龍と狐は改革者 1
「・・・な、なんだ・・・! あれは!!」
「機械兵よっ!! 管理課が牙を向いたわ!!」
「に、逃げろぉおー!!!」
突如街の一角に現れた、ビルよりも高い荒々しく動く機械兵。
街でなお力の奪い合いをしていた存在達はその姿を目撃すると、一目散に機械兵から逃げ惑うように行動し出した。
その行動と叫び声を耳にするだけで、どれだけこの兵器の力が強大なのかが分かる光景が瞬時に広がった。
「何だ・・・あれは・・・!」
そんな街の人々の声を聞きつつも、目の前に突如現れた兵器にストレンジャーも驚きを隠せずにいた。
先ほどまで生身の存在達ばかり居たのにもかかわらず、こんなにも戦闘兵器に近いものがこの街にあるとは思わなかったのだろう。
巨大すぎる敵を目の前にし、驚くばかりだった。
「機械兵です。 この地区を統括する存在が持つ、究極の力だと聞いています。 そしてその所有者は、プリンセスと呼ばれる存在の元で行動する、4人の覇者の1人。」
「・・・それが、お前だと言うのか。 ネコS。」
「大当たりだニャッ」
先ほどまでのやり取りはなんだったのかと思われるほどの力を見せつけられ、アルダートは軽く説明するかのように敵の正体を言った。
本当にボスクラスの敵が出てきた事を改めて知ると、ストレンジャーはネコに確認を取りつつ兵器を一瞥した。
紫色を主体としたボディがそこにはあり、所々に金色の装飾が施されていた。
手には大きな爪も持っており、額部分は鋼と思われる甲冑に近いフェイスメットもされていた。
背後には煙突の様なパーツもついており、どんな攻撃が来てもおかしくないと思われた。
アルダート達の驚く姿を見ると、ネコは立っていた位置から移動し機械兵の操縦席と思われる場所へと移動した。
「ニャーッニャッニャッ! さぁ我らプリンセスに仕える存在の力を、見せてやるニャッ!」
操作盤を弄りつつネコがそう叫ぶと、機械兵は起動したかのように目を光らせ、雄叫びを上げた。
グルォォオオオオー!!!!
「ッ・・・!!!」
するとその声に乗って強風が周囲に吹き荒れ、ストレンジャー達が居た場所へと襲いかかった。
軽くアルダートを背後へ隠しつつ、ストレンジャーはどうやってあの敵を止めるかを検討し出した。
『あからさまに今まで相手をしてきた奴らと、格が違いすぎる・・・ ・・・これが、統括している存在の力なのか・・・』
「ストレンジャーさんっ! 逃げましょう!」
「・・・?」
未だなお強風が吹き荒れる状態に耐えつつ検討してると、背後に居たアルダートが不意にそう言いだした。
予想以上の相手が現れた事へ対する恐怖とも思えたが、どうやら違うようだった。
「あれを相手にしても、僕達に勝ち目はありませんっ! 支給された力である流星石の強化した姿が、あれなんです!」
「力の強化・・・」
「今まで集めた力を駆使して立ち向かった人達は何人かいましたが、それでもあのボディには傷がつかないんです! 一方的な攻撃は、戦う前から決まってるんですよ!」
「そうニャッ! 所詮は我らプリンセスの力を使っているお前らには、ニャー達の力に傷などつかないのニャっ!」
「・・・」
機械兵自体も流星石で作られている事を知り、それ同士の戦いでは力の強い方が勝つことは決定しているようだった。
ましてや石同士は調合する事も出来るほど中和性があり、反発しない者同士では傷すらつかないのだ。
だからこそ本体に当てない限り、どうしようもないのだとアルダートは叫んだ。
彼の叫ぶ声を聞きネコもそう言い放ち、自らが勝つと宣言した。
それだけ格が違いすぎる力を使っているのだと、同時にストレンジャーは把握した。
「・・・力は力で捻じ伏せる・・・か。 ・・・好まないな。」
「ぇっ・・・?」
「力は全てに通用するものもあれば、そうでないものもある・・・ ・・・たとえ管理課が俺達の所へ来たとしても、俺達の希望を打破させるわけにはいかない・・・」
2人の意見を聞き終えると、ストレンジャーは風に対抗する様に取っていた体制を変え、普段のようにその場に立つように姿勢を取った。
街に集まり始めた希望を彼は悟っており、その希望の元はアルダート本人であると彼は思っていた。
自分がサポートしていたとしても、彼の意見が無ければここまでの波を起こすことは出来なかった。
ここで逃げては、なんの解決にもならない。
彼はそう言い聞かせるようにアルダートを見ながら言うと、ポケットに手を入れ流星石を1つ掴んだ。
「街に平和を戻すために、俺はあれを止めよう・・・ ・・・君が強く願うのなら、俺はそれを叶えるだけだ。」
「でもっ・・・ ストレンジャーさんが、怪我を・・・」
「・・・怪我は平和に付きものだ。 ・・・それに、怪我をしたからと言って俺が死ぬわけじゃないからな。」
覚悟が決まったかのようにストレンジャーは言うと、アルダートの心配をよそに自ら立ち向かうと意志を伝えた。
そしてそのまま風の中前へ進むように足を踏み出し、部屋の窓辺付近へと移動した。
スタスタスタ・・・
「ネコS。 俺が相手だ・・・!」
「ニャーンッ!」
ストレンジャーはネコに対してそういうと、背後の翼を広げ上空へと飛び立った。
それを見たネコは彼の姿をとらえつつ、見た目以上の速度でその場から立ち去った。
ズゥーンッ・・・ ズゥーンッ・・・
機械兵が移動するたびに周囲に地響きが鳴り響き、徐々に遠ざかって行くのをアルダートは感じていた。
「・・・ストレンジャー・・・さん・・・」
敵が目の前からいなくなると、ふと我に返ったようにアルダートは移動し窓辺から移動して行った先を見た。
するとそこには、小さな力と大きな力がぶつかる光景が、遠くで繰り広げられているのが見えた。
「・・・僕は、どうしたら・・・」
軽く呟くようにアルダートは言うと、その場に崩れるように地面に座り込んでしまった。
ズゥーンッ・・・ ズゥーンッ・・・
「さぁ、ナポレオンになろうとする青龍! ニャーを倒すのニャッ!!」
「・・・」
住処にしていたビルから遠く離れた場所。
ストレンジャーは翼をはばたかせ移動し、被害が大きく出ない場所を探しつつ機械兵を誘導していた。
元よりその魂胆はネコにはバレバレだった様子で、龍が止まる時を待ちつつ敵らしい台詞を言っていた。
『アルダートには悪いが、俺もこんな相手を敵にした事は無い・・・ 勝ち目は低いが、それでも次の相手の手助けになれるように攻撃できれば、上物だな。』
後方から敵の攻撃が来ない事を時折確認しつつ、ストレンジャーは相手の動きを観察していた。
機械同士が接合されている部分は何やら球体による関節が出来上がっている様子で、比較的スムーズに動いていた。
動き方は人と言うよりも獣に近く、尾は無いがそれでも予想以上の動きや跳躍力があると彼は読んだ。
操作盤はネコの居る場所にしかないと判断すると、最終的には後頭部の動きを止める事が重要だと分かった。
一通り移動しながら観察を終えると、ストレンジャーは不意に飛びながら進むことを止め、滞空しつつ背後に振り向いた。
そして、それと同時に敵も動くことを止め戦いが始まりそうな雰囲気が漂っていた。
『・・・それでも、俺は奴を止める覚悟で行こう。 勝者は居なくても、俺はやる覚悟だ・・・』
「ん~ 鬼ごっこは終わりかニャ?」
軽く覚悟を決めつつ敵を見ると、ネコはそう言いながら尻尾を振っていた。
威嚇するかのような体制を取りつつ操作盤に手を触れており、やる気は十分のようだった。
「あぁ・・・ ・・・ここからは、俺の相手をしてもらうぜ。」
「ニャンニャンッ 楽しませて欲しいのニャッ。」
自分の意志を相手に伝えると、ストレンジャーは手にしていた流星石をポケットから取り出し、栓を抜いた。
そして振りかざすと同時に、戦闘の火ぶたは切って落とされたのだった・・・
「破ッ・・・!」
上空を華麗に飛び交いながら、ストレンジャーは流星石の液体を空気中に散布した。
すると周囲に炎の球体が生成され、機械兵目がけて攻撃を開始した。
ボンボンボンッ!!
「ん~ ファイヤーボールは中々の痺れ具合なのニャ。」
しかし炎を数十発同じ場所に当ててみたものの、機械兵には焼け跡すら残らず熱風によるへこみも生じなかった。
再度別の場所に目がけて放ってみるものの、それでも効果は同じとみられた。
『やはり中和性が強すぎるな・・・』
「今度はこっちの番ニャッ!」
「・・・!!」
すると今度はネコの攻撃が開始し、大きな腕が一気に動きだしストレンジャーに攻撃を仕掛けようとした。
大きな爪に引き裂かれただけで、小柄な体系に等しい彼の身体は粉々であろう。
切れ味はともかく当たるまいと移動し、動きをよく見て彼は回避した。
しかし、
「ニャッ!」
「なっ!」
ガンッ!
「クゥッ!!」
予想以上に腕の関節部分はしなやかに動き、手首が器用に曲がったのだ。
それによって攻撃内に入ってしまった事を確認すると、慌てたストレンジャーは攻撃を受け止めるように両足で爪を蹴り飛ばし、反射的に地面に向かって飛んで行った。
無論それで激突するほど彼は馬鹿ではないため、地面にブツカル前に体制を立て直し、再度地面を蹴り上空へと向かって飛び出した。
「おぉー 良い音がしたのニャッ 蹴りも中々だニャー」
一度地面に向かったかと思うと戻ってきたストレンジャーを見て、ネコは攻撃も良かったと賞賛した。
本当に戦っているイメージはあるのかはさておき、半ば遊んでいるとしか思えないほど緊張感が無かった。
双方の意気込みがここまで違うと、やる事も一味違うようだった。
「・・・まさかここまで動きが良いとはな・・・ もはや機械ではなく、生身だ。」
「当たり前なのニャ。 パーツそれぞれをより丈夫に、なおかつ錆びない加工が施されてるのニャ。 永遠の若人なのニャッ」
「流星石を使っているというのは、間違いじゃなさそうだな・・・ かすり傷すら、入らない。」
「当然ニャッ」
しかし上から目線は変わらない様子で、軽く話しかけつつもストレンジャーは相手の言動にも気を配っていた。
いかに素早く接近し、しなやかに動く機械兵の動きを止めるか。
それが課題であり、なんとかしなければならない問題でもあった。
手元にある流星石は数は多くないため、これらの使用回数がゼロになる前に手を打たないと、と考えていた。
『動きを止めないと・・・ ・・・動き?』
軽く考えながら滞空していると、不意に彼は何か気になる単語を見つけたように首をかしげた。
大きな機械兵にダメージが入らないのならば、まずはその動きを止める事を始めなければならない。
ならばその動きをどうやって止めるか、錆びない相手にと考え出したのだ。
『・・・中和はしても、そうなるに至るまでの時間があれば・・・』
そして一つの考えが浮かび、ストレンジャーは持っていた流星石をポケットに入れ、別の流星石を掴み取り出した。
それは、初めてストレンジャーが調合し創り出した未知の流星石。
効果は確認していないものの、初めて戦った時の『氷』の力が入っている。
相手の攻撃を止めるのなら、うってつけの代物だ。
『・・・触れて数秒でも止められれば、上物だ。 単品以上の力は、期待できる・・・!』
「ん~? 新しいショーの提供かニャ?」
不意に別の流星石を取り出したことを見て、ネコはそう言いながらストレンジャーの様子を見ていた。
攻撃を不意に仕掛けないところを見ると、やはり進んで殺すつもりはない様にも見えた。
「・・・あぁ、とは言っても。 俺自身何が起こるかはわからないけどな・・・ 試すのなら、この時しかない。」
「おぉ、面白い考えだニャッ ニャーはそういうのは、嫌いじゃないニャよ。」
すると考えを隠すつもりはない様子で彼は言い、軽く石を見せつつ言い放った。
ネコもその考えには賛同であり、変わった事をしてくれる相手を倒すのは万々歳の様子だった。
元より遊んでいるためか、こういった刺激が好ましいようだ。
彼の反応を見て軽い笑みを浮かべると、ストレンジャーは未知の流星石の栓を引き抜き、攻撃態勢に入った。
瓶の栓からは、調合した相手である『氷』が入っている事を示すかのように、冷気が漏れ出していたのだった・・・