表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

序章:引っ越しと初めての違和感

挿絵(By みてみん)

 安アパートに越して三日目の夜だった。二階建ての木造、外廊下は歩くたびぎしぎし鳴り、手すりの錆は夜露で赤黒く滲む。蛍光灯は一本おきに点滅して、虫がぶつかるたび床へちぎれた影を投げた。


 ドアを閉めれば匂いが層をなし、湿った柱、古い畳、誰かの味噌汁、階下のインスタントラーメン。壁は薄く、笑い声も咳もため息も溶け合って、他人の生活と自分の生活の境界が曖昧になる。だが大学まで自転車十五分、家賃は破格。南向きの窓が一つ、夜は黒い額縁になって向かいの建物を切り取る。


 机の上には課題のプリントが広がっていた。数式はほとんど理解できず、赤点すれすれの答案しか返ってこないのはわかりきっていた。ノートの端には授業中に走り書きした落書きの跡ばかりが増えていく。


 ため息をついて首を回したとき、向かいの窓に「僕」が映っていた。反射だと決めかけたが、椅子から立ち上がった僕の後、数分遅れて向こうが立つ。

 首を傾げれば、数分遅れて同じ角度。 

 肩をすくめ、手を挙げ、笑ってみる。

 どれも遅れて再生される。録画のズレのようだった。

 胸の奥がひやりと冷え、眠気は跡形もなく消えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ