龍は子狐と出会った 2
「ハァ・・・ハァ・・・」
街を照らす太陽が落ちかけている、とある街中。そんな街中をかけ回る、1人の少年の姿があった。それは青い体にフサフサの尻尾を持つ、狐だった。
「居たぞっ!!」
「ッ!!」
だが今の彼は、今までの生活を送れるほどの余裕は失われてしまった。そう、その街からは彼の知る英雄達は居ないから。
もう誰も、助けてくれる人が居ない。
そしてそんな追っ手が行う、弱者へ対する仕打ちの数々。それから逃げる存在達もおり、必死の抵抗を続けていた。だがそれは虚しく、全て拘束と拷問の名の下に1人、また1人とその街から姿を消して行った。
彼もそのうちの1人で、追っ手から必死に逃げていた。
だが、
「ぁっ! しまった!」
街の路地裏を必死に逃げていた狐は、迂闊にも行き止まりの路地へと逃げ込んでしまった。他の移動手段を持たない彼にとって、これ以上の逃走は図れなかった。一歩、また一歩と。 追っ手達は距離を詰めていた。
「ぁ・・・ ・・・」
「無駄な抵抗だったな。 さぁ、貴様もこっちに来てもらおうか。」
そんな追っ手達は、手に拷問用の手錠を手にし、彼に絞めるために様子を伺っていた。アレに捕まれば、もう明るい日の元には出てこれない。だがもうなすすべも無い。
狐は半ば諦め、涙目になりながら目を強く瞑った。
すると、
「・・・おい、貴様等。」
彼らの後方に、1つの影が浮かび上がった。その声を聞き、狐と追っ手達は視線を声のした方へと向けた。そこに居たのは、所々にトゲのある特殊なシルエットだった。
「ぁあ? 誰だ貴様。」
「名乗るほどの名は持ち合わせていない・・・ ・・・ココで何をしていると、聞いているんだ。」
影はそういいつつ、こちらへとゆっくりやってきた。それは、狐のような小柄の体系の、龍だった。だがここらの存在とは、少し違った雰囲気を漂わせていた。
「貴様なんかに関係ねぇんだよ! とっとと失せろ!」
「・・・そうか。 なら・・・」
バッ!
「!!」
追っ手達は影に対してそう言い放つと、龍はそう呟きいきなり間合いを詰めた。急な事に、その場に居た狐も含め皆が驚きを隠せなかった。
「貴様等が失せろ。」
スパパパンッ!
龍はそう言い放つと、失せろと言った追っ手に対し数発の手刀を放ち、その場で仕留めてしまった。急な事に、狐は味方なのか敵なのかすら分からないほど驚いていた。
「・・・」
「なっ! このやろう!!」
味方がやられた事を悟り、追っ手の残りの皆がそう言い放ち、拳を握りしめ殴りかかった。
だが、
スッ・・・
バンッ!
「!!」
その場から飛び立った龍はその場から両者の顔にターゲットを絞り、宙から回し蹴りを繰り出した。それをもろに食らった追っ手達は、攻撃の余波で身体ごと飛ばされ、路地裏の壁にぶつかり意識を失ってしまった。
「・・・」
そんな数秒の光景を見て、狐はあっけに取られて何も言えなかった。敵なのか、味方なのかすら分からないその龍の行いだけで、自分は助かった。そんな事を悟っていると、龍はその場に降り立ち、下来た道を戻ろうとした。
「ぁ! 待って!」
「・・・」
その光景を見た狐は、龍を引きとめようと声をかけた。その声を聞いて、龍はその場に足を止め、軽く狐の方を見た。
「あの・・・ ・・・貴方は、僕の味方・・・なの・・?」
もしかしたら自分も、さっきの追っ手みたいに何かされるかもしれない。
だがそれだけは確かめたかったのだろう、狐は恐る恐るそう言った。
すると、龍は身体ごとこちらに振り返りこう言った。
「・・・敵だったら、助けるつもりは無い。 俺は俺自身が、正しいと思ったことをしているだけだ・・・」
狐からの問いかけに龍はそう答えると、再び歩を進め、その場を去って行った。
「敵じゃ、ない・・・ あ、あのっ!」
龍からの返答を聞いて安心したのか、狐は龍の後を追いかけて路地裏を後にした。
「あの・・・ 助けてくれて、ありがとうございます・・・ ・・・僕、アルダートって言います。 貴方は・・・?」
路地裏から人気の無い街中へと出ると、龍の後に続きながら狐は名前を名乗った。だが龍はこれと言った事は話さず、寡黙を貫いて歩いていた。どこか目的地がある様子なのだが、何処へ行くかは明確では無い様子だった。
「・・・ ええっと・・・」
「君は、どうして俺の後をついてくるんだ・・・」
「え?」
そんなアルダートの様子を見てか、龍はゆっくりと歩を緩め彼に問いかけた。その問いかけを聞いて、アルダートは少し驚いた様子で言った。
「・・・この街には、昔自分の知っている友人達がたくさん居たんだ。 でも、もう今は居なくて、一人ぼっちで・・・ ・・・寂しくて。」
「・・・」
「それで、いっその事この街から逃げようと思ったんだけど、追っ手に追われてさっき行き止まりに行ってしまった。 そしたら、貴方が来てくれたんです。」
「・・・そうか。」
龍からの問いかけを聞き、アルダートはここまであった事の経緯を軽く説明した。
今まで居た仲間達はもうここには居なく、自分は1人ぼっちだった事。自由が欲しくて逃げ出そうと思った街から追っ手を出され、捕まりそうになったこと。そんな場所に出くわし、助けてくれた龍。
龍の後を静かにだけれど、一緒にいたいと彼は願っていたのだった。
「・・・俺の後を着いてきたとしても、君の知る友人のように接する事は出来ない。 着いてくるなら、好きにすればいい・・・」
「・・・! はい!」
そんなアルダートの願いを聞いて、龍は好きにするよう言うと、再び歩き出した。その言葉を聞きアルダートは嬉しそうに返事をすると、顔色を1つも変えない彼の後を再び追いかけた。冷たい表情だけれど、自分が居てもいいと言う言葉を聞いて、嬉しかったのだろう。
「・・・あ。 龍、さん。 名前、聞いてもいいですか?」
「名前・・・?」
「はい。 名前がないと、なんて呼んで言いか分からないので。 出来たら、呼び名を教えてくれませんか。」
再び彼の元へと追いついたアルダートは、ふと思った事を問いかけた。その問いかけを聞いて龍は驚いた様子でそう言い立ち止まると、アルダートは問いかけた理由を軽く説明した。
「名前・・・ ・・・」
「どうしました?」
「・・・俺には、名前は無い。 呼び名が欲しかったら、好きに決めてくれ。 気に入るものなら、それに返事をしよう・・・」
アルダートからの問いかけに龍はそう答えると、軽くそう言った後再び歩き出した。よく分からない事を言われ一瞬彼は迷ったが、呼び名がないと不便と改めて思い、再び彼の元へと移動しつつ呼び名を考えた。
そして、1つ候補が上がった。
「見知らぬ、人・・・ ・・・そうだ、『ストレンジャー』って言うのはどうですか。」
「・・・好きにしてくれ。」
「はい! ストレンジャーさん!」
アルダートはそう言うと、龍は変わらない表情でそう言った。その返事を聞いて、アルダートは龍に呼び名を与えて、後に続いて行ったのだった。
ストレンジャーと名前をつけた、見知らぬ龍の後に。