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第八章:入れ替わり(Day52)
雨上がりの朝。窓ガラスが白く曇る。歯を磨き、顔を洗い、鏡に映る「同時」を確認した瞬間、背後の空気が動いた。
像はすでに数日先を生きていた。
僕がまだ椅子に座っているのに、像は立ち上がる。僕が息を吸う前に、像の胸が上下し、首筋の血管が脈打つ。
「ようやく、順番だ」
次の瞬間、僕はガラスのこちら側にいた。窓枠の内側。外の僕──新しい僕──は背を伸ばし、コーヒーを注ぎ、新聞をめくって微笑む。
「返せ」「やめろ」喉は震えるが、声は出ない。外では数日遅れて、同じ口形が再生されるだけだ。視線が一瞬重なり、冷たい笑みが落とされる。
僕は悟る。戻れない。ここは世界の表面から剝がれた、「僕」の保管庫だ。




