獣人の大切な人 2
静かに1人、朝日を見て黄昏ていると
スッ
不意に背後で何かが降り立つ音が聞こえ、クラウは振り向かず来たであろう相手に対し声をかけた。
「・・・おはよう、ストレンジャー よく眠れたかな。」
「・・・」
そこに立っていた存在、それは先ほど眠っていた部屋を後にし近くの部屋までやってきていたストレンジャーだった。
屋根に上るための階段等に検討がつかなかったため、近くの部屋の窓から空へと飛び立ち、ここまで来たのだ。
一番自分の事を警戒しているであろう彼なら、即座に来てもおかしくない。
クラウはそう考えいた様だった。
「心配されるほど、俺は眠っていないと思われていたみたいだな・・・」
「仕方ないさ。 君が考えている事と、自分が考えている事はおそらく同じだろうからな・・・ ・・・」
声に対しストレンジャーはそう答えると、朝日を見たままの体制でクラウはそう言った。
彼が言うほど熟睡は確かにしておらず、どちらかと言うとまだ軽い眠気がストレンジャーの中には残っていた。
そのため否定はせず、問いかけに対しそう答えたのだ。
ストレンジャーにそう言われ、クラウは静かに振り向きしばしの沈黙の後こう言った。
「俺の事を、とても警戒しているんだろう・・・? 君はさ。」
「・・・」
互いに思っているであろう事をクラウは言うと、彼は何も言わず静かにクラウを見ていた。
その目は静かに彼の事を見つめており、その場から何か動きを見せてもさほど行動しそうには無い様子だった。
「無理もないな。 君が読んでいたであろう書物の1つに、俺達管理課の事を書いた本があったから。 藍髪の獣人、そこで引っかかってるんだろう・・・?」
「・・・事実、お前は本当にその存在なのか・・・? アルダートが心配そうにしない存在が、管理課だとは俺は思えない。」
「そっか・・・ ・・・君は、俺の事を敵だとは思うが確信にかける様子だったのか。 どおりで、警戒態勢がいつまでも抜けないわけだよ。」
ストレンジャーがおそらく読んだであろう書物を片づけた時、クラウはそう感じていた。
そしてそれから話をし、案内をしてからも自分の行動をずっと見ていた事もクラウは知っていた。
今もなお警戒する事を止めない様子で、口調からも優しい表情を見せないストレンジャーに彼はそう言いつつその場に立ち上がった。
「警戒しなくても良いって言ったところで、君はそれを止めるつもりは無いだろうけどね。 ・・・俺は、確かに君が思う管理課の1人の存在だ。 プリンセスの元で行動する、藍色の髪の毛を持った獣人だ。」
「・・・」
「そして、俺が君達と接触した理由。 それはネコSから聞いた、改革者の話が事実かどうか。 それを知る為だ。」
「そうだったのか・・・」
静かにクラウはそう言いつつ、ストレンジャーの隣をゆっくりと通り過ぎつつ話を続けた。
そして何故自分がその場に来た事も同時に話し、偽りや誤解等があったらそれを変えようとしていた。
話を一通り聞くと、ストレンジャーは右手を入れていたポケットから手を出し、静かにクラウが居る方向へと向いた。
「あの狐君は分からないが、君は間違いなくその素質は持っている。 君の持っている力がどれくらいかはわからないが、おそらくそれを生かすほどの希望が君の中にはあるんだろう。」
「・・・俺の希望、それはアルダートの願い自身だ。 彼と出会い今まで行動を共にしてきたが、自然と俺の事を意識づけしてくれるほどの存在だ。 ・・・あそこまで俺を慕ってくれる存在が、今まで居るとは思わなかったからな。」
「そうだったのか。 ・・・その願いを悟れない様じゃ、俺はまだプリンセスの事を完全に把握できていない証拠だな。」
「・・・」
警戒する事を止めた事を悟りつつも、クラウはストレンジャーに今まで見てきた結果を軽く報告した。
改革者にふさわしい行動ぶりを見せており、紛れもない力がその身体の中には入って居る事を告げた。
しかしそれだけの力を勇気づける希望が、この街の何処で見つかったのかが分からないと言うと、ストレンジャーはそう言いアルダート自身がその希望だと告げた。
名前を持たない自分を慕い、なおかつずっとそばに居たいと思う存在が今まで彼の中にもいなかった。
ゆえに1人で行動する事を好み、誰にも知られず誰にも認識できない『見知らぬ人』で居た。
そしてそんな自分にピッタリの名前を付け、今もなおずっと一緒に居たいと思い続けているアルダートを彼自身も好きでいた。
だからこそ彼の願いを叶え、同時に自分がもとより探していたであろう存在に出会える日が来ることを願っていた。
互いの話を一通り終えると、クラウはそう言い再び朝日を見た。
その目は何処か遠い場所を見つめる様に、寂しくもあり温かさを求めるような目をしていた。
「・・・それで、どうするんだ。 アルダートには、このことを告げるつもりなのか。」
クラウの行動を見て、ストレンジャーは同じように朝日を見つつ彼に問いかけた。
たとえ背後であっても、今の彼なら特に何もしないと思ったのだろう。
静かに問いかけ、そして同じ時間を共有していた。
「いや、まだそれには及ばないと思うね。 俺にも時間はさほどないとはいえ、焦って余計な事をしてもプリンセスのためには絶対にならないと思うから。 ・・・そして、あの人のためにも。」
「あの人・・・?」
「ああ、言ってなかったね。 俺にはプリンセスと言う心から大切に思う、大好きな人が居る。 ・・・でも、その人に出会う前に。 俺には大切な人が居たはずなんだ。 ・・・でも今じゃ、何処に居るかわからないんだ。」
「・・・」
彼の問いかけに対しそう答えると、目先は変えずにクラウは顔色を暗くしつつそう言った。
不意に気になる単語を聞いたストレンジャーの反応を見て、クラウは改めて説明する様に自分の過去を語りつつ右手を見せた。
彼の右手の薬指には1つの指輪がついており、綺麗な淡い色の宝石が付いた銀の指輪が付けられていた。
そして、それを貰った相手であろうプリンセスの事を心から想っている事を告げると同時に、もう1人大切に思っている存在が居ると言った。
クラウの過去を聞き、その上層部の存在をどれだけ思っているかをストレンジャーは考えつつ聞いていた。
「・・・君は、プリンセスの事は嫌いかな。 あの書庫には、その書物はおいていないけれど。 君の考えが聞きたい。」
不意に話を終えると同時に、クラウはストレンジャーにとある質問を投げかけた。
それは自分が今大切に思っている謎の『プリンセス』と呼ばれる存在の事であり、置いてある書物のどれにも書いていない事をあらかじめ告げつつ問いかけた。
「・・・ネコからの話を聞いた限りだと、街の存在達を苦しめるだけの存在だと思っていた。 ・・・でも。」
「?」
問いかけに対し返事を返しつつ、ストレンジャーは一間を空けてそう言いつつクラウの目を見た。
不意にこちらを向くとは思っていなかった様子で、クラウはそんな彼の様子を見ながら言葉に耳を傾けた。
そして彼は、こう言った。
「クラウの話を聞いた限りだと、そんなに苦しめる存在ではないと思った・・・ お前ほどの心優しい存在が、そんなに残酷な事をする存在を心から好きになるとは思えない・・・ ・・・ましてやその人から貰ったであろうその『繋がり』を、常につけているとは思えないからな。」
「・・・そっか。」
彼の返事を聞くと、クラウは軽く目を閉じ少し笑顔を見せながら彼を見た。
ストレンジャーの表情は先ほどから変わりはないが、それでも目はまっすぐ前を見ており曲がる事のない意志の中に居ると彼は悟った。
そして返事を聞けた事に感謝し、クラウは笑顔で言った。
「ずっと俺を警戒しなくても良いとは、言わない。 ・・・でも、その考えだけはずっと持っていて欲しい。 あの人のためにも、約束してくれ。」
「・・・分かった。」
短くも決定的な事に欠ける言葉ではあったが、クラウは彼にそう言い約束して欲しいと言った。
それに対し、ストレンジャーは静かに頷き考えを変えずにいようと彼に言った。
その後彼の案内に従いつつ、ストレンジャーは再び宮殿の中へと戻って行った。
それからは2人でアルダートの元へと向かい、彼と共に食堂へと2人は通された。
誰が用意したのかわからない食事を振る舞われ、2人はそれでも警戒はせず温かい食事を口にした。
そんなアルダート達の様子を、向かい側の席でクラウは静かに見守り自分も食事を取っていた。
その後宮殿の事をアルダートに問われ、3人は宮殿の中を散策する事となったのであった。