5.給食を12年間食べ続けた女
私は給食を、なんと12年も食べ続けて来た。
よく考えれば、ここまで長期に渡り、給食を食べ続けた人間は世界中探しても珍しいのではないかと思う。
先に言っておくが、私が給食マニアであったとか長期留年をしていたとか、そういったややこしい個性を持っていたわけではない。
種明かしをすれば、私は小学校から高校まで全て給食のある学校に通っていたのだ。
何でもない話のように見えるが、よく考えてみてほしい。
世のお母さんたちは……給食があるってだけで、朝めっちゃ助かるはずなのだ。
自分が母親になったから分かる。
毎朝毎朝お弁当を作る大変さを……!
かつての横浜市や大阪市のように、中学からお弁当持参なんていう地域のお母さんたちはもっと大変なはずである。
幼稚園でもお弁当だとすると、下手したら約10年間も毎日毎日お弁当を作り続けて来たお母さんがいるということ!
しかも、子どもが多ければ更に大変!
私が受験をする学校を選ぶ時、母が高校まで給食のある学校を猛プッシュして来たことを未だに覚えている。
その時は「給食があるから何だっていうんだよ」などと思っていたが、今の私なら母の気持ちがよく分かるのだ。
高校卒業までお弁当作りを免除されるなんて、最ッ高!
しかし……母親が魅力的と思う学校と、娘が魅力的と思う学校は違うわけで……
やはり若い娘は、制服の可愛い学校とかを選んでしまうのだ。
しかし母はくじけなかった。
「じゃあ、ここを滑り止めにしようよ。ねっ」
妙に圧があったので、まあそれならいいかと承諾。
そして結果……なんとそこしか合格せず(泣)
さて、少々不本意ながらも進学すると、生徒たちがなぜこの学校を選んだのかが見えて来た。
なんとみんな「給食がある」という理由でこの学校を選んでいたのだ!
しかも事はちょっと複雑で、いわゆる母子家庭、または父子家庭のお子さんが多かった。
学校は偏差値や制服、そういったオプションで選ぶものと思われているが、実はやむにやまれぬ家庭の事情で選ぶこともあるのだ。
新たな知見を得る出来事だった。
実際、冷たい弁当より温かい給食を食べた方が体にはいいような気がした。
特に冬。
シチューや肉じゃが、汁物などが出たりすると、ほっと気が抜けるものだ。
あるいは夏。
大学受験のさなかに冷凍ミカンが食べられる高校など、多くはないだろう。
ただ、高校生の悪いところだが、給食を食べながら
「痩せたい」
などと言い出す生徒がいたのは、本当に当時から腹立たしかった。
なら、食べないで欲しい。
特にデザートは食べないでこっちに寄越して欲しい。
なのに彼女たちは平気な顔でパンやデザートだけ食べ、おかずを残す。
せっかく配膳したのに、なんてもったいないことをするんだ!
お弁当のように親がしっかり食べたかチェック出来ないところが給食の欠点といえよう。
無論、私は体重など気にせず欲望のおもむくまま給食を完食した。
なんと親孝行な娘だろうか。
きっとあの子たちも、今や母親になっていることだろう。
あの頃の自分を棚上げし、痩せたがる娘に「もっと食べなさい!」などと言っていたりして。
ふとそんなことを空想したりする。