龍と狐は改革者 3
「まさか・・・ニャーの腕を落とす石があるニャんてっ・・・! ありえないニャッ!」
急に表れた救世主を見て、ネコは驚きを隠せず騒いでいた。
元より無敵に等しい力として君臨していた『機械兵』の腕が、簡単にではないが折れて落ちてしまったのだ。
他の流星石の力を吸収するボディではありえないと、使用者本人も驚いていた。
「アルダート・・・! ・・・んんっ!」
その隙にと言わんばかりに、リダスは捕まっていた腕から逃れようと身体を動かし必死に出ようとしていた。
しばらくすると身体が徐々に抜け出し、再び彼は大空へと飛び立った。
「あニャーッ!!! 逃げちゃったのニャッ!!」
軽く目線の先を彼が優雅に飛び交うと、目を覚ました様にネコは再び叫んだ。
そんな彼の反応を見ると、ストレンジャーはアルダートのそばへと移動し降り立った。
「リダスさん、僕も・・・お手伝いさせて下さい! 夢は叶えてもらうんじゃなくて、自分でも叶えたいんです!!」
彼のそばへと行くと、アルダートは溜めていた涙が抑えきれなくなった様子で泣き出した。
しかしそれでも自分の意志を伝えたいとばかりに叫び、リダスと共に戦いたいと言った。
元よりこの地区の戦いや起こった出来事を彼は知っており、自ら変える事が出来るとは思っていなかった。
だが今回は違い、頼ってばかりではあるが自分からも行かないといけないのだと、改めて思ったのだ。
頑張って拭いつつも流れてくる涙をよそに、彼の返答をアルダートは待っていた。
「・・・分かった、戦おう。 ・・・助かったぜ、アルダート。」
「・・・! はいっ!」
そんな彼の眼差しを見て、リダスはお礼を言いつつ手を差し出した。
その手を見て、アルダートは嬉しそうに返事をし共に戦う覚悟を決めた様だった。
「・・・ニャーッ!! もう勘弁ならないニャッ!! ナポレオンはこの街にはいらないのニャッ!!」
2人が敵に回った事を黙視し、ネコはいら立ちを覚えつつそう叫び操作盤を叩いていた。
すると、失った左手を気にせず戦おうと機械兵は動きだし、2人を倒そうとしているのが目に見えていた。
「・・・アルダート、これの調合を頼みたい。」
そんな機械兵を見て、ストレンジャーはそう言いつつアルダートに先ほど使った『拡散氷刃』の瓶を手渡した。
「これって、ストレンジャーさんが作った・・・」
「あぁ、俺の作った流星石だ・・・ ・・・これも戦える力はあったが、幾分威力が低い。 君の調合に任せる、強化してくれ。」
「ぁ、はい!」
その瓶を見つつ、ストレンジャーからの提案にアルダートは了承した。
自分にもできる事を彼に頼まれ、それを出来ると彼は確信したのだ。
嬉しそうに返事をし、戦っているのだという気持ちを味わっていた。
「頼むぜ。 ・・・後、しばらくそれを貸してくれないか。」
「ぁ、これですか・・・?」
彼にそう頼むと、ストレンジャーはその間対峙出来る力を持っているアルダートの流星石を貸して欲しいと頼んだ。
戦っている際にアルダートに危害が来ない様、引き寄せるつもりで『(一点集中)コンデスソード』を借りていた。
アルダートも彼の考えを知り素直に貸すと、そのまま行こうとしていたストレンジャーの手を引いた。
そして、こう言った。
「・・・無事で居てください。 僕は、貴方が一緒に居てくれるって信じてますから。」
「ああ・・・ ・・・もう、無茶はしない。 安心してくれ。」
互いに言葉をかけあうと、それぞれが出来る事をしようと行動を開始した。
そんな彼等を見て、ネコも攻撃を開始した。
「ニャーッ!!」
操作盤を先ほど以上に乱雑に弄りつつ、ネコは叫びながらストレンジャーに攻撃をしかけた。
「力に対抗出来る力があるのなら・・・! 負けない・・・!!」
無論彼も負けるつもりはない様子で、剣を召喚させた状態で空を飛び交った。
ガキンッ!!
「クッ・・・!」
一本になった腕による攻撃に対抗しつつ、ストレンジャーは剣で払ったり受け止めたりと、攻撃を無力化させていた。
先ほど以上に強気に攻められる力が手に入った事を実感しつつ、願いのために戦っていた。
「『拡散』と『氷』・・・ 強化出来るとしたら・・・」
1人で対峙し注目を集めている隙にと、アルダートはなるべく目立たない場所へと移動し託された流星石を生かせる素材を探していた。
持てるだけ持ってきた事もあり、彼の手元にある流星石のレパートリーは豊富な事もあり、持っている範囲の知識内で一生懸命に考えていた。
誰かに頼まれた事は彼には初めてであり、もっとたくさん頼ってほしいと思っていた。
だからこそ、初めてである今回の頼みをしっかりと聞き届けようとしていた。
しかしいろいろ見比べて検討するも、どれもピンとくるものが無く迷っていた。
「・・・ぁっ、『速度』がある。 なら、後は『収束』があればもっと・・・ ・・・ぁ、でもさっき使っちゃった・・・」
すると、不意に1つの流星石に注目しそれに合うもう1つの流星石を探しだした。
しかしそれは先ほど例として剣に合わせた物であり、在庫切れの様で彼は後悔していた。
「ぅぅーん・・・ ・・・あれ・・・?」
仕方なく別の方法を考えていると、不意に向いた方向で見つけた物を見てアルダートは考える事を止めた。
彼の見た方向には、先ほどの降ってきた石達の中で見つからなかったのであろう流星石が1つ転がっていた。
よくよく見ていると、今彼が丁度求めている範囲系の流星石によく見る水草模様の様な装飾が見えた。
「アレがあれば、きっと・・・!」
その流星石を見かね、アルダートは今必要である2つの流星石を手に持ちその場を駆け出し取りに向かった。
だが彼の向かった先は、丁度機械兵が対峙する先の路地だった。
「ニャ?」
不意に対峙していた広場の土地を駆ける存在を見かね、ネコは攻撃を一時的にやめた。
走っていた相手はアルダートであり、よくよく見ると彼の向かっている先には1つの流星石が転がっていた。
『ニャニャ~ん。 あれが狙いかニャ。』
狙いが流星石だと確信し、ネコは不意に攻撃する相手をストレンジャーからアルダートへと変更し腕を動かした。
「何っ・・・! アルダート! 逃げろ!!」
不意に別の方向へと攻撃を開始した機械兵を見かね、ストレンジャーは腕の先に居るアルダートを見つけ叫んだ。
「えっ?」
その声を聞き声のした方向を向くと、すぐそこまで機械兵の腕が迫っていた。
慌てたアルダートは必死に前に向かって走りだし、腕から逃れようとした。
ズドーンッ!!
「うわぁああぁああっ!!!」
すると攻撃されるすぐ先に走り抜けた様子で、手から伸びた爪は地面へと刺さり彼は突き刺さった振動の拍子に前へと身体が傾き前へと向かって転がり出した。
そしてそのまましばらく転がり、止まった所で顔を上げ攻撃の目を見た。
「クッ・・・!! 負けないんだからぁあっ!!」
すぐには攻撃してこない事を見て、アルダートは必死に腕に力を入れ起き上がり、再度その場から駆け出した。
「逃がさないのニャッ!!」
攻撃が外れ再び走り出したアルダートを見て、ネコは突き刺さった爪を地面から抜きだし再度彼に攻撃をしかけようとした。
すると、
ガキンッ!!
「ニャッ!?」
「クッ!!」
爪の向かった先にはすでにストレンジャーが移動しており、持っていた剣で攻撃を受け止めていた。
彼の行動を阻害する動き全てに立ち向かうのをあらわにしており、先ほどまで落ち着いていた彼の表情は必死の顔へと変化していた。
それだけ、アルダートの事を守ろうとしているのだと言うのが良く分かった。
「行けっ! アルダート!!」
攻撃を受け止めたままストレンジャーはそう言い放ち、聞こえているかどうかわからないアルダートに向かって叫んだ。
その頃アルダートは流星石の所までたどり着いており、走りながら落ちている流星石を拾おうとしていた。
そして、
ガシッ!
「取ったっ!!」
落ちていた流星石をしっかりと拾い上げ、何の流星石かを見た。
流星石を見ると、それは今彼が一番欲しいと思っていた『収束』の流星石だった。
すぐさまアルダートはそれを見て、3つの流星石を急ぎつつもゆっくり引き抜き調合を開始した。
「ニャニャニャニャニャニャッ!!!」
その頃ストレンジャーは、ネコからの攻撃を必死に流星石で防いでいた。
機械兵とは思えないほど高速で腕は動き、連続パンチと言わんばかりに爪で攻撃していた。
しかし体系よりも大きい爪を空中で何度も受け止めるのは限界がある様子で、次第にストレンジャーは後方へと送られつつも本体に直撃しないよう意識していた。
『アルダート、頼む・・・! 間に合ってくれっ!!』
疲れてはいるものの表情に出さない様子で、ストレンジャーは心の中でアルダートの無事と事態がまだ続くことを願っていた。
たとえ希望が少ないこの街でも、願いが届かないとは思っておらず強く強く願っていた。
すると、
「ストレンジャーさん!!!」
「!」
彼の考えが届いたのか、不意に彼の耳に自分を呼ぶ声が聞こえた。
その声を聞き振り向くと、アルダートが彼の近くまで駆け寄り出来上がったばかりの流星石を見せた。
彼の手には水晶のように光り輝く流星石が持たれており、普段見る流星石とは違う代物が握られていた。
「僕の調合ですが、出来上がりました! 受け取ってください!!」
アルダートはそう叫ぶと、ストレンジャーに届くように願い渾身の力を込めて瓶を投げた。
パシッ!
「! これが・・・さっきの流星石・・・」
瓶は彼の手元へとたどり、ストレンジャーは受け取りつつ瓶を見た。
栓はクリスタルの様なデザインへと変化しており、瓶自体のデザインも細見ではあるがしっかりとした代物へと変わっていた。
さきほど渡したばかりの流星石とは見た目も力も変わっているのだと思い、ストレンジャーは剣を持ったまま受け取った瓶の栓を抜いた。
すると、初めて抜いた時以上に瓶から冷気が漏れ出し、瓶周辺を霧で包み込んでいた。
『これなら・・・ いける!』
瓶からの冷気でそう感じると、ストレンジャーは何かを確信したように瓶を握りしめネコを見た。
そして、瓶を構え中身を出すように振った。
「破ッ!!」
ヒュー・・・
すると、彼の周囲に霧が立ち込め冷気に包まれた。
その瞬間、
シャキンッ!
「ニャッ!?」
瞬時に冷気から大きな氷の塊が形成され、即座に機械兵目がけて攻撃が開始された。
慌てたネコは攻撃を防ごうと右手を動かし、幾多も降り注ぐ氷の塊を防いだ。
だが先ほど以上に威力が桁違いに上がっており、防いでも砕けた氷の破片が容赦なく彼を襲った。
そのまま通り過ぎボディに傷をつけるものもあれば、そのまま地面へと刺さり罠と化すものもあった。
これこそが、先ほどの流星石に『速度』と『収束』を調合した結果の『氷彩零刃』だった。
巨大にまで収束させた氷の刃を一振りで無数に生成し、最速のスピードで相手を攻撃するという最強強化に等しい代物だ。
これには中和性の高い機械兵のボディでも防ぎきれず、どんどんボディに裂け目を生み出した。
「ニャアアッ! 防ぎ切れないのニャッ!!」
「終わりだ・・・!!」
「!!」
そんなネコの悲鳴を聞き、ストレンジャーは再度瓶を振った後剣を片手に止めを刺しに向かった。
彼を援護するかのように氷刃は後ろから速度を上げて機械兵へと突っ込み、手足の接合部分に当たる関節部分に容赦なく突き刺さった。
それによりどんどん行動制御をすることが敵わなくなり、ネコの操作盤からも攻撃を開始する事が敵わなくなった。
行動できないその隙をついて、ストレンジャーは空を飛び交いネコの居る操作盤に剣を突き刺した。
ザシュンッ!
「ニャアアアッ!!」
すると操作盤に剣が貫通し、突き刺した場所から電気が飛び交いショートしだした。
それによりネコは触れられなくなった事を悟り、足を変換し緊急脱出した。
ストレンジャーも同様に危険だと悟り、剣から一時手を離し再び宙へと飛び出した。
次の瞬間・・・
ドカァアアアアアーーーン!!!
幾多の攻撃に耐え切れずショートした機械兵は自爆し、周囲に身体を形成していたであろう流星石が周囲に飛び交った。
爆風はアルダート達の居る場所にも襲い掛かり、足で踏ん張りながらアルダートは耐えつつ勝利を確信していた。
「やったぁ・・・!!」
風に耐えながら軽くそう叫ぶと、彼は空を飛んでいるであろうストレンジャーを見た。
すると飛んでいた彼と目があい、彼の笑顔がアルダートの目に映った。
そして、勝てないと言われていた管理課の力を彼等は打ち負かしたのであった・・・