龍と狐は改革者 2
地区の管理課であるネコSと、対峙し戦い勝利しようとするストレンジャー
そんな2人の攻防戦が遠くで繰り広げられている中、アルダートは住処にしている灰ビルから動けずにいた。
「ストレンジャーさん・・・」
壁際で持たれるように崩れたアルダートは、今一番会いたいと思う相手の名前を呟いていた。
元より行動する事が苦手な彼を、唯一何も言わずに引っ張り続けてくれていたストレンジャーはまさにヒーローであった。
ゆえにこの地区を支配する相手と対峙してもおかしくないとは思っていたが、本人の行動理由に自分が関与している事を想うと責任感を感じている様子だった。
自分が余計な願望を彼に頼まなければ、きっと彼は怪我をすることはなかった。
遠くで戦っているであろうストレンジャーは、怪我をしてしまっているとアルダートは考えていた。
『マシリーンは街の流星石の、ほぼ全ての力を合わせた集合体。 中和性を色濃く出したあの兵器に、僕達の力だけでは絶対に敵わない・・・』
相手の使う兵器に対抗するには、自らの持つ素手で戦うしか方法はなかった。
だが相手のサイズが大きすぎる事もあり、たとえむやみに叩いたり殴ったりしたとしても、それくらいで負傷するような軟な機会でもない。
だからこそ彼は逃げる事を提案し、情報を集めてから行こうと思っていた。
それでもストレンジャーは止まる事は無く、自らで出来る事をその時その時で行おうとしていた。
他の存在から流星石を回収している時も、丁寧かつ優しさを持って責任を負っていた。
それら全てを見直していると、アルダートは次第に俯くことを止め前を向こうとしていた。
「・・・そうだ。 僕はもう、あの時の僕じゃない・・・ この街を知らないストレンジャーさんが、あんなにまでなって僕のために戦ってくれているんだ・・・」
そして次第に伸ばしていた足をゆっくりと曲げ、その場に立ち上がろうと足に力を込めた。
両手も使いゆっくりとその場に立ち上がると、一度目を閉じその場で深呼吸をした。
その後一息つくと、目を一気に開きこう言い放った。
「・・・僕も、その返事を・・! 返したい!!!」
自分の意志をその場で叫ぶと、それが力になったのか。
アルダートは大地を蹴り、持てるだけの流星石を再び保持しストレンジャーの元へと向かって行ったのであった。
「破ァッ!!!」
一方、そんなアルダートが意志を固め行動を開始している頃。
ストレンジャーは自らが生成した流星石を使い、機械兵と応戦していた。
無論小さな力であるがゆえにダメージは入らないが、彼の使っている流星石は特殊な力が備わっていたのだ。
ザシュンッ!!
彼の使う流星石は、無数の氷の矢を生成し対象に向かって攻撃を仕掛けるだけではなかった。
それが物体に突き刺さると同時に姿を消さず、ずっとその場に残る効力が備わっていたのだ。
攻撃と同時に『罠』を生成する。
それが、彼の作りだした『拡散氷刃』であった。
「おぉ~ 氷の攻撃と共に罠を作りだすとは、独裁者は随分と変わった調合をしたようだニャ。」
そんな相手の攻撃を見つつ、ネコSは応戦し氷の刃を爪で薙ぎ払っていた。
たとえ刺さっても氷には変わりない力であり、一定以上の力を加えてしまえば折れてしまう。
壊れた氷は日の光による熱で溶け、その場から消えて行った。
『・・・やはり、攻撃も当たらないし罠にしては少し効力が小さすぎるな・・・』
元よりダメもとで使用していた事もあり、ストレンジャーはしばし使い効力が低すぎる事を悟った。
炎よりも威力が期待できないのが氷であり、その力で生成するにはいささか威力が低いのだ。
一度使用するのを止めた彼は、流星石の栓を取りだし瓶に蓋をした。
「ニャ? もう終わりかニャ?」
「・・・」
すると、半ば楽しんでいた様子のネコSは少し残念そうに彼に問いかけた。
しかしその問いかけには返事をせず、ストレンジャーは滞空をしつつ流星石の残量をチェックした。
しばらく使用していた事もあり容量は減っており、もうしばらく使っていたら使えなくなってしまうほどの液体量だった。
とはいえ戦わないわけにはいかないため、他の持っているであろう流星石を思い出したが、無制限に使える『生成系』の力は持っていなかった。
そのため、今の彼には容量を持って戦う手段しか残されていなかったのだ。
とはいえ降参をするつもりはないらしく、一度彼は流星石をポケットに閉まった。
そして、軽く話しかけてみる事にした様だった。
「・・・この街は、地区ごとに分かれているみたいだったな。 他にも、こんな風に生きる存在達が居るのか。」
もとより遊んでいる感じのするネコSだったため、ストレンジャーは特に会話が成立しないであっても構わない話題を振ってみた。
すると、ネコSは意外そうな顔をした後一度操作盤から手を離し彼を見た。
「この街には、いろーんな街があるのニャ。 ココみたいに静かに暮らすところもあれば、賑やかなところもあるのニャ。」
「賑やかな場所が、あるのか・・・?」
「お、意外そうだニャ。 そうニャ、繁盛してて寂しさとは無縁の場所もあるのニャ。」
「・・・」
問いかけに対しネコSはそう答え、再び尻尾を振りつつストレンジャーを見ていた。
ネコ自身も隙を見せた所でむやみに動くとは思っていなかったため、軽めの行動くらいは平気だと読んでいた。
だからこそ互いに攻撃手段から一度手を離し、こういった会話が成り立つのだろう。
立場は違えど、話す事は可能な様子だった。
質問に対し意外な答えが返ってきたため、ストレンジャーは驚きを隠せずにいた。
「まさか、賑やかな場所もあるとはな・・・ 管理課と言うのも、意外と寂しさだけを生むわけではないみたいだな。」
「と言っても、街の輩が勝手に賑やかにしているだけなのニャ。 あそこを管理する者はそれなりにそれを好んでいるみたいだから、現状維持中なのニャ~」
『紛らわせている・・・のか。』
驚きつつも感想を述べると、ネコはちょっと解釈が違うと訂正してきた。
自分達が明るくしたのではなく、勝手にその場に居る存在達が明るく振る舞っているだけなのだと言った。
管理する存在も彼以外には居るため、その本人が気に入れば現状維持もあり得るのだと言った。
それを聞き、ストレンジャーは存在達が気分を紛らわせているのだと言う事を同時に知った。
『やはり、寂しさはどの場にも付き物か・・・ ・・・もしかしたら、アルダートと同じ考えを持つ存在も居るのかもしれないな。 他にも、たくさん・・・』
「さてと。 そろそろニャーも遊ぶのには飽きてきたのだニャー」
ウィーンッ・・・
「!」
軽くストレンジャーは、他の地域にもアルダートと同じ考えを持つ者が居ると確信した。
街に希望が薄れているからこそ、中には平和を願い街を変えようとする存在達が居る。
結託すれば、根本的な物を変えられるだろうと彼は思った。
すると、不意にネコSはそう言いだし再び機械兵の操作盤を弄り起動させた。
機械の目が怪しく光ったのを見て、ストレンジャーは慌てて体制を取り直した。
ポケットに入っている流星石の中から1つ適当な物を握ると、彼も戦う態勢を取った。
「龍には悪いが、ニャー達は負けるわけにはいかないのニャ。 プリンセスはニャー達が居なくなることを望んでいないし、他の干渉も望んでいない。 だからこそ、希望の星ははかなく消えるべきなのニャ。」
「星は煌めき続け、永遠にあるべき代物だ・・・ ましてや希望の星を絶たせるわけには、いかない。 俺はアルダートの願いを・・・叶えるだけだ。」
「んー そこだけはニャー達と考えは合わないのが残念だニャ。 君だったら、プリンセスが好みそうな存在ではあったのだけれど・・・ まぁ仕方ないニャ。」
軽く最後の会話をするかのようにネコは言い、プリンセスと言う存在の考えにそむくと言った。
だが彼からしたら希望はあるべきものであり、星はその場で輝き続けるためにあり根絶やしにさせるわけにはいかないと言った。
たとえ和解できる部分があったとしても、それでは意味がないとネコも殺る覚悟を決めたようだった。
「それじゃあ、ニャーもそろそろ本気で行かせてもらうのニャ。 君には、血祭りになってもらうのニャー」
「・・・来い! 必ず、お前らの考え方を変えてやる・・・!」
その後互いに一言ずつ言うと、再び戦いの火ぶたが上がった事を確信させたのだった。
「ニャーッ!!」
戦いが再開されると同時に、ネコは猛攻撃をストレンジャーに繰り出した。
元より流星石の使用回数が限られているものしか持っていない事を知った彼からしたら、いくら強くてもそれでは勝ち目はない事を解っていた。
だからこそ半永続的に動けるマシリーンが有利だと、彼は踏んでいた。
無論ストレンジャーもその事は分かっており、可能な限り無駄な攻撃は避け本体を狙って攻撃を仕掛ける体制を取っていた。
ゆえに使える流星石は『炎』ではあったが、相手の猛攻撃に避けるのが精いっぱいであった。
翼にダメージを食らうまいと避け続け、隙を見ては火球弾を相手に放っていた。
「食らえっ!!」
ボンボンボンッ!
「ハズレなのニャッ!」
しかし本体であるネコSは機械兵から見たら目のサイズに近いくらい小さく、狙って攻撃を当てるのには距離がありすぎた。
その上動かしている本人が手でガードしてしまえば、無傷に等しい防御を誇っている。
なんとかして突破口が欲しいと、彼も思っていた。
いろいろ考えつつ、ストレンジャーは再びやってきた腕による攻撃を空中で回避し避けた。
しかし、
「見えたニャッ!!!」
右手で攻撃を仕掛けたネコは、回避しこちらを確認しようとしていた隙をついて左手を伸ばした。
ウィーンッ!
「なっ、しまったっ・・・!!」
そしてその攻撃を一足遅れて知った彼には回避が出来ず、そのまま左手に捕まってしまった。
そして、
ガスンッ!!!
「グハァッ!!」
そのままビルの壁へと押しつぶされ、背中から強烈な痛みが彼の身体を駆け巡った。
「ニャーンッ、捕まえたのニャっ」
「くっ・・・」
とはいえ受け身を取っていない彼ではなかったため、身体に痛みは走ったものの気を張り気絶しない様気を付けていた。
ネコの勝利を確信した声を耳にしつつ、両手両足を掴まれ壁に叩きつけられた彼は、ネコの姿を見る事しかできなかった。
「よぉーしっ。 ココからがどうやって調理するかって所だニャ。 何がお好みかニャ?」
「・・・」
「みじん切りか、乱切りか・・・ ぁ、ミンチにするのも良いかもしれないニャッ」
軽く倒すまでも楽しんでいる様子で、ネコはそう言いつつ軽く操作盤を弄りつつ質問を投げかけていた。
【すでに君の負けは確定している】と言わんばかりの台詞を履きつつ、ネコは機械兵の手の力の入れ具合を変更した。
すると、
ギリギリギリッ・・・
「グァアアアアッ・・・!」
掴んでいた手の力が急に強くなり、彼の身体を痛みつけだしたのだ。
ネコが言った調理方法の1つである【ミンチ】が、今行われている様だった。
身体と手足に無差別で来る圧力に、彼は声を上げ苦しんでいた。
下手したら骨がどんどん折れても不思議ではないほどの、力の入れ具合だった。
「ニャーンッ、そそられる声だニャァ~ もっと言ってほしいのニャっ」
「グゥァッ・・・」
その後もてあそぶかのようにネコは言い、それでもストレンジャーは負けないように身体に力を入れ気を張っていた。
むしろ勝ち目はなくとも、一瞬にして死ぬのだけは避けたかったようだ。
彼にも会いたい人がおり、こんなところで死ぬつもりはないようだった。
そんな彼を見て、軽く機械兵の顔が彼の元へと近づき、ネコは操作盤のある場所からストレンジャーを見た。
「ん~ 大分無理をしているみたいだニャ。 身体に力を入れてたら、楽には死ねないのニャ。」
「ハァ・・・ハァ・・・ ・・・俺も、楽に死ぬつもりはない・・・ アルダートと・・・街の存在達の願いを叶えるまで・・・俺は・・・負けるつもりはない・・・!」
「おやおや、正義感たっぷりだニャ。」
軽く痛みに我慢をしている事を悟り、ネコは楽になればいいと言ってみた。
しかしストレンジャーは身体の痛みから即座に解放されることを望んでおらず、痛みに苦しんででも希望を叶えると言い放った。
正義感強い彼の発言を聞き、言っても無駄だとネコは悟り再び顔を離した。
「じゃあ、仕方ないからニャーから楽にさせてあげるのニャ。」
シャキンッ!
「ッ・・・」
彼の痛がる表情を見てても面白くない様子で、ネコはそう言い空いた左手の爪を鋭く変換させた。
切れ味の良さそうな爪で顔でも触れられたら、それだけで皮膚が裂けてしまいそうなほどの代物だ。
軽く脅すように、数回爪部分を出し入れすると機械兵は腕を構えた。
「じゃあ、さよならニャ。 ナポレオンになれなかった、青龍よ。」
「・・・」
そして相手が動かない様右手でガッチリ固めると、ネコは左手のアームを動かし彼を殺そうと体制を取った。
すると、
「やらせなぁあーーーーいっ!!!」
ガシュンッ!!!
何処からともなく声が響き渡り、攻撃のために動かした左腕の手首が折れている光景が広がっていた。
一瞬だったため、彼等には何が起こったのかわからない様だった。
「何だ・・・?」
「何ニャッ!!」
何処からともなく聞こえてきた声を耳にした後の変化に驚き、2人は声の主を探した。
すると、折れて切り落とされた左手の落ちた街の地面周辺に、1人の存在の姿が見えた。
彼の手に持たれているものは、金色に輝く流星石『一点集中』だった。
そしてそこに居る存在にも、彼等は驚いた。
「アルダート・・・!!」
剣を持っていた存在を見て、ストレンジャーは彼の名前を呼んだ。
すると彼は声を聞き振り向き、軽い笑顔を彼に見せつつこう言った。
「ストレンジャーさん! 助けに来ましたよ!!」
無事で居た事に喜ぶかのように、彼は涙目になりつつそう言ったのだった。