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獣人の大切な人 1

宮殿の所有者であるクラウに許可を得ると、アルダート達は別の場所にある客間へと通された。

クラウが先導するように先を歩きつつ、手にしていたランプで辺りを照らしながら歩いていた。




その後をアルダートは少し楽しそうにしながら着いて行き、彼の少し後を先ほどから変わらぬ表情でストレンジャーが歩いていた。

相手に警戒している事を悟らせない様、表情はあくまで普通を貫いている様子だった。


『・・・やっぱり、君だけは少し違うみたいだな。 改革者の、龍さん。』


そんな彼の様子を横目で見つつ、クラウはそんなことを思っていた。

元より出会い当初からしばらく会話をし、進んで話をせず最初から警戒している事を彼は知っていた。



見た目通りの抜け目のない態度と、その言動。

そして支えたいと願う存在が慕うほどの行動力と、その情報収集能力。

どの面でもアルダート以上にステータスが高く、彼の上着に入っているであろう流星石の事もクラウは知っていた。


クラウ自身も流星石は持っており、身に着けている衣服の下から軽くその瓶の姿はちらほら彼等にも見えていた。

アルダートはさほど気にはしていない様子ではあったが、ストレンジャーはそれを見た時から相手が何をしても良いように警戒をしていたのだ。

時折彼が髪の位置を直そうと手を動かした際、彼の手も軽く上着に入るか入らないかの位置で手を止めているのも見ていたのだ。

その上でクラウはこんな提案をし、その日の夜の行動を見るつもりでいたのだ。




そんな両者の警戒がありつつも、クラウは客人を泊める際に使用する部屋の一室にアルダートを案内した。

もちろん2人で一緒に寝られる様ベットが2つの部屋へと彼は案内しており、備え付けのシャワー室も使用していいと言った。


「それじゃあ、俺は別の部屋で寝ているから。 ゆっくり休みな。」

「ありがとうございます、クラウさんっ」


その後部屋の明かりをつけた後、彼はそう言い2人を残してその場を後にした。

丁寧な対応をしてもらった事に感謝をしつつ、アルダートは笑顔でお礼を言い彼の後姿を見送った。




「・・・うわぁあっ、フカフカのベットですっ!」


クラウの姿が見えなくなると、アルダートは早速部屋にあったベットの元へと駆け寄った。

そしてベットの布団に手を付き、先日彼等が過ごしていた場所で使用した毛布の感触ではない事に驚きを感じていた。

布団の質感は『ウール』と言うよりは『シルク』に近く、さわり心地は良く羽毛布団で作られたふかふかのベットだった。

ベット自体にも弾力があり、適度に固くそれでも低反発性のある寝心地抜群と思われるベットだった。

その上天蓋付のベットであり、客間としては最高級の代物だと思われた。


「ストレンジャーさんっ、ベットふかふかですよ! 僕初めてですっ!」

「・・・そうか。 良かったな。」

「はいっ!」


1人テンションが高い事は気にせず、アルダートは無邪気に隣に居たストレンジャーにそう言った。

すでにベットに腰かけていたストレンジャーは変わらぬ表情で彼にそう言い、ベットの上で軽く飛ぶように跳ねている彼の事を見ていた。

その後何かを思い出したかのようにアルダートはベットから降りると、一足先にシャワーを浴びると言い隣接するシャワー室へと向かって行ってしまった。



1人残されたストレンジャーは、アルダートの姿が見えなくなると部屋の様子を軽くうかがった。

ベット以外は大したものは無く、テーブルとイスが点々と置かれているだけのシンプルな物だ。

壁際にはサイドテーブルと花瓶も置かれており、大きなガラス窓からは夜の闇でも生える綺麗な満月が見えた。

しかし置かれてる小物全てが敵の範囲化である事を忘れてはおらず、1つ1つを確認し危険性がない事を確認していた。


『アイツが管理課の1人、藍髪の獣人に間違いはない・・・ ・・・でも何故、俺達を見つけた時に手を出さなかったんだ・・・? 自分が所有する建物の中なら、迎撃態勢を取れば即座に俺達を倒す事もたやすいはずだ。 ・・・わからない。』


花瓶やテーブルを確認しながら、ストレンジャーは軽くそんなことを考えていた。

すでに相手が倒すべき敵の1人である事を確信しており、間違いなく隙を見せたら倒されると思っていた。

そのため書庫でのやり取りをする際も、彼の視線や手の動きに気を配っており、上着の中に入っている流星石を即座に仕えるよう待機していた。

しかしそれらしい動きは何一つ見せておらず、部屋の外でも待機している様子もない事を彼は意外そうに感じていた。



彼が何を考えているのか。



それがまったくわからない様子だった。



『この部屋自体も、さほど危険性は無いみたいだな・・・ ・・・そうなると、今後の動き次第か・・・』


その後部屋の隅々をチェックし終え、アルダートが戻ってくる頃には彼なりに安全を確認した状態だった。

そして彼の勧めもありシャワーを浴びると、2人はそのままベットへと入り床に就いた。







それから時間が過ぎ、夜の闇は静かに朝日によって溶かされていった。

アルダート達の寝る寝室にもその朝日は静かに差し込み、天蓋についていたカーテンを抜けて彼等の目元にも朝日は優しく触れだしたのだった。



「・・・ぅーん・・・」


窓辺のベットで寝ていたストレンジャーは、カーテンを抜けてほのかに照らされ出した部屋の雰囲気に目を覚ました。

別の街でもアルダートより早く起きる事の多かった彼ではあるが、その日は敵の行動もあり浅い眠りを常にとり続けていたようだ。

その証拠に、纏っていた衣服はすぐそばに置かれており、流星石に関しては枕の下に置かれていた。

1つ1つが寝る前と同じことである事を確認すると、ストレンジャーは静かにベットから降り窓辺へと向かって行った。


「・・・朝、か・・・」


朝日に再度照らされ出した街の雰囲気を見つつ、ストレンジャーは再び朝がやってきた事を悟った。

客間から見える街の景色はとても綺麗で、まるで先日見た流星石の雨の時の様に輝いていた。

朝靄で家々が軽く暈されて見える中、不思議と幻想的に見える景色に彼は静かに見ていた。


『結局、警戒する事もむなしく朝が来たな・・・ ・・・アルダートの平和のために意識してたが、奴は本当にそうなんだろうか・・・』


そして朝が来たと同時に、本当に彼は敵なのだろうかと再度疑ってしまうようだった。

本に書かれていた管理課の存在を、彼はアルダートに軽く話す前にクラウと会ってしまった。

そのため彼にはまだその事を話しておらず、ストレンジャーも確信はしているが決定点に欠ける様子で考えていた。



管理課と言う存在は4人おり、ネコSがそのうちの1人の『茶色の猫』あることも彼は知っていた。

そして残りの3人は『真紅の妖精』と『橙色のジャッカル』、そして『藍髪の獣人』である事を知った。

どれも色と特徴的な事が書かれており、事実判別するにもその点でしか判断する事しか出来なかった。


クラウは確かに綺麗な藍色の髪の毛をもっており、間違いなく獣人だ。

だがアルダートの接し方を見ている限り、とても敵とは思えなかったのだ。



『・・・危険性は薄いと思うが、いつ牙をむけるかわからない。 早く、その事を見破らないと・・・』 「・・・?」


軽くその事をストレンジャーは考えていると、不意に気になる物を見つけた。

それは先ほどまで見ていた左側の街の景色とは別の場所であり、反対側の右側の景色だった。

そこは今いる部屋と隣接する宮殿であり、その宮殿の屋根に1人の存在が座っていたのだ。



そして座っている存在に、彼は見覚えがあった。


「クラウ・・・?」


不意に考えていた事を悟らせるかのように見えた存在を見て、ストレンジャーはアルダートを起こさぬように静かに歩きつつ。

なおかつ前回の時のように心配させない様、行先を軽く書いたメモを残し部屋を後にした。





「・・・」


ストレンジャーが見た宮殿の1つの屋根の上に座りつつ、クラウはその日もやってきた朝日を静かに見ていた。

就寝と言えるほどの深い眠りは彼は取る事は無く、軽い休息を取り朝日を見る事が1つの楽しみだった。

そして宮殿内で一番朝日がよく見える場所、それが今彼が座っている箇所の屋根の上だった。



「・・・今日もあの人が寂しく思う、1日がやってきたのか・・・」


それと同時に、少しさみしそうにクラウはそう呟いていた。

朝日が見えると同時に、嬉しさと寂しさが同時に彼の元へとやってくるのだ。

しかしこの瞬間を見ない限り彼は新しい日が来たとは感じられない様子で、とても大切な時だと思っている様だった。

そして、彼が大切に思う存在が寂しさを感じてしまう日が再びやってきてしまった事も、同時に悟るのであった。


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