を聞いて、君達の事を見させてもらっていたんだ。」

「・・・」



パサッ・・・


そんな彼の様子を見たクラウは、静かに体制を戻しつつアルダートに説明をした。

元々彼等の敵であり、改革という街での変革をしたという情報を聞きつけ様子を見ていた事、自分の正体を静かに話した。

初めに聞いた言葉では理解出来なかったアルダートではあったが、自分達を騙し優しい雰囲気を見せていた事を知ってしまった。

驚いた拍子に、彼が持っていた数本の花束は彼の手元から滑り落ち静かに地面へと落下した。



事実を知ったと同時に、自分と行動を共にしているストレンジャーが対峙している理由を彼は同時に悟るのであった。


「そんな・・・嘘ですよ。 クラウさんが敵なんて・・・」

「本当だよ。 現にそれが証拠だという光景が、君の目の前に広がっているはずだ。 そして君の大切な龍君を、俺はこの手で傷つけた。」

「・・・ッ!」


両者がどうして対峙しているかを知ると、アルダートは震える声で事実を否定する様に呟いた。

それに対してクラウは念を押す様に再度告げ、大切な相方であるストレンジャーを傷つけた事を話した。

それを聞いたアルダートは、大切な友人を傷つけられたと知り唇を噛みつつその場を駆け出した。

そして、



ガシッ!


「どうして・・・! どうしてそんな事を言うんですか!! クラウさんは本当は優しいはずです、僕達と一緒に居た優しいクラウさんが、本当のクラウさんのはずです!!」

「・・・」


その足でクラウの元へと近づき、彼の服を掴みつつアルダートは叫んだ。

それが事実だとは思いたくない、今まで自分達が接してきた彼は何だったのか。

例え策略であったとしても認めたくないと、アルダートは言った。

服を掴まれ駄々をこねるかのように言ってくる彼を見て、クラウは寡黙を貫き彼の事を見ていた。

すると、



サッ!


「ふぁあっ!」

「! アルダート!!」


クラウは流星石を持っていなかった左手で彼を羽交い絞めにし、ストレンジャーに顔が見えるように捕まえた。

とっさの事に行動出来ず捕まってしまい、アルダートは声を上げた。

そんな彼の声と現状を見て、ストレンジャーは迂闊だったと後悔しながらも彼の名前を呼んだ。


「・・・さっきも言ったはずだよ。 俺は、君達の敵だと。 無防備にも武器を持たないで敵の懐に来るなんて、君は少し冗談が多すぎるみたいだね。」

「うぅ・・・ クラウ・・・さん・・・」

「さぁ、改革者の龍。 君が早く行動をしないと、君の大切な希望を俺の手で絶やす事が出来る状態になってしまったよ。 どうするのかな?」


細身の身体で身動きが取れない事を確認すると、クラウはアルダートの耳元でそう言い再度敵だと言う事を告げるかのように言った。

細くも太い腕で捕まれてしまい息だけは吸える状況の中そう言われ、アルダートは少し苦しくも泣きながらクラウの名前を呼んだ。

そんな声を聞き流しつつ、彼はストレンジャーに再度行動をする事を促す様にそう言い、右手に持っていた鞭を軽くアルダートの頬に当てた。

冷たくひんやりとした感覚が頬に伝わり、アルダートは静かに泣いていた。


「・・・」


そんな光景を目の当たりにし、ストレンジャーは行動するも迂闊に動いてはいけないと考えた。

例え仲が良かった相手であっても、敵であり自分が迷っていた結果今では人質を取られてしまった。

自分の浅はかな行動によってそうなってしまったと思い、再度行動を考えていた。

何時しか目の色が輝いており、相手を倒そうとする決意を固めようとしていた。


「どうした、行動しないのかな。 ・・・そうしたら、君の大切な希望を根絶やしにするしかないみたいだね。 ストレンジャー」

「ッ・・・」


しかし長い時間考えている余裕は無い事を悟らせる様にクラウが言うと、ストレンジャーは手を上着のポケットに入れ流星石を漁っていた。

早く行動しなければ、何時アルダートを殺されてしまうかもわからない。

そう思うだけで、彼の気持ちを焦らせていた。

すると、


「ストレンジャーさん・・・お願いです・・・ クラウさんを・・・





助けて・・・下さい・・・」



「ぇっ・・・」

「アルダート・・・」


不意にアルダートは泣きながらそう言い、自分ではなく自分を捕まえているクラウを助けて欲しいと告げるのだった。


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